―――――【第22話 完全なる世界】―――――
いつもの居室。
レイナはシエルを連れてどこかへ行った。
部屋には俺とフェイトの2人だけ。
話す好機か。
「完全なる世界…ですか?」
「ああ。そこの実行部隊の隊長をお前に任せたい、フェイト」
話した内容はこの前決意した組織、『完全なる世界』について。
救われぬ者に救いを差し伸べる組織。
最終的には魔法世界全体に手を差し伸べ、戦争を極力減らそうと考えている。
その中でも一番重要である実際に手を差し伸べる救済部隊……そこをフェイトに頼もうと考えたのだ。
「目的も聞かせて頂きましたし、それは構いませんが……何を急いでおられるのですか?」
「ふむ。急いでいる、か。……この話は誰にもしていないのだが…」
実に、レイナにもアマテルにも話していない。
平行世界など、俺のようにイレギュラーな存在以外は考えもしない話だ。
出来れば、あまり触れずにいたいが…そうも言ってられない。
「はぁ」
「俺はこの前、こことは違う未来へ行ってきた」
「こことは違う未来…?色々と聞きたき事はありますが、まず初めにあの魔法陣は時間跳躍と申されましたよね。ならばこの世界の未来ではないのですか?」
「そうだな…。俺自身、何を間違えたのかわからん。アレ自体も一度使った後は何の反応もしなかったしな。ただ1つ確定したのはこの世界の未来ではなかった」
「…何を見たのですか?」
「……細かに話せば未来が崩れるかもしれん。だから触りしか話せんが……俺の存在がない世界だった」
「リュラン様が、いない世界…そんな、まさか…」
動揺するフェイトの気持ちが少しだけ分かる。
親しい者が存在しない世界など、考えたくもない。
心が近ければ近いほど、その思いは顕著だ。
「…しかし、裏を返せば確固たる真実です。リュラン様が居らねばレイナ様や私、シエルたちは存在しないわけですから」
それも違うのだが、ここで話を拗らせるのもアレなのでスルーする。
「そこで見た光景。それは俺には耐えがたかった。人が罪なき者を己が欲望のために奪う日常。幼き命が消えてしまうその瞬間。……俺は自分の無力さを嘆いたよ」
「リュラン様…」
「故に…いや、だからこそ!俺は多くの者が安心して生きてゆけるように手を差し伸べたい。偽善かもしれん。だが、やるだけの価値はあると信じたい」
「……分かりました。不肖、フェイト・アーウェルンクス。リュラン様の手足となり、働きましょう」
「…ありがとう、フェイト」
「ですが、リュラン様。あの実験を行う前にレイナ様におっしゃったことを覚えておいでですか?」
「ああ、魔法普及のことだろ?」
「その通りです。あれから2年でレイナ様は組織の基盤や人材の確保など様々練っておいででしたが、それについてはどうするお積りですか?」
ほぅ。
レイナがちゃんと考えたのか。
それは聞くのが楽しみだな。
「どの程度の規模になったか覚えているか?」
「えっと……現状はほとんど動けぬ状況ですので、まだ活動されていないかと思います。今は人材育成を優先しているかと」
「ならば俺の組織の半分を魔法普及と兼任させればよい。それぐらいの余裕はあるつもりだ」
「……分かりました。レイナ様にはどのようにお話しするつもりで?」
「課題の答えを聞きに行けば情報は聞けるだろう。それを聞いてこちらから話すさ」
「分かりました。では、私はこれで」
すぐさま動こうとするフェイトの襟を掴み、止める。
首が締まったかも知れんが……それについては悪い。
「まぁ待て、君もこの国を支える重要な存在だ。そんな君が勝手に動くこともできない。故に、君の仲間を新たに生み出そう」
俺の背後が光り輝き、4人の姿が浮かび上がる。
見る必要はない。
力を惜しまぬ決意を固めた俺に、俺の力は必ず答えてくれると信じているから。
「火のアートゥル、イーを拝命」
「水のイーシェル、ウーヌスを拝命」
「雷のウリキス、ウノを拝命」
「土のエルドゥ、ユヌを拝命」
4人の者が命を待っていた。
彼らはそれぞれの属性を司る者。
他の属性をほとんど使えぬ代わり、1つの属性に完全特化のスペシャリストだ。
「この者に従い、我が想いを叶えよ」
『はっ』
「フェイト。ある程度の期間でまとめて報告してくれ。何か足りなければ考えよう」
「…我が命に代えましても」
「いや、死ぬな。それは絶対だ」
「……はい!」
「本拠地はここで構わん。各自の部屋や会議場は休息の宮殿の一角に据え置く。それでは皆の者よ、頼むぞ」
『はっ!』
それぞれの方法で部屋から出て行く彼らを見送り、今後について考える。
集まる場所は勝手に作る。
だが、秘密組織の会合において鍵だけでは不安だ。
……やはり、アレを引っ張り出すか。
「…どこに仕舞ったか…覚えてないな」
まずは亜空間の掃除から始めよう。
この考えで死にかける羽目になるが、それはまた別の話。
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「リュラン様。これが今月の報告となります」
「ああ。お疲れ様」
フェイトからの報告書をめくり、各自の行動内容と成果を確認する。
しかし…フェイト、お前は何をやらせても万能だな。
レイナに必要なもの大半がお前にいったようだな。
「そのような事。滅相もございません」
「謙遜しなくともよい。俺は認めている」
「…ありがとうございます」
褒めながら書類を流す。
ふむ、今は我々と心意気をともにする同志を集めている最中か。
被災孤児や紛争孤児を中心に集めている、と。
……既に紛争が起きているのか。
罪なき命に祈りを。
「それで、ここには書かれていないようだがどれぐらい保護したんだ?」
「おおよそ30名ほどですね。子供がほとんどですが、仕方ありません」
「……孤児院も作らねば。保護しただけで施設がなければ苦労するだろう」
場所は……ニャンドマとヴァルカンの中間でいいだろう。
金は俺が出せば問題ない。
街に仕事を与えれば経済も回るだろう。
手っ取り早く設計図と計画書をフェイトに投げ渡す。
「そうだな、ウーヌスが適任か。彼女に計画を任せろ」
「御意」
転移陣に乗ってここを去る。
そうだな、ここの説明をしていなかった。
ここは休息の宮殿の一角にある俺の部屋――に安置してある魔法球だ。
命名、時忘れの宮殿。
例の時間跳躍魔法陣を改良し、跳ぶのではなく留める方法を見つけた。
ある一定の空間において、空間の内と外側で時間の進みを変えるのだ。
詳しい説明は省くが、この魔法を使えば人の1日を2日にでも10日にでも出来る。
しかし、進んだ分の時間は現実のものだ。
故に、人は進んだ分だけの寿命を取り、傍から見れば急激に老いたかのように思われる。
そのため、使える者が限られるが、認証した者以外は入れないように転移陣に書き込んであるため、色々なことに使える。
最近の俺は、仕事もプライベートも鍛錬も全てここで行うことが多い。
不老不死である俺にとって寿命とはないに等しいし、時間は少ないにもかかわらず仕事は相変わらず増える一方。
仕事に時間を取られれば己の鍛錬など以ての外だ。
故に、外で行わなければならない祭事を除いてほとんどここだ。
時間か?
使う人物が限られてるから基本的に24倍だ。
あー、魔法球内の1日を外の24日分にしているわけだ。
つまり、中で1日過ごすと外では1時間経過しているわけだ。
簡単だろう?
ま、俺のプライベートエリアだけはさらに弄ってあるからさらに倍々だけどな。
話を戻そう。
ここで新たなる友を生みだそうと考えていたわけだが、中々良い案が思いつかなかった。
そこで、王宮内でそれとなく相談した結果、影を作ることに決定した。
影とは光の反対に位置するモノ。
俺の意思と同等の考えを持ち、俺が居らずとも俺の願いを目指す者。
「影のイアルダ、デュナミスを拝命。主よ、御命令を」
「そなたは我が影。我が意思を汲み取り、我が想いを成就せよ」
「はっ」
「普段はフェイトと共に指示を出せ。あまり動けぬフェイトの代わりに『完全なる世界の』表の顔として動いてくれ」
「御意」
スッと地面に沈み込んでいく。
どうやら影を使った転移をしたようだ。
自身の影だから『影の属性』に特化させたが、これはこれでよかったな。
「さて、幹部クラスはこれで問題ないし…あとはアレをどうするか…」
『造物主の掟』
この世界を作ったとする創造主の力を引き出す世界最古のアーティファクト。
この世界で言い換えるならば俺の力を宿した武器だ。
始まりと終わりの魔法「リライト」を筆頭に様々な効力を持つチートアイテムである。
さて、これを作るメリットとデメリットを考えるか。
メリットは組織の底上げ。
魔力で作られた存在に対しては無敵になる。
敵対組織が魔法世界で生まれた存在の派生であれば、こちらの勝利は確定する。
逆にデメリットは悪用の危険性。
もし敵の手に渡れば凶悪すぎる。
こちらの人員はほとんどが俺の創造魔法によって生み出された存在。
『造物主の掟』が向けられた時点で摘む危険性がある。
……でも、作らないと原作意味不明になるしなー。
んー、でもでも作ると可愛い仲間が消されちゃうしなー。
……ああ、非対象を作ればいいのか。
よし、万事解決。
そうと決まれば早速作るとしよう。
こうして生まれた1本のグレートグランドマスターキーと7本のグランドマスターキーが世界に混沌と救いをもたらすこととなるのだが、今の俺に予想することは出来なかった。
∽to be continue∽