―――――【第19話 死闘】―――――
動けない。
動けばやられるとかではなく、ただ動けない。
金縛りのような何かが俺の動きを阻害していた。
「ふむ。この魔力、この風格……まさしく私と同じ……ふふっ、そなたは何者かな?」
「…ただの一般人だ」
「謙遜は良い。私を前にして一般人はなかろう。…だが、その態度は認めよう」
フードを取り、素顔が明らかとなった。
……レイナとはまるで違うな。
容姿もそうだが、纏う雰囲気が真逆だ。
絶望、悲壮、諦め……色々混ざっているが、基本は絶望か。
「私は造物主。もしくは始まりの魔法使いと呼ばれている者だ」
「…自己紹介ってか?俺はあんたみたいな大層な御仁に名乗る名なんて持ち合わせていないぜ?」
先ほどと同じようにお茶を濁すような形で逃げてみる。
しかし、造物主は笑みを崩さず、言葉を続けた。
「自分を卑下せずともよい。他ならぬ私がそなたを認めたのだ。名を名乗れ」
「……リュランだ」
どうすることもできず、名前だけを名乗る。
俺の名を聞いて、造物主は顎に手を当て悩む素振りを見せた。
「リュラン……。リュランとな。…紅き翼にはそのような人物は居らぬ。部下からの報告でも聞かぬ名だな。そなた、どこの者だ?」
「どこでもねぇよ。強いて言うなら…『世界』だ」
「…くっ、ははははは!世界!そうか、世界ときたか!!なるほどなるほど、言われてみれば納得しかない。まさしく、私と同じ存在である筈だ」
「……」
何を持ってその確信が生まれたのかは分からない。
だが、造物主は確信している。
俺が、同じ存在であることを。
「ふふふっ。では、私と同等たるそなたが急に何用かな?聞けば紅き翼は壊滅し、魔法大戦も我が組織の仲介によって終戦へ向かったと聞く。最も、終戦する必要はほとんどなかったが、これはこれで私達の悲願へかなり近づいただろう。戦争の隙を狙い最後の鍵である黄昏の姫巫女も手の中にある。残すはただ1つ。儀式の完成のみ。あとは時間が過ぎるのを待てば自ずと世界は終焉へ向かう。これ以上、私からは何も言う必要もないはずだが?」
「…魔法世界を消すことが全ての幸福に繋がるとは思わん。例え、彼らが魔力があるから故の幻だとしても、生きていることに違いはない」
「…ふっ。私は疲れたのだよ。2600年という年月は私の心を奪い去るのには十分すぎたわけだ」
「…それでも、生きることを否定させるわけにはいかん。この世界で生きる全ての者達のためにも」
「…若いな」
「全然。これでも数億年は生きてるけどな」
造物主が構える。
その手にはかの有名なキーアイテム、『造物主の掟』もある。
俺も右手に刀を構え、いつでも魔法を発動できるようにする。
「これ以上の問答は無意味。全ての魂に安寧を渡すためにも、ここで負けるわけにはいかぬのだ!」
造物主を中心に超巨大な魔法陣が一瞬で生まれる。
だがその程度、今の(・・)俺には造作もない。
「!!なんと!!」
「お前だけの特権だと思ったら大間違いだ!」
俺の背後にも同規模の魔法陣を発動する。
封印を解除した俺に全ての呪縛は存在しない!
「いけ!」
「ハァッ!!」
ドドドドドドドドドッ!
両者の魔法陣から放たれた大量の光線が目の前を埋め尽くす。
『造物主の掟』の効力により、世界を生み出し創造主の力を扱う造物主と世界は違うものの、魔法世界を生みだした創造主であるリュラン。
両者一歩も引かぬ大魔法の応酬は連続して起き続ける。
「まだまだッ!」
「ふふっ、喰らえ」
造物主が全てを消しさる黒き光線を放てば、リュランは全てを護る白き光線を放つ。
リュランが7種の属性大魔法を放てば、造物主は同種同等の大魔法を放つ。
引き出す力が同じであるが故に、千日手であった。
「先ほどより力が増したか。自らの力を封じてまで何を成そうとした、リュランよ」
「命ある者と生きるために必要なのは力じゃねぇ。それを実践していたまでだ」
「ふっ、めでたき考えだな。神に近き力を持ちながらも、それを封じてまで人間と生きるか」
「ハッ、元々考えは平行線だろうが。今さら言葉はねぇだろ」
「ははは!矛盾してるだろう。弱きと生きるために力を封じたにもかかわらず、今こうして強きと戦うために力を求めたではないのか」
「矛盾だと?そんな悩みはとっくの昔に解決した!何か護るために力を惜しむわけないだろうが!!」
相殺しきれなかった魔法が造物主の魔法障壁に当たり、空気が震撼する。
僅かに…ほんの僅かにではあるが、リュランの魔法が造物主の魔法を上回り始めた。
それを裏付けるかのように、風の流れが変わった。
「フフ…フフははははははははは!私を倒すか、創造主に対抗し得る力を持つ人間よ!素晴らしい、素晴らしいぞ!人を凌駕し、神の域に踏み入れるか!」
「ハッ!対抗し得るじゃねぇ!それそのものだ!!」
刀を一瞬だけ手放し、想いを合掌に合わせ現実に投じる。
「顕著せよ、『百式観音』!!」
魔法陣のさらに背後。
守護神が如く出現する武の極み、百式観音。
だが、観音は時に神をも揺らがす阿修羅と化す!
「我が想い、時に憤怒を呼び覚ます。全てを蹂躙し全てを滅ぼせ修羅神よ!『百式阿修羅』!!」
頬笑みを忘れ、怒りを露わにする百式観音。
慈しみを捨てこの世の絶望を打ち消すがために怒り狂う観音のもう1つの素顔。
それが、百式阿修羅。
攻撃は最大の防御。
それを体現するかのような力だ。
「そうか、そうか!そなた自身が『創造主』か!悲願成就の瀬戸際に私の前に立ち塞がるのがこの世界の神か!世界はこれほどの絶望を私に与えてなお、世界とともに生きろと申すか!!」
怒りからか、迫り来る魔法の威力が上がったように思われた。
しかし、それでも百式阿修羅と魔法攻撃が造物主の魔法攻撃を凌駕し始める。
次々に魔法障壁へとぶつかり、障壁で防ぎきれぬ位置に放たれた魔法は魔法陣を砕き行く。
魔法陣が罅割れ始め、どれだけ造物主の掟を使用しても生み出すより壊れゆく速度が勝る。
「たかが2600年で絶望してんな!!その千倍は生きてみろ!世の中に隠れ生きてみろ!世界は…いつも驚きで満ち溢れている!!」
俺の左拳が奴の身体を捉える。
体制が崩れ、それでもなお勝利のために魔法を放ち続ける胆力には敬意を称するが……これで終わりだ!!
「生きることを諦めてんじゃ――ねぇよッ!!!」
振り抜いた刀が奴を完ぺきに捉えた。
斬り裂かれた造物主自身の魔力と俺の斬撃に乗った魔力が合わさり、そして――――
シュボ……ドンッ!
巨大な爆発音を立てて休息の――いや、墓守り人の宮殿が崩壊する。
縦に長かったその建物を縦断するかのような爆発とともに、全てが崩れ落ちる。
いち早く脱出した俺はその崩落現場を……一時の戦いの終わりを見つめていた。
∽to be continue∽