∽移り行く風のように∽   作:アクア=イスタロス

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第44話

―――――【第44話 謀略此処に極まれり】―――――

 

その日、俺は朝早くから妖怪に呼び出されていた。

急を要する事態だと喚いていたことは覚えているが、肝心の内容については一切一言も触れなかった。

学園に関する急ぎの用事であれば、もっと最適な者がいると思うのだが…。

釈然としないが、無視して後々面倒事を任されるのも面倒なので、一応話だけでも聞こうと思い、妖怪が居座っている学長室を目指した。

 

――それが例の惚れ薬に続いて2度目となる学園全体を巻き込む騒動の発端になるとも知らずに。

 

 

 

 

午前8時。

本来であればHRや授業の準備などで忙しくなる時間帯だが、今日は休日。

授業が無い日、身体を休めることのできる日、気分転換する日。

つまり、本来ならばこのような場に来なくても良い筈の日に…しかも朝っぱらに電話で呼び出されたのだ。

…面倒事は御免だが、これはこれで面倒だ。

つまり、極刑に値する。

 

「ということで、死ね妖怪」

 

「あぎゃああぁぁぁぁぁぁ……」

 

「…ふう。これで今日も学園に平和が訪れた」

 

これで俺も帰れる。

そう思い、入ってきたばかりの扉を再び開けようとするが、何故か分からないが扉が開かない。

原因を見つけようと後ろを向くと…案の定、いつの間にか蘇生を果たしていた妖怪が扉に開閉防止の魔法を掛けていた。

つまり、このくだらない魔法を消さない限り、扉はただの壁として扱われるのだ。

……今回は中々本気のようだな。

 

「まだ…じゃよ…」

 

「しぶといな。ご老体はさっさと引退して墓場に行っちまえ」

 

「…わ、我が曾孫の姿を見るまでは……死ぬわけにはいかんのじゃッ!!!」

 

クワッと目を盛大に見開きながら、どこぞにでもいそうな老人の願いを力強く宣言する妖怪には今さらながらほとほと呆れる。

なんとも迷惑な奴だ。

…ふう、ただでさえ、今現在でも何歳なのか分からない謎の生命体であるのに、これ以上、学園の安寧を妨げ、災害引き起こす存在を無視するわけにはいかない。

処刑方法は…そうだな、アレにしよう。

 

「仕方ない。貴様の様な外道に相応しき処断をするとしよう。…あぁ、下手に期待されると面倒だから先に言っておくが…貴様の未来は死だ」

 

「え?え?ちょ、ちょっと待つんじゃ!」

 

「さあ選べ。今から死ぬかすぐに死ぬか即座に死ぬか…」

 

妖怪はゴクリ、と唾を飲み込んだ。

妖怪の前に提示されている条件は全部が危険な香りがする、というか死亡そのものしかない。

1番重要な処断の内容は言っていないが…一応、全て違う処断方法にしてある。

1つ目は俺の創造で創り上げた武器が大量に降り注ぐ超殲滅。

2つ目は御存じ千手阿修羅による超殲滅。

3つ目は無限にも見える膨大な魔力を存分に生かした超戦術級大魔法による超殲滅。

どれも、俺だからこそできる方法だが、過程は違えど必ず一瞬にしてこの地域周辺を無残な姿へと変わり果てる事に間違いはない。

最も、3つ目以外は対人戦ではほとんど使わない…というより、使いたくない。

理由は簡単で、魔法による攻撃ならば骨肉一切を灰塵へと帰すすることが出来るが、武器による刺殺や千手阿修羅による圧殺は、攻撃終了後にどう考えても辺り一帯に骨肉血液内蔵などを思う存分振り撒くため、目にも空気にも悪い。

そのため、使う機会は体召喚魔など致死に至ると身体が消滅するタイプの敵と対峙した時のみとなる。

…だが、まぁ妖怪に対してなら問題あるまい。

 

「理不尽じゃああぁぁぁぁ!!!」

 

「ちっ、逃げたか…。仕方あるまい、MC隊にでも頼むか」

 

窓から逃げ失せた妖怪に舌打ちし、携帯を取り出して専用の部隊に捕獲を依頼する。

MC隊…それは、隙さえあれば仕事をサボり、悪だくみを始めようとする妖怪を探し出し、しずなさんの下へと連行するための学園裏組織…妖怪(Monster)捕獲(Catch)部隊の略である。

そもそも、組織のトップが下部組織に捕獲されないと本格的に仕事しないとかどうよ。

…そうか、そういう性癖か。

いやはや、老人は常人には分からない性癖をお持ちで。

 

「違うわい!!」

 

「目標を視認しました。捕獲次第、連行します」

 

「しまっ!ちょっ、待つんじゃ!儂はまだ死にたく…ぎゃぁぁぁぁぁぁ…」

 

「……」

 

…まぁ、決められた運命だしな。

なにはともあれ、ようやく元凶が消えたわけだし、帰るとしよう。

既に時刻は9時半。

さっさと帰って、少し遅い朝ご飯を食べてゆっくり寝るとするかな。

 

 

 

 

そう思っていた時がさっきまでの俺にはあった。

現在、俺は先日と同じ様に多数の生徒から追いかけられている。

ただし、今回は男子学生もいる。

理由は分からん。

そもそも今日は休日のはずなのに…なぜこの時間帯にこれほどの人数が学校に来ているのだろう。

 

「リュラン先生、覚悟!」

 

「甘いな」

 

今も草むらに隠れていた生徒が巨大な網を投げてきた。

なぜ生徒がこれほどの網を持っているのかは聞いてはいけないのだろう。

空中で大きく開き、覆いかぶさろうとするこの網だが、俺は英雄だ。

英雄たるこの俺が敗北という言葉は歴史に刻んではならないのだ。

 

身体を倒し、地面スレスレで加速する。

俺の後方で地面へと被さった網を無視し、生徒へと近づく。

慌て始めたが、遅い。

頸筋を叩き、意識を落とした。

 

…先程から同じことの繰り返しだ。

まず、ある程度の距離から気配を察して行動を読み、次に姿を現した瞬間の姿によって行うであろう攻撃予測してこれを回避し、最後は頸筋を叩いて意識を奪って終える。

言葉にすればそれほど難しくなさそうだが、かなり神経を尖らせないと回避が難しい。

現に、何人かの生徒の攻撃は、俺の動きを数秒止めることに成功している。

これで連携がしっかりしていれば、捕まってこそいなくとも、傷ぐらい負っていたかもしれない。

 

だが、逃げながら迎撃しているうちにとある疑問点に気付いてしまった。

追っかけてくる生徒がほとんど女子であることだ。

最初の方は男子の姿もあった筈なのだが……今では全く見かけない。

……何か事情が変化したのか。

 

とにかく、男子であれば力技上等なのだが、さすがに女子にそれは出来ない。

しかも、麻帆良の生徒は男女に関係なく…元気かつ多芸に富んでいるためこちらが予想していない攻撃を仕掛けてくる。

さっきの網もそうだが、例を挙げるとすればコンクリートの道に落とし穴だったり、屋根の上から銃による一斉狙撃だったり、4足歩行の中型ロボットだったり。

…はぁ、そろそろ誰か一人捕まえて今回の原因について吐かせるとしようか。

最初は、生徒に対して意識を失う程度とはいえ攻撃する事に罪悪感があったが、今は……とんでもないぐらいしつこく追いかけまわされているせいもあり、俺自身イライラが溜まってきている。

……よし、やろう。

何、ほんの少し本気を出すだけだ。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

【side other】

 

麻帆良学園西南住宅街。

そこで私達は今、あるお方を探し、走りまわっている。

そのお方とは言うまでもなく、リュラン先生である。

あぁ!

あの整ったお顔に凛とした眼つき。

普段は厳しめの口調でありながら、喜ばしい時に見せる優しげな表情。。

傍から見ればガタイこそ良く見えないけれども、内に秘めるのは格闘部顔負けの強靭な鋼の肉体。

迫り来る挑戦者を次々に仕留める鋭い武術。

まさに神に愛された我らが王!

そんな彼に私もキャッキャウフフな――

 

 

 

 

――――――――――

しばらくお待ちください

――――――――――

 

 

 

 

――はっ!

いけない、つい彼との桃色展開を想像して逝ってしまうところでした。

話を戻しますと、今日、女子寮にある噂が流れました。

後々、外へと出れば男子生徒も彼を探し回っていたので、おそらく生徒全員に流されたのでしょう。

それの内容と言うのが……――

 

「今日の午後、3時までにリュラン先生を捕まえ、中等部の学長室へと連れて行けば、自らの願いが叶う」

 

というものでした。

最初はあまり信用できるものではありませんでしたが、麻帆良のパパラッチという異名を持つ新聞委員、朝倉和美からの驚きの真実が皆に知らされました。

彼女曰く、

 

『学園長より、この噂の真偽を確認し、学園長自らこれを公認』

『捕まえることができた生徒は学園長権限で必ず実行して見せる』

 

だそうです。

これを聞いた瞬間、皆の目の色が変わりましたね。

あれはただの人ではなく、獲物を見つけた狩人が目つき。

もちろん、私もそのうちの一人ですが。

とにかく、3時までに捕まえれば愛しきリュラン様の寵愛を受けることができるかもしれない!!!

そのためならば……ふふふ、誰であろうと容赦はしない!!

 

そう思って私も普段部活で使用する竹刀を持って散策に出たのですが、辺りには噂を聞いて同じ考えを持った生徒がわんさか……。

くっ、これでは見つけるのは難しいか、と思っていた私でしたが……。

 

『ビクッ』

 

急に住宅街のすぐ側にある、繁華街の裏側から何かとんでもない感覚が私と近くにいた生徒全員に圧し掛かりました。

これほどの感覚…私はいままでこの学園で生活してきて経験したことのないものでした。

似たような物に例えるとすれば…試合で自分も相手も放つ闘気…でしょうか。

そんなあやふやな、それでいて凶悪とも思えるこの何かの感覚を受け、次々に脱落者が発生しています。

このままではこの感覚を放つ相手と戦う前から戦線離脱してしまい、全滅してしまう。

何とか耐え、こんな感覚を放てる相手の顔だけでもと思い、1番感覚の密度の濃い場所と思われる近くの建物の影から顔を出す。

すると、道路に無造作に散らばって倒れている大量の女子学生の死骸(?)とその中央に君臨する覇王が……。

というか、信じられないの一言に尽きる。

そして……彼の姿を認めた瞬間、頭の中には警鐘が鳴り始める。

 

『アレは危険だと』

 

アレには絶対敵わない…。

試合でも経験したことのない感情が現れ、何も考えられずに走り逃げようとすると――

 

「……逃がさん」

 

「!?」

 

急に先程まで私達が探し回っていた獲物――リュラン先生がぼそりと呟いたかと思うとこちらに向かって加速してきた!!

どう考えても逃げられない。

逃走を捨て、慌てて自分の得物を構えるが、リュラン先生の方が私が構えるより速く懐への接近を許してしまい――

 

「ぐっ!」

 

反応できなかった。

私は己の未熟さと、リュラン先生の新たな一面を記憶にしまい込んだあと、意識が消えた。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

薙刀を駆使して中々頑張る女子学生を捕獲し、拷問――ではなくこしょぐりの刑を行って得た事実。

それは俺の怒りを爆発させるに十分な話であった。

…あんの妖怪ッ……コロシテヤル。

近寄る生徒を瞬殺、再び近寄る生徒を瞬殺…と繰り返しているうちに、いつの間にか辺りには気絶した生徒の無残な山ができていたが気にしない。

ここの生徒は人間離れしている奴が多いからな。

明日には問題なく、元気に登校してくるだろう。

ともかく、問題は妖怪だ。

勝手に俺を景品にするとは……――

 

「ということで、もう1回死ね」

 

「ちょ、ぎゃあああぁぁぁぁぁ……」

 

学長室で高笑いしていた妖怪の首根っこを掴み、フルボッコにする。

ようやく気持ちが落ち着いた時には妖怪の原型はなく、辺りは血が飛び散っていた。

……ふぅ、疲れたな。

 

「リュラン様。お疲れのご様子ですが、大丈夫ですか?」

 

「ああ、疲れただけだ。問題ない」

 

麻帆良学園敷地内の到る所に生徒の山が築かれているがスルー推奨だ。

見たところで、無視すれば問題ない。

もちろん、山が築かれる一帯では多数の悲鳴が聞こえたため、安全を願う生徒は近づかないだろう。

…まぁ、近づいたら俺の分身が即座に意識を奪うべく活動を再開するだろうが。

 

ところで、俺に近づいてきたのはメイドさん。

意識を奪わなくて良いのかと聞かれそうだが、彼女は別だ。

昔、詠春のところで見かけた見習いメイドさんだ。

今は、影ながら近衛の生活を見守るグループの一員だ。

…ちなみに、メイドさんだけあって家事の一切を難なくこなす。

昔は、詠春の家は京都だから巫女じゃないのか聞いたのだが、巫女よりメイドが良いらしい。

理由は知らん。

 

「そうですか…そういえば、学園長の話は聞きましたか?」

 

「いや、聞いてない。聞く前に何度も潰したからな」

 

「あらあら…今日、お嬢様がお見合いなのです」

 

コレと指で目の前の血塗れの肉塊を示すメイドさん。

シュールな光景だが、俺も関与しているのでスルー。

 

「お嬢様…近衛の事か。…全く、いくら近衛家次期跡取りとはいえ、中学生にお見合いなどさせるべきではないだろう。何を考えているんだ。相手の顔が見たいものだ」

 

「?お相手はあなた様ですよ?」

 

「…え?」

 

「え?」

 

『……』

 

顔を見合わせて固まる2人。

…お見合いの相手が俺…だと…!?

…いやいや、さすがにダメだろ。

いくら見た目は問題ないとしても、現実に裏の大戦から生きているのだから単純に30歳以上なのは分かるだろうし、本当の歳を知れば、一体全体何歳差のカップルだと突っ込まれそうだ。

 

そもそもだ、俺と近衛では立場が色々とマズイ。

俺自身、有名な経歴だけ言えば元王国騎士団団長と魔法界の英雄だ。

隠してある事実も含めれば、その影響力は表裏を問わず、世界各国に何らかの効力を及ぼすこともできるだろう。

いくら関西呪術教会の長の娘で、関東魔法教会の長の孫とはいえ、世間がそれを許さないだろうに……。

 

「…どうやら本当に知らなかったのですね。ですが問題ありません。この件に関しては私どもで処置いたしましたので、あなた様には影響ありません。…しかし、問題はお嬢様なのです」

 

「…何かあったのか?」

 

「はい。護衛に付けていたSP達の監視の目を見事に欺き、逃走したようです。現在はどこへ逃走しているのか不明です」

 

「…何人監視していたのか知らんが…さすがだな」

 

「毎度毎度嫌になるとお話しされていましたから。それに、逃走自体はこれが初めてではありませんし」

 

ご無事でしょうか、とため息を吐くメイドさん。

…ふと考える。

顔を知っていたとはいえ、見たのはおよそ9年ほど前だ。

その時も同じメイド服に身を包み、同じようにため息をついていた。

その外見は……一部を除いて変化していない。

……え、歳は――

 

「(キュピーン)今、歳の事を聞きましたか?」

 

「いや、聞いてないが」

 

「そうですか、私の気のせいですね。…では、腹いせということでコレに当たっておきましょう」

 

メイドとは思えぬ脚力で妖怪のなれの果てを蹴り続ける彼女。

……彼女を取り巻く覇気が凄いのだが、本当に何者なのだろうか。

戦闘になったら、どれくらいの被害が出るのか考えたくないな。

 

「ふぅ、すっきりしました。…とりあえず、お嬢様を探して頂いてもよろしいでしょうか?いくら学園内が安全とはいえ、女性が1人であれば襲おうと考える屑は存在しますから」

 

「ああ、了解した」

 

メイド服を血で染めるメイドさんに別れを告げて、近衛を探すために世界樹の上へ転移する。

視力を強化し、学内の隅から隅までを見渡す。

すると、中等部の建物から着物姿の女性の姿を発見した。

…化粧をしているが、あれは近衛だろう。

存外、近くにいたのかと一息つき、先程近衛を見つけた地点よりある程度進んだ地点へと転移する。

 

数秒後、予想通りの場所へ着地する。

先程見えた近衛の目線と地図を思い浮かべ、おそらくここを通過するはずだと踏まえた上での選択だ。

待つこと数分…遠くの通路から近衛が着物姿で姿を現した。

今ではあまり着ることのない着物と下駄のせいか、とても走りにくそうだ…と、一見した感想はどうでもいいから、今は近衛の確保を優先しよう。

 

「近衛」

 

「ありゃ~リュラン先生やんか~。どうかしたん?」

 

「…お前を確保するよう依頼された」

 

「えっ…そうなんや…」

 

俺の言葉を聞いて物凄いショックを受けたかのように――いや、実際にショックを受けたのだろう。

沈みきった近衛の顔は、逃走への諦めと共に、今にも泣きそうなほど目が潤んでいる。

…そんな顔をされると見てる俺が心苦しい。

…あのメイドさんからは探してきて欲しいと頼まれただけだ。

何時までに見つけろとは聞かされていない。

……寮の点呼時刻までに部屋へ送り届ければ大丈夫だろう。

 

「そのような表情をするな。…身の上の話は聞いた。お見合いが嫌で抜け出したのだろう?」

 

「そうなんやけど…リュラン先生は連れ戻すために来たんやろ?」

 

「もちろん、そのつもりだが…何時までに連れ戻せとは聞かされていない。ならば、少しぐらいゆっくりしてもいいだろう?」

 

「……えへへ。やっぱリュラン先生は良い人や。ウチを見つけたんがリュラン先生でほんま良かったえ」

 

零れそうだった涙を拭いながら、嬉しそうに笑う近衛。

ふふ、やはり近衛には笑顔が良く似合う。

 

「もちろん、お見合いそのものについても反対だがな。近衛はまだ若い。いくら名家の跡取りとはいえ、まだ急に決める必要はないだろう。もしかすれば、良い恋を見つけるかもしれん。その時は、しっかりと父親を説得するといい」

 

「…ありがとな。リュラン先生も反対してくれるならウチ、元気でそうやわ」

 

どうやら元気になったようだ。

さて、これからはどう見つからないように逃げるかを考えねばな。

 

「木乃香さまー!?」

 

「どこですかー!?」

 

む、遠くから近衛を呼ぶ声が聞こえる。

おそらく護衛のSP達だろう。

……済まない、今はまだ彼女を渡すわけにはいかない。

 

「あっ、アカン!はよ逃げな!」

 

「掴まれ。その姿では走れないのだろう?」

 

「えっ……うん」

 

頷いた近衛を抱き上げ、SPに見つかる前に一気に加速する。

どこへ行くか考えていなかったが、ふと頭に浮かんだのが先程まで居た世界樹の頂上。

あそこならば常人には近寄れない。

目的地に向けて、さらに加速した。

 

 

 

 

「わぁ~こんな綺麗やったんか~」

 

「あぁ、この時間帯の此処からの眺めは最高だ。学園内1番と言っても過言ではないだろう」

 

世界樹の根元まで走り、幹を駆け上がる。

こんな登り方は絶対に経験したことがないだろう近衛は、俺に抱きつきながら段々と小さくなる広場を見て、笑いながら喜んでいた。

そして、世界樹の葉を避けて、頂上に辿り着く。

そこからの景色は、何度見ても素晴らしいと思う。

簡単に登れないのが残念だ。

 

「この木、ウチじゃ登れへんから此処まで来たことないんよ。だから、リュラン先生ありがとな」

 

「どう致しまして、だ。良い経験になったのなら良かった」

 

「……」

 

「…?どうかしたのか?」

 

急に呆けた近衛を見て、何かあったのかと考える。

だが、すぐに動きだして何を思ったのか、頬に手を当てて微笑んだ。

 

「いややわ~。今のリュラン先生の表情、カッコよ過ぎて惚れそうやわ~」

 

「くくっ、それはそれは光栄だ。…だが、惚れるのは構わんが、捕まえるのは一苦労だぞ?」

 

「えへへ。ウチはしつこいで~」

 

「ふっ、そうか。…そろそろ帰るとしよう。この時間であればもう大丈夫だろう」

 

景色に見とれ、近衛と話している間に空が茜色に染まりつつある。

水平戦場へと沈む夕日がとても輝いている。

…しかし、いくら春先とはいえ、これ以上此処にいるとなると肌寒くなってくる。

生徒に風邪を引かせるなど、あってはならないからな。

早めに寮へ送るとしよう。

 

「そやね。ほな、リュラン先生。ありがとな」

 

「あぁ。では、また明日教室で会おう」

 

近衛を部屋まで見送り、自分の部屋へと戻って来た。

…ようやく1日が終わった。

昼間で寝るつもりだったがすでに夕方。

数時間の運動の疲れを取るため、今日は俺の魔法球で寝るとしよう。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

【side 近衛】

 

リュラン先生がウチを部屋まで送ってくれた後、電話が鳴った。

相手はいつもウチとよく話すメイドさん。

内容は今日のお見合いについてやった。

最初は逃げたんがやっぱ問題があったんかと心配したんやけど……話を聞いとると、どうやらウチにとっても良い方向に話が動いたみたいや。

 

「じゃあ、これからはお見合いしいへんでもいいん?」

 

「はい。これ以後、お嬢様にお見合いの話が行きましたら、私及び巫女従者総勢200名が元凶を成敗いたします故、ご安心ください」

 

ほえ~巫女従者なんて人が200人もいるんや~。

あんま気にせえへんかったからわからへんかったわ。

 

「ん~そういえば、お見合いの相手って誰やったん?」

 

「……リュラン様です。最も、御本人の了承を得ぬままお見合いの段取りを決定していたらしく、リュラン様と私どもから直接、首謀者に制裁を課しましたが」

 

…お見合いの相手がリュラン先生……。

 

――はわわわわっ!?

 

ふと、お見合い会場でウチとリュラン先生がにこにこ笑うとる姿思い浮かべたらウチの頭がかっかしてきた。

もちろん、ウチのほっぺも熱い。

それに多分、今のウチの顔は真っ赤やろなぁ~。

ふぇぇ…でも、それにしても……。

 

「リュラン先生やったらお見合いしても良かったのに…」

 

お見合いから逃げ出して、リュラン先生に助けてもろうて、今日という日がようやく終わってから後悔したウチやった。

にしても、相手を知らんかったとはいえ、あないずっとお見合い相手と話とったんか…。

明日リュラン先生と会ったらどない顔で会えばいいんやろぉ~…。

 

明日どう会えば良いのか。

それに悩み、頭を抱えながら布団を寝転がるこのかが寝れるのは何時の事やらや。

なお、部屋に戻ったアスナが布団で転げまわっているこのかを見て、少し引いていたのは内緒の話。

 

 

 

 

∽to be continue∽

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