―――――【第41話 秒読み】―――――
体育祭も終わり、2学期の期末テストも終了した。
2-Aの成績は24クラス中、13位というまずまずの位置にいる。
…バカレンジャーと呼ばれる5人組と特定の数名の点数が上がったため、昨年までのような最下位ではない。
勉強よりも自分の特技や趣味に熱中する者が多数いるからこその順位であったのだが、とある発破をかけたため、その特定生徒たちはよく頑張ってくれた。
…まぁ、それだけではないが、全てはクラス全員の団結した結果だと褒めよう。
さて、時は3学期に入ったばかりの頃。
裏の学園会議では、とある噂の話で持ちきりであった。
タカミチに聞けば、2ヶ月後、あの馬鹿の息子――つまり、例の野菜坊主が卒業後の修行として此処、麻帆良学園の教師として来るらしい。
…これを聞いた瞬間、やはり卒業後の修行は本人の素質云々ではなく、上の意見で左右されることを理解した。
さて、そんな噂の中心である野菜坊主であるが、あの馬鹿とアリカの子供とはいえ、温かく見守るなんて甘いことをするつもりない。
無論、助けを求められたのであれば、ある程度は助言することはあっても、おんぶに抱っこなんて真似はさらさらごめんだ。
妖怪やタカミチ達、その他自称『正義の魔法使い』達は『英雄の息子』という肩書きを大いに気にするらしいが、俺はそうは思わない。
肩書きなど、自分の意思を貫けば勝手についてくるものだ。
俺は例外だとしても、あの馬鹿が率いた『紅き翼』という仲間は自分の信念を貫き、何があろうと諦めなかったからこそ、英雄という肩書きをいるかどうかは別にして手にした。
過程と結果が伴うからこそ、その肩書きには価値があるわけだ。
だが、例の野菜坊主には過程がない。
あるのはただ『英雄の息子』であるという結果のみ。
あの馬鹿の息子であることを否定するつもりはないが、それでも特別視だけは頂けない。
1人を特別視すれば、他からの不公平感が目に見えて爆発するだろう。
考えればすぐ分かる事なのだが、妖怪はともかくあのタカミチまでもがそう思うとは意外だった。
…どうやら、戦場を離れ、平和に浸かり過ぎたようだな。
期待するなとは言わないが、あくまで1人の魔法使いとして見てやるべきだと俺は考える。
さて、最初から特別視して下手な事件を起こされても困るので、早め早めに対処しよう。
というわけで――
「色眼鏡でその野菜坊主を見るのを止めろ」
俺は今、学長室に居る。
とりあえず、俺の話を聞くかどうかは別にして、話したという結果が必要だ。
そのため、傍にはタカミチと妖怪付きのしずなさんがいる。
これで聞いてないとは言わせない。
「いや、しかしだのぅ…。英雄の息子という肩書きは魔法界において、大きな影響力を及ぼすからの…。…そなたも分かるじゃろ?」
「…影響?お前、ふざけるのも大概にしろよ。あの馬鹿は――紅き翼は、肩書きなんて物の為に戦ったわけじゃねぇ。戦争なんて物のために傷つく罪なき者を、信頼する仲間を、大切な人を護るために命を賭けて戦った!その誇りを、息子だからという理由で簡単に使わせるつもりはない!」
「リュ、リュランさん…少し落ち着いてください」
俺を抑えようとしたタカミチを一睨みして止める。
「…タカミチ、お前もだ。この戦争の無い甘ったるい空気の中で平和ボケでもしたか。…かつて、俺たちは全ての者を敵に回した。自分たちの意思を貫くために。その時に頼ったのは肩書きなんて言葉じゃねぇ。背中を預けた信頼する仲間だろ?肩書きなんて言葉で背中を預けた仲間などいなかった筈だ、違うか?」
そして、目で語る。
俺たちの背中を見てお前は大戦を生きたはずだ。
そのお前が俺たちの想いを忘れたのか、と。
「…そうでしたね。貴方たちが英雄と呼ばれるのは世界を救ったという理由だからであって、本当に成したかった目的は戦争を止めて、罪なき人たちを救うことでしたね。だから僕は貴方たちに憧れ、目標と考えたんだった。…すみません、浮かれ過ぎていました」
「…振り返る事が出来るのならまだ間に合うだろうよ。俺たちの想いを引き継いだお前自身の想い。それを見失うなよ」
タカミチはこれで問題なさそうだ。
あとは…目の前の妖怪だけだ。
「…と、いうわけだ。まず、息子だからという理由で野菜坊主を特別扱いすることを止めろ。そもそも、数え10歳のガキが教師になること自体ナンセンスだ。…教師は、未来ある子供たちが道を踏み外さないように多くの事柄を教え、自分の足で歩いていく様子を見守るのが仕事であり、人生経験のないガキが成れる存在じゃない。常識で物事を考えろ。本来ならば社会で働くこと自体、10歳のすることじゃないんだからな」
「だからこそ、我々で最大限のサポートをして――「その考えに至った時点で駄目だろ」――むぐっ…」
もう、最後まで言わせる気もない。
頑固頭に話が通じるかもと考えた俺が馬鹿だった。
「新米教師が仕事に慣れず迷惑を掛けるのはまだ良いとしても、10歳のガキが仕事云々なんて出来るわけがないだろう。例え、大学レベルの頭を持っているのだとしても、それを実際の仕事の場で十全に活かせるわけじゃない。日々の授業に課題やテストなどの事務作業、そして修行として来るのであれば自分の鍛錬もやる必要がある。…その全てを10歳にやれと言っても出来る筈がない。最大限のサポート言ったが、そんなことをするから自分で物事を考えない大人が生まれるんだ」
「…君、一応新米教師じゃよな?言い方が既に何年も経験してきたベテランっぽいというか…何というか…」
「…これでも王国騎士団の団長を歴任している身だ。それぐらいは知っているだろう。戦場が主な仕事場とはいえ、街の治安維持も必要だし、それらで発生する事務作業も膨大だ。それに加えて歴代の国王の相談役みたいなこともしていたんだ。嫌でも慣れるわ」
「…あ、そう」
どうやら呆気にとられたらしい。
…ああ、そういえば俺は見た目20前半の青年だからな。
どんなに若くてもあの馬鹿と同じ年齢だと考えたのかもしれんな。
…これでも魔法球内で過ごした時間を含めて数千年生きているのだが。
「それでは結論を伝えよう。あの馬鹿は馬鹿で、その息子は息子だとな。戦友の息子だからその縁で手助けするなどと甘い考えをこちらに押し付けないでいただきたい。そいつ自身の事を本当に考えるのであれば、せめて学園の生徒として10歳らしい生活をしる延長で自分自身の修行をさせることをお勧めする。…まぁ、これで向こうが変えないのであれば俺が乗り込むとでもリカード辺りに伝えておけ」
「…うむ。確かに伝えておこう。じゃが、あちらとて自分のメンツを保つため、そう安々とは変えられんと思うがのぅ」
「…ふん。そうなればそうなった時だ。俺は絶対に関与する気はないし、あの国が滅びようとも知ったこっちゃないからな」
「…さらっと恐ろしい事を言うでない。本当に出来そうじゃからなおさら恐ろしいわい」
もちろん、首都ぐらいなら1時間で更地に変えてやる。
…まぁ、民に罪はないからやらないが。
「…ま、変えられないのならお前自ら責任を持って面倒を見ろよ。――ああ、もしも教師になったとしても、生活の場を自分の孫の部屋にするなよ。いくら歳が4しか離れていないとはいえ、教師と生徒だからな」
「ぐぅっ…分かっておるわい…」
…その顔、絶対わかってないな。
俺としては、詠春から自分の娘に対するその想いを聞いているし、俺自身も賛成だ。
下手な肩書のせいで、子供たちがあの血生臭い戦場に行かねばならないような事態は阻止するべきだ。
子供たちが平和に暮らせることが出来るのであれば、大いに歓迎するべきだ。
…例え、自分たちの手を汚しても。
「生徒なら生徒らしく同性との寮生活だし、教師なら教師らしく1人暮らしをさせてみろ。そこで困ったことこそタカミチや瀬流彦に任せるべきだろう」
「む、むむむぅ…。…はぁ、わかったわい。そこまで言うのであれば、他の魔法先生および魔法生徒に伝達しておこう。ネギ君を英雄の息子として見るのではなく、魔法学校を卒業した10歳の少年として、そのありのままの姿を見るようにと。しかし、わしの言葉だけじゃと従わん者達も出てくると思うがの?」
「肩書きを信じて、10歳のガキに高望みするなんて甘い考えを持つ奴らなど、オコジョ刑になって人生を棒に振るだけだ、そんな奴らにまで気をかけるつもりはない。さっきも言ったが、自分で何とかしろ」
ため息をつく妖怪を見て、こちらがため息をつきたい。
何故俺がここまでしなければならないのだろう。
誰か気が付けばいいものを…まさか、これこそが認識阻害の真の目的なのか?
…いや、あり得ないか。
「…そういえば、俺はメガロ主体の魔法学校のカリキュラムを知らんのだが…ちゃんと魔法を使うべき状況は教えているのか?今までは魔法が当たり前の環境だったから問題ないかもしれんが、これからは魔法が無いのが当たり前の世界だ。一般人の前は当たり前だし、いくら誰も見てないとはいえ安易に使うのも危険だということを知っていなければ取り返しのつかない事態にもなりかねん。俺の教え子がそんな面倒事に巻き込まれるのは全力で拒否したいのだが」
「フォフォフォ。それは大丈夫じゃ。ちゃんと外の世界での魔法の扱いについては学んでいる筈じゃ」
「…本当か?もしバレたらとりあえず記憶を消せばいいとか、そんな安易に考えていないだろうな?人の記憶は繊細だ。例えその時は問題なくとも、何らかの弾みで思いだす可能性も示唆されている。俺が知る限りではアリアドネーの魔法騎士学校は魔法に頼らない誤魔化し方も教えていると聞いた。その辺はどうなんだ?」
「……大丈夫…だと思いたいのぅ…」
「…はぁ。ともかく、安易に魔法を使って初日から一般人に魔法をバラす真似だけは避けろよ。もし、安易に使おうとするのなら、その行為で発生する問題を陰でフォローするのではなく、まずは殴ってでも止めて、目の前で何故安易に使ってはならないのか、厳しく指導してやらねばその甘い考えを治すことはできない。10歳で卒業なら天才という部類なのだろう。頭は良いかも知れんが、使ってはならない本当の意味を理解しているのかは俺には分からん。そこは気を付けろよ」
「うむ。そなたにここまで言われたのじゃ。その辺の対応は厳しく行おう。…ま、初日から魔法がバレるなどという愚行を彼がするとは思わんがのぅ」
「…だといいがな。とりあえず、俺からは以上だ。…特にタカミチ。この問題を最終的にフォローするのはお前だ。くれぐれも気を付けろ。油断せず、そいつが一体何をするのかを5手先まで読み取れ。そしてその考えを感じ取れ。それを踏まえて最終的に判断しろ。そいつが、自分達の人生を賭してまで護るべき存在なのか、ということを」
後ろ向きのまま俺はタカミチに告げ、学長室を出る。
これだけ言って何もしなければ、本気でメガロに乗り込もうか。
…まぁ、タカミチは大丈夫だろう。
あの個性豊かな紅き翼で少年時代を過ごしてきたぐらいだからな。
あの妖怪が暴走しようとしても、どうにか止めるぐらいには成長しているはずだ。
…むしろ、成長してなければ今一度鍛え直さねばならないかもしれないが…。
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リュランが学長室を出て行った後、部屋に残された妖怪…近衛近右衛門が盛大にため息をついた。
「やれやれ…やっと特大の嵐が過ぎ去ったわい」
今回の抗議についてそんな感想を呟く学園長の前に、新たなお茶を差し出すしずな。
その光景に苦笑しながら、しずなから手渡されたお茶の入った湯呑を持ちつつ、想いを新たにしたタカミチが追撃した。
「自業自得ですよ。…とはいえ、本国の方針が『英雄の息子を最大限に利用できるように』と暗に言ってきた以上、下手すればすぐに政治の道具として扱われるのは目に見えていました。まぁ、だからと言って、本国での権限をフルに活かして此処の担任にしようとするからこういった事態になったわけですが」
「わしとしては中々良い案だと思ったんじゃのう…まさか、あそこまで反対されるとは思ってもみなかった」
「…まだ良かった方ですよ。前にも似たような状況でアレに近い状態になりましたから」
そう言いながら昔を懐かしむかのようにタカミチは言う。
その言葉に妖怪は何かを感じ取ったのか――
「それは何時のことじゃ?」
興味本位でその言葉の意味について尋ねる。
もしかしたら、彼について新たな情報が手に入るかもしれないと期待しながら。
「学園長も知っていらっしゃるでしょう。本国の元老院議員全員が反逆の罪で極刑になった事件。アレの時ですよ」
「ああ、その事件ならわしも此処で知らされた。世間に公表された情報には報復を防ぐ意味での情報隠蔽のためか、証言者や密告者の名前は書かれておらんかったようじゃったな。そのため、色々な憶測が飛び交っていたのう。…まさか、彼が?」
「ええ。…実際、アリカ王女は混乱の中にクーデターのような形で王位を継承しました。もちろん、アリカ王女もそんなことはしたくなかったと思いますが、前王が完全なる世界の傀儡であったため、仕方なく実行に移したようです。しかし、その動きを知った元老院は自分たちの悪事がバレる事を防ぐために、アリカ王女を今回の戦争の全ての罪を擦り付ける生贄にしようとしたそうです。…実際、僕は逮捕寸前まで行きかけたと聞きました。ですが、逮捕直前にリュランさんが会議場へと乱入。アリカ王女の潔白と元老院の悪事をその場で叩きつけたわけです。…情報収集という1つを見ても、自分たちの悪事をもみ消すためにアリカ王女の罪をでっち上げた元老院と、戦争を本当の意味で終結させるために奔走したリュランさんとでは話にもならなかったと聞いてます。その結果、新聞でも掲載された通り、元老院議員全員をその場で逮捕、即極刑が下されたというわけです。また、元老院全体が悪事に関わっていたため、一時的に政治的混乱が生じたわけですが、それに関してもリュランさんは手を打っていたようで…メセンブリーナ連合の各代表が一時的に元老院議員の役目を担うことでその混乱を抑え、今に至るというわけです」
長々と話したタカミチは喉を潤すべくお茶を飲む。
程良い苦みが乾いた喉を伝わり、ホッとした気分となった。
彼の前では感心したかのように頷く妖怪。
「ふむ…。あの事件の裏にそんな実話があったとはのぅ。…しかし、英雄となった彼と言えど、それほどの情報を集めるのは大変じゃっただろうに…」
妖怪の言葉にクスクス笑うタカミチ。
何故笑う、とそんなタカミチに眉を顰める妖怪。
笑ってすみませんと一言断ってから、タカミチは話し始める。
「僕もそう思って彼に聞いてみたんですよ。そしたら、あの人、なんて答えたと思います?『情報収集が大変だと?大切な人を護るために何を惜しむ必要がある。アリカを護れた事が何よりの褒美だ』って言ってました。僕には真似できませんよ」
ハハハっと清々しく笑うタカミチとその言葉を聞いてほぉ、と益々感心する妖怪。
「ふむ。さすが大戦の英雄じゃ。言うこと成すことがまるで違う。……さて、そんな彼があれほど忠告したのじゃ。とりあえず、全員に話すだけ話してみようかの。…ガンドルフィーニくん達、本国出身の者からは色々と言われそうじゃがの」
「僕からも言っておきましょう。…もし彼の言葉通り、日常生活で安易に魔法を使おうとするのであれば、間違いなく初日から魔法がバレそうですからね。そうなれば、苦労するのは我々です。最悪、オコジョではすまないかもしれない」
「…そうならん事を祈りたい。…確かに、彼に言われて考えてみれば最近の卒業生は教えられた言葉をそのままの意味でしか捉えておらん。高音君が良い例じゃ。正義とは何か…護るべきモノとは何か…。これを機に学園全体の意識の見直しをするべきかもしれん」
妖怪とて、何も考えずに野菜坊主をここへ寄こすように仕向けたのではない。
本国の魔の手から、英雄の息子を救いたいがために自分にできる精一杯の努力をした結果が麻帆良学園の教師であっただけだ。
だが、諦めるのは早いと感じたのか、すぐに本国に話を持ちかけ…すぐに却下された。
その時の妖怪の背中に哀愁が漂っていたのをタカミチは目撃している。
後日、野菜坊主を教師から外すことに失敗した妖怪は先日リュランに宣言した通り、タカミチと共に、学園の全魔法関係者を招集。
英雄の息子であるネギ・スプリングフィールドが教師として学園に来るという確定事項とともにリュランの言った言葉を伝える。
野菜坊主の麻帆良学園での修行に関しては全員から概ね了承の意見が受け取れたが、続けて忠告された英雄の言葉に対しては真っ向から意見が別れた。
葛葉刀子や神多羅木などはタカミチや妖怪の言葉などもあり、リュランに賛同。
逆に、ガンドルフィーニや高音などは自らが掲げる正義論を元に、英雄の息子であるネギがそのような事をするはずがないと真っ向から否定。
最終的には『現状は様子見。あまりにも問題があるようであれば指導、または魔法の制限を行う。その他は各自が警戒し、必要があればその場で注意』ということで収拾がついた。
その決定に対しても、1部の者たちは不満顔ではあったが、大きな問題があっては遅いと、妖怪からの言葉もあり、一応は了承の意を伝えた。
こうして、多くの者の思惑が交差し織り成す中…遂にネギ・スプリングフィールドが日本へと降り立つ日がやって来た。
∽to be continue∽