∽移り行く風のように∽   作:アクア=イスタロス

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第47話

―――――【第47話 桜通りの変】―――――

 

【side エヴァンジェリン】

 

今朝、急にあの妖怪から呼び出されたと思えば、面倒な『お願い』をされた。

内容は、現在学園内で1番だろう話題の中心である4月から正式な教師として紹介された見習い魔法使い、ネギ・スプリングフィールドの実力試し。

朝っぱらからこのような面倒事…とりあえず、妖怪をワイヤーで縛り上げて放置してきたところだ。

教室へ向かいながら、この件について考える。

――が、まず始めにイライラが私の脳内を駆け巡る。

全くッ、この私を誰だと思っているんだ!?

私は、真祖の吸血鬼にして魔法界を恐怖の渦に巻き込んだ『闇の福音』、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルなのだぞ?

あの赤毛の莫迦に少しばかり遅れを取って力の大半を封印されて以来、妖怪は事ある毎に私をひっぱり出し、事態の後処理をやらせてきた。

その結果、昼間はひたすらガキどもとつまらん学園生活、夜は本来であれば歯牙にも掛けぬ雑魚どものの処理という変わり映えのない日々を送って来た。

…だが、今年は違う。

何故なら、我が愛しのリュランが忌々しき封印から解放してくれたのだからな!

他の目を欺くため、誤認の封印精霊を常時纏わせていなければならないのが少しばかり気に食わんが、それを補って余りある成果だ。

そのため、今の私は学園結界に気がつかれない程度であればいつでも魔力を扱う事が出来るし、いざとなれば、今でも魔法界の歴史に残る我が力を、この13年間の想いをこめてあの妖怪に向けて放つこともできる。

…だが、私とて恩を仇で返すような真似はしない。

リュランには昔から感謝ばかりだ。

だから、リュランの迷惑となるような真似はするつもりもない。

…妖怪を滅ぼすことが出来ぬのが悔いだが。

 

さて、この封印の実態については、解除した本人であるリュランと傍で見守っていた茶々丸、チャチャゼロしか知らない。

つまり…あの妖怪は私が力を十全に引き出せることを知らない。

くっくっく…これこそ、天が私に与えた奴の恨みをその息子に晴らす絶好の好機。

抜かりなく、完璧にあのガキを葬り去ってやろう。

 

「くっくっく…。ふーはーっはっはっはべしっ!?」

 

「急に高笑いをするな、エヴァンジェリン。危ない人にしか見えないぞ」

 

「マスター、安心してください。すぐにでも病院は手配できます」

 

思わず笑っていたら、後ろからリュランに叩かれた。

というか、その次の発言は何だ!?

 

「お前達はどれだけ人をコケにすれば気が済む!?」

 

「知らん」

 

「私はリュラン様に従ってますので」

 

「いつからお前はリュランの従者になったんだぁ!!!」

 

再び茶々丸を懲らしめるため、頭のネジを巻いて巻いて巻き続ける。

だが、その行為の最中に艶っぽい声で喘ぎながらリュランの事を求めるんじゃない!!

全く…読者が誤解するだろうが…。

ん?

私は誰に向かって何を言っているんだ?

…ともかく、色々と危ない発言をしている茶々丸を地面に転がし、リュランと対面する。

 

「で、お前はどうするつもりなんだ。私とあのガキの対決でも見るか?」

 

「いや、その日も俺は仕事でな。近くは近くだが、見る暇はないだろう」

 

「…なるほど、私が結界を落とすために発生する侵入者への対応か」

 

「…それだけで終わるかな?」

 

「何?」

 

「…いや、俺の勘だ。気にするな」

 

手をひらひらとさせ、これ以上は話さないと示すリュラン。

気になるが…この仕草をした後に聞き出すのは経験上無理だ。

 

「…まあいいさ。念のため、今後の計画を話しておく。次の停電時に茶々丸を引き連れてあのガキを迎え撃つ。とりあえず、うちのクラスメイトの誰かを使って鉄橋の方へ誘導するとしよう」

 

「…あまり許容したくはないが、仕方あるまい。こちらは、停電日に何故か(・・・)大鉄橋の近くで待機しろと言われている」

 

「他からの邪魔を良い意味でも悪い意味でもなくすためだろうな。あの妖怪に気遣われている気がして虫唾が走る」

 

今朝の八つ当たりはワイヤーだけでは足りなかったかもしれん。

…今度はロウソクも付けるとしよう。

 

「…無茶と殺しだけは止めろよ」

 

何かを悟ったのか、それともあのガキを心配したのか。

両方の意味にもとれる発言を聞いた。

…リュランが妖怪とガキ、どちらの存在も心配する筈もないか。

おそらく、私の事を考えての発言だろう。

ふふ、なんだかんだで私を愛しているではないか。

 

「当然だ。ま、あの妖怪は未だに私が『結界と身体に施された封印』によって全力を出せないと考えている。いくら停電によって結界が消えたとしても、身体に施された封印があればほどほどに力は使えても、全力は出せない。そう考えて、その上で今の私であればあのガキが勝てると踏んだのだろう。実際、お前が来ていなければ、私は封印付きで戦っていただろう。…最も、封印されていたところで、私に勝つ事など出来はしないがな」

 

「あまり格下と侮って一矢報いられるなよ。昔からお前は詰めが甘いからな」

 

「……大丈夫だ、問題ない」

 

つい、あの名フラグを言ってしまったが…だ、大丈夫だろう。

だから私を呆れたように見るな!

 

「…さてと、俺は行くとしよう。とりあえず、準備だけは怠るなよ。…ああ、そういえば、あの大鉄橋は学園結界の境界線だったな。それも忘れるなよ」

 

「ふんっ、無論だ」

 

リュランには心配されたが、私に油断など存在しない。

…私は、魔法界に数多くの闇の逸話を作り上げた存在。

その私が、ポッと出の英雄の息子などに負けるなど、あってはならん。

悪が正義に負けるなど……そんな現実があってはならんのだ。

 

 

 

 

――――――――――

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『3年A組!!』

 

『リュラン先生ーっ!』

 

いつもどおりはしゃぐクラスメイトに呆れた。

新年度早々元気な事だ。

少し見渡せば、騒がれた本人であるリュランや魔法の影響下にない長谷川千雨、普段から興味のない事に対しとことん無関心な綾瀬夕映なども呆れていた。

…ところで、お前まで何故腕を挙げてこのノリに興じているのだ、茶々丸よ。

 

…ならば、私も少々遊ぶとしよう。

教卓の傍に置いてある椅子に座るあのガキに対し、少しばかり殺気を混ぜて見据える。

急に感じた殺気に反応して数名がピクリと動いたが、私だと分かると桜咲刹那以外は何事もなかったかのように会話へと戻った。

その桜咲刹那も、リュランに後で話があると言われ、目線で何かを感じ取ったのか、何事もなかったかのように前を向いた。

…リュランに助けられたか。

ま、これで私は動きやすくなったが。

 

少しして、ようやく気がついたのかあのガキがこちらへと向いた。

そして、手元にある出席簿へと目を落とした。

 

…くだらんな。

 

殺気をなくし、廊下へと視線を向ける。

耳から聞こえる情報を適当に流しながら、HRが終わるのを待つ。

すると、リュランが私を呼ぶ声がしたので軽く返事をして再び前を向く。

そこには、出席を終えて出席簿を閉じるリュランと何やら考え事のガキの姿があった。

…今まで通りの光景と目に映したくない存在が近くにあるのは気に食わんな。

 

「…どうした、野菜坊主。出席簿を見ながらボケっとして…気持ち悪いぞ」

 

「ちょ、なんで気持ち悪いんですか!?」

 

「…出席簿を見つめるお前の視線が……いや、これ以上は語るまい」

 

『きゃー、ネギ先生ー変態ーっ!』

 

「ご、誤解ですー!!」

 

新学期早々皆から弄られるガキも、それを見て笑うクラスメイトも、去年の3学期から全く変わらない。

やれやれと思ったが、教卓で私達を見るリュランに目を奪われた。

目の前の光景をあいつは少しだけ見つめた後、記憶するかのように目を閉じて、少しだけ微笑んだ。

 

…その頬笑みは、理不尽だ。

 

私の頬が少しだけ赤みを増した気がした。

…私以外にも、その頬笑みにやられたクラスメイトが顔を赤らめていた。

……くそっ、あの天然誑しめ!

 

「…さて、変態な野菜坊主はさて置き、このあとは――」

 

「リュラン先生、そろそろ準備をお願いしますね」

 

扉を叩いて現れたのは妖怪付きの教師、しずなだ。

準備といったが、いったい何の準備だ?

 

「もうそんな時間でしたか。ありがとうございます、しずな先生」

 

「も、もうですか!?あわわ、早く動かないと」

 

慌てるガキと至って普通なリュランの対極な対応。

ふっ、いくら教師とはいえ、所詮はガキか。

 

「で、では皆さん!これから身体測定がありますので…。えと、あのっ、今すぐ脱いで準備してください!」

 

慌てながら話し始めたと思えば、突然爆弾発言をしたガキにまたもや呆れた。

ため息をついた後、前の方のクラスメイトが口に手を当てている姿を見つけた。

…何を言うか、想像できるのが嫌になる。

 

『ネギ先生のエッチ~~ッ♪』

 

「うわ~~ん!リュランせんせ…っていない!!」

 

ガキの言葉に私も見渡せば、廊下で背を向けるリュランの姿。

…どうやら、すぐに逃げ出したようだ。

……さて、私も準備するか。

 

 

 

 

番号順に身長、体重を量っている最中、教室では最近噂となっている話で盛り上がっていた。

満月の夜、桜並木に現れ女子生徒の血を啜る、黒の布に包まれた吸血鬼の話だ。

…つまり、私の事だ。

噂に尾ひれがつき、前の黒板にはその吸血鬼――もとい謎の生命体の想像図が描かれている。

……すでに原型がないな。

その話を柿崎美砂から聞いていた神楽坂明日奈が何やら頭を抱えていた。

…くくっ、少しばかりからかってやるか。

 

「そのとおりだな、神楽坂明日奈」

 

「え?」

 

「ウワサの吸血鬼はお前のような元気でイキの良い女が好きらしい。十分気をつけることだ…」

 

私としては少しばかり大人しい女も好みだが。

例えば…宮崎のどかとかな。

 

その後、廊下から聞こえてきた和泉亜子の声に反応して、窓や扉を開けて下着姿で出てきたクラスメイトに対し、ガキは再び顔を真っ赤にして慌て、リュランは再びどこかに消えていた。

見れば、あまり接点のなさそうな数名の者たちが集まって黒い笑みで笑っていた。

……ふむ、なんとなくだが私も参加しよう。

 

 

 

 

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【side other】

 

保健室にて、身体測定を終えた3-Aの大半は倒れたと聞いた佐々木の見舞いに来ていた。

身体測定後も色々と予定があったのだが、心配してそわそわしてばかりの生徒を見て、リュランは止む無しとばかりに見舞いを許可した。

保健室に入った当初こそ、佐々木が無事かどうか駆け寄ろうとしていたが、静かに眠るその姿を見て安心したのか、しずな先生の「桜通りで見つかった」という言葉から様々な憶測を立てる。

そんな心配をするクラスメイトに対し、野菜坊主は別の違和感を感じ取った。

 

「(…いや、違うぞ!ほんの少しだけど…確かに『魔法の力』を感じる…)」

 

かなり近づいたからこそ分かった僅かな痕跡。

そこから色々と考えてみるが、情報が少ないようだ。

また、深く考え込んでいたためか、生徒が話しかけている事に気がつかなかった。

 

「――先生。ネギ先生。どうかしたのですか?」

 

「え、あ、す、すみません」

 

知らず知らずの内に考え過ぎていて周りに人がいる事をすっかり忘れていた野菜坊主は、様々な過程を頭の隅に押しやり、笑顔で対応する。

 

「そうですね、まき絵さんは心配ありません。ただの貧血かと思います」

 

野菜坊主の言葉に安心したのか、話しかけた生徒は再び話の輪の中へと戻って行った。

それを見送り、野菜坊主はとある決意を固めた。

 

――今日の夜、この事件は僕が解決する。

 

それが魔法を使える自分の使命だとばかりに。

そんなやる気溢れる野菜坊主の姿を、冷静に観察するかのように見つめる複数の姿があった。

 

 

 

 

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その夜――

桜散る道の上を1人の少女が歩いていた。

少女の名は宮崎のどか。

3-Aの中でも物静かで引っ込みがちな彼女だが、最近は色々な場面でそうでもないらしい。

……話が逸れてしまった。

 

先程、共に帰っていた綾瀬や早乙女と別れ、1人寮へと足を運ぶ。

すると、目の前には教室でも話題となった桜通り。

既に日は落ち、強い風によって、桜の花びらが宙を舞っている。

風の影響で鳴り響く木々の擦れる音が、恐怖を煽ぐ。

だが、此処を通れば寮は目の前。

怖いと思いながらも、早く帰ろうと歩を急ぐ。

そこへ――

 

「27番、宮崎のどかか…。悪いけど、少しだけその血を分けてもらうよ」

 

「ひっ…キャアアアアッ!!」

 

黒いマントと帽子を被り逆光により、顔が見えない人の形をした何か。

咄嗟に思いだしたのが、今朝話題に上がった吸血鬼という単語。

現実にはいないと考える半面、迫り来る目の前の現象に対処しきれず、そのまま気絶する宮崎。

これまでかと思いきや、そこに声を上げてやってくる人物が1名。

 

「待てーっ!」

 

急に待ったをかける声に対し、そちらへと反応する何か。

その目が捉えたのは、自身の反対方向から杖に乗って滑走してくる野菜坊主の姿であった。

 

「ラス・キル、マ・スキル、マギステル。風の精霊11人、縛鎖となりて敵を捕まえろ。『魔法の射手・戒めの風矢』!!」

 

すぐさま犯人であろう不審人物を捕まえるべく、捕縛の風魔法を使う。

しかし、相手も懐より何かを取り出し、投げる。

 

「もう気づいたか。『氷楯』…」

 

取り出した何かと野菜坊主の放った魔法がぶつかり合い、野菜坊主の魔法が反発して違う場所へと飛んで行ってしまう。

それを見て、野菜は自分の予想を確信した。

 

「!!僕の呪文を全部はね返した!?(や、やっぱり犯人は……魔法使い…!?)」

 

初撃が終了し、その影響か周りには冷気が漂う。

そこへ風が吹き、顔を隠していた帽子が吹き飛ばされた。

 

「フ、驚いたぞ。凄まじい魔力だな…」

 

その声を聞き、野菜坊主は驚いた。

何故なら、その人物はつい最近見覚えのある人物だったからだ。

 

「えっ…。き、君はウチのクラスの…エ、エヴァンジェリンさん!?」

 

「フフ…新学期に入ったことだし、改めて歓迎のご挨拶といこうか、先生。…いや、ネギ・スプリングフィールド。いやはや10歳にしてこの力…さすがに奴の息子だけはある」

 

物語はさらなる展開へと移る。

先にある未来は光か…それとも闇か…。

 

 

 

 

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一方…先程、宮崎と別れた綾瀬、早乙女たちだったが、さすがに宮崎が心配なのか、1人だけ何度も後ろを振り返る人物がいた。

神楽坂である。

何度か近衛が大丈夫と話していたが、やはり我慢できなくなったのだろう、他の皆に声をかけて来た道を戻る。

それに続いて、近衛も遅れながら神楽坂の後を追って走る。

先程通った時より暗い道を走る2人…。

そして宮崎と別れた場所からさらに数十メートル離れた場所…そこで神楽坂は気づいた。

 

「この世には…いい魔法使いと悪い魔法使いがいるんだよ、ネギ先生」

 

片方は野菜、もう片方は暗闇で見にくいが声だけは聞こえる。

そこ声を聞くに、女性か。

そのもう片方が何かを野菜に向かって投げつけ、そして叫んだ。

 

「『氷結・武装解除』!!」

 

「うあっ!!」

 

投げられた物が野菜坊主の手前で混ざり合い、爆発した。

その影響で、野菜坊主と野菜坊主が抱えていた人物の服が消えるように吹き飛んだ。

なぜ?と考えるよりも先に野菜坊主の安全確保が先だと、先程よりさらに速く走る。

 

「抵抗(レジスト)したか。くくっ、そうでなくては」

 

抵抗する野菜を喜ばしく思うエヴァンジェリンに対し、未だ自分が相対する相手が自分の生徒であった事に混乱する野菜坊主。

しかし、自分が抱えていた宮崎の状態を確認しようとして――混乱度が上昇した。

またもやあたふたする野菜坊主に駆け寄る神楽坂とようやく追いついた近衛。

先程から見えた光景から、やはり自分の知らない何かがこの世界にはある事を確信しつつ、野菜坊主から宮崎を奪い、近衛は真っ赤になりながら野菜坊主を吸血鬼扱いにする。

その隙をエヴァンジェリンが見逃す筈がなく、先程から立ち昇る煙に紛れて逃走を開始した。

それを見た野菜坊主は逃がすわけにはいかないと、神楽坂と近衛に後の事を頼むと、そのまま風魔法をブーストに走り去っていった。

 

「あ、ちょ!…行っちゃったわ」

 

「なんや、ネギ君早かったわ~」

 

説明を聞くために止めようと声をかけたが、残念ながら声は届かず、2人はこれからどうするか悩んだ。

彼女を保健室へ連れていくか、寮母さんへ助けを呼ぶか。

そんな2人に、後ろから声をかける人物が現れる。

 

「む、何かあったのか」

 

「あ、リュラン先生!た、大変なんです!ネギが本屋ちゃんを吸血鬼で爆発して――」

 

「落ちつけ。意味が分からん。…とりあえず、これを宮崎に着させろ。無いよりマシだろう。そして、このまま――俺の部屋に運べ。寮母さんに見つかるとそれはそれで面倒そうだ」

 

「わ、分かりました」

 

「近衛。これが俺の部屋の鍵だ。場所は知っているだろう。冷蔵庫に牛乳があるから宮崎が起きたらホットミルクでも作ってやってくれ」

 

「は、はいな」

 

「俺はこれから後を追うとしよう。もし、野菜坊主が追って行ったのが例の噂の人物であれば襲われないだろう。気をつけて寮まで向かえ」

 

自分の上着を神楽坂に渡し、近衛には自身の部屋の鍵と、この後の行動を指示する。

この事態の説明を聞きたいが、さすがにリュランは知らないだろうと微妙に不満げな2人を見て、頭を軽く撫でて帰るよう促す。

しぶしぶ帰りだした2人を見送り、リュランも仕事をするべく、音を消して追いかけた。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

2人は夜の街を駆けていた。

片方は音もなく、片方は力強く。

ほとんど魔力のサポートなしに走り続けるエヴァンジェリンと、風魔法を十全に活かして追いかける野菜坊主の距離は徐々に縮まっていく。

 

ある程度距離を詰められたと感じたエヴァンジェリンは橋で道を外れ、空へと飛び上がる。

何もなしに空を飛んだその姿を見て、野菜坊主は驚きながらも箒に跨いで追いかける。

舞台は地上から空中へと移り、段々と地上の建物が小さくなっていく。

 

「待ちなさーい!エヴァンジェリンさん、どーしてこんなことするんですかー!先生としても許しませんよーー!!」

 

「ははっ。先生、奴のコトを知りたいんだろ?奴の話を聞きたくはないのか?私を捕まえたら教えてやるよ」

 

「……本当ですね?」

 

野菜坊主は考えていた。

何故、空を自在に飛べる魔法使いが呪文を発動する際に魔法薬を触媒に使っているのかを。

そこから、エヴァンジェリンが魔力をほとんど持っていないのだろうと推理した。

そして、自分の魔力がまだまだ余りあることを確認し、降伏勧告を言い渡す。

だが、エヴァンジェリンの挑発に、先生としてではなく、父親を探す魔法使いとして戦いを挑む野菜坊主。

 

「ラス・キル、マ・ステル、マギステル。風精召喚!!『剣を執る戦友』!!!捕まえて!!」

 

「分身!?」

 

野菜坊主は自分の多量の魔力を活かし、風の精霊を同時に召喚した。

その数8体。

中位精霊とはいえ、見習いとは思えぬ魔力量である。

逆にエヴァンジェリンは詰め寄る精霊の行動を読んで、詰め寄るルート上に魔法薬をバラまく。

その魔法薬に当たり、数体の精霊が消滅した。

だが、消しきれなかった精霊がエヴァンジェリンに体当たりを咬ます。

そのせいで体制の崩れたエヴァンジェリンに野菜坊主は追撃を掛ける。

 

「追いつめた!これで終わりです!!『風花・武装解除』!」

 

相変わらず魔法薬を使うエヴァンジェリンを見て、野菜坊主は自分の推理に間違いはないと考え、勝利を確信した。

そして、武装解除にて着ている物が全て飛んで下着姿になったエヴァンジェリンに詰め寄る。

 

「こ…これで僕の勝ちですね。約束どおり教えてもらいますよ。何でこんなことしたのか。それに…お父さんのことも」

 

杖を構えず、捕縛魔法も掛けずにただ距離だけを詰める野菜坊主を見て、笑みを深めるエヴァンジェリン。

理由は簡単だ。

外装を弾き飛ばしただけで罠を考えずに近寄るなど、経験不足も良いところだ。

いくら魔法薬を使っていたとはいえ、それが罠と考えないのだろうか。

せめて、近寄る前に捕縛魔法だけでも掛けておけば逃げられる心配はないというのに。

 

「お前の親父…。すなわち…『サウザンドマスター』のことか、ふふ…」

 

「と、とにかく!!魔力もマントも触媒もないあなたに勝ち目はないですよ!!素直に…」

 

何を思って自分の勝利を確信しているのか。

魔力がない、装備がない、触媒がない。

それがどうしたというのだろうか。

たかがその程度で、犯罪者が諦めると思っているのだろうか。

普通の魔法使いがこの戦いを見ていたならば、くだらん茶番だと笑うだろう。

それぐらい、野菜坊主の行動と発言は滑稽であった。

どれだけ頭が良くても、所詮は10歳なのだと感じさせる戦いであった。

 

「…これで勝ったつもりなのか?さぁ、お前の得意な呪文を唱えてみるがいい」

 

「!!ラス・キル、マ・スキル、マギステル。風の精霊11人、縛鎖となりて敵を捕まえろ!」

 

エヴァンジェリンの後ろから現れた影を見て、援軍なのだと理解し、ようやく捕縛魔法を唱える野菜坊主。

だが、戦闘でその遅さは致命的だ。

 

「ふっ…」

 

「サギ――あたっ!…あたた?」

 

新たに参戦した影に距離を詰められ、額にデコピンを喰らう。

呪文詠唱中に攻撃されたため、野菜坊主の魔法がキャンセルされた。

考えていたように行かず、さらには参戦した人物を見て、またもや驚く。

 

「…えっ、あれ!?き、君はウチのクラスの…」

 

「紹介しよう。私のパートナー、3-A出席番号10番、『魔法使いの従者』、絡繰 茶々丸だ。」

 

「え…なっ…!?えぇ~~~!?茶々丸さんがあなたのパートナー!?」

 

エヴァンジェリンのパートナーが茶々丸である事に驚く野菜坊主。

その驚きように、エヴァンジェリン少しだけ首を傾げるが、何か思い当たる事があったのか、ニヤリと笑う。

 

「そうだ。パートナーのいないお前では私には勝てんぞ」

 

「な…パ、パートナーくらいいなくたって。風の精霊11人…(ムニニ)あう”う”う”」

 

「……」

 

「……」

 

「風の(スビシッ)……」

 

呪文をキャンセルされ、呆然とする野菜坊主。

まさか、少し攻撃されるだけで呪文を封じられるとは思っていなかったのだろう。

そんな滑稽な姿をあざ笑うかのように、エヴァンジェリンが説明を始めた。

 

「驚いたか。元々『魔法使いの従者』とは、戦いのための道具だ。我々魔法使いは、呪文詠唱中、完全に無防備となり、攻撃を受ければ呪文は完成できない。そこを盾となり剣となって守護するのが従者の本来の使命だ。今では恋人探しの口実となってしまっているが…本来は戦いにおいて重要な役割を担っているわけだ。つまり…パートナーのいないお前は我々二人には勝てないということさ」

 

「あわわわわ…」

 

パートナーの本来の目的を知り、無知であった自分に泣き、現状をどうにもできない自分に泣く野菜。

その姿を見て、興が冷めたのか、鼻を鳴らしてつまらなそうにするエヴァンジェリン。

 

「…茶々丸」

 

「分かりました。…申し訳ありません、ネギ先生」

 

「うぐっ!うぐぐぐーーー」

 

「マスターの命令ですので…」

 

「ふふふ…。ようやく、この日が来た。お前がこの学園に来てから今日という日を待ちわびてていたぞ…。お前が学園に来ると聞いてからの半年間。ひよっこ魔法使いのお前に対抗できる力をつけるため危険を冒してまで学園生徒を襲い、血を集めた甲斐があった。これで奴が私にかけて呪いも解ける…」

 

――という設定である。

傍から見れば、エヴァンジェリンは未だに封印された存在であり、魔力もない中学生を演じなければならないのだ。

特に、かの妖怪には絶対に気がつかれてはならないと、エヴァンジェリンは細心の注意を払って言葉を選んでいた。

 

「え…の、呪い…!?」

 

「そうだ。真祖にして最強の魔法使い、闇の世界でも恐れられたこの私がなめた苦渋…。私はお前の父、つまりサウザンドマスターに敗れて以来、魔力も極限まで封じられ、も~~14年間もあの教室で日本のノー天気な女子中学生と一緒にお勉強させられてるんだよ!!」

 

「え…そんな…僕、知らな…」

 

「私は知らんな。ま、このバカげた呪いを解くには…奴の血縁たるお前の血が大量に必要なんだ。…悪いが死ぬまで吸わせてもらうぞ」

 

「うわあ~~~ん!誰か助けて~~っ!!」

 

逃げることも出来ず、泣きながら誰かが助けに来るという奇跡を願う野菜坊主。

相変わらず滑稽だが、エヴァンジェリンからしてみれば関係のない話であった。

一応封印はないので血を飲む必要はないのだが、演技として…また、味の確認として首筋に噛みつき、血を啜る。

幼女が少年の首筋を噛みつくその姿……色々とマズイ。

 

「コラ!そこの怪しい連中!何をしている!!」

 

「ちっ…気づかれたか。仕方あるまい…覚えておけよ。今宵より、背中には注意しておくがいい」

 

飛び去るエヴァンジェリンと茶々丸。

…ここが建物の屋上である事を忘れたかのような立ち去り方に、野菜坊主は助かったという現実が相まって呆然としたままであった。

その後、助けに来たリュランにしがみ付いて大泣きする野菜坊主がいたとか…。

…最も、うざかったのか、すぐに気絶させて荷物を運ぶかのように背負っていたが。

 

また、ようやく自分の部屋に戻ったリュランは部屋で事情を聞こうと待っていた神楽坂と近衛、そして、上着のお礼を言うために待っていた宮崎から今回の結末をせがまれ、どこまで説明するべきか悩みながら話すリュランがいた。

数十分後、お疲れのリュランがベッドの上でぶっ倒れていた。

 

 

 

 

∽to be continue∽

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