∽移り行く風のように∽   作:アクア=イスタロス

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第15話

―――――【第15話 英雄】―――――

 

「それでリュラン。何か策はあるの?」

 

「ない」

 

「え~」

 

「あの大きさだ。策を考える手間が惜しい。レイナとフェイトは魔法攻撃を。火力か手数かは各々で判断してくれ。シエラは精霊魔法と弓だな。主に目を狙ってくれ」

 

「…リュランは?」

 

「…もちろん、インファイトだッ!」

 

言い終わると同時に足に溜めた魔力を弾き、正体不明の大型魔獣に急接近する。

近づいて知ったのは奴は2本足で動いていること。

見た感じ猿だな。

ま、どちらか一方の足だけでも断ち切れれば動きを制限できるはずだ。

最も、断ち切るのにどれほどの力が必要なのかわからん今は何とも言えんが…。

ともかく、現在奴がこちらに気が付いているのかどうかはわからん。

だが、デカイ以上、その剛腕から繰り出される一撃の威力は計り知れない。

よって、こちらは速度重視で様子見に徹する。

 

「ふっ!」

 

抜刀で切りつける。

思ったより柔らかい。

それでも血が出ないところを見ると毛皮か脂肪しか切れていないのだろう。

厄介な。

続けて数度切り刻んだにも関わらずこちらに気が付かないため、さらに連続して左足を攻撃し続ける。

全く反応がないためこちらが悲しくなってくる。

呆れながら攻め続けているとようやくレイナたち後衛からの攻撃魔法が魔獣に直撃。

当たり所が良かったのか、少しだけたたらを踏んで動きを止める。

しかし、背筋を駆け上った悪寒を感じ、急いで足元から離れる。

一瞬だった。

 

『ウォォオオオオオオオオオ!!!』

 

足元を中心に数メートル地盤が沈没し、強烈な咆哮が耳を襲った。

あまりの大声に身動きが取れなくなる。

…ここからが本番らしい。

意識をはっきりさせ、改めて魔獣を見据える。

 

「…げっ、やばっ――」

 

こちらを見た魔獣が既に巨大な拳を振り降ろしていた。

先ほどいた場所が陥没する。

…たしかに、アレを喰らえば一撃で天に召されるだろう。

まぁ、当たらなければ良いだけの話だ。

 

「ふぅ…いくか」

 

再び刀を抜刀体制に変え、神速とともに魔獣の左足へと接近する。

そして――

 

「今度は…貰ったッ!」

 

左足が断ち切られ、続けて直撃したレイナたちからの追撃が功を奏し、左足の支えを失った魔獣はそのまま重圧に負けて後方に転倒する。

このチャンスを逃すバカはない!!

 

「ハァアアアアッ!!」

 

倒れてすぐに頭付近へと移動する。

足方向はレイナたちの魔法の雨が降り注いでいるので俺は手出しが出来ない。

倒れても痛みからか動きは激しいが、頭付近はそれほどでもない。

頂点やその付近を中心に攻め続ける。

これで倒れればよいが、そう簡単に終わるわけがなく、再びの咆哮。

耳を塞ぎ、その効力を少しでも抑えようとした俺の目に映ったのは別の驚き。

 

「…な、咆哮で魔法を相殺するだと…?」

 

仰向けのからの咆哮であったが、足から胴に降り注いでいた魔法が途中の一部分で遮られ続ける。

よもや空気の振動で魔法を止めるとは思わなかったが……これも大型だからこそできる技か。

 

「咆哮を止めるには咽喉を斬るのが早いが…この暴れようでは迂闊にに近づけんな…仕方あるまい」

 

精神を統一し、神経を全て目に集中させる。

動きを覚え、腕を振り下ろした瞬間、俺は飛び出した。

 

「(勝負は一瞬。このじたばたを避けきって咽喉を一閃する!)」

 

怒りの動作故、見切るは容易いが振動や速度は生半可なモノじゃない。

それでも、勝つために活路を切り開く!

 

「こ、こ、だッ!!」

 

腕を振り下ろす瞬間を見計らい、咽喉目がけて飛び上がる。

奴は怒りで我を忘れ、近くにいる俺にすら気が付く素振りを見せない。

終わりだ…ッ!

 

「――ガッ!?」

 

……何が起きた?

気が付けば、俺はどこかに叩きつけられ、呼吸が止まりかけていた。

身体を起こそうにもギシギシと反応が鈍い。

ちぃ…身体が軋んでいやがる。

治癒魔法で応急処置をするが、どこまで回復するものか…。

 

「リュラン様!?」

 

ぐっ…上からシエラの声がするということはここは城壁か…。

 

「ずいぶんと…飛ばされたものだ…」

 

奴から城壁まで1キロはあったはずなんだがな。

頭を振って意識をはっきりとさせ、再び奴を睨む。

断ち切ったはずの左足が再生しており、奴はのっそりと立ち上がった。

こちらを見た眼が、不気味にニヤリと笑った気がした。

 

「くくくっ、全て奴の計算か。…やるじゃねぇか」

 

しかも、あの再生速度。

並みの攻撃は全て無意味か。

 

「リュラン様!お体は大丈夫ですか!?」

 

「問題ない。それより、上に戻って構えろ。こっからが本番だ」

 

「……はいっ」

 

「ついでにレイナたちにも伝えろ。奴を殺すには面ではなく点で攻めろとな」

 

「はい!」

 

シエラの姿が見えなくなったところでこっそりと防具の確認をする。

…傷1つねぇ…。

どんだけ頑丈な鎧だよ。

勢いで色々混ぜすぎたせいだな、うん。

ま、それが功を奏したわけなんだが…。

 

「さて、俺も油断せず、本気で行こうか」

 

全身を魔力で覆う。

特に刀には魔力を集中させ、それであって魔力同士を擦り合わせるように鋭さをイメージする。

全ての攻撃を一撃必殺にして、ようやく立ち向かえるぐらいだと考えて問題ないだろう。

 

「…ま、娘の願いだからな。親らしい親ができなかった償いでもするさ」

 

構えに入ろうとして、ふと何かを感じた。

奴を見る。

瞬間、高速で右腕が振り抜かれた。

大地が轟音を立てて削り取られ、削り取られた大地は大岩へと変化し宙を舞って……こちらに来た!!

 

「街を壊す気か…させん!」

 

転移で大岩付近へと飛び、刀を、腕を、高速で振り続ける。

振り終えたその時には宙を舞った大岩は全て砂に帰した。

城壁へと着地し、街へと被害がないかを確認。

どうやら防ぎきったようだ。

ホッと気持ちを落ち着かせ、奴を見る。

こちらの視線に気が付いたのか、ニヤリと笑った気がした。

ふっ、挑発とは面白い。

再び抜刀の構えに入る。

 

「その傲慢、どこまで続くか見届けてやる!」

 

1キロをゼロにして背中を斬りつける。

転移を使えば造作もないが、まさか背中から攻撃されるとは思わなかっただろう。

慌てて振り向く奴の頭に巨大な槍状の魔法が3本突き刺さる。

再び振り向く奴の、今度は耳を断つ。

俺の背丈ほどもある耳が綺麗な断面を保って地面へと落ち、轟音を鳴らす。

 

『ゴガアァアアアアア!!!』

 

怒りの咆哮か。

だが、対策済みだ。

全身を魔力で覆った際、特定周波数の声のみをシャットアウトするように耳の部分を覆えばそれだけで耳栓効果がある。

今の俺に、咆哮は無意味。

 

咆哮中は奴の攻撃はない。

安全と言っては違う気もするが、安心して咽喉を潰すべく抜刀の構え。

そして、放つ――

 

『ガッ、ォォオォォォォオオオ…』

 

咽喉の筋肉に阻まれ、完全に切り落とすことはできなかったものの、夥しい量の出血は確認できた。

これで呼吸するのも苦しいはずだ。

 

「レイナ!心臓を狙え!!」

 

聞こえたかは知らんが、レイナの魔法は確かに魔獣の心臓に突き刺さった。

魔獣が暴れだす。

だが、その勢いは最初と比べ、ない。

相変わらず色々な部位を斬り続ける俺を振り落とそうと腕を振り回すが、その動きすら鈍い。

時間を延ばして再生させるのも癪なので、どんどん傷を負わせてゆく。

 

そして、奴の動きが止まった。

腕はだらりと垂れ下がり、体中のいたるところから出血している。

左耳や右目を失い、喉も切り裂かれて潰れている。

即頭部には魔法槍による貫通の後も見られ、かなり深くまで抉られている。

極めつけに体格からしてみれば小さめの穴だが、心臓だと思われる部分を削り取っていた。

動きは止まった、しかし、これだけやったにも関わらず、奴は生きていた。

動かずとも小さく呻く声が聞こえ、再生に集中しているのだろう。

だが……終わりだ。

 

「決着を…」

 

肩に飛び乗り、三度の抜刀の構え。

刃先の魔力は十分。

あとは、振り抜くのみ。

 

「終わりだ。怨むなら…負けた自分を怨め」

 

刀を振りぬく。

巨大な頭蓋が宙へと舞った。

そして轟音を立てて落ち、辺りには静寂が戻った。

 

「……ふぅ」

 

刀についた血はないか確認し、鞘へとしまう。

……ようやく終わったな。

 

「リュラン!」

 

下を見れば駆けつけて来たレイナ達が手を振っていた。

少しだけ気持ちが安らぎ、頬が緩んだ。

おい、何を吃驚している。

あいつらの態度にもう一度、今度はため息を大きく吐き、空を見上げた。

 

「俺達の…勝ちだ」

 

夕暮れに差し掛かる空の一番星がキラリと輝いた気がした。

 

 

 

 

∽to be continue∽

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