―――――【第45話 卒業課題】―――――
――まず、この話は数日前に戻る。
学園内に設置された教会の鐘の音が鳴り響く。
授業を終えた生徒たちが帰宅していく中、1人の少年が顔を少々俯かせて道路を歩いていた。
彼の名はネギ・スプリングフィールド。
1か月ほど前、母国イギリスにある魔法学校を卒業した彼は、真の魔法使いとなるべく卒業後の修業として先生になる事を告げられた10歳の少年だ。
そして数日前、故郷を離れ、此処麻帆良学園へとやって来た。
様々な困惑と再開を果たし、昨日教師としての初授業に臨んだ。
だが、現実は厳しさを極めた。
知識として大学レベルまでの学術を身につけた彼であったが、それはあくまで知識の話。
実際の場という物を知らなかった彼は、他愛のない言葉によって厳しく叱られてしまった。
しかも、その理由というのが、本来なら自分が護るべき生徒を自分自ら言葉で傷つけるという最低な行為によって。
その時こそ、何故叱られたのか分からず、指導を行った自分の上司であるアルタメシア先生に文句を言ってしまったが、理由を聞けば頭の良い彼は十全に理解した。
時間が経てば経つほど自分が仕出かした愚かな行為を悔やみ、ため息をつく。
授業中、言葉で傷つけてしまった生徒である神楽坂からは謝った直後、許しの言葉を頂いており、自分を指導したアルタメシア先生からも簡単な注意という形でこの件は締められた。
だが、自分が納得できない。
また、自分は無意識のうちに誰かを傷つけてしまうのではないかと恐れるあまりに。
そればかり考えて昨日今日を過ごしてしまった。
授業中こそ考えずにいられたが、それでも心のどこかで怯えながら行っていたように思える。
再びため息をつく。
そしてふと、顔を上げてみれば、彼はとある噴水広場にまで来ていたようだ。
どう歩いてここまで来たのかなど覚えても居ない。
どうやら、精神的にものすごく参っているようだ。
広間の近くにある階段に腰をおろし、頭を抱えてどうすればいいかを悩む。
最も、そんなすぐに解決策が見つかるのであればこれほど苦労していない。
あまり悩み過ぎていても駄目かもしれない。
そう考えた彼は、顔を上げ、大きく背伸び。
そして、目の前の階段の上を歩く人物に注目した。
「ん?…あれ…あれは27番の宮崎のどかさん…。たくさん本を持って、危ないなあ」
建物にして2階ほどもある高い階段の上を、フラフラと歩いている姿が確認できた。
どうやら、前が見えない程高く積み上げた本を持っているためのようだ。
正直、危ないと考えた。
そして、その考えは的中した。
「あっ」
突然身体のバランスを崩し、階段横へと身体が投げ出された。
地面まではかなりの距離がある。
そのまま落ちてしまえば軽い怪我では済まないだろう。
彼は迷わず、包帯を巻いて偽装してあった杖を手に取り、どんどん落ちていく宮崎の周辺に吹く風を魔法で操り、宮崎が地面に激突するのを防ごうとする。
だが、魔法を使う直前、彼女の身体を支える者が現れた。
「大丈夫か」
先程までは影すら見えなかったのだが…声と同時に、先程まで彼が悩む原因を作ったリュランが地面に落ちる寸前で宮崎を受け止めていた。
自分が助けずとも、怪我がなくてよかった。
自分の受け持つクラスの生徒が怪我しなかったという事実に夢中になり、彼は完全に油断していた。
杖を取りだした瞬間を目撃し、何か思う事があったのか、彼の背後からどんどん近づいてくる神楽坂の存在に彼は気が付いていなかった。
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「大丈夫か」
俺は目の前に落ちてきた宮崎を受けとめ、怪我はないかと頭や膝、足などを確認する。
…どうやら足首を捻挫して体のバランスを崩したようで、左足首が少しだけ腫れ上がっていた。
「あー、リュランせんせー。ありがとうございますー」
間延びした返事を返す宮崎を見て、精神面は問題ないと判断した。
周囲を見渡すが、運んでいたのであろう本が散乱している。
数を数え、ため息をつく。
「全く、去年といい今といい…。どう見てもあの量は持ち運ぶのはきついだろうに。おそらく、視界が隠れていたんだろう?無茶はするなと常々言っているだろう」
「えへへ、そうですねー。リュランせんせーには助けられてばっかりですー」
真っ赤になりながらも、はにかみながら笑顔でお礼を言う宮崎。
昔は前髪で顔を隠していたが、最近は何か切っ掛けがあったのか、前髪を上げていて、顔が良く見える。
就任当初から俺に対しておどおどしていた様子を見せていたが、最近は段々としっかりとした一面を見せてきた……のだが、まだ無理のようだ。
…元々、普段は物静かだから、あまり話す機会はないが…。
「生徒を助けるのは俺たち教師の使命だ。当然の事をしたまでだよ。…見たところ、左足を挫いているようだ。保健室まで送ろう」
「え?あ、あの、その、だ、大丈夫ですー」
「遠慮するな。少しとはいえ、歩くのはつらいだろう。運んでやろう」
「え?こ、このままの体勢でですか!?」
「俺に運ばれて嫌かもしれんが、そこは我慢してくれ」
「は、はぅ~…」
俺は足首を捻挫した宮崎を抱きかかえて保健室へ向かう。
先程、後ろにいた野菜坊主のさらに後ろにいた神楽坂が野菜坊主連れ去って行く姿が見えた。
…野菜坊主が手に持っていた杖を見て、おそらく魔法の存在に気づいてしまったんだろう。
昔から、勘の鋭い子だったからな。
しかし、このまま鳴り行きで流してしまうのは厄介だからな。
…とりあえず、分身に見張らせるか。
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本体が宮崎を保健室へと運んでいる頃。
分身が野菜坊主の魔力の気配を元に、そちらへと向かってみると、そこには野菜坊主を振り回す神楽坂の姿があった。
おい、そんなに人通りの多い場所ではないが、大声で超能力やら魔法やらと叫ぶな。
誰かに気付かれてさらに事態を大きくする可能性があるだろうが。
「秘密を知られたからには記憶を消させていただきます!」
「ええっ!」
「ちょっとパーになるかもですが、許してくださいね。」
「いやーッ!?ちょっと待ってーっ!!」
「全くだ。何を考えてそのような危ない言葉を生徒に向かって発しているつもりだ?」
膨大な魔力を放ちながら呪文を唱え始めた野菜坊主に対し、拳骨1発。
不意打ちとはいえ、攻撃を受けた事に対して呪文がキャンセルされ、魔力が空気中へと霧散していく。
そして野菜坊主本人は頭を押さえ、痛がっている。
「このようなところで一体何の騒ぎだ。野菜坊主、昨日あれほど注意したにも関わらず再び騒ぎを起こすとは…もう1度指導が必要かな?」
ため息をつきながら仁王立ち。
とりあえず、神楽坂を護る様に背中の方へと引き寄せた。
「リュ、リュラン先生!き、聞いてください!この子供、魔法とか、記憶を消すとか、えっと、えっと…とにかく物騒な事ばかり言ってます!助けてください!!」
「あぅ~、ア、アスナさん!それ以上は、止めてください~!」
現状された事を報告する神楽坂と何とか話を止めようと動いた野菜坊主が再び絡み合い、地面を転がる。
神楽坂と野菜坊主の間に立った筈なのだが、何時の間に後ろへと移動したのだろうか。
色々と呆れてため息をつくと、後ろから誰かが近づいてくるのを確認する。
「タカミチか」
「リュランさんが魔法使いなのは隠しているので、一応、僕が現場責任者としてフォローも兼ねて見守っていたんですけど。いや~、あれほど堂々と魔法を使おうとするとは思いませんでした。その理由が人を助けるためだったことが唯一の救いですかね」
「魔法の隠蔽はどこへやらといった感じだな。さすが穴だらけの教育を施すメガロだ。秘匿秘匿と自分たちが謳い上げる割にざるのような体制だな。…さて、この件についてはタカミチ。お前から妖怪に報告しろ。俺も報告書を提出するつもりだが、それだけでは揉み消される可能性が高い。そこにお前が報告すれば、揉み消される可能性はなくなる。…もしもお前の報告と俺の報告の両方を揉み消そうとするならば…奴の信用が消えるだけだからな」
「そうですね。それでは、この場はあなたにお任せします」
妖怪への報告の為、この場を離れるタカミチを横目に見て、再び喧騒の現場を見ると、さらにため息が出てきた。
お互い、服は乱れ、ドロドロとなっている。
どこまで転がればこうなるのだろうか……。
一応、神楽坂は女の子なのだから、もう少しらしくして欲しい。
「いい加減にしろ」
お灸を据えるため、今度は2人に拳骨を落とす。
神楽坂は石頭のためか、ただ痛がっているだけだが、野菜坊主は一瞬にして魂が抜きかけているようだ。
……このまま昇天すれば、俺の負担が減って楽になるのだがな。
「…はっ、僕は一体何を…」
残念ながら、意識を取り戻されたか。
…ともかく、報告書に色々と記載するために突いてみるか。
野菜坊主が来るに当たり、俺は妖怪に対し、野菜坊主には俺の正体を言うなと警告しておいた。
理由として、俺が魔法使いであるとバレれば、名前から魔法界の英雄であることがすぐに分かってしまう。
つまり、父親の戦友であることが。
父親を探すこれにとって、俺という存在は渡りに船という状況だろう。
だが、たかが父親の情報を聞きたいがために付き纏われるのも面倒だ。
故に、俺は正体を隠した。
さらに、念には念を入れて、世界でも最高レベルの認識阻害を野菜に掛けたからバレる心配は皆無だろう。
つまり、野菜坊主から見て、今の俺は魔法を知らない一般教師ということになっているわけだ。
「神楽坂。まずはその恰好を整えろ。何があったのか疑われる。…そして、先程の魔法という言葉や記憶を消すという言葉は俺としても神経を疑う言葉だ。神楽坂を疑うわけではないが、突拍子もない言葉はあまり信用できない。お前の話は後日、改めて場を設けて聞こう。だから今日は帰りたまえ」
「そ、そうですよね。わ、私も気が動転してたのかもしれません。記憶を消すのはともかく、魔法なんてないですもんね。え、えっと、ここはよろしくお願いします」
えへへ、と苦笑いの神楽坂。
服装を整え、暴れる際に落としたのだろう、鞄を拾う。
そして、最後に野菜坊主に対し、恨みの籠もった睨みを利かせるとはにかみながら去って行った。
残ったのは、俺と俺の事を一般教師としか知らない野菜坊主。
…さて、脅してみるか。
「さて、野菜坊主…君は一体、何をしていた」
「ぼ、僕は…」
「先程、神楽坂から聞いた妙な言葉。…たしか、『魔法』と言っていたな」
「(ビクッ)」
わざとにも思えるほど大きく身体を揺らした。
…正直すぎるな。
これだから魔法がすぐにバレるのだ。
「今の時代に、摩訶不思議の魔法か…。妄想も度が過ぎれば変質者と扱われると俺は考えるのだが、君はそうは思わないか?」
「い、いえ…そうですね…アハハ…」
盛大に口元を引き攣らせながら笑う野菜坊主。
笑う余裕があるようには思えないが、何とかなるとでも思っているのか?
「では、このことは学園長に報告しておこう。いくら教育実習生といえども、生徒に自分の妄想を吹き込もうとする変質者とあっては、早急に退職してもらわねば」
「えぇ!?い、いや、あの、その、えっと…た、多分、リュラン先生の聞き間違えですよ!だから気にしなくても大丈夫です!」
「俺は神楽坂からの又聞きでしか聞いていないのだから聞き間違えはあるまい。そして、神楽坂があの状況下で嘘を付くとも思わん」
「た、多分強烈な風が吹いたのを僕のせいだと勘違いしたんだと思いますよ!ぼ、僕、教師になる前は魔法使いに憧れていまして!この杖を持っているのもそれが影響してまして…。先生が助けた宮崎さんが地面にぶつからないように風よ吹けって杖を振りながらお願いしていただけですよ!だから、少しだけ魔法使いに憧れた僕の行動がアスナさんには奇妙に映っただけですよ!」
お、おぉう。
必死に杖を振り回しながら弁解してる。
魔法がバレるよりかは自分が魔法使いに憧れた少年である事を強調して今回の事は勘違いだと思わせたいのが見え見えだ。
…はぁ、アホらしい。
「はぁ。もういい。とりあえず、お前が魔法使いに憧れるガキであると報告しておこう。まぁ、この学園の長も妖怪だからな。少々残念なガキであっても許してくれるだろうよ」
「あ、はい。それでは、失礼します」
何とかやり過ごせたと感じたのか、安心して笑顔になる野菜坊主。
根本的に何か緩い気がするのは気のせいか。
まぁ、今回の件ではっきりしたのはメガロの教育方針は色々とおかしいということぐらいか。
記憶に関する取り扱いや魔法の秘匿の重要性、教える魔法…俺が遥か昔に見た学校とはまるで違う。
これだから「近年、年を進むにつれて、魔法使いの質が落ちている」と雑誌に叩かれるんだ。
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そして、野菜坊主が来て数週間後。
今年も遂に来てしまったようだ…。
そう、今年もあの白い悪魔が上陸してきた…。
そいつの名は……――
『END OF TERM TEST』
つまり、期末テストのことだ。
クラスの底辺の底上げ、各自の得意科目を伸ばし、苦手科目を克服させ、どうにか2学期のクラス順位は13位。
このまま各自が頑張れば、学年トップも夢じゃないと雪広が燃えていた。
まぁ、2-Aはトップ5が3人いるし、元々上位を狙えそうな構成だったからな…。
下が伸びれば全体が上がるのも当然の理。
……まぁ、大体の者が俺のご褒美を楽しみにしている雰囲気があるのが残念だが。
少しだけ内容を紹介すると、高級デザートだったり、膝枕だったり、俺の手料理だったり…。
こんなのが嬉しいのかと思わず首を傾げてしまう要望もあったが、概ね了承している。
これぐらいでやる気を出して勉学に励むのであれば、何らかの形で将来に役立つと信じている。
…おっと、そういえば、この期末テストで野菜坊主は正式な教師になるかどうかが決まった筈だ。
記憶では最下位脱出が課題だった気がするが、この場合はどうなるのか。
教師としての仕事に関する課題になるだろうと予測するが、何が来ることやら…。
まぁ、俺には関係のない話だ。
そう、思っていた時期もあった。
「…もう1度、聞いても良いか?」
「もちろんじゃ。今回、もしもネギ君が課題をクリアできなかった場合は、担任として副担任のネギ君を導けなかったとしてネギ君ともどもクビになってもらうこととなったのじゃ。分かったかな?」
まさか、こんな状況に発展しようとは。
口が引き攣っているのが分かる。
理不尽すぎるし、俺は関係ないだろう。
…まぁ、課題の内容は分からないが、これで1つはっきりした。
「…じゃ、俺は荷物整理があるんで失礼します」
「フォーッ!?待て、待つんじゃ!もう諦めるのか!?さすがに早すぎるじゃろ!?」
「どんな課題内容か知らんが、あの野菜坊主がやり遂げられるとは思えん。…最も、貴様の事だ、どんな結果になろうと裏で細工すると思っているが」
「…な、何の話かの?」
俺の言葉にたらたらと汗を流し始める妖怪。
怪しさ満点の態度だな。
これぐらいあっさり見抜けるのなら、警察はいらないな。
「図書館島、魔法書」
「うぐっ…」
「ということで、俺は何もしない。元々、俺はタカミチの強い要望でここに来たんだ。今の2-Aの生徒を中心にこの学園の生徒にも強い思い入れはあるが、俺にもやるべきことがある。…ま、俺をクビにしたところで、困るのはお前だけだ」
「…はぁ。少しぐらい協力してくれても罰は当たらんじゃろうに」
「…最初に言った筈だ。俺はあの野菜坊主が教師になるのは反対だと。邪魔こそしないが、協力など絶対に行わない」
言いたい事を言い終え、学長室を去る。
あ、課題の内容を聞くのを忘れたが…まぁいいか。
何があっても、世界は動き続けるからな。
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教室へ戻ってくると、廊下にしずなさんと野菜坊主がいた。
しずなさんが深刻な顔で何かを渡している。
…おそらく、あれが課題の内容を書いた紙だろう。
はてさて、何が書いてあった事やら。
表情を観察していると、しずなさんは驚いており、野菜坊主は最初こそ驚いていたが、次第に顔が明るくなった。
「な…なーんだ!簡単そうじゃないですかー、びっくりしたー」
「そ…そう?」
しずなさんが本気で心配していた。
…またもや、口元が引き攣っている気がした。
何が書いてあったのか分からないが、碌なことではないな。
俺は、本気で古巣へと帰る準備をしようと思った。
そして、その日の午後。
野菜坊主の担当するHRの時間だ。
さすがに危機感はあるのか、勉強会をやるらしい。
「えっとですねっ。今回の期末テストにおけるウチのクラスの学年順位によっては、色々と大変なことになるので~。みなさん、がんばって猛勉強していきましょ~!」
…何を書かれていたのか無償に気になる。
……いや、見たら負けな気がする。
とりあえず、そんな直線的に自分の危機をクラスに説明するな。
いくら主語がないとはいえ、突然そんなことを言われたらテストどころじゃなくなるかもしれんだろう。
「はーい!提案提案!」
「はい!桜子さん」
「では!!お題は『英単語野球拳』がいーと思いまーすっ!!」
立って見ていたため、ずっこけた。
おい、何を提案している。
ついでに周りも賛成するな。
野菜坊主よ、すぐさま、否定の言葉を…。
待てよ、奴は外国生まれだから、意味が分からない可能性もあるのか…?ものすごく、嫌な予感がする。
「じゃあ、それでいきましょう」
「いや、却下だろう!」
野菜坊主の賛成の直後に俺の却下で野球拳賛成派がぶぅぶぅ文句を言い始める。
だが、今回は認めるわけにはいかんだろう。
「いや、普通に考えて野球拳など認められないだろう。ここは公共の場だ。さらに、生徒たちの道徳を養う場でもある。それを真っ向から無視する提案など、駄目だ」
俺の当たり前の言葉に対して、やはり何も言い返せない椎名率いる賛成派。
予想通りの反応に安心する。
「ま、待ってください!せっかく皆さんから自主的な提案があったわけですから、やってみたいと思います!!今日は僕がHRの担当ですし、リュラン先生は見ていてください。お願いします!」
…野菜の反応に関しては予想できなかった。
いくら生徒の提案だからとはいえ、自分が頭を下げてまでやりたいとは…。
絶対にルールを知っていたら拒否するのにな…。
「し、しかしネギ先生?さすがに野球拳は不味いのでは…?」
うむ。
クラスの常識人、雪広あやか。
安定の発言だな。
…そういえば、最近野菜坊主を見る目が普通なのは何故だろうか。
確か、ショタコンだった気が…?
「だ、大丈夫です!なんとか行けますよ!」
…大丈夫だとは思わないがな~…。
ため息をつき、予想できる未来を考え、教室を出て行こうとする。
「おい。どこへ行くんだ?」
「…野球拳をやるのならば、俺がここにいてはマズイだろう。職員室で作成したテストの確認でもするつもりだ」
「…止めないのか?」
「構わん。指導教員である俺に対し、頭を下げてまで希望したんだ。自分が言い出した事だ、責任は自分で取らせる」
「そうか。ならば、私もこんなくだらない事に時間を削らず、さっさと帰るとしよう。茶々丸、行くぞ」
「はい、マスター」
「私達も行かないか、刹那?」
「そうですね。このちゃん、帰ろう?」
「帰るん、せっちゃん?ん~、そやな。せっちゃん、たっちゃん、ウチの部屋で一緒に勉強しよか?」
「うん、分かった」
「私もか?…そうだな、御一緒しようか」
エヴァンジェリンは従者である茶々丸と、真名は刹那を誘い、その刹那が近衛を誘った。
そして、当の近衛は自分の部屋での勉強会を2人に提案し、2人は了承したようだ。
…何時の間に仲良くなったと思われるかもしれないが、これは刹那と近衛が仲が良かった事に起因する。
…別に悪い事ではないが、俺の部屋を訪れる2人にたまたま勉強の面倒を見ていたところ、刹那を探しに来た近衛が俺の部屋へと訪れたわけだ。
そこで、俺は近衛に2人の勉強の先生になるよう頼んだわけだ。
元々仲の良かった刹那と近衛とは違い、真名と近衛はほとんど話した事のない間柄だ。
どうなるか楽しみだったが、さすがは近衛といったところか。
数時間もすれば、普通に話す間柄にまでなり、日常生活でも結構話している姿を目撃している。
クラスでも稀にみる真名の優しい面を見る事が出来る瞬間でもある。
「近衛と勉強するならば問題ないな。近衛はともかく、2人はしっかりと勉強しろよ。せっかく順位も上がって来たんだ。この調子を維持して頑張れよ」
ひらひらと手を振り、2人の頑張りを応援する。
後々近衛に聞いたところ、効果はばっちりだったようだ。
その後、隣のクラスの担当である新田先生が騒ぐ2-Aを見に来て激怒したようだ。
その場に居た生徒全員に対し、自らの教科である数学の特別課題を。
俺が居ないことに気づいた新田先生は、その場の責任者である野菜坊主に1時間にも及ぶ説教をしたと本人から先程説明を受けた。
俺が居なかったことについては、野菜坊主が話した内容をそのまま話し、職員室でテストの確認をしていたことを説明したらすぐに理解してくれた。
さすが新田先生、よくわかっていらっしゃる。
その夜――
俺は新田先生と瀬流彦、タカミチと共に飲んだ。
かなりの量を飲んだが、俺にアルコールは作用しない事が分かっているので何ともない。
逆に、タカミチと瀬流彦は――
「さ、さすがですね…リュランさん…」
「あははー。星が回ってるー?」
「せ、瀬流彦君!?大丈夫かね!?」
「この程度でグロッキーとは…情けないぞ、タカミチ」
まず初めに瀬流彦がぶっ倒れ、続いてタカミチもダウンした。
それからさらに1時間。
最初と全く変わらない素面のように飲み続ける俺と赤くなりつつも、どんどん飲み続ける新田先生だけが最近の学園について色々と語りながら飲み続けていた。
∽to be continue∽