∽移り行く風のように∽   作:アクア=イスタロス

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第26話

―――――【第26話 陥陣営】―――――

 

ヘラス帝国の侵攻力は圧倒的であった。

圧倒的な魔法力を有し、大規模艦隊や鬼神兵などの物理的戦力も豊富。

2度にわたるオスティア攻略戦こそ、どこぞのバカや守護者によって失敗に終わったものの、確固たる戦力は健在であった。

しかし、各地で快勝を続ける帝国も唯一突破できぬ連合防衛拠点が存在した。

 

それが、『グレート=ブリッジ』。

 

連合の喉元であり、全長300キロにも及ぶ巨大要塞の名称である。

しかし、帝国はまさかの大規模転移魔法の実戦投入によりこれを陥落せしめる。

要塞陥落は、連合を絶望の淵へと落とし、もはや敗北は時間の問題かに見えた。

 

連合は苦渋の決断を迫られた。

敗北を認めるか…もしくは、自らが辺境へと追いやった者達の戦線復帰の要請か…。

だが、この選択はあってないようなものであった。

永遠の屈辱か一時の屈辱のどちらかを選べと言われて永遠の屈辱を選ぶ人間も少ないだろう。

 

その後、連合はアルギュレーの辺境に追いやった紅き翼に戦線復帰を要請。

紅き翼はこれを了承し、すぐさま手近にあったアルギュレー要塞の奪還を決行、見事に勝利を収め、それを機に再び各地を転戦。

全ての戦いにおいて八面六臂の活躍を見せ、リーダーナギは「連合の赤毛の悪魔」と恐れられ、「千の呪文の男」と称えられた。

他にも、ラカンは「千の刃の男」、詠春は「サムライマスター」、アルは「グランドグレイズ」、ゼクトは「小さき巨人」などと呼ばれ、リュランに至っては出現させた百式観音にちなんで「千の腕を持つ男」や、元々の異名を知る者から「守護者」という異名で知られ、恐怖の的となった…が、普段はまるで違うため、名前を知られたら毎回驚かれる始末。

 

そして、大戦最大の激戦となった「グレート=ブリッジ奪還作戦」においての紅き翼の活躍は後世の世に残るものとなった。

 

 

 

 

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眼前に聳え立つのは魔法世界最大級の要塞『グレート=ブリッジ』

現在は帝国に支配され、連合を脅かしている。

今回、紅き翼に下された命令はグレート=ブリッジの奪還、もしくは破壊。

ここまで見事な要塞は壊したくはないが…ま、無理だろう。

 

「ここまで敵がいるとため息を通り越して壮観だな」

 

ここにあるのが全てではないだろうが、見えるだけで戦艦が優に百以上。

そして、外で警戒している魔法使いが軽く二百はいる。

逆に、このグレート=ブリッジの立地上、鬼神兵はさすがに配置は出来なかったようだ。

 

しかし、外にそれだけの戦力がいる割に戦争独特の空気はどこにも見えない。

周りもある程度は連絡を取り合ってるみたいだが……これじゃ、平時の警戒レベルだ。

王都という最終拠点を護っていた立場からしてみればあまりにもお粗末であった。

 

「最初はつまんねぇだろーがよ…こんだけの数なら倒しがいがあるじゃねーか」

 

「阿呆か、バカ弟子。所詮は一般兵が操る戦艦。威力はあっても我らの敵ではないじゃろう」

 

「その通りです。それに……今回ばかりは楽しんでいられないですしね」

 

「あーぁ…かったりーなぁー…」

 

ゼクト、そしてアルの発言にやる気を落としたナギは腕を頭にまわし、つまらなそうに要塞を見つめる。

もしこの場に連合の上層部がいれば文句の1つでも出そうだが、相手は紅き翼。

話にならないのは目に見えていた。

 

「ほんとだよな~…。お、そうだ!ナギ、どっちが多くの戦艦を沈めれるか勝負しようぜ!!」

 

「おぉ?その勝負、乗ったぜジャック!おい、リュランもどうだ!?」

 

「遠慮。俺が下手に殲滅系の魔法を放ったら要塞が壊れる」

 

「ちぇー、リュランもたまにはブチかまそうぜ?詠春の堅物じゃねんだしよ?」

 

「ちょ、ナギ!聞き捨てならんぞ、その言葉!」

 

ナギの物言いに詠春が突っかかる。

こんな2人の言い合いも慣れたものである。

逆に、戦争中にもかかわらず呆れた光景を見た周りの連合兵士は何も言えなかった。

 

「ナギほどではないが…ま、適度にやるさ」

 

「フフフ…」

 

「やれやれじゃ」

 

ぎゃーぎゃー騒ぐ紅き翼御一行。

開戦まで残り1時間を切った。

 

 

 

 

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俺たちが配置されたのは左翼。

つい最近に前線復帰したとはいえ、類を見ない功績を挙げている俺達を最前線の中央ではなく左翼にするとは。

よっぽど上は戦功を俺達に取らせたくないらしい。

これまでの連戦連勝を全て自分達の力だとでも思っているのだろうか。

しかも、軍議で最初に通達された戦闘方針が「各自雄々しく戦え」である。

どこぞのバカ君主でもない限り言わないだろうよ、そんな作戦。

よもや、味方の犠牲を増やすつもりなのか?

 

「また連絡がありましたよ。前線中央より広域殲滅魔法が発動しましたら開戦だそうです」

 

「広域殲滅魔法…ねぇ」

 

「(ぽへ~~~ん)」

 

「ジャック…そのアホ面は止めろ」

 

「だってよぉ?広域殲滅だぁ?どーせ、見栄張って何人もの奴らが集まって作るだけだろ?」

 

ラカンの言葉に間違いはない。

もちろん、戦功を欲する上の連中が子飼いの私兵たちを使っての見栄に違いはないが、それが言えるのも自分達が強すぎるからである。

ここにいる面々の誰もが個々で1個師団と同等以上に戦えるであろう。

 

「違いねぇ。俺とリュラン、ゼクトにアルは各自で作れる程度だっての」

 

「フフフ…。ナギ、本当のことは言ってはいけませんよ?」

 

「アルよ。どの口がそんな大層な言葉を言うんじゃ」

 

「ま、口は悪いがナギの言葉は妥当だ。紅き翼の面々であれば、誰もが何かしらの広域殲滅系の攻撃を持っている。ここが特別すぎるだけだが」

 

「へっ、リュランも中々言うじゃねぇか。とりあえず、俺たちはいつも通り戦えばいいってことだ。いくぜぇ…そろそろ、始まりだ!」

 

 

 

 

カッ

ドォォォォォォン…

ワーワーワー…

 

 

 

 

花火のような攻撃が要塞に当たる。

その魔法は要塞をそれなりに傷つけ、その周辺には瓦礫が舞った。

続いて要塞内が騒がしくなり、敵兵の出撃が予想された。

 

「…やっぱ、大したことなかったな」

 

「予想していた程度だろう。さて、我々も――「いくぜ、お前ら!」――あ、ちょ、待て、ナギ!」

 

いつも通り呆れる面々の言葉を引き継いで飛び出そうとした詠春を抑えてナギが飛び出す。

やはり詠春は哀れなり。

 

「やれやれ、ナギの単独先行にも困ったもんじゃな」

 

「フフ、彼なら大丈夫でしょう。何といっても我らがリーダーですから」

 

「そうだな、俺たちも行くとしよう。」

 

「しまったぁ!ナギのヤローに先を越されちまったぁぁぁぁッ!!!待ちやがれぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

ナギの姿を見送っていると、出遅れたラカンが大地を揺らして飛んでゆく。

ナギに先を越されたのがかなり癪らしい。

 

「…ジャックも行ったし俺達も行くか。各自、周りの敵を倒しつつ、要塞内への侵入経路の確保をするとしよう」

 

「うむ、了解じゃ」

 

「それでは、私はこちらから」

 

「…私もこちらから斬り込む。では武運を」

 

 

 

 

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開戦して早1時間。

状況は五分五分といったところか。

原因はただ1つ。

最初の奇襲が成功し、勢いに乗ったかに思われた中央にあった。

要因は脆弱さに尽きる。

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

「助けてくれ!!」

 

中央に居た魔法使い全員が逃げ出していた。

敵前逃亡なのだが、それでも上層部の私兵なのか?

(自称)最強を名乗る連中だったはずだが、これほどの逃げっぷりを見せられると呆れて何も言えん。

それはともかく、俺達がいる左翼は順調だ。

飛んでいる敵はあらかた殲滅し、残りは要塞の上と内部から砲撃を続ける奴らと一部残った魔法使いのみ。

中央は逆に押されているようだし、俺が援護しに行くとしよう。

 

「アル、俺は中央に行く。こっちは任せた」

 

「えぇ。リュランもお気をつけて」

 

「あぁ」

 

 

 

 

中央は遠くから見た以上に悲惨な状況だった。

まず指揮官が遥か後方で連絡員を通じて指示を出している。

確実に現場とのズレが生じるであろう指揮系統に悪態を言いつつ、周りの連中に声を掛ける。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、あなたはリュラン様!だ、大丈夫です!」

 

「無理するな。疲れているのだろう。脆弱な指揮官は無視して下がれ。無理をして死ぬ場面ではない」

 

「し、しかし、ここで引けば戦況が傾いてしまいます!あなた方紅き翼が左翼から圧力を掛けているからこそ、これだけ拮抗しているかに見えるのです!にもかかわらずここで我々が引けば確実に……ッ」

 

「問題ない。…そのために俺がここに来た」

 

「し、しかし…!」

 

俺が話しかけた者は中々に気概の強い人間であった。

こういった者が指揮官として動いてくれれば連合の戦況も良くなるのだが…と思ったが、言う機会はなかった。

 

「周りの連中と連絡は取れるか?」

 

「え、は、はい。それはもちろんです」

 

「ならば、すぐに下がるよう連絡しろ。一撃でせん滅する。一瞬だ、遅れるなよ?」

 

「ひ、1人では無茶です!我々も頼りない者なりに援護しますから!」

 

「…ふ、言葉だけで十分だ。見ていろ」

 

変わらぬ言葉と合掌によって顕著する千手観音。

今回は腕による迎撃ではなく、とある試みがある。

試験的には成功しているが、どれだけ使えるか分からん。

大規模戦線ではあるが、試すにはちょうど良い。

 

「百式観音よ!我が魔力を喰らい、眼前に迫る敵を薙ぎ払え!『慈愛の閃光』!」

 

カッと目を見開いた千手観音が全ての手を前に出し、何かに分類される力を溜め出す。

まだ溜めの段階にもかかわらず轟音が大地に鳴り響き、この音に気が付いた敵味方が慌ててこちらを見る。

だが、遅い。

千手観音の手に溜められた白き力は一瞬光った後、腕の向きに応じて左から右へと線状に伸びながら放たれた。

直撃から一瞬、要塞が横に真っ二つになった時の両軍の顔は見物であったらしい。

 

 

 

 

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【リュランと話した兵士side】

 

私は勘違いしていた。

憧れであるあのお方の力を。

私の側に来た時は一瞬夢かと思った。

しかし、幻ではなく本物。

いつも懐にしまってある色紙の場所を確認したのは内緒だ。

 

リュラン様は我々一般兵士に対して力強き言葉をおかけくださった。

本来であれば、リュラン様は我々のようなものではなく、気高き紅き翼の皆さまと共に闘っているはずだ。

聞けば、我々が不甲斐ないばかりに助太刀に来ていただいたというではないか。

しかし、その後のリュラン様がおっしゃった言葉は全てが強烈だった。

我々に上司の言葉を無視して下がれと。

一人で目の前を殲滅すると。

 

あぁ…自分を信じきったこの瞳……虜になりそうであった。

 

はっ、私は今まで何を。

気づいた時には目の前が眩しかった。

私の目の前には輝く金色の何かと…堂々たる姿を見せるリュラン様の姿が映った。

確か聞いたことがある。

リュラン様の異名は『千の腕を持つ男』。

今までどういった意味か分からなかったが、見ればなるほどと頷ける。

目の前で金色に輝く何かの頭上と左右には数え切れぬほどの腕が存在した。

これこそ、千の腕を冠するリュラン様の奥義なのだろう。

しかし、聞いた話では攻撃は腕による「叩く・潰す・薙ぐ」といった動作以外はないはず。

まさか、誰にも見せたことのない攻撃手段が見れるのだろうか。

期待と高揚が私の体を包む。

そして……グレート=ブリッジは真っ二つになった。

 

……え、え?

 

見た光景を処理できぬ頭を必死に動かしながら周りの同僚を見渡す。

誰もが目の前の瞬間を理解できないようだ。

当たり前だ。

誰が元連合の最終防衛拠点であり、現在は帝国の下で我々に猛威を奮う巨大要塞を真っ二つに出来ると思うことか。

しかも、縦ではなく横に、だ。

 

「ほら、目の前の敵は壊滅した。要塞に乗り込むぞ」

 

リュラン様の言葉に連れられてフラフラと動いたのはいいが、これ以降の記憶はあまり定かではない。

1つ覚えているのはリュラン様の戦いをこの目でしっかりと見たことである。

全てを薙ぎ払う暴力は、私から見れば救いを与える天使の如くであった。

 

 

 

 

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リュランの代名詞である千手観音から放たれた閃光は、帝国が押し気味であった戦況を一気にひっくり返した。

よもや、グレード=ブリッジが横に崩壊するとはどちらも思わなかっただろう。

この事実に帝国は大いに動揺し、この数時間の激戦は呆気ない幕引きとなった。

帝国はこれ以上の戦力低下を防ぐために戦線を後退、連合も大半が崩壊した巨大要塞に呆然としていたが、これ幸いとばかりに占拠。

再びグレート=ブリッジは連合の支配下となった。

 

この激戦を節目に戦況は逆転。

連合は各地で連戦連勝を果たす。

遂には帝国の勢力を追い出すだけではなく領内へと躍進するにまで至る。

 

余談ではあるが、紅き翼の面々のファンクラブができ始めたのもこの頃である。

 

さらにこの後、紅き翼は良すぎる腕が幸いした元メガロメセンブリア捜査官のカトウ・カグラ・ヴァンデンバーグとその弟子タカミチとの出会い、仲間に引き入れる。

彼らが仲間に加わり、それから1ヶ月後のグレート=ブリッジ―――

 

「俺の故郷がある旧世界じゃ、超強力な科学爆弾が発明されててこんな大戦はもう起こらねぇそうだ。戦を始めたが最後、みんなまとめて滅んじまうからだってよ。だが、こっちのこの戦はいつ終わる?帝都ヘラスまで攻め滅ぼすってか?やる気になりゃ、この世界にだって旧世界の科学爆弾以上の大魔法はある!こんなこと続けてどうなる?意味ねぇぜッ!まるで……」

 

「――まるで、誰かがこの世界を滅ぼそうとしているかのようだ――ですか?」

 

ナギの言葉を受け取ったアルが言葉を続ける。

それは、自分達の戦いが全て誰かの掌での出来事であると苛立たせるには十分な仮説であった。

 

「――ある意味その通りかもしれないぞ」

 

「……ガトウ」

 

後方から新たな仲間、ガトウとその弟子タカミチが近づく。

その表情はどこか硬い。

 

「…暗躍している存在が分かったのか」

 

「あぁ、俺とタカミチ少年探偵団の成果が出たぜ。やはり、奴らは帝国・連合、双方の中枢にまで入り込んでいる。……秘密結社『完全なる世界』だ」

 

「……チッ」

 

「…リュラン?何か意味深な顔をしていますが、何か御存じなのですか?」

 

「……何とも言えん。確証が出来次第伝えよう」

 

「そうですか、分かりました」

 

…アルの笑みは時折恐怖を覚える。

……ともかく、俺の方でも情報を集めなければならんようだ。

最近はフェイトからの報告が来ないとは思っていたが……よもや戦争の手助けをしていたとはな…。

頭の切れるフェイトに俺の影であるデュナミス、4将やレイナ・シエラ達は何をやっているんだ……?

 

「とりあえず、そいつらをぶっ潰せば戦争は終わるんだよな?」

 

「そうだ。だが、まだまだ細かい敵勢力まではわからんし、どれほどの者達が奴らに関与しているかわからん。慎重に行くべきだろう」

 

「では、我らはこれまでと同じように転戦するのか?」

 

「いや、出来れば情報収集に徹したい。下手に動けば奴らの思う壺だ」

 

「ふむ…。連合内で我々に協力できる人物はいないのか?」

 

「……当てがある。話をつけておこう」

 

「お、さすがリュラン。で、誰なんだよ?」

 

「まだ分からん。教えられん」

 

「ちぇ」

 

ナギが不貞腐れるが、仕方がない。

俺もあまり巻き込みたくないんだが、ここまで状況が悪いのであればやるしかない。

 

「とりあえず、悩んでいてもどうすることもできない。情報については引き続きガトウにお願いしよう。いいか、ガトウ」

 

「あぁ。承知したぜ、詠春」

 

そして彼らは知ることとなる。

自分らが敵対する存在の一部を。

そして、リュランは気が付いてしまう。

隠された真実について……。

 

 

 

 

∽to be continue∽

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