∽移り行く風のように∽   作:アクア=イスタロス

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第51話

―――――【第51話】―――――

 

――……

 

…?

俺は、ベッドで寝ていた筈じゃ…?

 

目を開けた瞬間、映ったのは光り輝く満天の星空。

身体中に感じるのは生き生きとした草花たちの脈動。

…そもそも、室内ですらなかった事に驚いた。

何時の間に移動したのだろう。

だが、その星空は綺麗で、いつまでも見ていたいと思えた。

草花の感触は心地よく、いつまでも横になっていたいと思えた。

そして、ふと誰かの気配を感じた。

 

――どこか、懐かしいと思わせるような感覚に嵌った。

 

まだ、顔すら向けていないのにも関わらず。

何故そんなことを思ったのか、俺には分からない。

だが、目を向けずとも、安心できる人物なのだと理解した。

 

「こんばんわ」

 

「ああ、こんばんわ」

 

声がした方へと顔を向け、そこにいた人物の姿を目に映す。

銀色の髪、蒼い目、優しそうな笑み……。

俺に似た容姿を持ちながら、決定的に違うのは――その人物が女であることぐらいか。

ローブのような物を着ているが、起伏が大きいせいか、隠し切れていない。

…はて、この人物は一体。

 

「こうしてお会いするのは初めてですね」

 

「そうだな。…だが、俺は君を知らない。どこか懐かしいと思わせる雰囲気を感じたが、それでも俺の記憶にはない。……君は誰だ?」

 

「…私は――――。―――――です」

 

「……」

 

何を言ったのか、さっぱりだ。

怪訝な顔をしていたから分かったのだろう。

悲しそうに顔を伏せると、ぼそっと呟いた。

 

「まだ、時期尚早というのですか。私は、こんなにもあなたと会って、話がしたいというのに…ッ!」

 

「……」

 

その言葉は、俺の心を揺さぶった。

何故か、俺にも理解できない。

ただ、今の言葉は彼女自身の魂の叫びなのだと理解しただけだ。

…本当に、誰なんだ?

 

景色が揺らぐ。

前後不覚に陥ったのかと思ったが、女性だけはブレていなかった。

…景色だけが揺れると怖いのだな。

 

「…ッ、時間、ですね。また、お会いしましょう、――――」

 

「待て、俺はまだ聞きたい事が――」

 

 

 

 

――――――――――

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――――――――――

 

 

 

 

ハッと目を覚ます。

身体を起こした瞬間、ここがベッドの上であり、女子寮にある自分の部屋である事が理解できた。

汗でべた付く寝巻を着替えながら、頭に残る光景を思い出す。

 

「夢…だったのか?」

 

それにしては、かなり現実味のある夢だ。

星空も、草花も、あの女性も…。

目を閉じるだけで先程の情景を思い浮かべる事が出来る。

夢であると片付けてしまうには、あまりにも記憶に残り過ぎていた。

…だが、俺自身占いに精通していないので、これが何を意味するのか分からない。

まぁ、深く気にしている暇もない。

今は、例の件について研究を続けなければ…。

魔法球へと戻り、保管してある斬魄刀を調べるために動きだす。

 

朝から鏡を見る習慣がない彼は終ぞ、自分の変化について気がつかなかった。

 

 

 

 

またもや魔法球へと籠もり、入った時間から逆算してそろそろ出立の準備を始めなければならない。

研究を進めねばならないが、適度な休息も必要か。

 

「今日は…3-Aの授業日だったか。何をしようか…」

 

基本的に、俺はカリキュラム通りの授業を行うばかりではない。

例を挙げれば、各人の運動神経を見るためにアスレチックジムを用いた授業だったり、外であれば数週間ずつで競技を変えたりしている。

1つの事をとことんやるのも好きなのだが、この年頃の傾向として、1つを極める者と適度な変化求める者の2パターンに分かれやすい。

まぁ、その中でも特に3-Aはノリに流されやすいが。

 

…ふむ、今日はバレーの予定だったが、少しばかり変えてみるか。

 

今日の計画をどう変更するか頭の中で考えつつ、支度を整える。

普段から鏡を見ないが、ネクタイが曲がった試しがないため、そのまま魔法球を出て、自室の扉に鍵を掛け、学園へと向かう。

出勤中、珍しく誰にも会わないまま中等部の校舎に辿りついた。

授業は1時限目なので、教室には向かわず、予定場所である体育館へと向かう。

 

――HR?

野菜坊主がやっているだろう。

 

さっさとネットを張り、準備万端だ。

あとは生徒が来るのを待つばかりだ。

 

「あっ、リュラン先生はやーい!」

 

「ほんとだ!もうネット張ってあるし!」

 

入口の方から声が聞こえた。

声からするに、仲良し4人組が1番乗りか。

挨拶を返すために振り返る。

 

「まだHRが終わってから数分だろう。お前らこそ早すぎると思うがな」

 

『……』

 

「…?どうかしたか。人の顔をそんなに驚いたように見て」

 

4人が4人とも口を大きく開けて唖然としていた。

明石と佐々木は白目になっていたぐらいだ。

 

「…え、気が付いてないの?」

 

「?何にだ」

 

「リュ、リュラン先生。か、鏡です」

 

「ああ。悪いな、アキラ」

 

絶句したまま動かない和泉、少々引いている明石、佐々木を余所に、恐る恐るといった感じでアキラが手鏡を渡してくれた。

いったい俺の顔に何が…?

そして、顔を見た瞬間、彼女たちが唖然とした理由がよく分かった。

 

――右目は何ともない、普段通りの蒼目だ。

――しかし、左目は異常だった。

――何故なら、眼球の部分が蒼く、蒼目だった部分が白いのだ。

 

つまり、内と外の色が反転していたのだ。

自分で見て、これは驚くだろうと納得した。

 

「ふむ。これでは多くの者に心配を掛けてしまうな。…眼帯でもつけるか」

 

「いや、眼帯も心配すると思うけど…」

 

「しかしだな、アキラ。このままの方が余計意味の分からぬ噂を広めそうなのだが」

 

実際、麻帆良新聞の行動力はすごい。

1時間ほど前に初めて話した筈の情報が、すぐに新聞として全学園生徒に知れ渡るのだ。

恐るべし、麻帆良新聞。

 

「……ごめんなさい。私じゃ、何にも浮かばない」

 

「いや、アキラが落ち込む必要はないぞ。大方、俺に原因があるのは間違いないからな」

 

「…分かった。早く良くなってね、リュラン先生」

 

アキラは優しいな。

思わず頭を撫でてしまったが、仕方ないだろう。

 

「ま、必要以上に広げる意味はないが、心配した友達に聞かれたら適当に流してくれ。最終手段として、野菜坊主にやられたということにすれば問題ない」

 

「そ、それはそれで問題じゃ…」

 

撫でられて赤くなったアキラがもごもごと何か言った気がするが、気にしない。

とりあえず、固まっていた3人を再起動させ、後から来た者たちに何回も驚かれながら、授業を開始した。

…とりあえず、悪戯しようとした鳴滝姉と春日はお仕置きだな。

内容は2人が苦手とする先生とみっちり1時間補修が良いだろう。

 

「リュ、リュラン先生?桜咲さんと龍宮さんが死にそうなんですけど…」

 

「ん?…おお、考え事をしてた。すまんすまん」

 

「……」

 

「は、はは。リュランさんの全てを、私は受けとめるよ」

 

無言で死にそうな刹那とMの極致に達しそうな真名。

…いいだろう、お前ら。

今度の訓練は倍のメニューやってやる。

刹那はその体力の無さを、真名はその精神を怨むんだな。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

体育の授業が終わり、刹那と真名にお仕置きの内容を言い渡して恐怖に怯える2人を可愛く思って撫でた後、職員室へと戻る。

俺の仕事は体育の授業だけじゃない。

昼間は広域指導員としても働いている。

これから、校内で悪さをするガキがいないか見回るつもりだ。

…まぁ、めぼしい場所は特定済みだし、その他の場所も、魔力探査をすればすぐに分かる。

 

「まずは、聖ウルスラ学園の敷地内か」

 

麻帆良にある高等部の内、いくつかある女子高のうちの1つであり、主に魔法関係の生徒がそちらへ入学する。

入学を希望した際、一般人であれば様々な理由――成績であったり、サークルの関係であったり、最悪の場合だと認識阻害で本当は違う学校に行きたかったと考えを改めさせられる事が多い。

逆に、魔法生徒であれば担当の教員から話を聞いている筈なので、ほぼ必ずそこへ入学することとなる。

聖ウルスラ学園生徒専用の図書館や施設があるのも、根本を探ればそういった理由が大きい。

 

…ま、絶対に一般人はいないかというとそうではない。

例外として、知らず知らずのうちに特別な体質を持っている場合も半強制的に入学させる。

今の学年には体質持ちがいないが、5年ほど前には『海』と呼ばれた体質持ちがいたらしい。

何でも、魔法を広範囲に拡散することのできる体質だとか。

まぁ、本人はいたって普通の一般人であり、両親とその親の家系辿っても魔法使いの血は皆無だったので、稀な特異体質であるとして監視だけに留められたが。

その後は知らない。

どこかの企業に就職したと書いてあったが、おそらく魔法関係の企業なのだろう。

…俺には関係のない話だ。

 

話がズレたままだが、聖ウルスラ学園の校門に着いてしまったので打ち切るとしよう。

教師であり、広域指導員である名札を門番に見せ、中へと入る。

この学校の溜まり場は体育館裏、中庭の噴水裏、下駄箱のすぐ近くの階段下の3つ。

魔力探知では3つのうち、2つからは生物反応がないため、見に行く必要はない。

残された1つの体育館裏にへと向かう。

反応は5つ。

何をしているのか知らないが、さっさと終わらせよう。

 

「ひゃう、んんっ、ひやぁああ!」

 

「へへっ、ここがいいのかな。私の子猫ちゃん?」

 

「広美、本当に好きだねぇ」

 

「当たり前でしょ。私にとって子猫ちゃんは魔法使いの使命より大事ッ!」

 

「そんなこと言ってるからこの前も指導を受けたんでしょ」

 

「公言しなきゃいいのに」

 

「実は指導されるのが好きだったりして」

 

「ああ、相手はあのリュラン様だしね」

 

「そ、そそそそそんなことないわ!」

 

「声が裏返ってるし、バレバレだよ」

 

…空から姿を隠して現場を覗いたが、予想の斜め上をいっていた。

昼間から淫行に耽るとは…仮にも君たちは見習い魔法使いだろうに…。

小柄の少女を後ろから弄ぶ女と、その周りで呆れながら見守る3人の女。

全員が同じ服装で、唯一違うのは身につける色ぐらいだ。

弄ばれている少女が赤で、他の4人は青だ。

たしか、青が2年で、赤が1年だったはず。

…っと、そんなことはどうでもいい。

広美と呼ばれた女と周りに座る女たちの間で何やら会話がされているようだが、ほとんど聞こえない。

どのタイミングで仲介するか考えていると、急に少女を弄んでいた女が動揺し出して、少女を弄ぶ力が変化した。

この好機を逃すわけにはいかない。

 

素早く少女を抱きかかえ、他の4人と距離を取る。

まだ騒いでいるようで、こちらに気が付く様子はない。

先に少女の様子を調べることとする。

 

「少女よ、大丈夫か」

 

「へ?は、はい、大丈夫ですッ!」

 

俺の正体に気がついたのか、すぐにピシッと敬礼。

そこまで大袈裟にやらなくてもいいと思うのだがな。

 

「そうか。なら、学年とクラス、名前を言って。放課後にでも報告書を書いて欲しい」

 

「わ、分かりました!それでは、失礼します!」

 

走り去った少女を見送り、未だ騒ぐ4人に呆れながら喝を入れた。

突然の声に驚き、4人全員がこちらを振り返り、3人は青ざめて、1人は頬を赤らめた。

…って、えぇ!?

1番まともに見えた女が1番まともじゃなかったという罠だったようだ。

むむむ、まんまと罠に嵌められた感じが…。

 

「お前ら。授業を抜け出してまで馬鹿な真似をしてるんじゃない。さっさと授業に戻れ。担任にはこちらから報告する」

 

『し、失礼します!』

 

またもや敬礼をして去っていく4人。

…何故だろうか。

目か、目が原因か。

 

「此処は問題なさそうだな。次に行くとしよう」

 

この後は中等部、初等部、大学部、敷地内にある全ての施設エリアを見て周り、午後4時の鐘を合図に見回りを終了した。

検挙者は大体25人ほどか。

見回りが功を奏しているのか、最近はだいぶ少なくなったものだ。

昔は1日に100人も検挙した事があったな…。

そのほとんどが、新人の広域指導員である俺を舐めていたからであったが。

アレを思えば、今は可愛いものだ。

…大半が常習犯になっている気もするが、俺は知らん。

 

さて、さっさと帰って研究の続きでもしますか。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

「…ん。また此処か」

 

研究をしていた筈だったが、再び例の世界へ迷い込んだ。

原因を考えたが、おそらく寝てしまったからだと思う。

そして、この世界へは寝ている間しか来れないのだろう。

 

「また会いましたね、――――」

 

「そうだな。名を知らぬ者よ」

 

「…悲しい事です。私の名が伝わらぬなど」

 

「安心しろ。名が分からなくとも俺には関係ない。目の前にいれば十分だ」

 

悲しみの表情を浮かべる女性に思わず慰めの言葉を掛けた。

言ってその直後から、自分が予想もしていなかった言葉が咄嗟に口から出たため、自分で自分に唖然とした。

あちらも俺からこんな言葉が出るとは思っていなかったのだろう。

目を大きく見開いてこちらを見てきたと思えば、クスクスと笑い始めた。

 

「あ、すみません。驚いてしまったものですから」

 

「いや、俺自身も驚いている。…2回しか会っていないのに、ここまで気楽に話せる事について驚いたよ」

 

「当たり前です。私たちは――――。例え会っていなくとも、この――は崩れません」

 

やはりノイズが走る。

かかる個所は1番重要であろう場所だ。

…苛立たしい。

 

「何故俺はお前の声が聞こえない。俺の中に何があるというんだ…!」

 

何が原因なのか。

考えど考えど、原因の欠片すら見当たらない。

 

「…1つだけ言えるのは、あなた自身が自分の力に気が付いていないからでしょう。それに気がつくまで、私とあなたの想いは届かない」

 

「俺自身の…力…!?」

 

それは何か。

創造か、いやあれは神の力だ。

百式観音か、あれは拳撃の極致であって俺自身の力じゃない。

…俺の力とは、一体……。

 

「思い出してください。あなたがそれに気がつけば、この世界も元の姿を見せましょう」

 

「ちょっと待て!この世界も姿を変える?それはどういうことだ!!」

 

「次に会える時には私の声が届く事を祈りますよ、――――」

 

「待て!くそっ、待てって言ってんだろうが!!」

 

彼女を引きとめるべく手を伸ばしたが、風に舞う草花に阻まれた。

結局、彼女に手は届かぬまま、俺の意識は闇に包まれた。

 

 

 

 

――早く見つけ出してくださいね、我が魂の半身よ。

 

 

 

 

∽to be continue∽

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