―――――【第16話 真実】―――――
その日、ウェスペルタティア王国は上から下までどんちゃん騒ぎであった。
いつ広まったか分からぬ騎士団壊滅の報を受けて怯える民にもたらされたのは喜びの勝ち鬨。
山ほどもある大型魔獣を始まりの魔法使い以下4人で討伐に成功したのだ。
堂々たるその様は、民達に多くの思いをもたらし、その武功を称えて彼らを英雄と呼び、無名の新人騎士であったリュランに対しては様々な憶測が飛び交う始末。
同時に、その様子を見ていた上層部の者たちは魔法の有用性を改めて感じ、魔法使いの育成と新魔法の研究を推奨することとなる。
一方、壊滅した騎士団の再育成を進めるため、先の討伐線で生き残ったクリフ、ガイアスの他に今回の武功第一位とされたリュランが騎士団の取りまとめを進めることとなった。
そして、ここはいつもの謁見の間とは違い、王の私室。
「よく、戻ってきた。レイナ、フェイト、シエル…そして、リュラン。今一度、礼を言わせてくれ。本当に、ありがとう…!」
「良いのよ。なんたって私の娘を護るためだし!ね?」
「はい(そうそう!)」
「……リュランも、何か言ってよ」
「…ま、頼まれたしな」
「もう!素直に返答しなさいよ」
普段とは違うアマテルの口調、王と臣下とは思えぬ和気藹々とした空気。
そんなちょっと変わった今がここには存在した。
「しかし…本当に怪我は大丈夫なのか、リュランよ」
「問題ない。多少衝撃が内臓に響いたが…ほとんどの力は鎧が吸収した」
「中々の鎧よね。何で作ったらこうなるの?」
「知らん。合成屋と呼ばれる場所で適当に混ぜたら完成した物だ」
「……それは確かに再現できないわ」
リュランの身を完全に護りきった特別製の鎧。
前までは各素材の色であった表面は輝く銀色に変わっていた。
原因は不明だが、何らかの力が備わったのだろうと推理する。
「…さて、今回ここに呼んだのは他でもない。私の母に尋ねたき事があったからだ」
「…何かしら?」
「私の父は…リュランなのか?」
「……」
「……」
途端に空気が静まりかえる。
フェイトとシエラは最初からこの問題には口を挟めず、リュランは知らぬ内の出来事だったため答えることがなく、この問いに答えられるのはただ一人であった。
「…厳密に言えば、そうよ」
「…そうか。ふふっ、素晴らしき父だな」
答えを聞いたアマテルは幸せそうな笑みを浮かべた。
仕方ないだろう。
幼少より、父はいないとして育ち、公の場ではレイナは始まりの魔法使いであるため母と呼べず、何度苦労したことか。
それでも…ちゃんと自分には両親がいたのだ。
それが、彼女にとっては何よりも嬉しかった。
「…父らしきことはしてやれんが、この国を護る守護者として見ててやる」
「!ありがとう、父上!」
「っと、いきなり飛びつくな」
「こうでもしなければ今さら甘えられぬからな♪」
その言葉に美女ともいえるアマテルの頬ずりを甘んじて受けとめるリュラン。
その光景を微笑ましそうに笑う2人と一応夫婦にも関わらずやったことがないことに不満を覚える1人。
穏やかな時間はのんびりと過ぎて行った。
ちなみに、深夜遅くに王宮の地下では嬌声が響き続けたという。
誰の声かは……本人達だけが知っている。
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「それで、話とは何だ」
本日の仕事も終わり、寝るために戻ってきたリュランを待っていたのは(妻の)レイナ。
話があるとして机に座るよう促された。
目の前にはフェイトの用意した紅茶が湯気を立てている。
「この国の魔法は少しずつではあるけど普及しているわ。でも、外はまだまだ。普及活動に専念したいけど、私にも一応立場がある。少しならまだしも、長期にわたっては離れられない。何とかならないかしら?」
「…選択肢はいくつかある。1つ目は自分の分身を作ること。2つ目は弟子を取ること。3つ目は組織を作ること」
「メリットとデメリットを聞いても?」
「…自分で考えろ。全部は答えてやらん」
「……1つ目は私自身がここにいても普及活動をできる点ね。でも、そうすると普及だけでそこから発展させることが難しい気がする。私がずっとそこに居ればいいのだけど、それじゃ意味がない。2つ目は弟子制度があればそこからどんどん広がっていく点ね。でも、どこまでで免許皆伝か決めるのが難しいし、広まる速度はかなり遅い気がするね。弟子制度だと多くの人に教えられるか不安だし。3つ目は……各街に潜入させておけば簡単に広められるわね。段階を見て上の魔法を使う姿を見せれば刺激になるかも…。怖いのは暴走かしら?」
「…まぁ、及第点だな。俺がお勧めするのは組織だ。『魔法学校』を作ればとりあえず解決するだろうよ。現状の問題は先生として教えられる人間が少ないことだな」
「学校…なるほどね。学校という組織形態さえ整っていれば教える内容はさほど変える必要はない。広く門戸を開いておけば学びたい人が勝手に集まるのね。問題は費用かしら」
「ああ。それと、現状で先生役なれる存在がどれだけいるかだな。魔法師団の人間を使えばいけるだろうが、あいつらも仕事があるしな」
「そうね…少しの時間ならやれるとは思うけど…定期的に授業はあるしね」
「ま、先生役はそれ専用で育てる必要がある。…学校が出来れば魔法開発もそれなりに成果を上げるだろうしな」
「そっか。生徒が使っている姿を見て思いついたり、生徒自身が考えたりするからね。でも、隠されたらそれで終わりじゃない?」
「定期的に自己成果を提出させればいいだろう?学校だから課題なり、卒業研究なり色々要素はある」
「そうね~。とりあえず案をまとめてみるわ。出来たら見てね?」
「了解した。……ああ、フェイトにも手伝わせろ。こういった事案はフェイト向きだ」
「……何よ、私だけじゃ不満?」
「適材適所というモノがあるだろう。お前はすぐに頭がパンクするからな」
「むぅ~見てなさいよ!この23年間で私がどれだけ成長したのかをね!」
勢いよく転移していったレイナに呆れつつも、フェイトにフォローを頼んだ。
ま、あの子ならしっかりと細かいところまで考えて案をまとめるだろう。
俺は……騎士養成学校の案でもまとめるか。
とりあえず、意見書をクリフに出してみるか。
紙を作り、目的と費用対効果の説明、メリットとデメリットの云々を書きこみ、明日一番で提出できる形にしておく。
時刻は既に明け方の4時。
寝る時間もあまりないが、少しでも休息を取ろうと横になった。
「クリフ」
「ああ、リュランか。どうかしたか?」
「騎士の育成について今までとは違う案を考えてみた。見てくれ」
「ああ。……ふむ。この学校とやらで素質のある者を集め、基礎を作るのだな。金さえあれば誰でも入れ、金がない者も素質があると見込めば許可できるのか。卒業後はすぐに即戦力として動ける人材、か。素晴らしいな。だが、問題がいくつか」
「ああ。学校の建築場所と費用。あとは教える側の数が足りん」
「教える内容はどうする。我々は各自で学ばせていたから形式的なモノはないぞ?」
「ある程度まとめた本を用意した。これだ」
「ほう。仕事が早いな。……なるほど、騎士の心、技術、体力の3つに分けて、か。いいだろう。私から陛下に提案してみよう」
「ああ。…そうだ、よければ魔法師団の方とも連携して考えてもいいかもな」
「ん?どういうことだ」
「この件は俺の弟子に相談された事案でね。あっちは魔法使いの育成に関してだったが…建物さえ分ければ同じような場所に作った方が効率的だろう」
「了解した。向こうとも話してみよう」
クリフが部屋を出て行く。
とりあえず、俺の仕事はここまでとこれからだ。
教える人材の発掘と育成、内容の調整も必要かもしれんしな。
ま、大変かも知れんが、充実するだろうよ。
そして、この学校という組織は騎士・魔法使い共同の意見として提出された。
多くの意見が交わされた結果、国の将来を担う人材の確保という課題をクリアできることから全員一致で決定された。
建物の大きさや設備などの諸々はヴェレスが中心となって考えているが、問題の教える側の育成に、騎士団・魔法師団双方が悪戦苦闘しながらも取り組むこととなる。
そんなこんなで完成した学校は、初めこそ新進すぎる物として敬遠されたが、国を挙げた勧誘の結果、少しずつ成果を上げている。
この取り組みが花開くのは、もう少し先の話である。
様々な新しきことが生まれるウェスペルタティア王国は当たり前のように他の街の関心の的となり、目標とされた。
そして、いくつかの街が国となり、独自の特色を醸し発展させていく。
魔法世界は新しい時代へと突入するのであった。
∽to be continue∽