―――――【第43話 小さな勇気、大きな恐怖】―――――
「これが今日の奴の報告書だ」
「うむ。すまんの」
他の案件の書類を見ながら受け取る妖怪。
普段であれば高笑いしながらお茶を飲んでる癖に…。
…削るぞ、その頭。
「これ以上用はないな?俺は帰るぞ」
「…今、わしの頭が悲惨な状況になる気がしたんじゃが…」
「気のせいだろう」
妖怪の割に鋭いらしい。
…いや、妖怪だからこそ鋭いのか?
「そうかのう…。しかし、今日の初授業についての評価がかなり低いのじゃが、これについて説明してもらっても良いかのぅ?」
「…勉強のできない生徒に対して授業中にそれを堂々と指摘したからだ。頭が良いのが仇になった結果だな」
「なんと!?うむむ…その後の対応はどうじゃった?」
「俺が何も言わねばその生徒が笑われて流されていただろうよ。…まぁ、叱って指導しておいたから、後にでも新田先生に教師としても心構えを教わらせるといい」
「うむ。よう分かった。わしからお願いしておこうぞ。御苦労さまじゃ」
話が済んだのでさっさと学長室を出て、廊下を歩く。
外は日が沈み始めていた。
で、帰ろうと寮に向かう最中――
「いきなり拉致するとは、我が弟子として最低だな」
「仕方ないじゃないか。何も言わずに来て欲しいと言っても絶対に来てくれないだろう?」
「無論。俺に関係のない出来事で、何故俺が出席しなければならない」
その返事を聞き、大袈裟に肩を竦め、ため息をつく真名。
その対応を見て、さらにイラっとする。
…次の訓練は倍のメニューだ。
「師匠にしては辛口な意見ですね。…何かあったのですか?」
「結局あのガキが教師をやることを止めれなかったからな。せっかくメガロの首都で喧嘩してきたのが無駄になった」
「ははは…」
冗談とでも考えたのか、刹那は苦笑いである。
逆に、既に情報を知っているのか、真名に笑みはなかった。
現在、俺は教室の壁際でコップを持ってもたれている。
隣には夕凪を携帯する刹那と、腕と足に銃を隠し持つ真名だ。
…毎回思うのだが、この学園では銃刀法違反という法律は存在しないのだろうか?
普通の学校――いや、世間であれば、1発で即アウトでしかしないのだが。
俺の目の前では俺の時と同様に、教室で歓迎会が行われている。
野菜坊主の初授業であんなに荒れた状況になったにも関わらず、教え子たちは何かとあの坊主に話を聞こうとしている。
…ま、俺よりか話しやすそうなのは認めよう。
もう歓迎会も中盤なので、今野菜の近くに居るのは、委員長である雪広と新体操部の佐々木、そしてパパラッチ朝倉に…腐女……腐女子、早乙女の4人。
何度も野菜関係で被害にあっている神楽坂は近衛と共にタカミチとのんびり話している。
…普通に話しているが、神楽坂はタカミチの事が好きで、緊張して話すたびにどもっていた記憶を持っていたが……気のせいか。
「おい、リュラン。あのガキは一体どういうことだ?」
「エヴァンジェリンか。…見ての通り、卒業したばかりの見習い魔法使いに言い渡される修行だよ。…ちなみに、苗字から分かるがあの馬鹿の息子だ」
「知っている。…呪いが解除された今、あいつの息子なんぞ、興味は一欠片も見出せんな」
俺とエヴァンジェリンの話を聞いていた隣の2人だが、突然身体がピシッと固まり、ギギギと音が鳴りそうなカチコチの様子で首をこちらに向けてくる。
…一体どうした?
「…リュランさん。今、物凄い爆弾発言を私も耳が捉えた気がするが…もう一度聞いていいかな?」
「…あぁ、そういうことか。俺がエヴァンジェリンの呪いを解いたことについてだな?」
「…私も1度、魔眼で確認した事があるけど…そんな簡単に解除できる代物だったとは思わなかったのだけどね?」
「…ふっ、俺にかかれば雑作も無い事だ。あと刹那、いつまで固まっているつもりだ?…犬耳をつけて遊ぶぞ?」
「や、やめて…――(欲しいような欲しくないような…)――うぅ~…」
ボソボソと呟き、何やら悩みだしたかと思いきや、急に唸り始めた。
…俺は何か間違えたのだろうか。
「リュランさん。そこら辺は乙女の事情だ。察してあげなよ」
「そうやって、真名に諭されるのが1番イラっとくる」
「ふふっ、イライラ発散のための夜の情事ならいつでも待ってるよ」
…おい、一応お前は中学生だと思うのだが?
世の中の法律云々を通り越して、もはや意味の分からぬ事態になりそうだ。
いくら小さい頃から戦場を渡り歩いたと…………つまり、原因は俺か?
…そういった会話がある場所に連れて行った記憶はないのだが…あの馬鹿のせいか。
……1度、奴にも稽古を付けてやらねばならないようだな。
「!と、ところで突然ですが師匠。魔法使いという職業はどういった過程を経て、そう名乗れるようになるのですか?」
「?何を藪から棒に…。…ふむ、そうだな。最近は魔法学校と呼ばれる場所で勉強し、魔法使いとして必要不可欠の知識を得たと判断した場合、卒業することが出来る。その段階で見習い魔法使いと言えるだろう。そして卒業後、卒業表彰の紙に浮かび上がる修行を見事にやり遂げたと判断された時点で、初めて魔法使いと名乗れる。…昔はもっと判断が曖昧だったが、今はそのぐらいか」
「全くだ。…そもそも、私は10歳でこのような身体になったのだ。魔法学校という正義を志す者たちが集まる場所になど、行ける筈もない。…それでも幸運だったのは、リュランに出会え、稽古を付けて貰って一端の魔法使いと名乗れるようになったことか。…まぁ、色々と考え、悪を名乗ったのはそのさらに後の事だが」
「俺自身、魔法学校なんて制度云々より以前から騎士団で働いているしな。…そもそも、魔法学校の基礎を考えたのは俺だ。学校そのものに関しては俺以外にも多くの者が関わって出来あがった血汗の結晶だが…そんな俺がその学校なんざに通うわけがない」
『…え?』
3人が揃いに揃ってこちらを振り向いた。
…ま、話したことないしな。
今日は特別、その時の状況を簡潔に説明してやろう。
「遥か昔、魔法世界に国が1つしかない時代だな。現代では久しく見ないほど巨大な魔獣が襲来し、その被害で騎士団が壊滅した。その穴埋めを急ピッチで埋めるために考えたのが学校という卵たちを育てる制度だ。それと同時に、俺の弟子から相談されてな。その当時はほとんどいなかった魔法使いを育てるにはどうしたら良いかとな。それで考えたのが魔法学校という物だ。…あとは双方の代表と文官たちが協議を重ね、それで生まれたのが騎士・魔法養成学校だ」
手に持っているコップの中身を飲み干す。
指を鳴らし、コップの中を満たす。
もう1度、中身を飲み干した。
…久しぶりに当時の充実した日々を思い出したな。
あの頃は、今とは違う意味で大変だったが…楽しかった。
「…素晴らしいです、師匠…!」
「そんな遥か昔から学校という制度があったのか…。リュランさんは本当に何でもできるね」
「…なら、私に要領よく教えられたのもそれが理由か。当時は深く考えなかったが…ようやく理解したよ」
3者3様の返事を頂いたところで、部屋の中央から近付いて来る人物に気がつく。
先程からこちらをちらちら見ていたからどこかで来るとは思っていたが…。
「どうかしたか、アキラ。…それと、後ろの野菜坊主」
「あ、いえ、その…」
今も良く俺の部屋に来ては勉強の質問をするアキラとその後ろに隠れるように付いて来た野菜坊主だ。
…気がついていないのかも知れないが、アキラは結構困った表情をしている。
「リュ、リュランさん!今日は、ありがとうございました!」
「…別に、お前の事を考えて行動したわけではない。神楽坂は俺の教え子だ。その教え子が辛そうにしていた。助けて当然だ」
「そ、それでも、僕はその言葉で、自分の大きな間違いに気がつくことができました。だから、ありがとうございます!」
「…ならば、お前の間違いをもう1つ付け足そう。…早くアキラから離れろ。本人が困っている」
「あ!す、すみません。大河内さん!」
「え、あ、うん。大丈夫」
「で、では、僕はこれで失礼します」
言いたいことを言えてすっきりしたのか、野菜は去って行った。
残されたのは俺とアキラ。
…いつの間にか、他の3人は消えていた。
……どうする、俺。
「…それで、アキラは何か用があったのだろう。どうした?」
「…せ、先生に話があるんだ」
真っ直ぐこちらを見つめる目を見つめる。
真剣な、一途な想いを見て取れた。
「…真面目な話だな。場所を変えようか。付いて来な」
「は、はい」
アキラを連れて教室を抜ける。
ちょうど例の3人と目が合い、そのうちの2人はニヤニヤと嫌らしく笑い、残りの1人は恥ずかしそうに小さく頑張れと口にしていた。
…?
ついでにタカミチとも目が合ったのだが、苦笑していた。
教室を出た俺たちは廊下を歩き、階段を上り、屋上へと出る。
すでに日は傾き、夕暮れの幻想的な風景が目の前に広がる。
…切ないが、それでいて気持ちが良い。
「…さて、話を聞こう」
後ろには手を引っ張ってきたアキラ。
普段の凛々しい姿とは裏腹に、今は可愛く身体を縮こませ、どこか迷いがあるように思えた。
…何か悩みでもあるのか。
「アキラ。何か悩みがあるのだろう。俺で力に成れる事があれば言ってくれ。力の及ぶ範囲内で力になろう」
「せ、先生……。わ、私…」
「……」
「私…先生が…。先生の事が……」
1度、言葉を切り、告げるかどうか再び悩んでしまった。
…簡単に悩み事を話せないとは、教師として失格だな。
そんな事を考えていると、その間に決意を固めたのか、顔を上げて正面から真っ直ぐこちらを見つめる。
少々顔が赤く、目が潤んでいる気もしないでもない。
……って、ちょっと待て。
俺よ、少し今の状況を考えよう。
夕暮れの屋上で、異性と2人きり…?
「……」
「……」
アキラはどのタイミングで言いだそうかと考え、俺は今自分が置かれた立場を考え。
考える2人が沈黙し、固まってどれくらいの時間が経ったのだろうか。
そして――
『きゃあぁぁぁあ!!』
屋上の扉が開き、同時に教室に居たはずの2-Aの教え子たちが体勢を崩しながら雪崩れ込んできた。
…盗み聞きしていたのか。
これに気がつかないとか、余程動揺したらしい。
「ひゃわっ!?え、ええっ!?」
状況を把握できていないのか、アキラはあたふたし、判断できたらできたで、顔をさらに真っ赤に染めて慌てて手で顔を隠す。
因みに、扉付近では今の会話を聞いていたであろう教え子たちが積み重なるように倒れてどうにか逃げ出そうともがいている。
……アキラがせっかく勇気を出して決意を固めたというのに……仕方ない。
「さて、聞いていた諸君にはO☆HA☆NA☆SHIが必要かね?」
『…ひ、ひえぇぇえええっ!!』
俺の言葉に顔を青くする2-Aの教え子たち。
これから起こるであろう、仕打ちを予想してか、全員が顔を青ざめた。
ドタバタと音を鳴らして我先にと屋上の扉から逃げ出して行った。
――逃がすと思うのか…?
…さて、逃げた者たちは置いておき、この場に残った者たちを処罰しなければ、な。
この場に残ったのは…上に重なっていた者がいなくなったことでようやく動けるようになったと同時にその場で正座している…つまり、逃げられないことを理解した頭の良い教え子と今の現状が分からず、流れで正座する野菜坊主。
具体的には雪広や宮崎、近衛や刹那や真名とかだ。
刹那と真名にはO☆HA☆NA☆SHIの内容を念話で伝えた為、既に青を通り越して白くなっている。
…いや、真名は若干頬を赤く染めているが…。
まさか、あいつはMだったのか…?
とりあえず―――
「天誅」
『ぷぎゃ』
さすがに簡単な処罰となると選択肢は多くないため、ここは安易な拳骨で済ます。
…まぁ、逃げなかったことを評価して、そこまで痛くはしていない。
野菜は個人的に苛ついていたため、生徒を帰らした後で八つ当たりと言う名の処刑をするつもりだ。
「全く…。せっかくアキラが勇気を出していたのだ。普通は温かく見守るなり、玄関口を掃除するなりしていればいいものを…」
「いえ、やっぱり気になりますし…」
「というか、何故、玄関口を掃除するんですか…?」
「さぁ?まぁ、とりあえず、君たちはこれで解放するとしよう。…あぁ、野菜坊主。君は残りたまえ。まだ君を開放するにはまだ私は早いと思うんだ。それで、次はこんなものを用意して見たんだが……やるよな?」
「は、はいぃぃぃ…」
このあと、周辺が真っ暗になるまで野菜坊主を八つ当たりの対象としていた。
ストレス発散となってとても良かったとだけ言っておこう。
そして夜。
逃げた者たちは寮という逃げられない監獄に必ず居なければならないので、当たり前だが学外に逃げる事を許されず、部屋で怯えているところを笑いながら捕まえて罰した。
…ああ、俺もそこまで酷じゃない。
潔しであった生徒たち同様、拳骨1発と逃げた罰として問題を出しただけだ。
総ページ数100ページしかない簡単な作業だ。
その提出期限は1週間。
出来なかった場合は……ふふふ。
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アキラからの悩み相談?は結局有耶無耶になってしまったが、あれから2日に1回のペースで部屋を訪れるようになった。
…まぁ、嬉しそうなので良かったという事にしよう。
そして1週間後。
俺はいつものように、朝のHRを行うために2-Aへと向かって中等部の校舎の廊下を歩いていたところ、先の方に挙動不審な人物の姿を捉えた。
そいつは…残念ながら不審者ではなく野菜坊主だった。
普段ならそれで終わりだが、手に持っている物が気になった。
…ガラス瓶?
記憶通りなら惚れ薬のような気がするが…今の神楽坂が惚れ薬といった単語など口にするだろうか?
しかし、アレが本当に惚れ薬なら拙い。
作った時点で犯罪だが、服用すれば予想つかない被害が出るだろう。
…さらに、現状のアレに飲まれたら嫌な事態が起こる気がする。
……とりあえず、没収するか。
「野菜坊主。手に持っている物は何だ?」
「え、あ、リュ、リュラン先生!な、なんでもないですよ!?」
そこまで挙動不審なまま否定したら相手に不信感を抱かれると考えれば分かりそうなものだが…。
年齢相当の経験不足だな。
さて、何故慌てたのかについて考えてみよう。
1番あり得そうなのは惚れ薬であることを隠すため。
…つまり、惚れ薬の危険度を認識しているのか?
なら、なおさら作らないと思うのだが…。
他には何が考えられるだろうか…。
………ふむ、分からん。
「そのように慌てながら何でもないと言われても納得できん。教師たる者が仕事中にも関わらず、そのような奇妙な物を持っているなどと…。認めるつもりはないが、同じ教師として見逃すわけにはいかん。出しなさい」
「い、いえ。本当に何でもないんです!」
「ならば、なおさらそのように隠す必要がないだろう。隠すという事は、それ即ちただ事ではないということだ。出せ」
「…うぅ、分かりました」
俺の言葉を否定できなかったのか、野菜坊主は落胆しながら手に持っていたガラス瓶の様なものを出してきた。
それを受け取り、眺めてみる。
色は半透明の白で、見ただけではこれが何なのかさっぱりわからない。
…とにかく、これが惚れ薬であるならば、この件はこれで終了だな。
「では、教室へと向かいHRだ。基本的にお前は朝来るのが遅い。本来であれば、開始の鐘の音とともに入るのでは遅いのだからな」
「は、はい。わ、わかりました」
慌ててバタバタと2-Aの教室へと向かう野菜。
…それほど未練のような感情を見せなかったところを見ると、これは惚れ薬ではないのかもしれん。
…まぁ、どちらにせよ、今もなお液体中で空気を発生させているこれが不審物である事に違いはない。
だが、処分するのはいいとして、どう処分するべきか。
排水溝に流す?
いや、その水に触れたモノに被害が及ぶだろう。
地面に流す?
もし、微量でも気化して辺り一帯に微弱ながらも影響を及ぼすのであれば危険だろう。
燃やすか?
上記と同じ理由で却下。
……俺が飲んで、効果が切れる時間まで何とかレジストするのが1番手っ取り早い気がしてきた。
おそらく、飲んだ瞬間から皮膚や吐息を介して相手に影響を及ぼすのだと考える。
つまり、全身を薄い膜で包みこんで空気が漏れないようにすれば問題ない筈だ。
いつ切れるのか分からないため、すくなくとも半日は誰とも接触しないようにしないといけないだろう。
…では、早速――
「せんっせー!」
「ぐふっ!」
「あっ」
いざ俺が飲もうとガラス瓶の蓋を開けたところへ、鳴滝姉が突っ込んできた
身体がくの字に曲がり、手に持っていた蓋の開いたガラス瓶が宙を舞う。
何故か中身が出ぬまま放物線を描き、何故か後方へ倒れた俺の頭上へと落ちてきた。
…その結果、飲むはずだった液体を頭から被る破目になった。
慌てて全身を薄い膜で覆うが、この場合はどう影響するのか分からないため、対処が合っているのかすらわからない。
「…っ!せ、先生…」
「はぅぅ…」
「…ど、どうかしたのか?」
「あの、その、えっと…」
「あ、あぅ…。リュラン先生ぇ…」
前に居た鳴滝姉と遅れて後ろに到着した鳴滝妹の目がトロンとし始め、頬が赤く染まる。
…まさか、レジストできていないのか!?
――マズイ。
これは、非常にマズイッ!
「あれ?リュラン先生、頭から液体を流して何を―――――――先生!コレ、昨日作ってみたクッキーですが、食べてください!!」
「先生!先生の身体をぎゅって抱き締めさせてください!!」
「リュランさん!抱いてくぶはっ!!」
「お前は公衆の前で何を言い出すんだ!ってそれどころじゃないわッ!!!」
ドドドドドドドドドッ!
『リュラン先生ーッ!!』
何が起きたのか、廊下の前後と目の前の教室から女子生徒が顔を出し始め、猛烈な勢いで迫って来た。
顔が引き攣った気がした。
とりあえず、この場からの離脱を図るため窓から外へと逃げ出した。
……って、すでに下に先回りしているだとッ!?
慌てて校舎の壁を蹴って、強引に降りる位置を修正する。
着地に成功したは良い物の、自体は好転せずに、すでに囲まれた。
…英雄として、この程度の困難に敗北するなど、あってはならない!
身体能力フルに生かし、女子生徒の隙間を縫って脱出する。
……嫌な感触が腕やら足やらにあった気が――いや、この際何も考えない。
俺は、後ろから迫り来る女子生徒との鬼ごっこに興じた。
結局、俺は効果の切れた1時間後まで、どこからどう飛来すればここまで影響したのか…中等部だけに留まらず、高等部や大学部、さらには教師を含む学園中の女性から追いまわされることとなった。
…中には魔法に関わる者も居た気がするが…何影響されて居やがる。
何とか逃げ切れたことに安堵しつつ、俺の逃げる様を笑いながら撮影していた男子学生に対し、多種に及ぶ地獄をプレゼントした。
これが切っ掛けで、裏では地獄の悪魔(ヘル・デビル)と呼ばれるようになった。
…その名を呟いた瞬間、それが貴様の最後だ…。
こうして、学園全域に被害を出した惚れ薬事件は幕を閉じた。
その後、もちろん事情を説明するよう求めた妖怪に、野菜坊主が持っていたという事実、処分しようと試みたところへ女子生徒が乱入、結果として本来の用途であろう飲むのではなく浴びるという形でこの薬の影響を受けたことを説明した。
被害の影響から、妖怪は惚れ薬である事を理解していたが、それを作ったのが野菜坊主であった事に頭を痛めていた。
とりあえず、加害者であり被害者である俺は、表向きこそ俺の影響を考えて何も通達はなかったが、裏では幾つかの面倒事に駆り出されることとなった。
……なお、魔法に関わる女性陣が影響をレジスト出来ず、一般人と混ざって追いかけて来たという事実は本人の名誉のため、伏せておいた。
後々、本人たちの性格に合わせた文句と謝罪…その他諸々を延々と聞かされ、耳が痛くなった。
∽to be continue∽