―――――【第28話 杖と翼】―――――
【side ナギ】
姫さんとリュランが会談場所へと飛んでった次の日。
部屋に戻って来てみるとガトウが俺が見つけた証拠品を元にマクギルのおっさんに念話をしていた。
「あの執政官がテロに関与!?確かなんだね、ヴァンデンバーグ元捜査官」
「ハ。確たる証拠があります」
「よくやった。これで上手くいけば…これ以上の無意味な戦線拡大を止めれるやもしれぬ。さっそく弾劾手続きだな。法務官を呼ばねばな。…そうだな、証拠の品とナギ君を連れて、明日の夜にでも来てくれ」
「了解しました。…ということでだ、ナギ。明日の夜、マクギル元老院議員のもとへ行くぞ」
「へいへい。しっかし、めんどくせーもんだな、敵を捕まえるのにも…」
「仕方ない。相手がどんな裏を持っていようと表はメガロメセンブリアのナンバー2だからな。順序を踏んで追い詰めなければ逃げられる可能性がある」
「ま、その辺はお前やアル達に任せるさ。じゃ、俺は寝るぜ」
これで戦争が終わる――
そんな期待を秘めて俺は寝室に向かった。
だが、そんな淡い期待を、俺たちの運命は許さなかった。
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次の日……。
空は澄み渡るかのように晴れ渡り、人々は数日前に起きたボヤ騒ぎなど明後日の方向に飛ばしていた。
ガトウは改めて今日の出来事について手順を見直す。
過程は順調だった、あとは結果次第。
帝国との交渉も終えれば戦争はすぐにでも終息する。
そんな考えを頭の片隅に浮かべ、すぐさま消し去った。
油断はできない。
こんな世の中だ、どこで転ぶか分からない。
気持ちを切り替え、証拠品の確認や、今後の対応について思考を侍らした。
もしかすれば、この物語は案外、簡単に終わっていたかもしれない…。
だが、天が、運命がそれを許さなかった。
舞台に闇を魅せるように――彼が現れた。
物語は逆転する。
盤上の駒を優雅に操る。
――まさに、神のような存在の掌の中で。
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夜――
寝るには早く、家に帰るには少し遅い程度の時間帯。
そんな月明かりが照らす街の風景を前に、ナギ達はとある一室に居た。
「マクギル元老院議員」
「御苦労。証拠品はオリジナルだろうね?」
「ハ…法務官はまだいらっしゃいませんか」
「法務官は…来られぬこととなった」
「……ハ…?」
「……!」
ガトウとマクギル議員の会話を聞いてナギが何かに反応した。
その何かについて、ナギは考える。
その間にも、マクギル議員は法務官が来れぬ経緯を説明していた。
「…あれから少し考えたのだがね。せっかくの勝ち戦だ。ここにきて…慌てて水を差すのもやはりどうかと思ってね」
「ハァ」
「いや…その…。私の意見ではない。そう考える者も多いということだ、時期が悪い。時を待つのだ。君達も無念だろうが今回は手を引いてだな…」
突然の平返し。
ガトウはそういった政治間での駆け引きを知っているからこそ、あまり責めるに責めれなかった。
しかし、ナギは気が付いた。
この、得体の知れぬ違和感について。
「待ちな」
「?」
「あんた、マクギル議員じゃねぇな。何もんだ?」
ボゥンッ!
「ぶ!?」
「「な…」」
ナギの暴走。
目の前で起きた突然の惨劇にガトウとラカンは言葉を失う。
慌ててナギに詰め寄り、真意を問う。
「ちょーーーっ!?ナギおまっ…何やってんだよッ!元老院議員の頭いきなり燃やして!おまっ――」
「バーーーカ。よく見てみなおっさん」
「何っ…」
「…よくわかったね、千の呪文の男。こんな簡単に見破られるとは、もう少し研究が必要なようだ。ふ、試作品は試作品に過ぎないと言ったところか」
炎の中から現れたのは涼しげな顔立ちの青年。
その瞳はどこか、冷たさを感じる。
「な、何だ奴はっ!」
「ふっ…ちなみに本物のマクギル元老院議員は残念ながら、既にメガロ湾の底だよ」
「てめえっ!」
フォッ―フォン―
「「通しませんよ(くらえ)」」
「!?」
ドンッ!!!
ナギがその男に跳びかかろうとした瞬間、水と炎を巻き上げて2人の男が姿を現した。
一目見ればわかる。
強敵だ。
「くっ、強ぇぞやつら!」
「ハッハ、だが生身の敵だ!政治家だ何だかとガチ勝負できない敵に比べりゃ…万倍!!!戦いやすいぜッ!!」
そんなやる気満々のラカンの姿を見て、青年は微笑む。
その程度、恐るるに足らずとばかりに。
「フ…。わ、わしだ!マクギル議員だ…。うむ、反逆者だッ!ああ、うむ。確かだ。奴らに暗殺されかけたっ…は、早く救援を頼む!スプリングフィールド、ラカン、ヴァンテンバーグ、奴らは帝国のスパイだった!今も狙われている、軍に連絡をッ…」
「げ」
「やられたな」
成り変っていたからこそ出来る反則技。
それは、政治的烙印。
「おぉおっ!」
「…君達は少しやりすぎたよ。悪いが退場してもらおう」
突然の戦闘に対しても悠然と戦おうとするナギだったが、敵は盤石な体勢で臨んできた。
その結果は無様なものだった。
宮殿には多数の石柱が聳え立ち、館内はさらに酷い。
炎や水で辺りは修復不能となり、激しいマクギル議員の抵抗を物語っていた――ように傍からは見えた。
「昨日までの英雄呼ばわりが一転、反逆者か。ヌッフフ、いいねぇ。人生は波乱万丈でなくっちゃな♪」
「タカミチ君達は脱出できたかな…」
「……リュランもいるから大丈夫だとは思うが…姫さんがやべぇな」
英雄が反逆者へ。
その報は一気に世界中をめぐった。
紅き翼は連合を追われ、元の放浪の一団と化し、帝国は士気が上昇。
いくら連合が優勢だったとはいえ、所詮は借り物の力。
紅き翼を欠いた連合はじりじりと押し戻されるのだが、それは数カ月先の話である。
罠にはめられた紅き翼は一時離散していたが、帝国・連合の追手との攻防を繰り返すうちにリュランを除く全員が集まる。
再会と大した怪我が無いことを喜びあったが、いつまでも喜び続けるわけにもいかず、辺境を転戦。
そして、ある日…アリカ姫、リュランが囚われているとされる『夜の迷宮』の噂を耳にする…。
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静まりかえる石造りの廊下に背を向け、俺は現状と今後について頭を働かせていた。
多少の誤差はあれど、原作通りに事が運んでいる。
これではマズイ。
このまま行けば、いずれオスティアは墜ちる。
他でもない、心優しきアリカの決断によって。
何とかしなければ、しかし、俺に何が出来る。
もちろん、創造主の力を使えば多少は緩和できよう。
しかし、魔力なき大地はいずれにせよ、落ちゆく運命となる。
ならばやはり、儀式を完成する前に打ち抜くか。
違う世界の結末に想いを馳せ、駄目だと頭を振る。
アレはナギという脅威が消えていたからこそ、のんびりと儀式を行っていた。
今回は違う。
ナギは必ずや再び台頭し、多くの仲間とともに世界を救うだろう。
……やるしかないか。
側で何を言うでもなく座り続けるアリカ、そして共に捕まったヘラス帝国第三皇女、テオドラ姫を見る。
……ま、何とかなるだろう。
「リュランよ」
「何だ、アリカ」
「あやつらは」
「俺を除いて全員無事だったらしい。今はこちらに向かって来ている」
「そうか。ならば静かに待てばよいな」
それっきり会話も無くなり、再び静けさがこの場を包む。
少し離れた場所に居るテオドラ姫は、こちらをちらちら見ながら何やら悩んでいた。
……とりあえず、引き寄せた。
「な、何をするのじゃ!?」
「近くにいろ。離れていては護りにくい」
「う、うむ」
大人しくなったテオドラ姫を見て、対応はこんなで良かったかと少しだけ安心した。
再び静かになったから例の件について考えようか。
――そう、『完全なる世界』についてだ。
今から10年前だな、フェイトからの報告が途絶えたのは。
それまでは多少、文字の乱れに違和感はあったものの、届いていた。
……そう、届いていた(・・・・・)のだ。
組織を作り始めた当初は自身の手で持ってきていたにもかかわらず。
誰かに届けさせればいいと言ったにもかかわらず、「自分で持ってきます」と返事したあのフェイトが、だ。
あの時、早めに対応するべきだったのかもしれん。
だが、連続する魔獣の討伐、腐敗こそ止めたものの、隙あればとばかりに目を光らせる官僚の汚職の対応を優先して、手が回らなかった。
もし、これが俺に対する業なのだというのであれば……俺の手で。
不意に、悪しき感情が俺の体を包むような気がして握りしめた拳を解く。
……そうだ、まだ諦めるにはまだ早い。
もしかすればレイナが捕まって、フェイト達は脅されているだけかもしれない。
デュナミスも理解しているだろう。
ならば俺が成すのはただ1つ。
……早期の事実解明、そして、誰の手による指示なのかを突き止めること。
…我が理想を踏み躙る輩を許しはしない。
必ずや、我が手で滅ぼして見せよう……――
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「よぉ、来たぜ。姫さん」
「遅いぞ、我が騎士」
「悪いな、リュランも居たし、大丈夫かなってよ。ま、話は後だ。俺達の隠れ家に行くぜ」
『夜の迷宮』と呼ばれた丘の上の宮殿の横っ腹に堂々と穴を開けて救出を果たしたナギ達紅き翼はすぐさまその場所を離れ、北西に進む。
タルタス大陸極西部オリンポス山。
そこに、紅き翼の隠れ家はあった。
「何だ、これが噂の「紅き翼」の秘密基地か!どんな所かと思えば…掘立小屋ではないか!」
「俺ら逃亡者に何期待してんだこのジャリはよ」
「仕方ないだろう。まだ年端も行かぬ箱入り娘だ」
「何だ貴様、無礼であろう!それにリュラン!妾は既に17歳じゃ、子供ではないわ!」
「へっへ~ん。17なんてガキじゃねぇか、ガキ。しかも生憎だな、ヘラスの皇族にゃ貸しはあっても借りはないんでね!」
「何ぃ?貴様、何者だ!」
ギャアギャアとラカンに突っかかるテオドラ姫。
その姿はまるで年齢の同じ子供が喧嘩しているかのような光景だ。
……とりあえず、気は合うのだろう。
「あのやけに元気な少女が……」
「ヘラス帝国第三皇女のテオドラだ」
「アリカ姫と交渉の為、出向いたところを一緒に敵組織に捕縛されていたのですね」
一方、こちらも救出されたアリカ姫とナギ、そしてガトウはこれからについて話し始めた。
「さーて姫さん。助けてやったはいいけどこっからは大変だぜ?連合にも帝国にも…あんたの国にも味方はいねぇ」
「恐れながら事実です、王女殿下。殿下のオスティアも似たような状況で…最新の調査ではオスティアの上層部が最も「黒い」…という可能性さえ上がっています。無論、リュランが率いる王国騎士団は全員が「白」でしたが」
「…やはり、そうか……。我が騎士よ」
「だぁら、その「我が騎士」って何だよ姫さん!クラスで言ったら俺は魔法使いだぜ?あんたの騎士って言ったらリュランだろう!?」
「リュランは私如きでは釣り合いがとれぬ。あやつは国を代表する騎士であり……いや、これ以上の言葉は無用じゃな。……さて、話を戻そう。主はもう連合の兵ではないのじゃろ。ならば主は、最早私の物じゃ」
「な…」
「連合に帝国…そして我がオスティア。世界全てが我らの敵という最悪の状況…。じゃが――」
ここでアリカは振り返る。
そこには凛とした笑みがあった。
「主と主の『紅き翼』は無敵なのじゃろう?」
堂々と宣言するアリカに、ナギはキョトンとする。
だが、すぐに自信に満ちた笑みになる。
「世界全てが敵――良いではないか。こちらはたったの7人。だが、最強の7人じゃ」
剣を抜き、光り輝く天へと向ける。
それは、明確な敵対の意思の表れ。
天の意思を食い破らんとするアリカの強き想い。
「ならば我らが世界を救おう。我が騎士ナギよ。我が盾となり、我が剣となれ」
「…へっ。俺は魔法使いだっつーのに…相変わらず、おっかねぇ姫さんだぜ。――いいぜ、俺の杖と翼…あんたに預けよう」
こうして紅き翼はアリカ姫と共に世界と対立した。
世界の全てが敵であっても、自分達は最強であると信じて。
自分達なら世界を救えると信じて……。
∽to be continue∽