∽移り行く風のように∽   作:アクア=イスタロス

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第33話

―――――【第33話 一会】―――――

 

「では、リュラン先生。これが貴方が受け持つクラスの名簿です」

 

「ども」

 

今、俺は麻帆良学園中等部の廊下を歩いている。

隣にいるのは俺の指導教員となったしずな先生。

結局、俺が受け持つクラスは2-A…つまり野菜クラスだ。

いや、野菜クラスは可哀想だから…魑魅魍魎クラスでいいか。

学園長室を出て、俺のクラスへ行く途中、ある程度の知識は教わった。

担当科目である体育は今日は無いため、挨拶をしたらそのまま帰ってもいいが…あの妖怪のことだ、何らかの圧力をかけて、今日の1時間目を俺の質問時間に変えるだろう。

ま、ここには知り合いがいない筈だから俺の正体がバレる危険性は少ない。

もし知っている者がいたとしても…近寄って来なければ問題ない。

 

「ここが貴方が受け持つクラスです」

 

「…ふむ」

 

窓から少しだけ盗み見る。

中には原作通りの――否、想像以上の騒がしさを持つ元気な中学生がいた。

だが、あれで中学生はありえんだろ。

そもそも、教室内で肉まんを売るとか…衛生管理を疑う。

 

「早く全員の顔と名前を覚えないといけませんね?」

 

「いや、大丈夫です。おそらく覚えました」

 

「あら、スゴイですわね」

 

絶対記憶あるし。

ま、この程度の量の名前であれば簡単に覚えられる。

昔はこれより100倍以上の騎士団員の名前を覚えたものだ。

……一晩で。

さて、過去はともかくクラスに入るとするか。

 

コンコンッ

 

ガラッ

 

ヒュゥ

 

パァッン

 

ブチッ

 

トスッ

 

トントントンッ

 

『……』

 

扉を開け、まず初めに落ちてきた黒板消しを吹き飛ばし、元の位置へ戻す。

次に、足元に仕掛けられたロープを足で切断し、それによって落ちてきた水入りバケツを右手の人差指で支える。

また、同時に発射された矢をバケツに当てて防ぐ。

以上、仕掛けられた罠とその対処の方法でした。

 

「…ふむ。この罠を仕掛けた生徒。中々良かったがまだ甘い。とりあえず、後で職員室に来るように」

 

「「「えぇ~」」」

 

「逃げたら各教官に頼んで宿題を倍増させるからそのつもりで」

 

「「「はい!」」」

 

素直な返事で感心だ。

できればそれをお願いする前にしてほしかった。

 

「それでは、今年から高畑先生に変わって、このクラスを受け持つ先生を紹介します。リュラン先生、自己紹介をお願いしますね」

 

「あぁ。…初めまして。俺の名はリュラン・アルタメシア。担当は体育。去年まで担任だった高畑先生に変わってこのクラスを受け持つこととなった。1年間、よろしく頼む」

 

『か・・・』

 

耳を塞ぐ。

この後起きるであろう声に備えて。

直感?

そんなものは必要ない。

 

『かっこいー!!!』

 

「何歳なんですか!?」

 

「20」

 

「髪はキレーな銀色ですけど、出身は!?」

 

「日本」

 

「ホントにこの人が今日から担任ですか!?」

 

「えぇ。経験豊富な先生だから、色々相談してもいいわよ」

 

「どこの大学出身ですか!?」

 

「ケンブリッジ(という設定)」

 

「すごーい!!」

 

キャイキャイわぁわぁ

 

恐るべし女子中学生。

よもや、こんなにも一瞬で盛り上がれるとは。

答えていた俺も俺なんだが。

 

パンパンッ

 

「ほら、静かにしろ。いくらHRとはいえ、煩くしては周りに迷惑だからな」

 

『はーい』

 

なん…だと。

このクラスが1回で言うことを聞くとは…明日は雪でも降るのか?

 

「先生ー。空なんか見上げてどうかしたんですかー?」

 

「いや、先生の話を聞かないクラスだと噂に聞いてね。明日は雪でも降るんじゃないかと」

 

「先生ひどーい!」

 

再びクラスが笑いに包まれる。

そんな中、ふと見知った顔を目撃する。

……あちらは俺の事を知らないだろうが、よくぞ元気に育ったものだ。

 

「では、不肖ながら、このパパラッチ朝倉が先生への質問をまとめましたので、私から質問させてもらってもよろしいでしょうか?」

 

「しずな先生。1時間目の方は…?」

 

「えぇ。学園長からの申しつけで先生への質問時間になっています」

 

やはりか。

…まぁ、生徒が新任の先生の事を知りたい気持ちは分かる。

ま、決められている以上、従うしかない。

 

「そうですか、わかりました。じゃあ、朝倉と言ったか。余程の質問ではない限り受け付けよう」

 

「はいは~い。まずは定番の名前、身長、歳、出身地、受け持つ科目をお願いします」

 

「リュラン・アルタメシア。180センチ。20歳。こんな髪だが日本人だ。染めているわけじゃない。担当は体育だ。が、他の科目も出来るから他教科での質問も構わない」

 

「ほ~…では、次の質問を。趣味と特技は?」

 

「ふむ…そうだな。趣味は読書。特技は武術だ。そこら辺のヤンキーくらいは殲滅できるぞ。何か言えば対処しよう」

 

キュピーン

 

…何だろうか、今このクラスで誰かの目が光った気がした。

主に中華系の者から。

 

「ふむふむ…じゃあ、最後にこのクラスで気になる人は?」

 

「…このクラスは容姿が優れた者が多いからな。外見だけで言えば全員…という答えでは駄目なのだろう。とりあえず、名簿や今会った印象で大河内、絡繰、桜咲、龍宮……ということにしておこう」

 

『おおおおぉぉぉぉっ!!!』

 

あー、煩い、耳に響く。

現状、大河内は恥ずかしいのか俯いて、桜咲は俺の事を覚えているのか知らんが呆然、龍宮は…ああ、あの顔は完全に覚えているな。

茶々丸は…エヴァンジェリンに揺すられているな。

 

キーンコーンカーンコーン

 

「終わりだな。では、これで質問は終わりだ。個人的に聞きたければ、また話しかけてくれ。ある程度は答えよう」

 

委員長の号令を経て授業を終える。

クラスから出て、ようやく一息つく。

やれやれ、戦場の方が楽だと感じるのは気のせいではないよな?

 

「ふふっ、お疲れ様です。元気なクラスでしょう?」

 

「そうですね。ま、元気なことはいいことです。それに……教えがいがある」

 

「あらあら、よくわかっていらっしゃる」

 

「ふふ。では、今日はこれにて失礼します」

 

「あら、もう帰ってしまうんですか?」

 

「荷物の整理とこの学園の中を見て回りたいので…すみません」

 

「そうですか。此処、かなり広いですから迷子にならないよう気をつけてくださいね」

 

「ご忠告痛み入ります」

 

そう挨拶して俺はしずなさんと別れる。

荷物の整理はしなくても問題ないが、地理は流石に覚えないとな。

記憶している限り、ここの敷地は東京ドーム数個分…ホントに迷子になりそうだ。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

一方、クラスでは、新任の先生に対する意見や、名前の挙がった生徒を弄る普段通りのクラスの雰囲気が出ていた。

 

「やったじゃん、アキラ!会って早々、新任の先生に気に入られてさ~」

 

「い、いや…まだ、外見だけだし。…ほら、座ってたから、背が高いこと、気付かなかったと思うよ?」

 

「背が高いくらいじゃ印象変わらないって!というか、あの先生も背が高かったから変わんないじゃん!」

 

「そういえば、気に入った子のほとんどが背の高い子だったよね?案外脈有りかも…」

 

「うぅぅ////」

 

大河内アキラは親友である明石裕奈、佐々木まき絵、和泉亜子にからかわれていた。

案外、満更でもなさそうだが、どうなのだろうか?

 

 

 

 

「せっちゃん、どうかしたの?」

 

「あぁ、このちゃん。ん~どっかで見た気ぃするんよね」

 

「あっ、せっちゃんもなんや。うちも何か見たことある気がするんよね~」

 

「このちゃんも?」

 

「うん!」

 

「…ん~あの先生…気になる…」

 

「…へぇ~せっちゃんにも恋到来か~」

 

「な、こ、このちゃん!」

 

こちらでも桜咲刹那が親友である近衛木乃香にからかわれていた。

いや、彼女の場合、結構本気なのかもしれない。

そして木乃香の言葉にため息をついた刹那は窓の外へと視線を向ける。

2人の感じたどこかで見たことのある顔か雰囲気か…。

それは一体、いつだったのかと過去を思い返しながら。

 

 

 

 

「(…あれはたしかにリュランさんだった。しかし、昔と全く変わっていないみたいだな…)…ん?どうかしたか、古」

 

「あいや、あの先生、中々強そうアルね。だから、真名の意見も聞きに来たアルよ」

 

「楓も同じかい?」

 

「あいあい♪」

 

「そうだな。あの人が私の知っている人と同じであれば…恐ろしく強いね」

 

「あやー、真名にそこまで言わせるアルか。…早く、手合わせしたいしたいアルよ!」

 

「同感でござるな」

 

「(多分、三人がかりでも瞬殺だろうな…)」

 

おそらく間違いない自身の予想に冷や汗をかく龍宮真名。

リュランが視線を感じた中国からの留学生、古菲。

そして、古菲と同じくリュランの強さについて真名に意見を求めに来た長瀬楓。

ここに桜咲刹那を加えると、麻帆良4将の完成である。

 

 

 

 

「カッコよかったよね~リュラン先生!」

 

「あの身長に銀髪!それにあの口調!そしてあの目つき!正面から『愛してる』なんて言われたら落ちちゃいそ~♪」

 

「アキラに茶々丸さんに刹那さんに龍宮さん…外見だけって言ってたから、可愛い系ってより凛々しい系かなぁ?」

 

「それだったら和美とか委員長とかも当てはまるよね?」

 

「円だってそうだと思うよ?」

 

「ど、どっちにしても、私達は可愛い系よね~?」

 

「あぅぅ、お姉ちゃん…多分、見てもらってすらいないと思うよ…?もしくは年齢すら疑われてるかも……」

 

いつもと変わらず、男性の批評を始めた柿崎美砂、釘宮円、椎名桜子の3人。

女子が3人集まれば何とやらとはよく言ったものである。

ちなみに、その3人とともに話すのは姉である鳴滝風香と妹である鳴滝史伽の鳴滝姉妹。

そもそも可愛い凛々しい云々の前に、自分達の年齢を疑われてないか心配な史伽。

仕方ないだろう。

ランドセルを背負えば十分通じるであろう外見なのだから。

 

 

 

「ふむ。ハカセはどうおもたネ?」

 

「そうですね。初見ではそこまで悪い印象はありませんでしたけど…」

 

「そうカ…しかし、あの身のこなし…ただ者じゃないネ。少し調べてみるカ」

 

天才たちは静かに語る。

超鈴音と葉加瀬聡美の2人だ。

数多の大学研究会に参加していることを知れば分かるだろう。

彼女達を敵に回して生き延びた者はいない……かも。

 

 

 

 

いつまでも騒がしい様で。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

…広すぎる。

世界樹を中心に見て回ってるが、全然終わらない。

これは、相当時間がかかるな……。

 

「さて…どうしたものか…」

 

千里を見通せても、街の細部までは見られない。

そう言った場所を覚えるためにも自分の足で歩くしかないのだ。

 

「あ、リュランせんせー!」

 

「ん?あぁ、佐々木か。こんなとこでどうした?」

 

「今から教室で先生の歓迎会をやるんです!だから、一緒にいきましょう!」

 

「(そういや、そんなこともあったな…)そうか。では、行くとしよう」

 

 

 

 

と、いうわけで再び戻ってきた2-A。

中に入れば内装は中学生なりに派手になり――

 

『ようこそ!リュラン先生ーッ!!』

 

「これはまた。新任の担任の歓迎会とはいえ、よくここまで揃えたものだ」

 

「そりゃ、これぐらいお茶の子さいさいですよ!」

 

「まぁ、ぶっちゃけ、これに興じて騒ぎたいだけなんですけど」

 

「それは言わない約束!」

 

「おっ!いいぞ、もっとやれやれ~」

 

…騒がしい。

とりあえず、喧騒を避け隅っこに…おぉ、タカミチが居た。

 

「お疲れ様です、リュラン先生」

 

「いえいえ、まだまだ初日です。今日は授業がなかったので楽なものでしたよ」

 

「…やっぱり、リュランさんに敬語で話しかけられると変な気分ですね」

 

「そこらへんは仕方あるまい。慣れろ」

 

というかタカミチ。

ふと思ったがお前は老け過ぎじゃないか?

一体何をしたら20年でこんなになった。

 

「リュラン!貴様、今までどこをほっつき歩いていた!!」

 

「久しいな、エヴァンジェリン。元気そうで何よりだ。しかし、言葉遣いがかなり……」

 

「うぐっ、いや、それはどうでもいい!約束はどうした約束は!」

 

「…約束?」

 

「3年経ったらナギかお前が解いてくれる約束だろう!!!」

 

「…何の話だ?俺は初耳だ」

 

「なん…だと…」

 

エヴァンジェリンの纏う空気がどんよりとしたものに変わる。

おいおい…約束とはつまり、ナギの掛けた登校の呪いを解くことで、ナギの奴は自分以外に俺も指名したのか。

……おい、新婚。

 

「というか、大戦が終わって数年後に全員で京巡りした後から会ってないな」

 

「…そうか」

 

「…ま、あのバカの約束だ。守ってやろう。今後お前の家へ尋ねよう。その時にでも構わないか」

 

「わかった。…しかし、お前が先生とは…昔、教わった身とはいえ、変な気分だな」

 

「タカミチにも言ったが慣れろ」

 

「ふん、わかっている」

 

「リュラン先生ー!そんなとこで話してないで私達のお酌、貰ってくださいよー!」

 

「…未成年に酒を出した奴は誰だ…はぁ…」

 

さすがにマズイ様な気もするが…まぁ、タカミチもいるし、全部あの妖怪のせいにしよう。

というか、後ろで笑ってないで助けろや、タカミチとエヴァンジェリン。

茶々丸はオロオロしてる…たしか、2歳の設定だったか。

……何だろうか、こう…小動物の感じがしてとてつもなく撫でたい。

 

「先生。まずは一杯」

 

「いや、いつからこんな宴会になった」

 

「多分最初からだと思うよ?」

 

「はぁ…」

 

結局、夕方の最終下校時刻までこの歓迎会(という名の宴会)は続いた。

…何人か酔って寝ていたが大丈夫なのだろうか?

新田先生に見つからないことを願おう。

 

そういや、他の魔法使いへの挨拶はいつやるのだろうか。

野菜は学園祭前だったが、あの妖怪がそこまで何もしないとは思えんな。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

次の日だ。

朝っぱらから電話で学園長室に来いと言われた。

ちょうどいい、半殺しにしよう。

 

「というわけで死ね、妖怪」

 

「来て早々の言葉がそれブベラッ」

 

「ハハハ…」

 

「で、何の用だタカミチ。…おそらく、この学園内の魔法使い達との挨拶の日取りといったところか」

 

「それも含めてだね。昨日伝え忘れてたらしいけど、この学園の広域指導員と警備員もやって欲しいらしいんだ。そして、今夜の10時にその説明も兼ねて世界樹広場に来てほしい」

 

「…相手は…タカミチではつまらんな」

 

「…たしかにリュランさんが相手では僕は相手にならないかもしれない。でも、僕も頑張って修行を重ねたんだ。その成果を…他でもない、貴方に見て欲しい」

 

「…言うようになったな、タカミチ。あの時とは違い、良い目になった。…良いだろう、全力で来い。俺も全身全霊を持って相手しよう」

 

「あ、あはは。よろしくお願いします。…ところで学園長はどこまで吹き飛ばされたのかな?」

 

「さてな。大方、北極にでもいるだろう」

 

「ハハハ…そんなバカな…いや、でも貴方なら否定できない…」

 

「じゃ、俺は行くぞ。今日からは授業があるからな」

 

「はい。では、今夜。10時に」

 

「あぁ。…その闘志、今夜まで取っておけ」

 

別れ際のタカミチの顔。

あの時とは比べるまでもなく、戦士の顔であった。

そして、格上との戦いに高揚した男の顔だ。

…くくっ、らしくない挑発も貰ったんだ。

20年という歳月の成果、特と見せてもらうとしよう。

 

…そして今夜。

幼き少年は逞しき戦士と成り。

 

 

 

 

今、紅き翼、最強の騎士へと挑む。

 

 

 

 

∽to be continue∽

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