―――――【第27話 協力者】―――――
グレート=ブリッジ奪還作戦から数週間。
メセンブリーナ共和国首都にある宮殿のとある一室…ナギ達紅き翼一行はガトウによって呼びだされた。
何やら重要な要件らしい。。
ナギやラカンはいつもの如く、アル、詠春、ゼクトは何やら神妙な顔で事を待つ。
ちなみにリュランはオスティアの要件のためこの場に居ない。
リュランがいないことを告げたナギに全く動じなかったガトウに何やら疑問を抱いた数名。
しかし、アルとゼクトには見当が付いたようだ。
「で?何だよガトウ。わざわざ本国首都まで呼び出してさ」
「会ってほしい人物がいる。協力者だ」
「協力者?」
「そうだ」
ナギの疑問とともに入口から1人の老人が姿を見せる。
その人物の正体に詠春が気が付く。
「マクギル元老院議員!」
「いや、わしちゃう。主賓はあちらのお方だ」
「ウェスぺルタティア王国…アリカ王女。そして今回、橋渡しを務めてくれた――ウェスペルタティア騎士団団長のリュラン殿だ」
そこに現れたのは静かながらも気品を見せる無表情の女性――アリカ姫と、いつもとは違い騎士団正装に身を包んだ騎士団団長――リュラン・アルタメシアであった。
「……」
「リュラン!?何でそこに居るんだ!?」
「聞いていたか?ウェスペルタティア王国は俺の所属だ。前に言っていた当てもアリア王女の事だ」
「なるほど。さすがは『王都の守護者』ですね。私とは違う意味で伝手が広い」
「……まぁ、それなりに生きているからな」
「ふむ。わしと会ったのもオスティアだったしの。必然と言えば必然だったのう」
「へぇ、お前って結構偉い奴だったのか?」
「…ジャック、空気を読め」
神妙な空気から詠春の発言で一転、すぐさまいつも通りの空気に戻った。
事態に追いつけていないラカンや詠春と違い、アルとゼクトは物知り顔で頷いていた。
……そして、ナギは何とも言えない顔で黙り込んでいた。
「…リュラン。紹介を」
「ん、あぁ。そうだな。話は聞いていると思うが、戦闘部隊「紅き翼」のリーダー、ナギ。参謀、アル。切り込み隊長、詠春。相談役、ゼクト。バカ、ジャック。情報収集、ガトウ、並びその弟子のタカミチだ」
「なぁ、俺だけ扱いひどくないか?」
「…大丈夫だ。お前には戦闘で期待してるから」
「んー、ま、いいか」
『(いいのか…)』
ラカンの発言にここにいるメンバーの心が1つになった気がした。
それはともかく、ガトウとマクギル元老院議員はこれからについて話し合い。
アルとゼクト、リュランは壁の隅にて情報の交換。
アリカは話すことが無いのか、ただ黙っているだけである。
そこへ、ラカンが気軽に話しかけると――
「気易く話しかけるな、下衆が」
ものすごく拒否した。
哀れラカンである。
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「ワハハハハ!上手いことやりやがってこんガキャー!」
「あぁ!?何の話だ!?」
「とぼけんじゃねーよ。お姫様とイチャイチャキャイキャイおしゃべりしてたろーがッ!」
「してねっつの!何がイチャイチャだ、バカジャック!」
夕暮れのメガロメセンブリア。
あの初顔合わせの後、紅き翼は外のテラスで騒いでいた。
内容はもちろん、例の姫君とその後普通に話し合ったナギについてである。
「なーに言ってんだよ。俺なんかあの言葉だぜ~~?いや~ありゃ、イイ女だぜ。一本芯の通ったな」
「それはお前だからだ!つーか、頭大丈夫か?俺ぁ、あんなおっかねぇ女、見たことねぇぞ」
「グハハハハハ!そーゆートコはまだまだカワイイガキなんだよな、てめーはよ」
「んっだ、そりゃ!?意味わかんねぇ、触んなっつーの!勝負すっか、てめ!!」
「ははは、仲いーな」
ぎゃいぎゃい騒ぐナギとラカンを傍から見つめる詠春とアル。
少しばかり詠春が羨ましそうに見えるのは気のせいだろうか。
リュランは既に騎士装備をはずしていつものローブ姿となり、その隣でゼクトが出された飲み物をゆっくりと飲んでいた。
「しかしよ?ウェスペルタティアの王女ってことはアレか?例の姫子ちゃんの姉君ってことかよ?」
「いや…姫子ちゃんのことは…なんか話しにくいみたいだった。…リュランはさ、何か知らねーのかよ?」
ナギに話を振られたリュランは少しだけ悩むと、何か考えつつも話し始める。
「…王族には王族の悩みがあるってことだ。家族と民…その両方を天秤にかけなきゃならん。…詳しい状況は俺も把握しているが、おいそれと話せる内容ではないからな。俺が言えるのはこれくらいだ」
「そうか…。アリカ姫、か」
ナギが遠くを見つめる。
そこには、件の姫が遠く街を眺める姿があった。
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「でよ、何で俺達なんだ?」
「…元々、ウェスペルタティア王国は強大な勢力を誇った。国の面積で言えばそこまでないが、早い段階での魔法開発と組織化、さらに軍隊への魔法標準化…。他の国に負けるはずのない戦力と理想を謡う国だった。だが、「帝国」と「連合」の巨大2勢力の台頭。そこに、巨大魔獣の侵攻。歴代の国王の奮闘も空しく魔獣の被害や両国の小競り合いに付き合わされ、国そのものが疲弊した。これ以上戦争が続けば王国は持たん。そこで今回、これ以上の国の疲弊を防ぐため、アリカ自ら調停役となり戦争終結に向けて議論を交わした…が、今や歴史と伝統が売りの小国にまで落ち込んだため、俺も粘ったんだが力及ばず、戦争は続いた。そのため、今回は万全を期すため、帝国・連合に左右されにくい組織を求めたってことだ」
「それが…俺たちってことか?」
「あぁ。本来なら俺が力を見せつければよかったんだが……俺1人の力だとどうしても侮られてな。そこで目をつけたのが悠久の風でも新鋭と言われた『紅き翼』だ」
「へへっ。まぁ、最初は俺と詠春とアルしかいなかったけどな」
「組織の強さとは数だけで決まるものではあるまい。それを俺達は証明してきたはずだ」
「はっ、そうだな」
ナギが獰猛に笑う。
その姿に微笑んだアルは再びリュランの方へと向く。
「フフ…リュラン、続けてください」
「…で、だ。この戦争を止める為にウェスペルタティア王国はお前らと協力してこの戦争の裏で糸を引いてる組織を叩くことにした。主力はお前らだが」
「組織…「あいつら」のことか!?」
「ああ。『完全なる世界』…帝国・連合だけでなく、歴史と伝統のオスティア内部までシンパがいるようだ」
「世界全てが彼らに操られているようです…やはりこれは、思った以上に根が深い…」
詠春、アルの言葉にリュランは頷く。
「基本的に全ての国の内部に潜んでいると考えていい。さらには経済、魔法研究にも手を出しているとの噂だ」
そう言い切ったリュランの目に悲痛な色が映る。
その色に気が付いたのはメンバー内の頭脳係であるアル、ゼクト、ガトウだけであったが、それが何を意味するのかまでは気が付くことはなかった。
『完全なる世界』――この謎の集団を当初、ガトウは国際マフィアや死の商人…つまり、「戦争があると儲かる」連中が造った組織であると踏んでいたようだが…その真の正体は謎のままだった。
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【side ラカン】
リュランからこの話を引き受けた後、俺たちは休暇中、『完全なる世界』についての独自の内偵を開始した。
…といっても、俺やあのバカはどう考えても調査向きじゃなかったから、もっぱら詠春、アル、ゼクト達に任せたがな。
リュランは王国でも最重要人物のため、あまり派手に活動できないようだが、それでも王国の伝手を使って色々と情報を集めているらしい。
……が、それでも重要人物が故に、こういった他国ではあっちゃこっちゃに引っ張りだこらしい。
…夜、あいつに会うと目が死にかけているのは気のせいじゃないよな…。
俺か?
俺は時ならぬバカンスを楽しみ、あのバカも―――
「買い物に付き合え?何で俺が(バチーン!)」
「…ナギ。アリカを怒らせないでくれ。俺にもフォロー出来るレベルと出来ないレベルがある…」
それなりに首都での休暇を楽しんでた…ように俺には見えたがな?
ナギ以外にもリュランの奴が、あの冷えたお姫様の相手をよくしていたが…あいつとはどんな関係なんだろうな?
ただの騎士団団長と国の姫様とは思えん。
ん、俺の勘だ。
「まさか…こんな…」
バカンスを終え、扉を開けて部屋に入るや否やガトウが頭を抱えて目の前に映る情報を眺めていた。
傍には優雅に紅茶を飲むリュランも居た。
…が、目の下に隈ができている様子を見るに、ものすごい疲れてんだろうな。
「よお、ガトウ。どうした、深刻な顔してよ」
「ああ、ラカン。いや、遂にやつらの真相に迫るファイルを手に入れたんだが…これがどうにも信じがたい内容でな。いや、情報ソースは確かなんだが…う~む…」
「…ガトウ。それは信頼できる情報なんだろう?」
「あぁ…だが、内容を見るに信じていいんだか悪いんだか…しかしこれが確かなら奴らの行動も…」
リュランが恐ろしく疲れた口調でガトウに聞いた。
しかし、ガトウの歯に物が詰まる言い方にイライラする。
「んだ、ガトウ。ハッキリしねぇな。もっとわかり易く言えや」
「いや、言ってもあんたにゃ興味ない話だよ、多分」
「同感だ。ジャック、お前は政治に興味があるのか?」
「なるほど、興味わかねぇな」
リュランの言葉に賛同する。
確かに、俺に政治なんて堅っ苦しい話は向かねえ。
「だろうな。…それより、こっちの方が深刻だ。この男にも『完全なる世界』との関連の疑いが出てきた…大物だよ」
「こいつは…!」
「ほう…こいつか」
そう言ってガトウが見せてきた書類に目を向ける。
そこにデカデカと載る人物…それは俺でも簡単に名前が浮かび上がった。
こいつは――
「今の執政官(コンスル)じゃねーか!!このメガロメセンブリアのナンバー2までが奴らの手先なのか!?」
「確証は無い。外で喋るなよ?」
「いや、証拠ならある。先日、こちらの伝手で見つけた。おそらく当たりだろう」
「なんだと?だが、それが本当なら、今すぐそれを持ってマクギル元老院議員の元へ――!?」
「何だ!?」
リュランの言葉にガトウが急ぎ動こうとした瞬間、外で大きな爆発音が1回響いた。
慌てて外を見れば、どうやら街の方が燃えていやがった。
「市街地から爆発…?…まさか…ッ」
飛び出すかのように部屋を出て行ったリュランを見送る。
これでも俺だって考えられる。
今俺が行ったところで無意味だ。
なら、あいつらが帰ってくるのをのんびり待つとしよう。
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【side ナギ】
さっきまで賑やかな町並みを表していた商店街。
だが、今じゃ悲鳴と騒ぎが広がりつつある。
それもこれもさっき起きた爆発のせいだ。
おそらく、買い物に来ていた俺か姫さんを狙ったんだろう。
「大丈夫か、姫さん!?」
「うむ」
「くそっ、こんな街中でデカイ魔法使いやがって。死人出てねぇだろうな?」
「やはり、今のは…」
「ああ、奴らの刺客だろ。アンタと俺、どっちを狙ったかは知らねぇけどな」
いくら俺が無敵だったとしても、姫さんは当たれば怪我をしちまう。
俺の戦い方は周りに気を配れないからな。
おそらく、さっきの爆発で仲間が気づいているはずだ。
それに、リュランなら何も言わずとも加勢に来てくれるかもしれねぇ。
だが、それを待つのは俺じゃねぇ。
俺があいつらが来るまでに敵を片っ端から倒しておけば、あいつらが時間を取られなくて済むわけだ!
良し、そうときまれば、早速行動開始だ!
「ようやく尻尾を出したってとこだな。追尾魔法をかけてやったし、逃がさねぇぞ!!姫さんは皆のトコ帰ってろ。俺は奴らの本拠地をぶっ潰し――ぐえっ!」
「…私も行こう」
「ああ?」
「ここに私を1人残しておく方が危険だとわからぬのか、愚か者が。それに、私の魔法は役に立つぞ?忘れたか、鳥頭」
呆気にとられた。
1国の姫が言うセリフじゃねぇだろうよ。
だが……その姿はとても似合ってたぜ。
「…ハッ…いいぜ、姫さん!ついてきな!!」
まさか、こんな目をするなんてな。
さすがの俺でもここまで言われちゃ連れてくしかないよな!
とりあえず片っ端からぶっ飛ばすか!
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「…で、貴様は一昼夜、アリカ王女殿下を連れまわした挙げ句、その敵本拠地とやらを壊滅させてきたのか!?どんな夜遊びだそれはっ!!」
「まぁ…残りはリュランに任せたけどな」
「敵の下部組織を潰しても意味は無いっ!何のために秘密裏に調査してると…大体、万が一王女殿下にお怪我でもあったらどうする気だ!!」
「姫さんノリノリだったぜー?楽しかったーとかって」
「嘘をつけっ!どうせ貴様が無理やり―(くどくど)―国際級の―(ぎゃあぎゃあ)」
「おい、うるさいぞ詠春」
「し、しかしだなリュラン!」
そこに入ってきたのは騎士装備のリュラン。
その姿を見るに、どうやら一仕事を終えてきたようだ。
おそらく、ナギから引き継いだ事件の事だろう。
「ナギの行動は正解だ。いくら街中とはいえ、あの場所に置いておく方が危険度が増す。いくらメガロ本国とはいえ、な。そこを含めると怒るに怒れん。……まぁ、軽率であったことに変わりはないがな」
「うっせーぞ、リュラン。俺だって結構苦労したんだぜ?それにお前だって俺が動いた直後に散々色々やってたのによ…」
「…俺は王国騎士団の団長だからな。色々と伝手もあるし、ある程度であれば他の国でも幅が利く。…それに姫様の護衛でもある。今回はお前がそばに居るから着いていかなかったが、本来であれば俺が適度に対応して終わりの事案だ。…ま、今はとりあえず落ち着いて待ってろ」
「…へーい」
「だが、リュラン!」
「詠春さーん!」
「ど、どうした!」
そんな簡単に終わっていいのかと告げようとする詠春の前にタカミチの声。
遂に来たのか、と少しだけ慌てる詠春に告げられたのは真逆の言葉。
「さっき、あの怖い冷血お姫様が今、廊下で僕に向かってニッコリ…僕ビックリしちゃって…あ、なんか、ナギさんにお礼を伝えて、だそうです!確かに笑いましたよねっ!?」
「うむ。驚いたのじゃ」
「な?」
「……ッ」
ナギの言葉を後押しするタカミチの発言にナギは少しばかり得意顔。
もはや何も言えず、身体を震わす詠春。
後ろではアルがクツクツと笑っていた。
だが、その奥の椅子に深く座り込んだリュランの目がギラリと光っていた。
「タカミチ…俺の前でアリカの陰口とは…いい度胸だな?」
「え!?あ、いや、その、えっと…」
慌てて訂正しようとするタカミチ。
その姿にやりすぎたかと笑うリュラン。
「…ふっ、冗談だ。…だが、勘違いしないでほしい。彼女だってホントは国を背負わねば、可愛い女性なのだ。そこだけは覚えておいてほしい」
「…それ言えるのお前だけじゃね?」
「うるさいぞジャック」
鋭いラカンの突っ込みに苦笑しながら返したリュラン。
たしかに、と誰もが思ったのは仕方がなかろう。
「お、そういや…ちゃんと証拠も見つけてきたぜ!」
「な…それは…」
「へっ、俺だってやることぐれーはやるってことだ。…何だよ、ジャック。よくわかんねー顔でこっち見んな!」
ラカンのにやにや顔がナギのイライラに当たる。
怒るナギの手に握られたその書類からはまさに執務官が話す様が映っていた。
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――――――――――
「つまり、その証拠があれば戦を終わらせられるのじゃな?」
「ま、多分な」
「では、それは主とリュランに任す」
「まぁ、あんたも無茶するよな?この戦火の中でこんなボロ舟で帝国の第三皇女と接触しようってんだからな」
「なんじゃ、心配しておるのか?」
「あ?あー……ボソッ(まぁな)」
「……う、うむ」
あまりの素直なナギの発言に言葉を失い、少し赤くなるアリカ。
口をパクパクさせ、辛うじて返事を返したが。
「お、遂にこのバカにも恋が…?」
「フフフ、大きな身分の差がありますが…面白いですね」
「こんな大一番に…まったく」
その様子を見ていた他の面々は冷やかしたり笑ったりしていた。
いつもと変わらぬ光景。
それがアリカの目には少しばかり羨ましく映った。
「…リュラン。そなたはどうするのじゃ?」
「……俺はアリカの騎士だ。もちろん、護衛として向かう」
「そうか。そなたが居れば心強い。頼むぞ」
「ああ」
アリカの言葉に不敵に微笑むリュラン。
騎士装備が相まって格好になる。
結局、アリカ姫とリュランの2人はボロ船に乗って帝国との会談場所へと向かった。
このあと、紅き翼の面々や彼女達に起きる最悪の事態に気づかぬまま……。
∽to be continue∽