―――――【第46話 図書館島の怪】―――――
野球拳をやっていて新田先生に怒られたその日の夜。
女子寮の大浴場では、2-Aの面々が集まり、騒いでいた。
その内容は、HRで野菜坊主が話した『色々と大変な事』についてだ。
クラス中で様々な音速が飛び交い、噂が噂を呼んだ。
結果、1番有力となった噂がこれである。
――各教科の成績不振者の小学生からのやり直し、である。
現実に考えてありえない話なのだが、浴場でその噂について話すのが近衛であること、その近衛が学園長の孫であり、そこから真実のようなそうでないような話を聞いてしまったから真実味が増してしまったのである。
――それが、学園長の罠である事を知らずに。
もちろん、リュランの努力とご褒美の甲斐あってか、ある程度の点数は取れるようになった2-Aの元バカレンジャーの面々であるが、それでも苦手な科目に関してはトコトン悪い傾向にある。
そして、今回の噂の嫌らしいところはそこだ。
成績不振者だけであれば、全体順位の低い者だろうと考えられるが、各教科(・・・)の成績不振者であれば、彼女たちは引っ掛かる可能性があるのだ。
綾瀬は家庭科、神楽坂は英語、古は国語、佐々木は社会、長瀬は音楽がそれぞれ最底辺に近い点数なのである。
それを知っている彼女たちは、猛烈に焦った。
だからこそ、この話に耳を傾けてしまった。
「『図書館島』は知っていますよね?我が図書館探検部の活動の場ですが…」
「う、うん」
「一応ね。あの湖に浮いてるでっかい建物でしょ?結構危険なところって聞くけど…」
「実はその図書館島の深部に――読めば頭が良くなるという『魔法の本』があるらしいのです」
『(ま、魔法!?)(抹茶コーラ!?)』
若干1名、驚く観点が違っていたが、とりあえず皆がその話に注視した。
嘘にも思えるその話を。
「まぁ、大方出来のいい参考書の類とは思うのですが…。それでも手に入れば強力な武器になります」
そんなことはないと否定する面々達。
しかし、少しばかりとはいえ、神楽坂は先日、その端に触れかけているのだ。
リュランは否定したが、初日に野菜坊主と接してから次々に起きた不可解な出来事と魔法という単語は切って切れぬ関係にあると、神楽坂は内心確信していた。
それゆえ、まさかとは思うが、ある可能性も否定できなかった。
「――行こう!!図書館島へ!!」
普段の神楽坂とはまるで違った発言に驚く面々だが、魔法の本にも興味が尽きないのだろう。
特に気にすることなく、図書館島までの行き方やその後の侵入経路の決定などといった段取りを決めてゆく。
ここがどこかの廊下や部屋であれば気づいていたかもしれない。
しかし、運命は残酷で…リュランの立ち居ることのできない、風呂場での密談であった。
たった少しの運命が…この後の彼女達に大きな悲劇を生むこととなる。
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「この裏手に私たち、図書館探検部しか知らない秘密の入り口があるです」
先導するのは図書館探検部である元バカブラック・綾瀬夕映。
それに続くのは、元バカレッド・神楽坂明日菜に元バカイエロー・古菲、元バカブルー・長瀬楓に元バカピンク・佐々木まき絵の5人。
さらに後ろに居るのが、図書館探検部の仲間である、宮崎のどか、近衛木乃香、早乙女ハルナの計8人である。
「これが図書館島…」
「でも、大丈夫かなー?下の階は中学生部員立入禁止で危険なトラップとかあるらしいけど…」
「なんで図書館にそんなものが…」
「大丈夫よ!何とかなるわ!!」
「おー!さすが、元バカレッド!言うことが違うねー!」
わいわい騒ぐ彼女達だが、突然、長瀬が後ろを見る。
後方より、何者かが迫ってくることを捉えたのだ。
その人物は――
「待ってくださーい!どこへ行くつもりですかー!!」
パジャマ姿の野菜坊主である。
なぜ自分たちの行動に気がつき、ついて来たのか…。
少しばかり考える彼女たちだが、分かる筈がない。
なぜなら、なぜか寝れず、外の空気を吸うために出てきたところ、彼女達の後ろ姿を見たというのが真相だからである。
とにかく、間が悪い奴である。
しかし、ここで他の先生にバレて魔法の本が手に入らなくなるのは最悪だ。
そう考えた彼女たちは、悪知恵の働く早乙女を始めとして野菜に話を持ちかける。
半分泣き落としだろうという演技は、未だ慣れていない野菜には効果絶大だった。
早乙女の嘘八百の言葉を受け、勝手に感動した野菜坊主はついていくらしい。
不安要素が増えたものの、魔法の本を諦めるわけにはいかず、そしてそもそも小学生に戻りたくないのでそのまま進む元バカレンジャー御一行であった。
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地下3階…中学生部員の降りて来ることのできる最終階である。
しかし、目的の品物はさらに地下深くまで潜った場所にある。
今回ばかりは自分たちも約束を守っていられないと、下へ行くことのできる階段を探す。
その道中で――
「ほらほら、アスナさん。見てください!これなんか、スゴく珍しい本――」
「あ、先生。貴重書狙いの盗掘者を避けるために…」
ビュンッ
「うひゃ!?」
「――ワナがたくさん仕掛けられていますから、気をつけてくださいね。」
「え”え”え”っ!?」
「うそーーっ!?」
「死ぬわよ、それーーッ!!ホンモノ!?」
といった場面もあった。
つまり、罠の場所を知らない者にとっては、まさに命がけの冒険である。
…そもそも、そんなダンジョンを日本の学園に造るなよという話だが。
そこからは、野菜にとって驚きの連続であった。
まずは佐々木まき絵。
そもそも、何故道ではなく本棚の上を歩くことのかについて疑問を感じたが、なぜ、体操に使用するリボンで人間の体重を支えられるのだろうか?
また、コタツに座りながら離れた場所にあるミカンをリボンで取れるのは彼女だけだろう。
次に古菲。
数十キロはあるであろう本棚を蹴り1つで押し返すのはどうかと思う。
野菜は知らないだろうが、ウルティマホラでリュランに敗北以来、毎日来る挑戦者を倒す&リュランに挑み続けた成果なのかもしれない。
さらに長瀬楓。
先程の2次災害で落ちてきた本の雪崩を高速で楽々と受け止め、大量の本を高々積み上げながらもバランスを崩さないのは、さすが忍といったところだろうか。
ちなみに口癖の「~ござる」はどうにかならないのだろうか?
ついでに、何気なく近くにあった本のタイトルを見ると…。
『学園長の秘密~なぜ頭が長いのか?』や『真・乙女だらけの麻帆良学園』、『創造主とは何か』など、良く分からないタイトルから興味が注がれるものまであった。
ちなみに、最後に見つけた本は……――
『誰でも分かる!魔法講座!~入門編~』
野菜坊主はへぇ~と眺めただけで何とも思わなかったようだが……秘匿はどうした…。
その後も数々のアトラクション(?)を乗り越え、ようやく目的の場所へ辿り着く。
そこは――
「す、すす、すごすぎるーっ!?」
「私こーゆーの見たことあるよ!弟のPSで♪」
「ラスボスの間アルーー!」
現れたのは太古を匂わせる石造りの遺跡。
回りに回って図書館の地下にこんな遺跡があること自体、誰かの意思を感じると思うのだが…。
それはともかく、奥の方に見える扉の手前、2体の石造りの騎士の間に安置されているその書物を見て、野菜が気がついた。
「!?あ、あれは!?あれは伝説のメルキセデクの書ですよ!!信じられない!!僕も見るのは初めてです!!」
10歳のガキが何度も見ていたらそれはすでに伝説の代物ではないと思うが。
そんな発言はさておき、野菜の言葉で噂の魔法の本は本物であったと感じた面々は喜び勇んで走り向かう。
ただし、先程、古が言ったように、ここはラスボスの間とも思える最深部。
つまり――
「フォフォフォ…。この本が欲しくば…わしの質問に答えるのじゃーフォフォフォ!」
立ちはだかる敵がいるわけである。
しかし、この声に聞き覚えのある者もいるだろう…。
正解は予想通りの人物である。
そして、期末テストだから狙ったであろう、英単語ツイスター。
まさに茶番である。
だが、それでも彼女たちは必死だ。
出される質問を真面目に考え、身体を動かしていく。
「最後の問題じゃ!『DISH』の日本語訳は?」
頭の良い木乃香からのヒントもあり、これで魔法の本が手に入る。
ただでさえ、無理な体勢であったのだ。
早くこの体勢から解放されたいあまり、手早くボタンを押していく。
そこで悲劇は起きた。
「……おさる?」
アスナと佐々木が押し間違えた。
仕方ないと割り切るには惜しいほどの状況。
彼女たちの周りの空気が固まった瞬間だった。
「ハズレじゃな。フォフォフォ」
ゴーレムの持つハンマーによってツイスターの土台が破壊され、さらなる地底へと落ちて行く元バカレンジャー御一行。
どうでもいいが、金を掛け過ぎな気がするのは気のせいだろうか?
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その頃、教室では。
「な、何ですって!?2-Aが1位にならないとリュラン先生とネギ先生がクビに~~~!?」
驚愕の事実を真実を知る女、椎名桜子から聞かされていた。
ちなみに、これが野菜に言い渡された課題の内容である。
元々素質を持った面々である事を理解していた妖怪が、さらなる発破をかけるために勝手に決めたことである。
ただ、これを知って楽観視出来た野菜坊主は大物なのか、ただの馬鹿なのか…。
「ど、どーしてそんな大事なこと、言わなかったんですの!?桜子さん!」
「あぶぶっ!だって、先生に口止めされてたから―――」
「けど、教育実習生のネギ君はわかるけど、何で正式な教師であるリュラン先生までクビなのかな?」
「学校でも寮でも色々困った時に助けてもらってるよねー?」
「授業も楽しいし、他教科の質問も完璧に答えてくれるし…最高の先生だと思うけど…」
聞かされた真実にクラスの面々が感じたこと。
それは、何故正式な教師であるリュランまでもがクビになるのかという疑問であった。
1年間、担任として、寮の保護者として接してきたから彼女たちも知っている。
彼がどれだけ素晴らしい教師であるかを。
「とにかく皆さん!テストまでちゃんと勉強して絶対1位ですわよ!その辺の普段マジメにやってない方々も!!」
「あーうん」
「今回ばかりは仕方ないなあ…」
「真名、やるぞ」
「当たり前だ。また離れ離れになるのは嫌だ」
「茶々丸。今度のテストは本気で行くぞ」
「了解しました。…誰のためにですか?」
「っ…も、もちろんリュランのために決まっているだろう!」
こういう時の団結力はさすが2-Aと言わざるを得ない。
誰のために、とは言わないが、全員が目標に向かって一致団結することは素晴らしい。
しかし、次の言葉に全員が凍りついた。
「みんなー!大変だよーーー!!」
「ネギ先生と、バカレンジャーが行方不明に…!!」
『え…(やっぱりダメかも……!?)』
案外絶望的だったりする。
そこへ、朝のHRをするためにリュランが入ってくる。
「さて、朝のHRを始める。全員席につけ」
「せ、先生!私達が1位以外ならクビなんて冗談ですよね?ね!?」
「……」
来て早々、爆弾発言とそれに対する回答を求められ、目が点になる。
意味を理解し、どう答えるべきか悩むリュランだったが、少しため息をつくと、真実を答えた。
「まぁ、事実だな。野菜坊主はこの2ヶ月間の結果として。俺は……まぁ、色々言われているが、大きく分けて2つの点だな。1つは教育実習生である野菜坊主をしっかりと面倒見れなかったという点。そしてもう1つが……お前らの態度か」
『わ、私達の態度…!?』
予想外の理由に全員が唖然となる。
それはそうだろう。
まさか、自分たちが原因で担任が教師を続けられるかどうか決められるとは思ってもみなかったからだ。
「…ま、上の判断って奴だ。…多くの教師から苦情が出たんだとよ。このクラスだけ、テストに対する生徒たちの真剣さが足りな過ぎだとな。俺はこれがお前らの持ち味だと思っているが、他はそう思わなかったらしくてな。この緩い感じの空気が他のクラスの生徒にまで伝染するのを恐れたんだろう。そして、それを注意しない俺に対し、上である妖怪に直訴したってことだ」
もちろん、半分は嘘だ。
妖怪に、もし真実を聞かれたらそう答えろと言われていたためだ。
他の教師陣――魔法関係者ばかりなのだが――にも口裏を合わせて貰っているため、ある程度は誤魔化しがきく状態だ。
学園全体がこの茶番に協力しているなどと知るわけもない生徒はこの話を信じてしまう。
ため息をつきながら話を終えると、内外から多数の生徒の悲鳴の様な叫び声が轟く。
…何故か廊下も騒がしいと思ったら、まだ廊下に居た生徒の耳に入ったらしい。
騒ぐ生徒の言い分を聞いていると、色々と拙い言葉が聞こえたような気がする。
学園長に直談判はわかるとしても、暗殺とか、辻斬りとか……。
まさかとは思うが、この学園だとやりかねんと素直に思った。
…それはさすがに刑事事件になりそうだから止めて欲しい、と切に願ったリュランが居た。
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バカレンジャー達が地上では行方不明となってから2日…つまり、試験前日。
彼女達は何をしているかというと……――
「でも不思議だよねー。こんな地下なのに、都合良く全教科のテキストあったり、トイレにキッチン、食材付きで…」
「いたれりつくせりアルね」
勉強もしていたが、幻の地底図書室の設備の良さに驚き、住みつつあった。
ここで勉強していれば助けが来る。
野菜の楽観的な発言のせいもあるが、やはり2-Aの生徒といったところか。
多くの困難に直面したが、これだけの喜びがあったためか、次の日が試験である事を素直に忘れつつあった。
だが、彼女たちの楽園は急に地獄と変わる。
それは……突然だった。
「お~ま~え~ら~…」
「!?い、今の声は何!?」
「だ、誰かが私達を呼ぶような声だったよね…?」
「お~ま~え~ら~…」
「だ、誰かが近づいてくるアル!」
「だ、誰でしょうか?こんな地下に…」
どんどん近づいてくる人物に対し、迎撃の態勢をとる各人。
そして――
「元気そうじゃないか~…」
ピシッとしたスーツを着て、誰が見てもカッコイイと言うであろう姿で……。
黒い笑顔を浮かべるリュランが上から現れた。
そして現在。
元バカレンジャーに加え、野菜、近衛は正座させられている。
野菜の膝にはどこからか調達してきた本が大量に乗っている。
「さて、お前ら。自分達が何をしたか…分かっているのか?」
誰も話せない…強烈なまでの圧力がリュランから発せられていたからだ。
このメンツの中でも、その圧力の恐ろしさを実際の感覚でわかる古、長瀬は大量の汗を流し、分からない他のメンバーは実感できないながらもびくびくしながら聞いていた。
「で、でも!彼女たちは、自分の苦手科目を克服するために、色々な困難を乗り越えて此処へたどり着きました!そこだけは、悪くないと思います!」
大量の本で膝が壊れそうになっている野菜であったが、生徒の頑張りを自分の目で見てきたため、弁護の言葉を口にした。
最も、他のメンツはこの言葉を聞いて安心どころか真っ青になったが。
「……本気でそう思ってるいるのか?」
野菜の発言は間違いであった――
それを悟ると同時に、周りの…武術を嗜んでいない一般生徒である、綾瀬や佐々木にも実感できる程の怒気がリュランから放たれる。
あの、天然かつアホな野菜でさえも理解できたのだがら、かなりのモノである。
「苦手を克服するために困難を乗り越えた?なるほど、苦手を克服するための努力は認めよう。…だが、俺は褒めることはできない。この地下図書館は実際に死亡者が出ている禁止区域だ。中等部はおろか、大学部でさえ、何十枚もの申請書類と複数名の武術経験ありの教師の同伴の元に行くことが許可される場所だ。……それだけ、危険なんだ。まあ、こんな危険な場所へ勝手に来た奴など、俺は興味ない。怪我しようが死のうが自己責任だろう」
ここでリュランは1度口を閉じた。
それと同時にリュランから放たれていた怒気が消え、何も感じなくなる。
どうしたのかと恐る恐るリュランの顔を見れば、少しだけ唇を噛み締め、辛そうにしている彼の姿があった。
「――だがな。ここでお前らが死んだら、地上で残されたあいつらはどうなる?」
その言葉で全員ははっとした表情となる。
今回、自分達の苦手克服のためとはいえ、最初から危険だと知らされている図書館島の…本来なら行くことすら禁止されている場所に踏み入ったのだ。
そして、危険を顧みずに進んだ結果、電波の届かない奥深くまで落ちたのである。
まず、あの高さから落ち、下手をしたら叩きつけられた時に死んでいたかもしれない。
そして、当然地上で連絡を取っていた綾瀬と同じ、図書館探検部所属である宮崎と早乙女は慌てるだろう。
――何が起きたのか、まさか、自分達の知らない罠にかかってしまったのか――と。
すぐに戻るか、連絡さえあれば問題は…多少、心配したと言って泣かれるぐらいで済むかもしれないが、すでに行方不明になって2日が経っている。
優しい彼女達のことだ、どれほど心配していたことだろう。
「…昨日の授業後。目を真っ赤に腫らして、ずっと泣いていた宮崎に泣きながら頼まれてな。これ以上、待ってる事は出来ない。せめて生きて無事にしているのかどうかだけでも確かめてくださいってな。…理解したか?お前らが危険を顧みずに行動した結果は、クラスの皆に多大な心配をかけ、親友に泣かせるぐらいの不安を味合わせたんだ」
言葉を聞き、俯く彼女たちの目に涙が溢れる。
その様子を見て、噛みしめていた辛い感情を中に押し込め、諭すように話しかける。
反省を態度で示した彼女たちに、もう十分だと考え、リュランは正座していた彼女達を1つにまとめて抱きしめた。
「宮崎達だけじゃない。…俺だって、お前らの事は心配したんだぞ。いくら運動神経が抜群な面々とはいえ、不慮の事故はいつでも起きるんだ。…もう、無茶して心配かけんじゃねーぞ」
優しく…壊れ物を扱うかの如く抱きしめる。
その胸の中で最後の壁が崩壊したかのように大泣きする彼女達。
いくら身体能力や知能が優れていても、彼女達はまだ中学生。
どんなに明るく振舞ったとしても心の余裕がなければ、いつかは壊れる。
そうならないように…少しでも心の支えにと、改めて誓うリュランだった。
「あの…僕は、このままなんでしょうか…?」
そして、その皆の様子を膝の痛さに耐えながら涙目で見る野菜坊主が居た。
ついでに、制裁としてとある妖怪と神経がリンクしているゴーレムをリュランがボコボコにしたのは余談である。
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その後、このままでは試験に遅れてしまうと考えたリュランは最終手段に出る。
まずは野菜坊主の背後に回り込み、一撃で気絶させる。
自分はコレの前では一般教師を演じているのだ。
こんなところで正体がバレてしまっては、今までの苦労が全て水の泡である。
そして、泣き疲れて寝てしまった全員を寮に送るため、転移魔法を使用する。
既に夜遅いため、全員を自身の部屋に敷いた大量の布団の上へと送った事を千里眼で確認した後、後ろに向かって呟く。
「また来るぞ、アル」
誰も居ない筈の虚空へと飛んだ声はすぐに溶けるように消える。
しかし、その声に対し、どこからか返事が聞こえた。
「えぇ、いずれまた」
その言葉に頷くと、いつ動いたのか分からないほどの速さでリュランは姿を消した。
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そして、試験当日。
まさかの行方不明組、全員が寝坊によって遅刻するという惨事を引き起こし、あわや1位どころか最下位決定かと思われたが、ギリギリ何とか間に合う。
そして、眠い彼女達に対し、自分に出来る精一杯だと、野菜坊主はとある魔法を唱えた。
「ラス・テル、マ・スキル、マギスキル。花の香りよ、仲間に元気を、活力を、健やかな風を。『活力全快(レフェクティオー)』」
花を触媒とした、周囲の者に力を与える魔法で眠そうにしていた彼女たちのリフレッシュを図る。
それが功を奏したのか、見た目元気になった彼女達を見つめる野菜坊主。
その野菜坊主の姿を少し遠くで見ていたリュランは肩を竦めてその場を後にし、遠見の水晶で見ていた妖怪が全身包帯姿で高笑いしていた。
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『ブービー賞は…2-Kですね。平均点は69.5点でした』
『さ、最下位確定~~~~~!?』
散々たるテストの結果に、呆然とする2-Aの皆。
さらに一緒になって呆然とする野菜坊主。
彼の中では、まさかこんなところで『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』の夢を断たれるとは思っていなかったのだろう。
真っ白な灰となって固まる野菜坊主は何をすることもなく立ち止まっていたが、彼女たちはある事実にハッとすると、すぐさまあの場所へと動きだした。
一方、その放送を寮の部屋にてイヤホンで聞いていたリュランはため息とともに軽く首を振ると、目を閉じた。
――すぐに1位でない事は知り得た。
しかし、それでも1年間見守って来た教え子の最後の結果だけでも聞こうと動かずにいたが、それでも最後は無念の最下位。
…最後の最後で力になってやれず、何とも言えぬ心境となった。
目を開けて立ちあがり、周りを見渡す。
元々、荷物はほとんどなく、異次元空間に物をしまうリュランの荷物整理はものの数秒で終わる。
そして――
「何か、用か?」
部屋を出て、もう2度と帰ってくることのないであろう寮の扉を開こうとするリュランの前に立ち塞がるように現れる多数の影。
刹那、真名、近衛、宮崎――
リュランの教え子である2-Aの生徒たちであった。
「決まってるじゃないか。リュランさんをクビになってさせない」
「そうです!なぜ、貴方がクビにならなければならないのですか!?理不尽でしょう!?」
「その通りだ。どうせ、あのガキの補助をさせようとあの妖怪が言ったんだろうが、そんなもの聞く必要無い」
「私達には…リュラン先生が必要なんです!」
「だから…いなくならないでください!!」
泣きつく者、冷静ながらも身体を震わせる者、無表情ながらもリュランを心配する者……。
全員がリュランを想い、残って欲しいと言い張った。
その言葉を嬉しく思い、リュランは微笑を浮かべる。
それでも、現実は動かない。
「生きてれば必ずどこかで会えるだろう。……元気に過ごせ、さらばだ」
短いながらも…全てを拒絶する言葉とともに寮の扉を開いた。
――絶対に行かせない
そんな想いと共に彼の身体にしがみつく、総勢23人の1人1人を優しく払い落し、誰もが止められずに彼は歩き続ける。
残された彼女たちは絶望に膝をつき、変えられぬ現実に立ち竦み、望まぬ別れに涙する。
そして…この物語は次の世代を迎える……。
かと、思われた。
目の前に現れた全身包帯の妖怪ミイラに遭遇しなければ…。
「何か用か、妖怪ミイラ」
「フォ…。まだ…立ち去るには…早い…のじゃ…」
その言葉に何を言い出すかとため息をつこうとして――ある記憶を思い出した。
そんな馬鹿な、と目の前の妖怪を見る。
「…おい、まさか――」
「わし…自ら…採点して…いたら…結果…発表が…始まってしまっぶげらっ!?」
まさかの結末に怒りの光速パンチを放った。
その拳はクリーンヒットし、妖怪を数十メートル吹き飛ばす。
怒りを鎮めて気を取り直し、イヤホンの音量を最大にする。
突然の希望に、全員が希望に縋る様に、その結果発表を待つ。
すると――
『学園長のミスにより再計算が行われましたが、やっと結果が出ました。なんと…平均点81.0点で2-Aの逆転優勝です!!』
その報道により、学園全体から驚きと称賛の嵐。
教師陣からは真っ白な灰となって呆然としていた野菜を褒め称える声が湧く。
…最後の言葉に関しては2-Aから否定的な意見が相次いだのは内緒である。
結果――
ネギ・スプリングフィールドは麻帆良学園中等部教諭に任命され、リュランはそのまま学園に残ることが決定したのだった。
∽to be continue∽