―――――【第2話 出会い】―――――
【side ???】
ふと目が覚める。
体を起こし、意識をはっきりさせる。
どうやら気絶前に行った創造は問題ないようだ。
創造を行う前の紅い荒野とは打って変わって見渡す限り緑生い茂る広大な草原。
木が見当たらないのは仕方がないが、それでも最初にしては上出来だろう。
――そう、初めて創造を行ったにしては。
「あいつは俺が考えていた以上に格上だったようだな。まさか、万物の創造を行えるだなんて、な」
稲妻を反す際に奪って見せたあいつの力。
気がついてはいなかったようだが、俺からしてみれば規格外といっても過言ではないほど己の物に出来た。
色々と得たものはあるが、一番の力はこの『創造』だろう。
使う者によって善にも悪にも成り得るだけあって、心を強く保っていなければならない。
悪用を防ぎ、奪うのではなく護るために使わなくてはな。
「他の力も試してみたいものだが…まずはこの世界を作り上げねば」
手を前方に持ち上げ、掌に力を込める。
緑の草原の所々に勢い勇ましき木々達を、その後方遥か彼方には雄大な山々を。
それぞれの光景を脳裏に浮かべる。
浮かび上がった光景が実を成す瞬間を完成させ、掌の力を思いっきり放つ。
再び光が世界を覆い尽くし、大地はその姿を変える。
次に見えた光景は頭に思い描いた景色そのものであった。
「ふぅ。こんなものか…」
作業を終え、体を宙へと飛ばす。
かなりの距離を見渡せるだけの高度にまで飛び上がり、自分が行った出来を観察してみる。
草原在り、森林在り、湖岸在り、山脈在り、渓谷在り。
複雑に絡み合う場所もあれば、ただそれだけが聳え立ち、その存在感を余すことなく見せつけている場所もある。
ここから見ることは叶わないが、さらに動けば広大な大海原も見えるはずだ。
これで自然の形は整った。
残るはあと1つ。
――生物だけだ。
「だが、全てを俺がやるのも辛い。自身の力を確かめる時間も必要だ。はてさて、どうするべきか…」
悩んだ末に決断した方法は俺の代わりとなる存在を生み出すこと。
歴史を紐解けば、神は自身の分身ともとれる存在――アダムとイヴ――を世界に送り出したとされる。
彼らがどのように人口を増やしたのかは察してほしいが、つまりそういうことだろう。
違うのは俺が生み出すのは一人だけであり、その者に生み出す力を受け継がせることで生物を増やすつもりだ。
もちろん、制限はかけるが多くは自由にさせるつもりだ。
さて、そうと決まればどんな姿でどんな性格にするか……
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私が私であると自覚してから早10年。
長い年月を経て、私に与えられたのは美しく広がる自然に対し、動く姿の皆無であったこの世界にただ一人生きることを定められた孤独。
――寂しい。
何故私を生み出した存在は私に感情を持たせたのだろうか。
感情さえなければ、こんな気持ちに成らずに済んだというのに。
だが、この気持ちがなければ私にこの考えは生まれてこなかっただろう。
すなわち、いないのであれば私が生み出せばよいのだということに。
幸いにも、私にはその考えを現実にするだけの力があった。
空想を現実にする力――『創造』を。
しかし、いざ生み出そうとした私はふと考えた。
この感情に従ってそのまま生み出してもよいのだろうか、と。
初めの内は問題ないかもしれない。
ただ生み出していくだけだから。
しかし、生物は生きるためには物を食べなければならない。
現に、私自身も3度の食事を創造にて生み出して取っている。
だが、他の生物たちにとってはどうだろう。
初めは私自身が分け与えていればよいかもしれない。
それでも限度というものがある。
増えれば増えた分だか多く必要となる。
いつかは私でも手に負えなくなるだろう。
つまり――
「一番最初に生み出すべきなのは食物連鎖の底辺に位置する存在…いわゆるプランクトンね」
言葉に出してから気がついた。
何故、プランクトンなどという言葉が出てきたのだろうか、と。
私がプランクトンを生み出してからさらに20年の歳月が経過した。
何故か思い浮かぶ生物の名に疑問を抱きながらも、次々に生態系を整えてゆく。
時に生み出す順番を間違え、泣く泣く滅ぼすこともあった。
だが、その過程が私に考えることの重要性を再認識させ、生き物の儚さと尊さを学ばさせた。
それまでの経験を生かし、ようやく私は自分自身と同じように言葉を操り、考え、理解する生物、人間の創造に着手した。
今までと同じことをするだけなのだが、手が震える。
意を決し、初めてとなる存在を――
「――……どう、だ?」
光が収まり、目の前に現れたのは薄水色の髪に白い肌。
目を閉じ、身動き1つしない、まるで人形のような少女であった。
「……失敗、かな。自身あったんだけど、な」
待てども待てども動かぬ少女に考え付くのは失敗の2文字。
今まで生み出す順番を間違えたことはあっても生み出すこと自体を失敗したことはなかった。
だからこそ余計に悔しく、悲しかった。
それゆえに見逃した。
その少女がこちらを見つめていることを。
「……」
「えっと、あー、うー、そのー」
「……」
「えー、あー……その、あなたの名前は?」
「……(フルフル)」
「あー、そうよね。私が生んだんだから私が考えなきゃあるわけないよね。えーっと…よし、決めた!あなたの名前は『フェイト』よ!」
「…フェイ、ト?……フェイト」
「そうよ。フェイト・アーウェルンクス。これがあなたの名前」
「…あなたの、名前は?」
「……私の、名前…?」
目の前の少女――命名、フェイト――に言われて初めて気がつく。
私は名づけられているのだろうか?
もし、名づけられているのであれば、どういう名前なのだろうか。
もしや、名がないのだろうか。
まさか――
「『レイナ』。それがお前の名だ」
はっと後ろを振り返る。
そこには白と間違えそうなほど綺麗な銀色の髪を揺らし、蒼色の目でこちらを見つめる青年の姿があった。
――少なくとも、私が生み出した存在ではないことは確か。
であれば、この人は一体――
「聞こえなかったか。もう1度だけ言おう。お前の名はレイナだ」
「…私の名がレイナだということはまずは置きましょう。その前に1つだけ聞きます。あなたは何者ですか?」
「……この世界を生み出し、お前を生み出した。ただ、それだけだ」
「…そう、ですか」
言われてすごく納得した自分がいる。
何故かと聞かれてもわからない。
ただ、自分の魂がそうであると肯定しているからに過ぎないのだから。
「…フェイト、な」
「その名が何か」
「いや。最初に生み出された者の名が“運命”を与えられるとはな」
「別にいいではないですか。…では逆に聞きますが、私の“レイナ”という名はどうやって決めたのですか?」
「…さて、これから忙しくなるぞ」
「あ!!逃げましたね!待ちなさい!!」
背を見せてフラリと逃げた青年の背を追って空を飛ぶ。
去り際に聞こえた言葉を嬉しく思いつつも、さらに多くの事を聞くために彼を追う。
彼と私、そして少女の出会いは波乱の幕開けとなったのであった。
「…レイナ、顔真っ赤」
∽to be continue∽