∽移り行く風のように∽   作:アクア=イスタロス

40 / 61
第39話

―――――【第39話 ウルティマホラ】―――――

 

あーだこーだしていた夏休みも終わり、いよいよ体育祭の時期である。

麻帆良の体育祭といえば、文化祭と双璧を成す2大イベントの1つであり、生徒たちの意欲やら本気度が普通の学校をはるかに上回っているため、凄まじい活気に溢れ返っている。

そのため、体育祭の期間中はあちらこちらで競技が開催されるため、見ていても賑やかである。

まぁ、俺は教師として、また広域指導員として、危険な競技の監視や運営側に報告の無いイベントなどを取り締まっている。

そんな俺だったが……――

 

「おぉ、リュラン先生!こんなとこで奇遇アルネ!」

 

「…いや、奇遇でも何でもないと思うが…」

 

現在、俺は毎年負傷者が多発する本格サバゲー大会の監視へと向かっていたのだが、その途中にある通り道で古菲に出会った。

…たしか、彼女は中国武術を会得しており、その縁か中国武術研究会の部長も務めている。

また、去年のウルティマホラ優勝者でもある。

…本当に去年留学してきた生徒だよな?

 

「いやはや、先生も何かしらの武術を会得しているアルか?最初に会ったときからそんな感じはしてたネ!」

 

「…まぁ、護身程度には」

 

この流れは嫌な予感しかしない。

逃げたいのだが、古菲から溢れるオーラが…。

 

「ならば勝負アルネ!ちょうどいいとこに明日は格闘大会『ウルティマホラ』が開催されるアルヨ!さぁ、エントリーするアル!」

 

「いや、俺には巡回という仕事があるのだが…」

 

「細かい事は気にしないアルよ。さぁ行くアル!」

 

「おい、ちょっと待て!袖を掴むな、引っ張るな!!」

 

何かの陰謀か、掴まれた袖を振り払う事が出来なかった。

結局、当日エントリー枠で申し込まされたのであった。

……タカミチ、後は頼んだ。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

「さぁ、今年も始まりました麻帆良ナンバー1を決める格闘大会ウルティマホラ!今年も盛り上がっていきましょう!!司会は私、宝蒼花子と!」

 

「竹蔵信二でお送りします。まず始めはロイヤルバトルです。時間は無制限。最後まで生き残った各ブロック2名の選手…合計8名が決勝トーナメントへと進めます」

 

「1ブロックおおよそ50人程度で構成されていますから…かなり狭き門となるわけですね!」

 

「また、各ブロックには去年の決勝トーナメント出場者も名乗りを上げています。先に倒すか最初から片枠だけを狙っていくか…。誰を残して勝ち上がるかも注目です」

 

なるほど…。

乱戦を制するのも構わないが、この後すぐ行われる決勝トーナメントを考えて体力配分をしなければならず、下手に動くと周りから潰される…。

…特に、去年出場している者は実力も割れているだろうし、大半はそちらを狙うだろうが…幸か不幸か、このブロックには決勝トーナメント経験者が存在しない。

結果、広域指導員である俺が狙われているわけだ。

周りの目が光っているのは気のせいだと思いたい。

 

…仕方ない、一瞬で終わらせるとしよう。

 

そこ、大人げないとか言うな。

やるときは完璧に終わらせるのが信条だ。

 

「それでは…試合開始!!」

 

タカミチは無事だろうか。

あいつ、魔力使えないから常時障壁張れないからな…。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

「な、なんと!Dブロック、開始早々、闘技場内で大爆発だ!!放送席からは煙の影響で何も見えません!これはスゴイ!立っている選手は何人いるのでしょうかー!?」

 

開始の合図と同時に起きた中規模な爆発。

それにより、Dブロックの参加者全員の姿が隠れてしまう。

時間と共に徐々に煙が晴れる…。

そこには――

 

「…見えました!立っているのは今年赴任してきたばかりの新人教師、リュラン先生だー!見たところ怪我もないようなので運が味方したか!?」

 

突然の出来事で呆然とする観客と、見たところ傷を負っているわけでもなく、まさに闘技場から吹き飛んだだけの選手達。

だが、彼らが口をそろえて言うのは不満ではなく、恐怖だった。

 

「始まった瞬間、俺が感じたのはこの場から逃げたしたくなるような恐怖だった」と。

 

結局、残った選手もいない為、Dブロックに関してはリュラン1人が勝者という結果となった。

突然の爆発で呆気にとられるDブロックの周りだったが、他のブロックから発せされる闘志に目が覚める。

すぐさま思い思いの選手の近くへと応援しに行く。

圧倒的声援の多さでは古が一番だろうか。

 

そうして待つこと20分…。

最後まで激戦であったAブロックの勝者が決定したことで全てのブロックの闘いが終わった。

Cブロックでは、去年の優勝者である古が順当に勝ち上がり、他のブロックでも大半は去年と同じ顔ぶれの強者が残った。

しかし、驚くべきところは勝ち残った生徒全員が何らかの形で気を使えているということだろう。

元々、麻帆良という場所が特別なのかもしれないが、普通なら仰天物である。

実際は認識阻害によってあまり自覚しないまま使っているというのが現実であるが。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

「さて!出場者が出そろったところで組み合わせの方へと参りたいと思います!それでは…どうぞ!」

 

前に設置された電光掲示板が光りだし、8枠ある出場者の名前の部分がランダムで動きだす。

そして、動きが止まる。

 

1回戦

 

豪徳寺 薫  VS 中村 達也

大豪院 ポチ VS 古 菲

山下 慶一  VS 雷堂 不破貴

不戦敗    VS リュラン・アルタメシア

 

 

1番上に名前が表示された2人が闘技場へと上る。

先程までの互いに頑張ろうといった和やかな雰囲気とは打って変わり、お互いがお互いを自らの障害だと…倒すべき試練であると自らの思考を切り替える。

その空気に影響されたか…周りで見守る観客も静かに…ただ闘いが始まるのを待つ。

 

「それでは、第1試合!豪徳寺薫選手VS中村達也選手…始め!!」

 

闘いの火蓋は落ちた。

果たしてどちらが勝つのか…。

勝負の行方はいかに…。

 

「(サバゲーが始まってから15分か…。タカミチ、大丈夫だろうか?)」

 

未だにタカミチの心配が抜けないリュランであった。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

――で、だ。

第1試合から表の世界である程度通用するのレベルの猛者が衝突し、俺はそもそも不戦勝なので暇人。

そんな俺は戦いを見ずに、サバゲー大会付近のカメラを使って、心配の種であるタカミチの姿を探していた。

2回戦が始まる頃にようやく見つけ出し、不敵に微笑みながら流れ弾を処理する姿を見て問題ないと判断した。

しかし、その直後頭に流れ弾が直撃したのを見て、何とも言えぬ空気になった。

 

…それはともかく、闘いは遂に決勝戦を迎える。

 

「誰だ、こんなモノローグ書いたの」

 

「先生?誰に向かって話してるネ?」

 

「ん、何でもない。…それにしても、教え子に拳を振らねばならないとは…嘆かわしいよ」

 

「アハハハ…。しかし、私は先生と戦えることが嬉しいアルヨ。我只要和強者闘(私が望むのはただ強者との闘いのみ)。…手加減は無用アル」

 

「…期待に添えるか知らんが…。ま、精々瞬殺されないようにするさ」

 

私が望むのは強者との闘いのみ――か。

中学生として見るのならばどれだけ達観した精神だろう。

もちろん、実力が伴っているからこその言葉なのだが…まだまだ危うい。

正直な話、俺から見れば古はまだ荒削りな原石だ。

気を使わず、己の力のみでここまで大成できたことを考えれば…将来が楽しみだ。

麻帆良の先生陣の誰かが面倒を見てやれば…彼女はさらに上の世界へと踏み入れることだろう。

教え方次第では、魔法世界でも通用するかもしれない。

…まぁ、教え子に魔法と関わらせるのは心苦しい。

出来れば、裏を知らずに表の世界でその名を轟かせて欲しい。

 

――だが、どれだけ才能に満ち溢れていようと、踏み外すのは一瞬だ。

 

何かの弾みで全てを失うかもしれない。

才能に溺れ、研鑽を怠るかもしれない。

将来のある者が途中で挫折する姿をこれまで何度も見てきた。

その者達に必要なのは何か。

 

――今の自分が越えられぬ、高き壁だ。

 

そもそも土台が違う俺では壁として見えないかもしれない。

それでも、今は君の前に立ちはだかろう。

君が今後、さらに成長するために。

 

――原石のまま終わらぬよう、超えるべき壁として、君の前に居続けよう。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

「行くアルね、先生」

 

「ま、お手柔らかに」

 

古菲はいつものチャイナ闘技服。

対するリュランはこの場には相応しくないスーツ。

それでも、決勝と言うこともあり、歓声が盛大に飛び交う。

…ほとんどが古の応援だが。

しかし、今の2人には届かない。

お互いの闘志が闘技場内を包み込み…そこは古のコロッセウムを形成していた。

どちらかが勝つまで、この戦いは終わらない。

 

「両者、向き合ったところで…決勝戦!古菲VSリュラン・アルタメシア――始め!!」

 

先に仕掛けたのは古。

その小柄な体と鍛え上げた身体能力を活かしてリュランの懐へと潜ろうとする。

しかし、リュランはその動きを読んでいたのか。

潜り込もうとする彼女の頭部に掌底を叩きこむ。

その攻撃を紙一重で避け、体格で勝るリュランに対し、注意が疎かになりやすい足へと反撃しようとするが、続く連撃の前に攻める隙を見つけられず、後退を余儀なくされる。

距離を取り、再び隙を窺うも…本当に新米教師なのか、隙らしい隙が見当たらない。

 

古は思う――先生は昔、どこぞで名を馳せた格闘家ではないのか、と――。

 

だが、隙がないから動かないのは性に合わない。

隙がないのであれば、作ればいい。

再び距離を詰め、今度は攻撃ではなく隙を作るために足を駆使して闘技場内を駆ける。

 

その動きに何か思うところがあったのか、リュランは少しだけ笑うと少しずつ間合いを詰める彼女を近寄らせない。

距離を詰め、反撃の隙を窺う古と反撃を許さず、相手の間合いの外で戦い続けるリュラン。

この2人の戦いは観客を大いに湧かせ、噂が噂を呼んで開始から10分で闘技場周りは見物客で歩く隙間も見当たらなかった。

 

その後も、常人であればヒットする猛攻を避け、虎視眈眈と反撃を狙う古もスゴイが、リュランはさらに上をいく。

避けられた後も必ず肘や膝、掌底に蹴り、虚を突きデコピンといった傍から見れば強いのか分からない攻撃を居り込みながら様々な連続攻撃で古を追い詰める。

これだけの猛攻を紙一重で避けなければならない古は次第に、動きが鈍る。

 

「くっ、さすがアルね」

 

「いや、これだけ戦えれば十分凄いと思うんだが。本当に中学生か疑うよ?」

 

実際に、リュランとしては想定外の戦闘時間となっている。

最初のカウンターはかわされるとしても、その後の死角への攻撃は致命傷こそ逃れても、どこかしらには当たると考えて放っていた。

しかし、その思惑を超えて彼女は避けて見せ、現状、彼が放った全ての攻撃を紙一重で見切っている。

…既に表の世界においては超人のレベルに達しているのかもしれない。

もしくはこの場の雰囲気がそうさせたか…。

いやはや、将来が怖い。

 

「これならどうアルか!」

 

少しの間、思考の海に沈んでいたリュランに対し、これをチャンスと見たか、古が渾身のカク打頂肘(カクダチョウチュウ)で攻勢に出ようとする。

完全に虚を突いた。

そう思った古は一瞬…誰にもわからないぐらいほんの一瞬だが、気を抜いた。

そして――

 

「…あれ?」

 

いつの間にか彼女は空を見上げて宙を舞い…地面へと落ちた。

 

「…な、なんと!?完全に決まったと思われた古菲選手の渾身の一撃はいつの間にか逆転!リュラン選手に叩きつけられた!!これは決まったか!?」

 

――いつの間に。

そう、ホントにいつの間に自分の攻撃を避けられ、宙へ投げられたのか。

全く分からなかった。

 

「…ふふ。最後の動きは素晴らしかった。だが、その後の油断は命取りだ。達人同士の戦いともなれば、互いに騙し合い化かし合いの世界だからね。…そんな君にこの言葉を贈ろう『隙とは出来る物じゃない、見せる物だ』と」

 

「…ふふ、護身程度なんて嘘アルネ。先生は立派な戦士アル」

 

「9…10!!決まりました!!今年度、ウルティマホラ優勝者は…リュラン・アルタメシア選手だー!!」

 

『わぁぁぁぁぁ!』

 

歓声が湧いた。

これほどの格闘戦を見れるとは誰もが予想していなかっただろう。

そして優勝したのは新人教師。

話題性十分である。

 

「大丈夫か?」

 

倒れたままの古に手を差し出す。

古は素直にそれを手に取り起きあがる。

その顔に悔しさは見えず、清々しさが表れていた。

 

「うむ。…しかし、最後まで手加減されたままだったアルな」

 

「…なんだ、気が付いていたのか?」

 

「真名や楓と意見交換した時に真名の言葉を聞いたネ。『恐ろしく強い』と。あの真名にそこまで言わせたアルからあの程度ではないと思たアルヨ」

 

「…ふむ、そうだったか。悪いな、本気じゃなくて」

 

「仕方ないアル。私の力がそれに届いてなかただけの話アルネ。次は出させてみせるアル!」

 

「期待しておこう。ではな」

 

言い残すとその場から消え去るリュラン。

その姿に首を傾げていたが、後ろから聞こえてくる地鳴りに気づいた瞬間、古は何故リュランが消えたのかを悟った。

突撃してくるのは麻帆良に数ある新聞部の記者達。

おそらくは優勝者インタビューをしたかったのだろう。

しかし、ここまで揺れるとは…。

 

「アハハ…私も逃げるアル」

 

リュランが逃げたことにより、その矛先が自らに向かないうちに逃げようとする古。

しかし、嗅覚でもあるのか、目ざとくその瞬間を見た記者たちは陸上部もびっくりの俊足で古を追って行った。

 

 

 

その後、色々と聞かれて少しお疲れ気味な古がいたとかいないとか……。

 

 

 

 

∽to be continue∽

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。