∽移り行く風のように∽   作:アクア=イスタロス

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第25話

―――――【第25話 傭兵】―――――

 

「戦争なんていやですわねぇ」

 

「また水の値段が上がっちゃうわ」

 

「鬼神兵、そばまで見に行こうぜ!」

 

「連合軍の鬼神兵がこっちのより強いってホントかな?」

 

「バーカッ。皇女様が全部倒してくれるよ!」

 

主婦達の世間話、子供たちの笑い声。

今が戦争中であることを忘れる光景ではあるが、内容が内容だけに、やはり戦争であることを彷彿させた。

そんな日常の傍ら、とある喫茶店に2人の男の姿があった。

片方は黒いスーツに黒い帽子、帽子から出ている角からヘラス族であろう。

しかし、もう片方の人物はここらでは見慣れない人物だった。

 

「対象は…この3人の男。それに…この少年だ」

 

「フン…なんだ。ガキじゃねぇか」

 

「子どもと思って油断していると痛い目を見るぞ。メセンブリーナ連合のオスティア侵攻が失敗したことを機にこちらも侵攻したが、敢え無く撤退を余儀なくされた。このオスティア回復作戦の失敗の主因はこいつらだ。すでに精鋭で組織された討伐隊も送ったが、悉く返り討ちだよ。君が望むなら部下もつけよう。正規兵ではなく傭兵・賞金稼ぎになってしまうが…」

 

「いらねーよ。一人で充分だぜ。任せときな。」

 

金髪に筋肉隆々で褐色肌の大男。

自信満々に言い放つその男の名はジャック・ラカン。

拳闘界においてその名を知らぬ者はおらず、解放奴隷となって己の身1つで最強の武を極めた男だった。

 

「そうか。そして、もう1つの件について…。対象は…この男だ」

 

「……ほう。見た目は優男にしか見えんな」

 

「だが、実力は確かだ。メセンブリーナ連合の大半の戦力はこの男が撃墜した。鬼神兵5体、空中母艦5隻…。幸い、こちらの作戦では出てきていないが、先ほどの対象と同様、危険人物に違いない。よろしく頼んだ」

 

「おう、任せてとけ」

 

初めに見せられた写真に写っていたのはナギ・詠春・アル、そして見知らぬ少年。

そして、次に見せられた写真には……王都の守護者が写っていた。

拳闘最強の男が……ナギ達を襲う。

 

 

 

 

――――――――――

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――――――――――

 

 

 

 

ここは魔法世界において最も辺境にあるのどかな高山帯、ラルバギア高地。

現在、ナギ達紅き翼は子ども姿の実力者、フィリウス・ゼクトを加え、のんびりと昼飯を食べようとしていた。

 

「んっふっふ~こいつが旧世界の日本の鍋料理って奴かぁ。じゃ、早速肉を~♪」

 

「あっ!ナギ、おまっ・・・何、肉を先に入れてるんだよ!」

 

「トカゲ肉でもうまいのかのう?」

 

「いいじゃねぇか、旨いもんから先でよ。ホラホラ」

 

「バッ、バカ。火の通る時間差というものがあってだな。まずは野菜を入れて・・・あーちょッ!」

 

「あー、うっせ。うっせーぞ、えーしゅん!」

 

故郷の料理をしっかり作ろうとする詠春に対し、自分が食べたい肉を入れ続けるナギ。

詠春が止めようにもナギの動きは素早く、止めることは叶わない。

 

「フフ…詠春。知ってますよ、日本では貴方のような者を「鍋将軍」…と呼び習わすそうですね」

 

「「(ナベ・ショーグン!?)」」

 

「つ…強そうじゃな」

 

「さすがだな、詠春。よもやサムライから将軍に格上げされたとは」

 

「わかったよ、詠春。俺の負けだ。今日からお前が鍋将軍だ」

 

「全て任す。好きにするが良い」

 

壮絶な勘違いをするナギとゼクト。

しかし、ここにはその勘違いを止める人材は存在しない。

ニコニコと笑うアルの笑みはこの勘違いを煽ろうとする笑みであるからだ。

詠春の仲間は存在しなかった。

 

「んー…嬉しくないなー(それを言うなら鍋奉行じゃ…?)」

 

それでも詠春は箸を動かし続ける。

食事に関してずぼらなナギに笑みを浮かべるだけのアル、基本的に他人に任せるゼクトの3人に食事を任せれば何が起きるか既に身をもって知っている。

自分がやらねば誰がやる。

紅き翼の栄養管理を頑張る詠春であった。

 

 

 

 

「おお、何じゃこのソース。うまいぞ?」

 

「ホントだ!うめぇっ!?」

 

「これこそが日本の誇るしょうゆだよ」

 

「それに大根おろしですね。」

 

「両方、日本の和というイメージがわかるな。美味い」

 

「これがしょうゆか。スゲェうめぇっ!」

 

「というかナギ。お前は日本に来た時、寿司食ったろ」

 

数多の妨害を乗り越え、ようやく日本の誇る鍋料理が完成し、さっそく箸で突き、その味を堪能する。

各自が思い思いの食材に手を伸ばすが、基本的にみんな肉。

詠春だけが律儀にもその他の食材を食べていた。

 

「そうだっけか?つーか、姫子ちゃんにも食わしてやりたいくらいの旨さだな。」

 

「姫子ちゃ…?あぁ、オスティアの姫御子のことじゃな?」

 

「ああ、アスナ姫だな。ま、ギスギスした王宮の料理よか何倍もいいだろうよ」

 

「フフ…やはり、王宮では食事を楽しむことはできませんか?あなたはともかく、戦が終われば彼女を自由にする機会も掴めるやも…です」

 

「その戦だが…やはりどうにも不自然に思えてならん」

 

「何が?」

 

「何もかもだよ。お前が言い出したんだろうが、鳥頭。つーか、肉ばっか喰うな!」

 

「抑えろ詠春。避けれるものも避けれなくなるぞ」

 

「!」

 

ヒューッ、ドカッ!

突然落ちてきた大剣に詠春以外は反応し、冷静に肉を掴んだ。

哀れ詠春、肉を食えず、鍋を被った。

野菜食えよお前ら。

というか、コンロは真っ二つになったにもかかわらず、鍋が無事なのはなぜなのだろう?

 

「食事中失礼~~~ッ!!俺は放浪の傭兵剣士、ジャック・ラカン!!いっちょやろうぜッ!」

 

掴んだ肉をおろし醤油に浸しながら声のする方を見上げる。

そこには金髪マッチョの男がいた。

 

「何じゃ?あのバカは(んぐ)」

 

「帝国のって(もぐもぐ)訳じゃなさそーだな」

 

「帝国が雇った可能性は否定できないけどな。(もぐもぐ)」

 

「そうだな…えいしゅ――むお!?」

 

「フ…フフフフ…。フ…食べ物を粗末にする者は……」

 

詠春の身体から闘気が溢れ出す。

その黒く、鋭い闘気にナギも驚く。

そして、普段の何倍もの速度で飛びだし―――

 

「どーしたー!来ねーのかぁーー!来ねーならこっちから――いッ…「キンッ」おほ」

 

「斬る」

 

ギキンッ!

バカッ!

 

男の持つ大剣を真っ二つにし、続けざまに男のいた崖を斬り落とした。

その目に映るは食べ物の敵。

目が反転し、神鳴流独特の闇が露わとなっていた。

 

「お?詠春の攻撃、凌いでるぜ」

 

「あの大男、やりますよ。見たことがあります」

 

ガキキンッ

キンッ

ガンッ

 

「少し前、南のヘラス帝国で話題となった剣闘士だな。今は確か辞めたとか聞いた気がするが」

 

「…って何時の間に来たんだよ、お前!」

 

「鍋将軍の件(くだり)からだ」

 

「久しぶりじゃのう。元気じゃったか?」

 

「あんたも相変わらずだな、ゼクト」

 

「おや、ゼクトはお知り合いですか…あまりの馴染み具合に私以外はお知り合いで暗黙の了解かと思ってましたが…。フフ、改めて初めまして。私の名前はアルビレオ・イマ。気軽にアルと呼んでください」

 

「アルだな。俺の名はリュラン・アルタメシア。オスティアでは王都の守護者とか呼ばれてるが気にせずよろしく頼む」

 

詠春が戦っているというのに何とものんびりとした雰囲気の中で紅き翼はリュランとの自己紹介、及び再会を果たした。

というか詠春空気である。

 

 

 

 

「ちょっ、タンマタンマ。あんたマジでつえぇな。ちょい待たね?」

 

「ふざけるなっ!やる気なら本気を出せ、貴様ッ!」

 

「へっそースか。けど、4対1……いや、今は5対1か?こんな状況で本気出すわけにはいかんのよね。けどよぉ…あんた達の情報はリサーチ済みだぜっ!」

 

ラカンと名乗った男が突然、懐から小さなカプセルを取りだし、詠春向かって投げる。

我が刃に敵非ずとばかりにカプセルを気にせずラカンを肉薄する詠春。

しかし!

 

「ブッ」

 

ラカンが投げたカプセルには…ほぼ全裸の美女、およびロリッ娘が入っていた。

どこでそんな物が売られているのか知らないが、何故ラカンは知っていたのだろうか。

謎である。

 

「情報その1。生真面目剣士はお色気に弱い」

 

「くっ…卑劣な。いや、何のこれしき。心頭滅却すれば火もまた―『ゴン!!』―グフッ」

 

唯一属性が違ったロリッ子が止めを刺した。

どこから出したか分からぬ狸の置物を手に誇らしげそうだ。

 

「バカだな」

 

「バカじゃのう」

 

「バカですね」

 

「バカというか真面目というか…」

 

そんな詠春を見る仲間の目にも呆れの色が浮かんでいた。

 

「フ、一丁上がり。…!ぬんっ!」

 

ゴガァッ!

しゅ―――…

 

突然の襲撃にも華麗に対処したラカンはニヤリと笑う。

土煙が晴れ、クレーターの中央からは不敵な笑みを浮かべる赤毛の姿。

 

「おう、出たな情報その4。赤毛の魔法使いは弱点なし。特徴、無敵」

 

「てめぇら…手ぇ出すなよ」

 

「言われずとも」

 

「バカの相手はバカにさせるのが一番じゃ」

 

「特徴が無敵…特徴…?」

 

「悩まずとも良い。アレはそなたとは別方向の意味で無敵なだけじゃ」

 

「……そうか」

 

「というか、誰か俺の体勢について突っ込んでくれ。俺はこれからどうしたらいいんだ?」

 

「知らぬ。好きにせい」

 

ゼクトの言葉にがっくりとする詠春。

自分を倒したはずのロリッ子に精一杯持ち上げられて宙に浮かぶ詠春の背には哀愁が漂う。

 

「奇遇だな小僧。俺も南じゃ無敵と滅法噂の男だ」

 

「へっ、おっさんいいのかよ?剣なしで」

 

「心配すんな。俺は素手の方が強ぇ」

 

「はっ」

 

「フン」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ

 

2人の男が睨みあう。

ナギからは手に構えた魔法の余波を受けた大気が激しく音を散らし。

ラカンからは己に纏った気が滾り、大地が唸りを上げる。

 

ドッ!

ゴシャッ!

バガッ!

 

2人の姿が消え、見えたのは中央で殴り合う姿。

魔法使いらしくないナギの姿を見て、ラカンは不敵に笑う。

逆に、自分をこれだけ吹き飛ばした奴もいないとばかりに笑うナギは駆けだす瞬間、複数人に分かれて勝負に挑む。

 

「うおっ。たくさん!?ニンジャかよ。うーんと…めんどくせっ、ぬふんっ!」

 

ラカンの声と腕の振り上げに同期して地面が音を立てて巻き上がる。

いや、巻き上がるなんて生易しいものじゃない。

殺意を持って大地が襲いかかったというべきだろう。

それすらも避けたナギは右手にお馴染みのアンチョコを持ち、その中から自身の十八番を読み上げる。

 

「百重千重と重なりて、走れよ稲妻」

 

「大呪文かッ!『気合防御』!!」

 

「『千の雷』!!!」

 

呪文から瞬時に内容を把握し、何やら良く分からぬ防御を構える。

呪文は完成し、右手の振りとともに千もの雷が1人目がけて舞い落ちる!

空が鳴り、木々が燃える。

まるで対軍戦のような光景にも関わらず、仲間の顔はほとんど変わらない。

見慣れた戦闘シーンに呆れるか、面白がるかである。

環境破壊など目でもない勢いで辺りが崩壊し続けた。

 

 

 

 

――――――――――

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――――――――――

 

 

 

 

お互いが持てる力を出し続け、いつの間にか辺りは焦土と化していた。

この戦いの結末は神にしか…なんてことはなく、13時間にも及ぶ戦闘が続いた後、騒音は治まった。

その結果、次の日の朝……

 

「フ…フフ…。やるじゃねぇか、小僧」

 

「へっ、あんたこそな」

 

「いや、5対1で挑んでおいてこの様じゃあ…俺の完敗か」

 

「俺は…俺に並ぶ人間が居たってだけで満足だぜ」

 

朝日に照らされながら2人は満足そうにニヤリと笑い合う。

どちらも頭から血を流し満身創痍だが、その目は好敵手の存在を喜んでいた。

……ただ、殺し合いが喧嘩レベルに変わったとはいえ、その規模には甚だ遺憾ではある。

 

「コラ、てめぇ…ナギ・スプリングフィールド!リベンジすんぞ!必ず決着…つけてやる…ぜぇっ!」

 

「おおー!いつでも…こいや、筋肉ダルマぁ!戦争やってるより気が晴れらぁ!」

 

「止めを刺せばよいのじゃ…」

 

「気に入ったんだろ…」

 

「フフフ…」

 

「……ま、気が合うんならこいつに相手させてればいいだろう」

 

単身挑みに来たラカンは再戦を誓うが、手や膝が震えており哀れな状況。

一方のナギは詠春に背負われての返答だったため、こちらも残念な状況であった。

 

「ええ、全くです。ところで、リュランはどこまで?」

 

「おぉ、どうするのじゃ?」

 

「そうだな……。お前らが良ければ御一緒しようか。オスティアに行ったり来たりでよければだが」

 

「へ、俺は構わねーぜ。つえー奴は大歓迎だ!」

 

「そうだな、常識人が増えるのは大賛成だ」

 

「そうか、ならよろしく頼む」

 

「「「「おぅ!(えぇ)(うむ)(ああ)」」」」

 

歩きがてら、簡単な仲間宣言を気楽に了承する紅き翼の面々。

様々な思惑を内に秘めながらも、仲間という1つの絆で結ばれた彼らの信頼はそこらの軍にはない硬さがあった。

のんびりと歩く5人には、違いはあれど笑顔があった。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

その後、幾度となくラカンはナギに対し勝負を挑み、その度に周辺が焦土と化した。

そしてリュランがオスティアに戻っている間にラカンはナギ達紅き翼の一員になっていた。

仲良く酒の飲み交わす光景にため息をつくリュランの肩には詠春の手。

色々と諦めていた詠春であった。

 

 

 

 

∽to be continue∽

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