∽移り行く風のように∽   作:アクア=イスタロス

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第21話

―――――【第21話 再び】―――――

 

「…………戻って、来たのか?」

 

とりあえず、前見たような光景が広がっていた。

生憎、日時まで指定できなかったので、いまがいつなのか分からない。

まぁ、適当に散策していれば分かるだろう。

 

「っと、まずは姿は隠さないとな」

 

ローブとフードで顔ごと全身を隠し、旅人に見えるようにする。

さすがに行方不明状態でフラフラと街を歩いていると問題が生じるだろう。

さて、現状やらなければならないことは年月を知ること、そして大陸の状況か。

跳んでからほとんど時間経過していなければ問題はない。

しかし、年単位でズレていた場合、面倒な事態が生じる可能性がある。

ま、まずは調べるか。

 

「…どこで調べるべきだ?市民食堂かどっかで噂でも聞きながら食事を取るか」

 

グゥ~と鳴る腹を擦りながら食堂か酒場を目指す。

ようやく戻ってこれたかと感慨深く思いつつ、約束を破っちまったなと後悔しながら。

 

 

 

 

「はいよ!子羊ロースステーキお待ちどう!」

 

「お、美味そうだな。いただくぜ」

 

出来たてホカホカのステーキを見て、すぐさまナイフで切り分け一口。

うむ、美味い。

 

「うむうむ。はぐはぐ」

 

「おやおや、そんなに急がなくとも飯は逃げていかないよ」

 

「もぐもぐ。…ふぅ、これだけ美味いからな。少しばかり焦っちまったよ」

 

「それは良かった。しっかし、あんたここらで見かけないねぇ。どこから来たんだい?」

 

「ここから北の方の街からだ。悪いが、旅続きだったもんでね、ここらの噂でも聞かせてくれないか?」

 

「そうかい。それはお疲れさまだったね。うーん、最近の噂って言うと……そろそろこのウェスペルタティアの建国15周年だからね。上も下も大忙しさ!」

 

15周年…たしか、建国から8年で仕官してた筈だから……2年も遅れたのか。

これは少々、マズイか……。

 

「ああ、あとは知ってるかどうか知らないけど、王都の守護者様が武者修行の旅に出てるさね」

 

「武者、修行?」

 

「ああ。何でも、『何時如何なる時も王を御守りするため、さらなる自己鍛錬に』と言って旅立ったらしいさ。私達民には全く知らせずに行ったらしいけどさ、少しぐらいは挨拶してくれたっていいのにと思わないかい?あの方は私達に色々と与えてくれた。だからこそ、私達はその恩に報いなきゃね」

 

「…そうか。その、王都の守護者は愛されているのだな」

 

「もちろん!私達民に一番近いお方だからね」

 

…恥ずかしい。

お忍びにも似た形で自分の評価を聞くとは…ははは。

 

「良い食事と噂をありがとう。お代だ」

 

「はいはい。また来ておくれよ!」

 

「そうだな。…近いうちに来よう」

 

扉を開け、城を見る。

さて、覚悟を決めて行くとしようか…。

 

 

 

 

「へ、陛下!陛下!!」

 

王宮執務室。

ここでは日々、王が国に関する政務をおこなう部屋である。

つまり、新たな仕事か、余程の事がない限りここを訪れる者はいない。

しかし、今日ばかりは違った。

 

「なんじゃ、騒々しい。叫ばずとも聞こえるわ、ヴェレスよ」

 

「これが叫ばずにおれますか!!帰ってきたのですよ!あの者が!!」

 

「あの者……まさか!」

 

「あ、陛下!」

 

筆をほっぽり出して走りだす。

突然の行動に部屋で待機していた侍女や呼びに来た筈のヴェレスを置いてけぼりにするほどだ。

走る走る走る。

王、アマテルはふと思う。

何故、執務室から謁見の間までの廊下はこれほどまでに長いのかと。

 

「(たしか、防犯とか言ってた気がするのぅ。母上が)」

 

日頃から動かぬ故、少し走っただけで息の上がる身体に苛立ちながらも謁見の間に駆け込む。

そこで見つけた懐かしき者。

 

「…陛下。不肖、騎士リュラン。武者修行の旅を終え、ただいま帰還致しました」

 

「う、うむ。よくぞ戻って参った。疲れたであろう、話などは後にして今は休むがよい」

 

「はっ、有難きお言葉」

 

礼を取り、下がるリュラン(父)の姿にホッとし、いままで放置された怒りがふつふつと露わになる。

 

「ふ、ふふ、ふふふふふ」

 

「へ、陛下。黒いです。陛下を取り巻く何かが黒いですぞー!」

 

闇状態に入ったアマテルを宥めるために、騎士を総動員したにも関わらず、王宮が(精神的に)半壊したとは何と変えても言えぬ側近たちであった。

 

 

 

 

――夜。

アマテルに放置された2年間についてぶつぶつと文句を言われ、レイナからポカポカと叩かれ、フェイトとシエルから追尾魔法でのお仕置きを受けとめたその後。

昼間の大騒ぎが嘘のような静かな王宮で一番見晴らしの良いところ…つまり、屋根の上にて月を見ながら酒を飲んでいた。

思い返すのはたった数時間前にいた平行世界での出来事だ。

 

「あれは…俺のいない世界。紅き翼が英雄とならない世界。俺が止めなければ…世界が終わりを告げた世界」

 

だから俺が偉いというわけではない。

アスナ嬢と別れた後、俺は適当な僻地にこもって時間跳躍の魔法陣を完成させ、それを機会に再び魔法世界を見て回った。

戦争は終わりを告げたが、各地で民族間の紛争が絶えず、多くの者が命を落とした。

特に、希少と思われる民族…生まれながらに読心術を授かる一族や木精とともに生きる一族は何も持たぬ者から恐怖の目で見られ、滅ぼされた。

駆けつけた時には生きる者はおらず、全てが何も言わぬ骸と化していた。

……俺が儀式を止めねば、彼らのような犠牲者は生まれずに済んだのかもしれない。

そう思うと、俺がやったことは何だったのかと疑心暗鬼に嵌る自分がいた。

 

「結局…自分の手の届く範囲しか救えないんだな」

 

ぽつり、と自分の手を見ながら結論を呟く。

 

神の力を奪い、生きるために星に生命を与え、今こうして生き続けている。

この星を生んだことに間違いはない。

しかし、それだけだ。

全てを作りだす力を持っていても、人の心は作れない。

怪我が治すことはできても、心の傷は癒せない。

俺は所詮…長く生きただけの人間に過ぎない。

創造主と呼ばれ、生きるために力を得て、身近な者を護っただけ。

普通の人と何ら変わりはない。

使いこなせぬ強大な力に振り回されるだけの哀れな道化だっただけ。

むしろ、普通の人より哀れ。

不老が故に年老いることを許されず、不死が故に死ぬことを許されない。

そうか、これが……

 

「神の呪い……そういうことだったのか」

 

全く変わらぬ化け物だからこそ共感できない。

理解できぬ化け物だからこそ人は嫌悪する。

力を持つ化け物だからこそ人は……恐れる。

 

「……レイナも…俺がいなきゃ孤独になることなんてなかったんだな。全ては俺の責、か」

 

造物主は1人だ。

世界に縛られ、生に縛られ、力に縛られ、孤独に縛られる。

共感されず、理解されず、ただ恐れられる存在。

 

「ただの人であった時、多くの書物を読んだが……神如き力を手に入れた者はこうして悩んでいたのだろうか」

 

人の温かさに手を伸ばせず、自分はただそれを見つめるだけ。

偽らなければ誰もが離れていく。

死ななければ、解放されることはない。

 

「……ふぅ。悩んでいても仕方がないことは分かるが、こればかりはなぁ」

 

再び月を見つめる。

彼の存在はただ光り続ける。

万人にその温かみを届けるだけ。

 

「……ま、俺が出来ることは限られてる。なら、その中で最大限やればいい」

 

この手は血で染まっている。

それでも、この手で救える人がいるのなら。

俺は力を惜しまない。

 

「そう、“諦めない”。俺が諦めたらそれこそ失礼だな」

 

悩みが解決することはないだろう。

でも、俺はこの悩みを抱えながら生き続ける。

救いに手を差し伸べる神として。

 

「…まずは、この世界を平和にする。取り溢しは許されない。生きることを否定させるわけにはいかない」

 

組織が必要だ。

俺の思想を理解し、生きる者全てに手を差し伸べる組織が。

 

「『完全なる世界』……いいだろう。俺は、全ての者を救済する。死ではなく生によって人生を謳歌できるよう、救いを差し伸べて見せよう」

 

月に告げる。

これは宣言。

俺は絶対に道を踏み外さない。

俺が俺である限り、この想いは違えない。

 

 

 

 

この後、俺を中心とする秘密組織『完全なる世界』が誕生する。

組織の目的はただ1つ。

救われぬ者たちに救いを。

 

これが間違いではないことは俺自身が証明してみせると信じて俺は歩き出す。

 

 

 

 

原作開始まで……おおよそ900年もの前の事である。

 

 

 

 

∽to be continue∽

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