∽移り行く風のように∽   作:アクア=イスタロス

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第50話

―――――【第50話 真名を扱いし者】―――――

 

俺は今、突然の襲撃の対応を迫られていた。

こちら側の戦力は俺を除いて3人。

内、2人は裏の関係者とはいえ生徒だ。

対する相手は使う魔法はまったくバラバラにも関わらず、手にする武器は刀ばかり。

不揃いなのか、きっちりしているのか疑問だが、今はそんなことを考えている場合ではない。

さっさとこの場にいる――10人もの侵入者を倒さねば。

だが、奴らは魔法による遠距離、体勢を崩したと見れば近距離、少々引けば深追いせずに様子見と、こちらのペースにさせないような戦い方をしてくる。

 

「…ちっ、チマチマと戦いやがる」

 

「リュランさん!生徒の撤退、完了しました!」

 

「分かった!瀬流彦、お前はそのまま引いて学園内に被害が出ないように結界を張れ!」

 

「了解です!」

 

2人の生徒が撤退したことを伝えに来た瀬流彦自身にも撤退を促し、俺は侵入者が逃げられないように、周囲に5重の結界を張った。

…これで、全員が倒されるか、俺が倒れるかしない限りは外からの干渉はない。

ようやく十全に戦えるようだ。

 

「さて、そろそろ本気でやろうか」

 

「…そうだな。叫べ『地鳴雲(じめいうん)』」

 

「…!」

 

敵方の1人が何かを呟いた瞬間、奴の持っていた刀が形を変えた。

先程までは一般的な日本刀であった筈だが、今は刀身がギザギザとしており、俺としては使いにくそうな形になった。

…見覚えがある。

この世界に来る前にも、この世界に来てからも、どちらでも書物で見たため概要だけは知っている。

あれは――

 

「斬魄刀、だと…」

 

「ほう?流石は英雄殿。まさか、斬魄刀を御存じだったとは思いもしませんでした」

 

「…伝記を読んだだけだ。その刀に付けられた真の名前を叫ぶことで、その刀本来の形と力を解放することが出来る刀があると。…それがお前の持つ刀の真の姿か」

 

「ええ。我が一振りの名は『地鳴雲』。数年前に手に入れて以来、数ある戦いで勝利を手にしましてね。愛刀ですよ」

 

「…自慢を聞きたいわけじゃないんだがな」

 

「無理をせずともよいのですよ。我が愛刀の前では英雄といえど、無力と化すのですから」

 

ものすごい自信だが、それほど使い勝手のいい効果を持っているのだろうか。

先程の言葉から、直接攻撃系ではなく遠距離攻撃系…もしくは封殺系だろう。

無力と化す…地鳴……ふむ、試してみるか。

 

「『魔法の射手・連弾・風の111矢』」

 

俺の周りに風の精霊が集まりだし、一気に魔法の矢となって敵を狙って放たれた。

これだけの数ともなればいくら魔法の射手と言えど、戦略級の破壊力を秘める。

だが、敵は全く動揺してなかった。

 

「『地鳴雲』よ、共鳴せよ!」

 

奴が何かを呟いた瞬間、斬魄刀の刀身が高速振動し始めた。

何が起こるかと思えば、当たる寸前であった魔法の射手がすべて消滅した。

…やはり、ジャミング系か。

 

「ふふ、英雄の魔法といえど、当たらなければ怖くもなんともないわ!!」

 

「そうか。ならば次は3種類だ」

 

「へ?」

 

「『魔法の射手・連弾・光と闇と炎の59矢』」

 

両手を身体の前へと構える。

掌に集まった大量の魔力の塊をそれぞれの属性へと変換し、1つの属性に付き59本――合計で177本の矢を放った。

やはりというか、何というか…。

あの地鳴雲とやらは1種類の魔法しか打ち消す事が出来ないようで、今回は無様に散って行った。

周りにいた連中も、同様に吹き飛んで気絶した。

残り、2人。

 

「ちょ、おまっ!?一瞬で俺たちだけじゃねぇかよ!?」

 

「や、やべぇぞ!?俺たちだけじゃ、勝ち目なんてねえよ!?」

 

「心配するな。一瞬で終わる」

 

縮地で生き残りの奴らの真後ろへと移動し、首筋を軽く叩いた。

抵抗らしき抵抗もなく、10人全員の無力化に成功した。

…ふぅ、やれやれ。

こいつら此処の力はそれほどでもないが、もし全員が斬魄刀を解放していたのなら…少々厳しかったかもしれない。

まぁ、力のありそうな者が全くいないので、楽といえば楽だが。

 

「さて…捕縛は完了したし、武器の回収も済んだ。あとは届けるだけか」

 

転移魔法を発動し、行先を妖怪の部屋にする。

数秒後、この場で気絶していた全員が光と共に掻き消え、確認すれば全員妖怪の部屋へと運ばれていた。

一息つき、結界を張っているだろう瀬流彦を探しに行く。

ふらふらとしていると、杖を構えて結界を張っている瀬流彦を見つけた。

 

「終わったぞ、瀬流彦」

 

「あ、お疲れ様です。どうでしたか?」

 

「連中の練度自体はそれほどだ。…だが、全員が面倒な武器を持っていてな」

 

「?持っていた武器といえば…同じ造りの刀でしたよね。遠目から見た限りでは日本刀だと思いましたけど」

 

「まさしく日本刀だが…物が違う。これは斬魄刀と言ってな、刀1本1本に付けられた真なる名前を呼ぶことで本当の形を現し、真価を発揮することが出来る代物だ。例えば先程手に入れた…叫べ『地鳴雲』」

 

唯一解放していた斬魄刀を手に取り、真名を呼ぶ。

すると、普通の日本刀だった筈が、先ほど見たようにギザギザの刀身へと変化した。

…近くで見ても、斬る事には適していないよな。

 

「うわっ、形が変化した!?…んー、どういう仕組みなんですか、これ?」

 

「知らん。何故このような刀が求められたのか、どのように作るのか、そもそも材料でさえ詳しく伝わっていない。現状だと、遺跡などに安置された物を取ってくるぐらいしか手に入れる方法はないだろう」

 

「…それが、10本」

 

「そう。大した力を持っていなかった下っ端に10本も持たせていた。希少とされる武器なのにもか関わらず、だ。…敵は一体、何を考えている」

 

瀬流彦も首を傾げながら考え始める。

だが、数秒考えて、すぐに首を振って肩を竦めた。

 

「僕では分かりません。学園長に判断を仰ぎましょう」

 

「…ま、ここでは何もできんしな。癪だが、妖怪に対応させるか」

 

「あはは…。学園長にそんな態度がとれるのはリュランさんだけですね」

 

瀬流彦が当たり前の事を言っていたが、当然だろう。

本来の立場を考えれば俺の方が上の遥か上。

奴の言葉など、聞く必要もない。

だが、それでは現場は成り立たないので、仕方なく話だけは聞いているが。

 

「とにかく、今夜はこれで解散としよう。瀬流彦は引き継ぎの準備。俺は報告書をまとめて来よう」

 

侵入者の特徴、装備、性別、数を書いた後、下の方の備考欄に斬魄刀についても書いておく。

報告書を妖怪の部屋に転送し、俺自身は魔法球に閉じこもり、手に入れた斬魄刀について研究を始めた。

まず初めに解析にかけてみるが、思った以上に情報が得られなかった。

能力は断面的に分かるが、名前だけはどうしても見えない。

やはり、といえばやはりだが、相当特殊な代物だな。

知り得たのはこの刀の長さや柄の材料といったぐらいか。

どうやって刀の名を知るのか…?

数日ほど考え込んでいたが、埒が明かないのでエヴァンジェリンの書庫へ向かうこととする。

もしかすれば、捕縛した下っ端から情報を得られるかもしれないが…期待せずに待とう。

…この斬魄刀、溶かしたらどうなるのかやってみたい気もするが、駄目だろうなぁ…。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

「それで、何か分かりそうか?」

 

「いや、ここにあるのは斬魄刀の姿形や僅かな歴史を書いた物しかない。その歴史も有名な斬魄刀が成した偉業を紹介する程度だしな」

 

「そうか…。済まないな、力になれず」

 

「いや、仕方ないだろう。これは過去の遺産と言っても過言ではない代物だ。研究されていないだけで、これから少しずつ解明するだけだ」

 

エヴァンジェリンの書庫で色々と探してみたが、どうやら徒労だったようだ。

ま、ここにないのであれば諦めが付く。

念のため、茶々丸に検索してもらったが、あまり良さそうな情報はないとのこと。

やはり、自分で解明するしかないようだ。

 

「ふむ。見た目は日本刀だな。多少、刀身の長さや柄の形、材質が違うといえば違うが……」

 

「結局のところ、真なる名前を知らなければ斬魄刀は使いこなせないわけだ。俺が知っているのも此処で見つけた伝記に載っている物や、この前の戦闘で得たこいつぐらいだし」

 

「確か『地鳴雲』だったか。私も興味が湧いた。貸せ」

 

エヴァンジェリンは机に並べて置いた斬魄刀を次々と手に取ってはその刀身を眺め、柄の違いを見ていた。

そして、唯一解放できる地鳴雲に興味が湧いたらしく、強引に奪っていった。

 

「…ふむ。叫べ、地鳴雲」

 

「……」

 

「……」

 

「……?」

 

「……何故、変化しない」

 

「いや、俺に聞かれても」

 

エヴァンジェリンが真なる名前を呼んだにも関わらず、刀はその姿を解放しなかった。

何か間違っていたかと考え、もう1度呼んでいたが、うんともすんとも言わない。

何も変化がないため、イライラし始めたエヴァンジェリンは、俺にやってみせろと言って渡してきた。

……ま、考えても仕方ないか。

 

「叫べ『地鳴雲』」

 

俺が呟いた瞬間、持っていた刀は相変わらずの形に変化した。

毎回毎回斬りにくそうだと思うが、これはこれで良いのかもしれない。

…というか、何故俺は使えるのだろう。

 

「な、何故お前だけ使える……」

 

「いや、知らんよ」

 

エヴァンジェリンが膝から崩れて、よくあるorzの姿勢になっていた。

しかし、謎といえば謎だ。

一応、斬魄刀の不思議として認定しよう。

…これは、早く他の斬魄刀の名前も調べて試してみなければ。

これだけが特別なのか、俺自身が特別なのか…。

研究する内容が増え、しかも、その内容が内容だけに頭が痛い。

見通しも立っていないのに…どうしようか。

 

 

 

 

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――――――――――

 

 

 

 

「それで、口は割ったのか」

 

「いや、残念じゃが奴らも中々強情での。さまざまな尋問、拷問、魔法を試したのじゃが、これ以上やってしまえば壊れてしまうと判断されたため、動けず仕舞いじゃ」

 

「…使えないな」

 

「うぐっ…」

 

2日後。

情報を得られたのかと妖怪を尋ねると、まだのようだ。

魔法使いといえど、敵の工作員から情報を得るために全てを魔法に頼るのではなく、古来から使われる人体への拷問も試すことがある。

無論、その行為に体制のある者しか試そうとしないが、やらないよりマシといった程度である。

まぁ、魔法が便利すぎて廃れただけだが。

もちろん、魔法が使われるのは相手側も理解しているわけで、魔法による侵入を感知すると脳を破壊するプロテクトを施された工作員も多い。

今回の者は全員がプロテクト有りのようで、中々難航しているらしい。

…仕方ない、試すか。

 

「試したい事がある。どいつか1人、頂くぞ。…そうだな、俺が報告書で書いた地鳴雲の使い手以外で」

 

「ふむ。…こちらも手詰まりじゃしの。分かった、許可しよう」

 

「ん」

 

挨拶もそこそこに、捕縛した者たちの収容所へと移動する。

捕えたまま放置された者たちがちらほら居る中、お目当ての集団がいる場所へと辿り着いた。

どうやら、今から1人拷問にかけるらしい。

その相手を見たが、例の地鳴雲の使い手だった。

必要なかったので、スルーした。

 

「妖怪から許可を得た。1人、頂くぞ」

 

「わ、分かりました!お好きなのをどうぞ!」

 

監視していた男は俺に気が付くと敬礼して対応した。

…結構対応が普通だった事に気が抜けた。

こういったところに勤務する者はどこかしら破綻していると思っていたのだが――

 

「ちなみに、俺のおススメはここから3番目の右側の奴です。拷問をやるに相応しい価値のあるイケメンですよ。もちろん、リュラン様以外の話ですが」

 

――訂正しよう。

やはり性格破綻していた。

イケメン限定らしい。

その男に礼を言って、奥へと進みながら左右を見渡し、顔と体格を確認する。

一通り見た後、少しだけどの人物がいいかを考える。

捕縛した者は全員細身で、3人ほどが細身ながらも服の上から筋肉がある事が分かった。

別に筋肉がどうこうではないが、個人的に面倒そうなのでこの3人は外す。

残る6人中、中年みたいなのが4人、童顔だったのが2人だ。

――ということで、この童顔のどちらかから選択する。

もう一度、童顔の2人を見る。

 

「……む?」

 

そして、数分ほど観察していると何か違和感がある。

普段はあまり解析を使わないのだが、その違和感を見抜くため、解析を発動する。

すると判明したこの違和感の正体。

おいおい、こいつ……。

 

「看守。この子供を頂くぞ」

 

「分かりました。あ、手錠だけは外さないでください。それで魔力を封じているので」

 

「はいはい」

 

牢から引っ張った1人の襟首を掴んで持ち運ぶ。

背丈は160程度だが、やけに軽い。

全体的に丸みを帯びた体型で、童顔なのも合わさって成長し過ぎた小学生にも見える。

だが、俺の目はしっかりと情報を見せた。

 

「…お前、歳は」

 

「……」

 

「…工作員をやるまではどこで生きていた」

 

「……」

 

建物から出るまで適当に問いかけていたが、まるで反応なし。

…仕方ないな…。

建物から出る直前で転移魔法を発動し、俺の部屋の魔法球が配置してある場所へやってきた。

突然風景が変わった事に動揺したようだが、表面上はあまり変化を見せなかった。

…幼いながらも、工作員としての知識は教え込まれているらしい。

魔法球へと入る前に、学園の拷問班が匙を投げたという脳のプロテクトを確認する。

……見た瞬間、問題がない事を理解した。

 

魔法球内に設置した建物の1室に放り投げる。

手錠をしてあるため、受け身を取れなかったようだが、こちらを睨むぐらいの力はあるらしい。

…さて、やりますか。

 

「始めに言っておこう。俺は女だからといって手加減するつもりはない。死んだら死んだで他の実験に流用するだけだ。また、俺は魂の捕獲にも興味があってな。お前が死んだら本当に捕まえられるのか実験するからそのつもりで」

 

途端、目の前の人物の顔が青ざめたのが良く分かった。

ぱくぱくと口を開いては閉じ、何か言おうとするが、うまく声が出ないようだ。

ようやく聞き取れた言葉がこれだ。

 

「…お前、英雄…じゃない、のか?」

 

こいつが英雄という存在をどのように捉えているか知らんが、こんな発言をするとはな。

冷ややかな目で見つめながら、俺の見解を話す。

 

「英雄とて人だ。喜怒哀楽の感情もあれば、自分なりの善悪もある。全員が全員、綺麗事を言うとは思わん。…それに、英雄とは人殺しだ。数多の生物を蹂躙し、亡骸の山の頂点に立ったからこそ、授けられた称号だ。……全ての生物を無償で助けるわけじゃない」

 

とは言ったものの、俺は孤児とかを助けて回っていたが。

あの馬鹿やタカミチたちも、動ける範囲で紛争の解決や紛争孤児の救済に力を尽くしていたようだったし。

…少なくとも、紅き翼の面々は倒錯した悪の考えを持っていた人物はいない。

 

「……そう、か」

 

俺の話を聞いて何やら感じたのか、睨むのを止めて意味深げに頷いた。

…何だったのだろう。

 

「私は、アーリア。出身は…魔界だ」

 

言った直後に目の前の女の頭からにょきっと角が生えた。

思わず注視して見てしまった。

…あんな風に出てくるのだな。

 

「魔族か。個々がそれなりの戦闘能力を誇っていると思っていたのだが、お前は違うのか?」

 

「…私は、出来そこない。戦うより、隠れて…何か、するほうが、得意」

 

魔族の事は詳しく知らないが、人間でも色々とあるのだから、彼らにも色々とあるのだろう。

そう勝手に解釈して、さらに話を聞こうと本題に入る。

 

「まず始めに麻帆良で何をしようとしていた」

 

「…それは――うぐぅッ!」

 

「!プロテクトか。…面倒だ。まずはそれを破壊するか」

 

話し始めようとした女が突然苦しみだした。

頭部が軽く光ったので、プロテクトが効果を発揮したのだろう。

面倒なので、強引に破壊する。

 

女の頭を掴み、強引に術式に亀裂を入れる。

その際に生じる脳への攻撃を、全て魔力で捩じ伏せる。

なんてことはない、ただの力技だ。

 

ピシッと音を立てて何かが壊れた気がした。

確認すれば、女に掛かっていたプロテクトの存在が見当たらない。

どうやら成功したようだ。

 

「さて、続きを話せ」

 

「……不思議な、人。私たちは、此処で、引き抜きと……地形の、情報を、得ていた」

 

「組織の構成と本拠地は」

 

「私は、下っ端。だから、全体は、知らない。やり取りも、手紙だけ」

 

「……斬魄刀は」

 

「いくつかの、刀を、触って…相性が、良かったら、使えた」

 

「真なる名前はどうやって知った」

 

「刀を、渡された、時に…」

 

「……お前の刀をこのうちのどれだ。そして、解放の条件を言え」

 

「…右から、2番目。解放は、染めろ『雪白一紋』」

 

「……染めろ『雪白一紋』」

 

女から色々と聞くが、あまり役立つ情報はない。

仕方ないので、使用した斬魄刀について聞けば、ようやく使える情報が手に入った。

解放の言葉を呟いた瞬間、手の中の斬魄刀が変化し、刀身が白くなり、鍔が蝶のような形に変化した。

少しだけ周囲の温度が下がった気がしたので測ってみたら、案の定であった。

おそらく、袖白雪の姉妹刀なのだろう。

 

「…う、嘘…」

 

「……面倒だな。攻撃手段が増えるとはいえ、研究対象にされそうだ」

 

女が絶句していた。

俺も嫌な予想が当たって最悪だよ。

 

解放を解除し、元の状態に戻す。

そして、再び女と向き合う。

…女の目は、何かを覚悟したような目だ。

……何故か、気に食わん。

 

「何を覚悟したか知らんが、俺はお前を殺すつもりはないからな」

 

「…うん」

 

「ならば、何を覚悟した」

 

「…生きること。頭の、枷…外して、くれた。私は、あなたの、ために、生きる」

 

真っ直ぐな目をしていた。

此処に連れて来た時のような濁った目ではなく、生まれて初めて生き甲斐を見つけたかのような、そんな純粋な目であった。

……俺は何もしていない筈だが。

 

「……俺のために生きようとするな。自分のために生きろ」

 

「…やだ」

 

「……」

 

「……」

 

少々、殺気を混ぜて睨んでみた。

…全く動じていなかった。

殺されるかもしれないのに自分の意思を曲げようとしない女に呆れた。

 

「…魔法界に孤児院がある。そこの世話係をやれ」

 

「せ、わ?」

 

「ああ。…陳腐な言葉だが、光に生きてみろ。そこで、自分の価値を見つけてみろ。もし、自分の価値が俺のために生きることだと本当に思うのなら、もう1度、俺の目の前で言って見せろ。その時は考えてやる」

 

「…ありがとう」

 

礼を言われるが、それほど大したことじゃない。

結局、自分の道を決めたのは自分だろうに。

女が孤児院で生活する上での手続きをするためにフェイトを呼び出し、1人預けるとだけ伝える。

これでフェイトはほとんど理解してくれるだろう。

……また、労わってやらんとな。

 

「今日はここで休め。――っと、忘れていた」

 

指を鳴らして手錠を壊す。

目を見て、問題ないと分かったからだ。

もしもこれが嘘であったら……女を褒めるべきだろう。

 

「明日、お前が今後暮らす孤児院に連れていく。やり方はそこで聞け。偶に様子を見に行く」

 

「…寂しい、けど、我慢する」

 

何時の間に懐かれたのか知らんが、害がないので良しとする。

女の部屋を離れ、知り得た情報をまとめるために自室に戻る。

……絶対に他人には見せられんな。

 

妖怪にはどう伝えるべきか…いっそのこと、廃人となったから破棄したとでも言うか。

もしくは研究のためにすり潰したとでも言うか。

 

存在を隠すため、どんな嘘を報告するか色々と考える俺であった。

 

 

 

 

∽to be continue∽

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