∽移り行く風のように∽   作:アクア=イスタロス

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第48話

―――――【第48話 英雄、散る】―――――

 

【side other】

 

野菜坊主がエヴァンジェリンと戦闘し、敗北して血を啜られた次の日。

彼はあの恐怖が忘れられず、教師としてあるまじき行為の1つである――サボりを使おうとしていた。

前日、リュランから様子を見るように頼まれた3人は、ベッドの中で丸くなり、風邪の真似をしてまで休もうとする野菜坊主に呆れたとか何とか。

揺すっても大丈夫だと声をかけても動こうとしない野菜坊主。

起こしに来た自分たちが遅れるわけにもいかず、最終的に神楽坂が怪力を活かして野菜坊主を背負うことで引っ張り出してきた。

…道中会う生徒からは何事かと笑われていた。

 

最後まで神楽坂に背負われてきた野菜坊主は、教室に入る瞬間にも年齢相応の抵抗を見せたが、神楽坂には敵わず掴まれたまま教室に入る。

その姿に苦笑しながら付いて来た2人を含めた計4人が教室に入って見た光景は――

 

「…アキラよ。何がしたいんだ?」

 

「…熱を測ろうと…」

 

「…いや、俺は風邪など引いてはいないのだが…」

 

「…まき絵のついで」

 

「…そうか」

 

大河内が無表情で顔を真っ赤にしながら、リュランの額と自分の額をくっつけている場面だった。

周りにいるクラスメイトはニヤニヤしたり、羨ましがったりしながら眺めていた。

…若干、黒い何かを背負う者も何名かいるようだが。

 

「あ…。いない…エヴァンジェリンさん…」

 

神楽坂、近衛、宮崎はその2人の姿を見ていたが、野菜坊主はそんなことにはお構いもせず、エヴァがいないことにホッとした。

その野菜坊主に、後ろから近づく人物が1人。

 

「――マスターは学校には来ています。すなわち、サボタージュです」

 

野菜坊主は驚き飛び上がった。

後ろからのこの言葉が無ければ、もっと安心できていたと思ったのは当たり前だろう。

 

「…お呼びしますか、ネギ先生?」

 

「い、いや、とんでもない。いいです、いいですぅ!」

 

「?分かりました。それでは失礼します。――あ、リュラン先生。マスターの事で少々お話があるのですがよろしいでしょうか?」

 

「ん、何かあったのか絡操」

 

突然、茶々丸にペコペコと謝る野菜坊主の姿に茶々丸は首を傾げていた。

しかし、その奥にリュランの姿を見かけると、用は済んだとばかりに野菜坊主を脇に押しやり、リュランへと近づいて行った。

何事もなく終わって良かったと思う反面、自分の扱いに泣きそうな野菜坊主であった。

 

そして、そのまま自身の英語の授業へと入ったのだが、授業中も相変わらず暗い上に残念な野菜坊主の姿に、何人かの生徒は本気で何かあったのかと心配し始める。

既に妖怪からこの一連の流れを聞かされている、もしくは当事者であるリュラン、茶々丸、真名、刹那達は冷静に…この場においては異質だったかもしれなかったが、無表情で野菜坊主の姿を観察していた。

 

その後、授業中にも関わらず、パートナーについて生徒に尋ねるなど、教師としても魔法使いとしてもダメダメな野菜坊主に対し、本気でこれが魔法使いで大丈夫なのかと不安視する刹那と真名だった。

…また、野菜坊主が去った後、リュランはどこかに電話をかけていた。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

その後、女子寮の巨大浴場に拉致された野菜坊主が元気づける会と称して暇人たちに遊ばれ、突然そこへ乱入したエロネズミを神楽坂が撃退し、浴場から悲鳴があったとして寮母さんから事情を聞かされたリュランが浴場で騒いでいた全員に正座させながら説教したり、野菜坊主の部屋へと侵入したエロネズミを解体しようとしたところ、妖怪の横暴もあり、野菜坊主はそのエロネズミを飼うこととなった。

一応その場は収まったが後日、学長室内で血塗れとなっている妖怪が見つかったのは割愛しよう。

 

また、エロネズミによる仮契約騒動があり、騙すような形でやるのは駄目だとしてタカミチが諭しながら説得したりと色々あったわけだが、こちらも割愛しよう。

 

そして、エロネズミが来て数日…前よりはだいぶ明るくなった野菜坊主だったが、中等部の入り口へ入るやいなや、急にキョロキョロしだし、エロネズミはそんな彼をほおっておけず、事情を聞いた。

 

「…よう兄貴、さっきから何をキョロキョロしてんだよ?」

 

「え…いや、ちょっとね…」

 

ちょっとどころではない心配のしかたであった。

エロネズミもそんな返答では納得できず、追撃を仕掛ける。

 

「なァ~に落ち込んでんだよ?相談にのるぜ、兄貴!!」

 

「うーん…。じ、実はうちのクラスに問題児が…」

 

傍から見ればオコジョと話す教師。

…確実に不審者確定だろう。

 

「おはよう、ネギ先生」

 

「!」

 

普通なら挨拶を返すのがあたりまえだ。

何しろ、野菜坊主は教師であり、挨拶してきた人物は生徒なのだから。

しかし、そのあたりまえが出来ない人物――

 

「今日もまったりサボらせてもらうよ。フフ、ネギ先生が英語の担当になってからいろいろ楽になった」

 

「エ…エヴァンジェリンさん、茶々丸さん!!」

 

すぐさま杖を構えようとするが、ここが校内である事を思い出して留まる。

その言葉に何か感じるところがあったのか…それとも、使い魔としての能力に反応があったからだろうか?

意味有り気な表情をするエロネズミに対し、表情は変えないが何かに気づくエヴァンジェリン。

 

「くっ…」

 

「おっと、勝ち目はあるのか?校内ではおとなしくしていた方がお互いのためだと思うがな。…そうそう、タカミチや学園長に助けを求めようなどと思うなよ。また生徒を襲われたりしたくはないだろ?」

 

脅しながら笑って去っていくエヴァンジェリンと無表情で会釈する茶々丸。

その姿に少しは我慢していた野菜坊主だったが、すぐさま泣いて逃げ出す始末。

そんな事情を遠見の水晶で見ていた妖怪は騒動が起きずに一安心、タカミチは少し眉をしかめながら何かについて悩み、後ろで事の次第を見ていたリュランは予想通りの状況に呆れながら教室へと向かった。

 

かなり走った後、離れた廊下にて膝から崩れて落ち込む野菜坊主に対し、先程まで話すことができなかったエロネズミだったが、周りに人がいない事を確認して思いっきりしゃべりだす。

 

「あの2人っスね!?あの2人がその問題児なんスね!?許せねえ!!ネギの兄貴をこんなに悩ませるなんて!!舎弟の俺っちがぶっちめてきてやんよぉーーっ!」

 

「…あのエヴァンジェリンさんは実は吸血鬼なんだ…しかも真祖…」

 

「く…故郷へ帰らせていただきます…」

 

「ま、待ってよカモ君!」

 

最初は懲らしめようと意気込むエロネズミだったが、彼女の正体を知るやいなや故郷へ帰ろうとする臆病者であった。

その姿に唖然としながら逃がさないように尻尾を掴む野菜坊主。

 

「あの茶々丸さんがエヴァさんのパートナーで…僕はあの2人に惨敗して今も狙われてるんだよ…」

 

「それにしても、よく生き残れたなあ兄貴…。吸血鬼の真祖って言やぁ、最強クラスの化け物じゃないッスか」

 

「う、うぅ…。僕じゃどうすることもできなくて…」

 

「しかし、今見た感じじゃあ何かの理由で魔力が弱まっちまってるみてーじゃねーか。…フフ、兄貴、安心しろよ。そーゆーことならいい手があるぜ」

 

「えっ!?何かあの2人に勝つ方法があるの!?」

 

「1番手っ取り早い方法は兄貴のクラスの誰かと仮契約を結んで相手の片一方を2人がかりでボコっちまうんだよ!」

 

人はそれを、卑怯という。

もちろん、野菜坊主も卑怯は駄目だとエロネズミの提案を否定するが、強引な言葉と挑発により、段々と誰かと仮契約を結び、相手の片一方――今回の場合は茶々丸をボコる作戦に乗ろうとして――

 

「おい…何をしている。すでに授業は始まっているぞ」

 

呆れた目で野菜坊主を見ながら近づくリュランが現れた。

ちなみに、本日彼の授業はない。

 

「あっ、リュラン先生!す、すみません。今すぐ行きます!」

 

既に教師としての事務的な能力を疑われている野菜坊主ではなるが、本人は全く知らない事なので気にしない。

また、リュランが来たことで仮契約の話が流れたことで舌打ちをするエロネズミだったが、そもそもこの動物がここにいることをリュランは見逃さなかった。

 

「…なぜ、学校に動物を持ってきている。いくらペットと言えど、放し飼いにできるのは自室のみであり、持ち歩く場合は専用のケースが必要だ。教師として、公私を混同するな」

 

「あ、はい、今後、気をつけます!!」

 

「…フン。さっさと行け。授業をやらずに廊下でぼけっとしているなどと知られれば、教員免許をはく奪されるかもな」

 

その言葉で慌てて教室へ向かう野菜坊主。

それを追いかけるエロネズミ。

正体はわかっているが、手を出すまでもないと、無視するリュラン。

ここでエロネズミを無視したことで、この後とんでもない事態へと発展する…。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

【side 茶々丸】

 

放課後――

部室にて、お茶を点てる私とそれを堪能するマスター。

その帰り道、急に立ち止まり、今後に影響する言葉を告げられました。

 

「ネギ・スプリングフィールドに助言者がついたかも知れん。しばらく私のそばを離れるなよ」

 

「…はい、マスター」

 

ネギ・スプリングフィールド…魔力はマスターよりも上ですが、それ以外の力は同年代の中では上位と思われますが、世界で戦うとなれば最弱に分類される程度の実力の持ち主。

しかし、その彼に助言する者が現れれば話は変わります。

例えば、彼にリュラン様のような方が付けば……――

 

――ガクガクブルブル。

 

「お、おい。大丈夫か、茶々丸」

 

「だ、大丈夫です、マスター。…少々、考えたくない想像をしたものですから…」

 

「?何を想像したんだ」

 

「リュラン様がネギ先生に付いた場合です」

 

「……」

 

――ガクガクブルブル。

 

少しだけ考えた後、すぐさま目の前で震えるマスター。

どうやら私と同じ結果に辿りついたようです。

さすがにリュラン様はネギ先生に付く事はないでしょうが、常に最悪の想定をしておく必要があります。

思案する私と再び歩き出したマスターに声をかける人物が1人。

 

「おーい、エヴァ」

 

「…何か用か、タカミチ」

 

内心嫌な顔をするマスターと笑顔を絶やさないタカミチ先生。

どうやら、内容は学園長からの呼び出し。

しかも、1人でだそうです。

おそらく、この前のネギ先生を襲った件についてかもしれません。

一応、この件は学園長が主体となって立案したので、計画の変更はないか確認するのでしょう。

なんにしろ、この時期に私1人で帰るのは危険だと判断したのか。

 

「――わかった、すぐに行くと伝えろ。茶々丸、すぐ戻る。必ず人目のあるところを、もしくはリュランに事情を話して一緒に居ろ。いいな?」

 

一応、表面上は呆れた表情でしたが、長年の友であるタカミチ先生、そして従者である私には、それが私を心配する顔だったと分かり、私は嬉しくなり少し笑顔になってしまいます。

その後、他愛もない話をしながら学園長室へと歩く2人を見送る。

 

「―――お気をつけて、マスター」

 

見送りを終えた後、リュラン様と合流するか考えましたが、リュラン様も教師としての業務が忙しそうですし、無理を言って帰宅に付いて来ていただくのも心苦しいと判断し、私1人で帰ることとします。

…私は、日課であるネコのエサやりのためいつもの場所へと歩を進める。

 

目的の場所へと歩く途中、川沿いの桜並木にさしかかると、小さな女の子が泣いているのを見つけました。

なぜ泣いているのか、周りを見回すと、少女の頭上辺りで木に引っかかっている風船を発見しました。

…おそらく、少女の持ち物なのでしょう。

無言で飛び上がり、風船の紐に手を伸ばす。

掴む時に、頭部が木に当たりましたが、風船を掴むことに支障は出ていません。

私が飛び上がったことに驚いていたと思われる少女に手渡すと泣き顔が、笑顔に変わりました。

 

「お姉ちゃん、ありがとー」

 

可愛らしい笑顔で感謝されました。

昔の私であれば、感謝など必要なく、人のために尽くす事がガイノイドとして当たり前の事だと思っていました。

ですが、リュランさんはこんな私を至極当然に褒めてくださいます。

当たり前の事を当たり前のように出来る私は立派であるのだと言って。

その時の記憶を思い出し、少し笑顔になりました。

 

「いえ、どう致しまして」

 

「バイバーイ」

 

思い切り手を振る少女に手を振り返してその場を離れる。

そのまま目的地へと歩くと、どこからか2人の少年が私を目がけて走ってくる。

何度か見た事のある少年です。

元気なことは良い事です。

 

少年達と話しながら歩くと、歩道橋を辛そうに歩くおばあさんを見かけました。

いつものように、私は声をかけました。

 

「おばあさん、お手伝いしましょうか?」

 

「おやおや。済まないねぇ、茶々丸さん」

 

一言、おばあさんに尋ねた後、おばあさんを背負って歩道橋を歩き、反対側まで渡る手助けを致しました。

 

「いつもありがとうございます、茶々丸さん」

 

「どう致しまして。困った時はお互い様です」

 

渡った後にお礼を言われ、私も頭を下げる。

見かけた時にしかお手伝いすることが出来ないが、お礼を言ってくださると私も手助けできて良かったと心から思います。

 

川を渡る橋の近くに差し掛かると、橋の上が騒がしいことに気がつきました。

その人たちは皆、川の中央付近を見つめ、騒いでいます。

何事かと私も確認して見ると、脳に衝撃が走りました。

 

「!あれは――」

 

川の流れに揺られながら流される小さな箱に入った子ネコ。

あのままでは転覆して子ネコが死んでしまうと考えた私は、制服が汚れることを気にせず川に入り、流れ行く箱を抱える。

抱えた箱の中を見れば、子ネコがこちらを向いて小さく鳴いていた。

どこにも怪我は見当たらず、とても安心しました。

箱を抱えたまま川から上がると見ていた方々から賞賛と拍手で迎えられました。

少し赤くなりながらも、微笑みながら頭を下げてその場を後にします。

 

 

 

 

遠くから鐘の音が聞こえました。

そろそろ時間です。

遅れてはいけないと目的地への道を少々早歩きで急ぐ。

先程助けた子ネコは気に入ったのか、私の頭の上で小さく鳴いています。

他のネコたちが受け入れてくれるか心配ですが、きっと大丈夫でしょう。

あそこにいるネコたちは優しい子ばかりですから。

 

いつもの場所に到着すると、あちらこちらからネコたちが集まってきました。

足に擦り寄る子や催促する子など様々です。

早速、エサの容器にネコ缶の中身を移し替えます。

その容器を地面に置くと、皆が可愛く食べ始めます。

このゆっくりとした時間。

仲良く食べるネコたちを見て思うのは、たまに家を訪れるリュラン様を交えた食事時のこと。

…私はガイノイドです。

本来、飲食といった人が生活する上で必要な行動の多くを必要としません。

ですが、リュラン様は初めて共に食事をした時、私に座って共に食べようと誘ってくれました。

人ではない私を、同じ人であるかのように接していただけるそんな態度が、掛けていただける優しいその言葉が…私はとても嬉しかった。

 

 

 

 

ゴーン、ゴーンと鐘の音が鳴り響く中…。

私はエサを食べ終わったネコを見送り、容器を片付けていました。

そこへ、近づいてくる人物を感知しました。

 

「…こんにちは、ネギ先生、神楽坂さん。…油断しましたが、お相手はします」

 

驚く必要はありません。

以前、襲った相手に報復として襲われる危険性など、当たり前のように認識しています。

また、先程マスターから聞かされていたので、心構えはできています。

…ネギ先生がいくら甘いとしても、それぐらいは考えることができたのでしょうか。

それとも――マスターの言った助言者の言葉による行動でしょうか。

現時点では判断できませんが、私も随分と想いに耽っていたのですね。

ここまで接近を許してしまうとは…。

 

「茶々丸さん。あの…僕を狙うのは止めていただけませんか?」

 

「…申し訳ありません、ネギ先生。私にとって、マスターの命令は絶対ですので」

 

最後まで決心がつかない様子のネギ先生だったが、私の言葉に引き返せないことを知り、先ほどとは違った表情をする。

―――なるほど、あれは覚悟を決めた表情。

多少、未だ迷う部分もあるのかもしれないが、この前と比べれば大きな進歩です。

また、隣にいる神楽坂さんは手助けでしょうか。

以前、体育の授業で拝見しました時は、かなりの運動能力を誇っていたと記憶しています。

…よいパートナーを見つけてきたものです。

 

「ラス・キル、マ・スキル、マギステル」

 

その合図とともに前へ駆ける神楽坂さん。

…パクティオーしていないのか、契約効果を確認できませんが、常人より優れた身体能力で私に迫った来ました。

振り払う動作の右手を左手で弾く。

続け様に私の顔目がけて、左手が伸びてくる。

――回避が間に合わない。

予想以上の動きにより、体勢が崩されました。

――神楽坂明日奈の想定動作の修正を開始。

 

「はやい!素人とは思えない動きですね。――っ!?」

 

いくらか手加減しているとはいえ、マスターのお傍で戦闘を経験したこともある私に対し、互角の動きを見せる神楽坂さんに驚きを隠せない。

いくら身体能力に優れると言っても、これは――と、神楽坂さんの批評をしている最中に視界の端からネギ先生が近づく姿が見えました。

その姿から、感知器が警報を鳴らしたため、神楽坂さんを蹴り飛ばし、回避を試みる。

ですが、ネギ先生の詠唱の方が早かったようです。

 

「光の精霊11柱。集い来りて敵を射て。『魔法の射手・連弾・光の11矢』!!」

 

「追尾型魔法至近弾多数。…避けきれません」

 

私に搭載されているAIが瞬時に適切な判断を下す。

…結果は最悪。

私は破壊される運命にあるようです。

…どうやら、私はここまでのようです。

 

「すみませんマスター…。もし、私が動かなくなったらネコのエサを…」

 

――そして、リュラン様。

私のようなガイノイドを家族のように慕っていただきありがとうございました。

 

迫り来る魔法に対し、目を閉じて結果を待つ。

脳の記憶から浮かび上がるのはマスターとリュラン様の3人で食事をしていた時の映像。

…もう、食事を作ることも、一緒に食べることもできないのですね。

 

少々切なくなった私ですが、横から何かが飛んでくるのを体温感知器からの反応でAIが判断しました。

その草むらから飛び出してきた何かが、私を弾き飛ばし、私は地面をゴロゴロと転がる。

そして、その何かはそのまま魔法の射手を食らい、吹き飛ばされながら地面を転がっていく。

転がりながら、地面が多少削られたため、土煙が舞う。

 

「ぐっ…ごほっ…」

 

弾き飛ばされた衝撃でどこか痛めたのか、口よりオイルが漏れてきました。

あまり喜ばしくない状況です。

ですが、私はまだ生きています。

私を助けた、何かのお蔭で。

土煙が段々と晴れ、その何かが姿を現す。

 

―――――――――――――――え?

……ありえない……。

…………ありえ、ない…………。

 

「嘘…嘘……嘘………ッ」

 

視界に映ったその光景に、私は否定の言葉を並べる。

AIの下した判断に対し、私は拒否の言葉を並べる。

私のメモリーに記憶されたその顔を見て、私は拒絶の言葉を並べる。

 

無論、この言葉の羅列に本来ならば意味はない。

だが、そうでもしなければ、私が何かが壊れてしまうと感じたから。

しかし、無情にも…――その光景は真実であった。

 

拒否、拒絶したために停止していた機能が、思考能力が復元を開始した。

メモリーに記憶された顔の情報を私のAIが目の液晶に映し出す。

それらを無視し、目の前の光景に対し考え始める。

 

 

 

 

なぜ、あなたが…ここにいるのですか…?

なぜ、あなたが…力なく横たわっているのですか?

なぜ、あなたが…赤い水たまりの中で倒れているのですか…?

 

「…リュ、ラン…様?」

 

AIはさらに判断を下す。

このままでは彼は出血多量で死に至ると―――

 

「―――――リュラン様ッ!!」

 

すぐさま行動に移る。

思考を停止させ、行動を停止していた時間を含め、負傷からかなりの時間が経過している上、最悪の事態だ。

身に纏っていた制服を破り、出血箇所である腕部、頭部に巻きつける。

ですが、腹部からの出血に対しては対応できない――っ!

 

近くで何かが先程から喚いているが、そんな雑音は外部から得られる情報内からフィルタリングして消去する。

すぐさま出血を抑えられる場所へ運ばなければならない。

それはどこ?

――病院?

いや、病院では絶対に間に合わない。

間に合うとすれば―――マスター!

判断するや否や、未だ出血するリュラン様を持ちあげ、ジェット全開で飛ぶ。

 

腕に抱えたリュラン様はぐったりとしたまま身動きしない。

着ているスーツが段々と紅く染まり、それ相応の出血量が出ている事が確認できた。

 

――このままでは――

 

脳に浮かんだ言葉と未来を慌てて打ち消し、ジェットの出力を限界を超えて噴射させる。

私を助けるためにリュラン様を死なせるなど、絶対にあってはならない。

リュラン様を助けられるなら、私の身体が壊れたってかまわない。

 

 

 

 

だから、お願いです。

もう1度、私を褒めてください。

あの時の笑顔で、私を撫でてください。

また、台所で一緒に食事を作りましょう。

そして、マスターと3人で一緒に食事をさせてください。

だから…死なないでください。

 

 

 

 

リュラン、さん――――

 

 

 

 

∽to be continue∽

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