―――――【第23話 時は虚ろぐ】―――――
「思えば、私と父上がこうしてのんびりと話す機会はなかったな」
「そうだな。立場や肩書きがそれを許さなかったからな」
片やこの国の王。
片やこの国を代表する騎士。
仕事の時間は大量にあれど、私的な時間まではとれずにいた。
「…はぁ。父上にもっと早く会いたかったものだ。父上がいれば私に怖いものなど何もなかったというのに」
「どれだけ俺を過剰評価するつもりだ。俺にだって勝てんモノぐらいあるさ」
「ふふん。父上が勝てぬのであれば世界中どこを探しても勝てぬだろうよ。私は確信しておるよ」
「…やれやれ、呆れたお姫様だ」
「ふふっ」
お茶を飲みながら他愛もないことを話す。
アマテルが俺の娘であることを知ってから14年。
アマテルは結婚もせず、日々王の責務に準じている。
王であればそれが正しいのだろうが、1人の娘としてのその姿は何とも言えない。
「お前、結婚しないのか?」
「出来るわけなかろう。それに……私が愛しているのは父上だけだからな」
「……返答に困る」
「ふふふ、父上ならば子を授かってもよいと思っておるぐらいだ。本気じゃぞ?」
娘に結婚願望があることは嬉しいが、相手が俺なのはなー…。
一般を考えればどうかと思うが、王族的に考えると…んー?
とりあえず分かっているのは1つ。
「……まぁ、遺伝的には問題はない。血縁同士の子だとしても俺の血が出ることはまずない。出るとすればほとんどがお前の血だな」
「何故じゃ?」
「……俺は世界そのもの。人には背負いきれぬだけの力と責がある。子を成したとしても、力を遺伝させぬために世界が働きかけるだろう」
というわけで、もし誰かと愛を囁き、子を成しても容姿や髪、目の色も母方の血が濃く受け継がれる。
俺の血筋は絶対に現れない。
「…そうか。ちっ」
「おい、王が舌打ちしてんな」
「嫌じゃ。……待てよ、血が出ぬので世間で否認されている親子での営みも良いのではないか?つまり……父上との行為も問題なく出来るではないか!」
「(ビクッ)」
なん……だと……。
『……』
「父上……」
「駄目だ」
この時の反応、自己最高であったと思う。
それぐらい早かった。
「ならば力づく!」
「アホか!」
飛びついてきたアマテルを振り切り、王宮の廊下を駆ける。
ドタバタした1日ではあるが、俺には気持安らぐ日常であった。
それが例え、娘から襲われる事態であっても、だ。
「大人しくお縄となれ、父上!」
「断る!」
……ドタバタはえらく続いた。
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「――ということもあったな」
「…そうだな」
本当に懐かしい出来事であった。
娘に襲われる父親など、あまり存在してほしくないものだ。
……む、どこからか同じような状態の親子が頭をよぎったが……気のせいだろう。
「ふふ、今思えば頑張って正解でした」
「……こんな親子騒動はこれっきりにしたいものだ」
「…そう」
ここは王の私室。
俺の目の前に居るのはアマテルだ。
……もう、彼女は起き上がることすら億劫になっていた。
「突然、朝の協議で自分の子供を紹介した時は度肝を抜かれたぞ」
「あれか。あの時は他の文武官も目玉が飛び出るくらい驚いておったな。まさか私に隠し子がいるとは思わなかっただろうからな」
いつものように会議が始まるかと思いきや、見慣れた子供を連れてきて「この子は我が娘。時代の王となる者じゃ」と宣言しやがった。
どのタイミングで言うのか知らなかったが、もっとよさそうなタイミングがあっただろうに。
「そのあと大々的に俺との子供とか言いやがって。お陰でレイナやフェイト達から追いかけまわされたんだぞ」
当然、一番聞かれるであろう誰と成した子であるかについて、アマテルは速攻で俺を指差し、「リュランとじゃ」と甘甘な声で言った。
大部分の者は俺ということで納得していたが、少数の者はあきらさまに難色を示した。
レイナ、フェイト、シエルの3人である。
半泣きで大魔法をぶっ放すレイナと無表情に見えながらその眼に冷徹な氷を見せて突貫力の高い槍状の魔法で急所ばかり狙うフェイト、そして精霊魔法で移動を妨害し、顔そのものは笑いながらも目が笑っていないシエルに追いかけられ続け、気が付けば次の日の朝であったとは、笑い話にもならない。
「いいではないか。それだけ愛されていることが分かったではないか」
「……そうだな」
他にも純粋に王を慕っていた一般の騎士や魔法師団の者から決闘騒ぎが相次いだ。
最も、その後の事を考えるに、アマテルを狙っていたというよりは忙しい俺直々に自分の力を見てほしいという一面の方が強かった気がする。
とにかく、この一連の騒動は騒ぎもそうだが止めるのも一苦労だったな。
「人の旦那に勝手に手を出さないでよね!娘であっても許さないんだからッ」
「娘に嫉妬する母親って一体…」
時折、娘に対して敬遠するかのような言葉とそれを軽く受け流す娘の言葉を聞いて、どちらが親でどちらが娘なのか分からないことがある。
まぁ、人の成長は早いということだろう。
「ふふふっ…ゴホゴホッ」
口元に布を当ててやる。
何度目かの吐血。
もう、長くない。
「……母上。私を生んでくださいまして、ありがとうございます」
「…ぐすっ、うん、うんッ」
「父上…私は……とても幸せでした」
「俺も、お前のような娘がいて、本当によかった」
「ふふっ…冥府にて……お2人をお待ち………しておりま…す」
握りしめていた手から力が抜ける。
――皇歴61年。
ウェスペルタティア初代国王、アマテル・ウェスペリア・レアーナ・エンテオフュシアが逝去した。
享年79というこの時代ではかなりの長寿であった。
アマテル国王逝去にあたり、次代の王は彼女の実子、アステリア王女となる。
こうして、全ての礎となった女王は深き眠りについたのであった。
∽to be continue∽