―――――【第24話 戦乱、来る】―――――
ここから先は当事者や関係者の話を元に作成した伝記である。
英雄と呼ばれし『紅き翼』の誕生から活躍、賞金首となり再び表舞台に舞い戻るまでの第1部と戦争が終わり、戦争の黒幕とまで言われたオスティア王女の救出劇までを余すとこなくお届けしたいと思う。
…これは、真実への道筋である。
著者、■■■■■■■■(名前のところが黒く塗りつぶされている)
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切っ掛けは小さな小競り合いであった。
しかし、小さな小競り合いはやがて、大きな民族紛争へと発展。
そこへ、同じ民を救うためと称し、南の大国、ヘラス帝国がアルギュレー・シルチス亜大陸へ侵攻したのであった。
これに対し、北の大国、メガロメセンブリア共和国は周囲の小国と手を組み、メセンブリーナ連合を結成。
国境付近で何度も衝突し、遂にはヘラス帝国がメセンブリーナ連合に対し宣戦布告を表明。
ここに、魔法世界全土を巻き込んだ全面戦争が幕を開けた。
しかし、ヘラス帝国にはとある思惑があった。
今回の戦争は同胞たちを救うためのだけの戦争ではない。
彼らの真の目的は、古き民の文明発祥の聖地、古都オスティアの奪還であった。
そんな大戦争の最中に産声を上げた組織があった。
『紅き翼』
NGO団体、悠久の風所属のチームであり、発足当初の人員はたったの3人。
旧世界出身のサウザンドマスター、ナギ・スプリングフィールド。
旧世界のサムライ、青山詠春。
謎に包まれた魔法使い、アルビレオ・イマ。
たった3人。
しかし、各人が超軍戦力を保持していたが故に、彼らは戦場へと向かう。
彼らの戦いは……始まったばかり。
【side ナギ】
オッス!
俺の名前はナギ・スプリングフィールド!
イギリス出身の15歳だが、そんなことは関係ねぇ!
最強の魔法使いだ!
ま、自称だけどよ、すぐに本物になって見せるぜ!
元々、俺はイギリスにあった魔法学校に通ってたんだがよ、魔法ってのは意外と面倒なことが多くてさ。
魔力についてとか、魔法薬についてとか、魔法陣についてとか……。
ぶっちゃけ、俺にはほとんど必要のねぇ知識だってわけだ!
とりあえず、あんちょこあれば魔法自体に問題ないわけだしな!
というわけで、魔法学校は速攻中退しちまったが、今考えてもあんなとこで理論なんざを勉強するより、外の世界で実践してった方が何倍も速く、俺を強くしてくれた!
そういや、魔法世界で修行の旅を続ける内に面白い奴らに出会ったから紹介しておくぜ。
1人目は青山詠春。
俺と同じ旧世界の日本出身で、生真面目な奴だけど剣の腕はスゲェ。
たしか、神鳴流とか言ってたけど……忘れたぜ!
2人目はアルビレオ・イマ。
生粋の魔法世界出身って言ってたが、あいつ結構胡散クセー笑顔だからどこまで本当かは俺にはわかんねぇ。
ま、気にする必要もないしな!
アルが使う魔法は重力と言ってたな…。
俺にはよく分からんけど、つえーのはよくわかった。
詠春も修行の身らしい。
アルはよくわかんねぇけど……ま、同じ戦う仲間だから信じてるぜ。
今はこの3人だが、もし俺たちについてこれる人間がいれば仲間にしたいとは思う。
まー、そんなレベルの奴はほとんどいないけどな。
アル曰く、今は雌伏の時だから、地道に依頼をこなしながら各地を旅してる真っ最中だ。
とりあえず、依頼の紛争地域での援護に行ってくるぜ。
もしかしたらつえー奴がいるかもしれねぇしな!
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数週間後。
紅き翼に対し、ある1つの依頼が舞い込む。
悠久の風より、緊急の出動要請だ。
依頼先は欲望渦巻く古都オスティアのウェスペルタティア王国。
ナギの一存により、急遽オスティアへと向かう彼らを待ち受けていたのは天を覆い尽くすようなメセンブリーナ連合の巨大戦艦と地上に降り立つ鬼神兵、そして多数の魔法使いの姿であった。
戦況は明らか。
彼ら3人はさらに加速した。
ヘラス帝国の脅威から市民を護るという名目で接近したメセンブリーナ連合の巨大戦艦はそんな名目などなかったかのように進軍を続け、射程距離に入った瞬間、全てを消し去るかのごとく標準装備である精霊砲を発射した。
砲撃を防ぐ壁など存在せず、街に被弾するかと思われた最中、途中に存在する塔付近で文字通り、消滅(・・)した。
「せ、精霊砲全弾消失!」
付近を巡回していた魔法使いより連絡が入る。
それは戦艦にて砲撃を指示していた司令官に衝撃を与えた。
「消失!?王都の魔法障壁ではないのか!?まさか……!!」
指揮官に嫌な考えが浮かび上がる。
そして、それを肯定するかのように、連絡が入った。
「広域魔力減衰現象を確認!減衰速度加速中……間違いありません!!『黄昏の姫御子』です!!」
帝国・連合双方がオスティア奪わんとする理由。
それが『黄昏の姫御子』である。
全ての魔法攻撃を無効化するという魔法無効化能力(マジックキャンセル)を持つと噂されるウェスペルタティア王国の姫君である。
全ての魔法を無効化できるが故に、これを手に入れた方が世界を制すとばかりに狙われているのが現実である。
そして、ナギもまたアルによってその事実を聞かされていたのである。
「黄昏の姫御子…何だってそんなもん!?」
「歴史と伝統…まぁ、他にも色々とありますが、昔ならいざ知らず、現在では小国である彼の国に他の手はないでしょう」
「だが、王族だろ!?まだ小さな女の子だって話も聞くぜ!」
「冷静になれ、ナギ。やかましいぞ」
「俺は常に冷静だっつーの!」
アルから聞く真実に怒り心頭のナギ。
詠春に諭されるも、全く持って効果なしである。
その様子を見ながらアルは再び言葉をつなげる。
「戦争ですからね…ヘラス帝国はさておき、メガロメセンブリア共和国の真の目的もおそらく。それに少女の年齢も私同様見た目通りとは…」
「くそっ!」
怒りに任せてさらに加速する。
そんなナギの様子にため息を吐く詠春と変わらぬアル。
最も、ナギの怒る理由も理解できる。
王族とはいえ、少なくとも子供であるならば遊んだり、勉強したり、何らかの出来事に夢中になるはずの少女を無理やり戦争の道具として使うのが許せないのだろう。
だからこそ、詠春はこれ以上何もいわずに追走する。
しかし、詠春はアルが意味深に発した言葉が気になった。
「ですが……私の知り得た情報が本当であれば…我々の緊急要請も必要ないはずなんですが…」
様々な思惑が交差する古都オスティア。
連合の鬼神兵はすぐそこにまで迫っていた。
「鬼神兵、残り20メートル!」
「くっ、防御結界を……うわあッ!」
もうすぐ届くと思われた瀬戸際。
「ドンッ」という音とともに鬼神兵が真っ二つに斬り裂かれ、激しい音を立てて崩れ落ちる。
絶体絶命と思われた彼らの前に現れたのは赤毛の少年の姿。
「そんなガキまで担ぎ出すこたねぇ。後は俺に任せときな」
「お、お前は……紅き翼……千の呪文の……ッ!」
「そう!!ナギ・スプリングフィールド!!またの名をサウザンドマスター!!!」
自分で自分の自称を言い放つその姿に呆れる詠春と楽しそうなアル。
最も、油断はできず、すぐさま後続の鬼神兵と召喚獣、そして多数の魔法使いが接近していた。
だが、それも彼らの力によってすぐさま打ち破られる。
詠春の斬撃、アルの重力魔法、そして、ナギのアンチョコ見ながらの広範囲型殲滅魔法『千の雷』が数キロ先の敵までを一掃し、辺りは焦土と化す。
魔法世界でも上位の強さを持つ戦士達の一撃で、敵兵は即座に葬られたのであった。
「安心しな。俺達が全て終わらせてやる」
「な……しかし…!」
「敵の数を見たのか!?お前たちに何が……」
「俺を誰だと思ってるジジィ。俺は、最強の魔法使いだ!」
「本当は数個しか呪文を覚えていないあなたが言っても今一つ説得力がありませんね…フフフ」
「あーあー、るせーよ。俺かて練習してるわ」
あまりの発言に言葉を失うオスティア神官たち。
だが、その後ろでぼそりと呟くアルの言葉に焦りながら視線を逸らす。
「ですが…あなた個人の力がいかに強大であろうと、世界を変えることなど到底……」
「るせーっつってんだろ、アル。俺は俺のやりたいよーにやってるだけだバーカ」
続くアルの言葉に、少しばかり拗ねた様子を見せながらも、自分の信念を伝えるナギ。
そんなナギを見つめる1つの視線。
「よう、嬢ちゃん。名前は?」
「ナ、マエ……?ナマエ……アスナ…。アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア」
「なげーな、オイ。ま、けど……アスナか、いい名前だ」
感情の乏しいアスナ姫に微笑むナギ。
頭を一撫でし、再び戦場を見つめる。
「アスナ、少しだけ待ってな。すぐに終わらせてやる」
勇み、向かおうとするナギの前にアルが立ち塞がる。
「あん?どうかしたのか、アル」
「ええ。私の知り得る最強最古の騎士が来たようです」
「最強最古の騎士だぁ?何者なんだ、そいつ」
球によく分からない発言をしたアルに疑問を抱くナギ。
その傍らには、戦闘が始まる前にアルの呟きを聞いていた詠春が静かに続きを待っていた。
「私も詳しくは知りませんが……オスティアに古くから伝わる言い伝えです。『オスティアの危機、王都の守護者が現れ、何人たりとも襲うこと叶わず』と」
「けどよ、それって言い伝えなんだろ?本物かよ」
「ですが……あれを見る限り本物かと……」
「んー…ゲッ、すげぇな、オイ」
「なんと……」
アルの示す先。
そこを見つめるナギと詠春に驚くべき光景があった。
ローブを羽織る何かが右手から幾千もの閃光を放ち、敵の鬼神兵、召喚獣、魔法使いを一掃している姿であった。
背中だけのため、顔までは見えないが、ナギには感じられた。
彼は…圧倒的強者であると。
「へっ、やっぱ世界はすげーぜ。こんなつえーのがいるなんてな!」
殲滅し終わったのか。
右手を下げ、こちらへと後退してきた何者かにすぐさま駆けよる人物がいる。
さきほどまでナギに怒鳴っていた神官である。
「おお、王都の守護者様!わざわざここまでいらっしゃるとは、我ら神官一同、心より感謝します!!」
「……」
神官の言葉には耳を貸す気がないのか、そのまま素通りしてこちらへと向かってきた。
ローブのせいでほとんど見えないが…奥からは意志の強そうな目が光っていた。
「紅き翼、ナギ殿だな。救援、感謝する」
「いや、あんただけでも終わらせそうだったしな。俺は何もしちゃいねーよ」
「ふ…あとで礼を渡そう。少しだけ待っていてくれ」
そういうと、王都の守護者はアスナ姫へと向かっていき、抱きしめた―――って、抱きしめた!?
「無事か、アスナ」
「ン……ヘイキ」
「そうか。今しばらくの辛抱だ」
「……ウン」
先ほどまで無表情であったアスナ姫は少しだけ目を細めると、甘んじて抱き締められたり、撫でられたりしていた。
「さて、待たせて済まない、紅き翼よ。こちらが今回の謝礼となる」
渡されたのはずっしりとした重みのある袋。
唖然とした詠春の顔が見物であった。
「おいおい、こんなにいいのか?そこまで働いてねーぜ?」
「構わん。英雄の卵に先行投資しただけだ」
「へぇ……?なら、ありがたく頂くぜ」
「ああ。……再び会い見えることがあればよろしく」
ナギにそう言い残すとかき消えるように姿を消した王都の守護者。
ニヤリと笑っていたナギであったが、あることを思いつき頭を抱えた。
「おいアル!あの守護者とか言う奴の名前ってわかるか!?」
「分かるわけないでしょう?」
「あー!聞くの忘れたー!!」
強者の名前を聞き忘れたナギの絶叫は止まらなかった。
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先ほどより数キロ王都に近い城壁の上。
そこに突然現れる影があった。
先ほど戦闘を行っていた王都の守護者その人である。
その人物を認めると、すぐに近づく人物がいた。
「リュラン様。アリカ様がお呼びです」
「わかった。すぐに行く」
その者に返事をすると、フードを取り、先ほどまでの戦闘場所を見つめる。
その眼は鋭く、何かを見極めるかのようであった。
「ふっ、ナギ・スプリングフィールド。また会おうではないか」
呟いた声は夜の風に紛れ、誰かに聞こえることはなかった。
∽to be continue∽