∽移り行く風のように∽   作:アクア=イスタロス

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第52話

―――――【第52話 己とは】―――――

 

ザザザザザザザザッ

ドドドドドドドドッ

 

何の音か分からぬ者も居るから説明しよう。

今の音は滝の音だ。

…決して作者が手を抜いたわけではないぞ、思いつかなかっただけだ。

 

再び、俺は魔法球の中にいた。

ただし、居る場所は普段は滅多に近づく事がない滝エリア――真名や刹那曰く、精神の間。

今回、此処に俺が訪れた理由は簡単だ。

 

――彼女は、俺が俺自身の力に気が付いていないと言った。

 

今の俺に何が足りないのか。

…いや、足りないものだらけか。

大半は神から奪った力。

残りも神の力を応用して生み出した物がほとんど。

つまり、俺は俺の力で何かを見出した事がない。

 

故に、此度は1から自分を見つめ直すために…時間の進み具合を普段の365倍。

つまり、中で1年過ごさなければ外では1時間経過しないわけだ。

自慢にもならんが、時間だけなら永遠のようにある。

ならば、その無限にも思える時間を、今は俺のためだけに使おう。

俺の力…必ず見つけ出すために。

 

では、まずは滝壺修行だな。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

――頭がスッキリする。

 

何も考えず、ただ滝に打たれ続ける。

最初の頃は、色々と考えていた気もするが、ある時から考える事を放棄した。

座禅を組んだまま、ただ時が流れる様を身体で体感し続ける。

遥か頭上から落ちる滝、地表へと流れ身体に当たる水流、下流へと身を委ね流れと成す川。

同じ水が、呼び名を変えて次々と動いていく。

その様子を、自分の視線とは思えないほど上の地点から眺めていた。

何も感じない。

感じるのは自分の鼓動だけ。

定期的に鳴り続ける心臓の音に耳を澄まし、クリアになった頭脳で今一度、俺の力とは何か自問する。

 

――そも、俺とは何か。

 

――俺は、元一般人現不老不死の英雄。

 

――では、俺は何をするためにこの世界を創りあげた。

 

――…生きるため…?

 

――いや、それだけじゃない筈だ。

 

――俺は、何を目指してこの世界を“創造”した。

 

――それは――

 

「…そうか、簡単な話だったんだ」

 

滝壺から立ちあがり、気で上から流れる水流を弾き飛ばす。

周囲に何トンもあった水流がばら撒かれ、多少自然が吹き飛んだ。

だが、俺は手を振りかざす。

ただそれだけで、先程吹き飛んだ自然が元に戻った。

…これが、俺自身の力。

 

「…無から有へ、有から無へ。…いや、さすがに違う気がするな」

 

この力を正確に表すとしたらどんな表現だろう。

時間回帰…とはまた別の力だろう。

新たに生み出したわけでもない。

吹き飛んだ自然を治したわけでもない。

ただ、あるべき姿に戻しただけ。

時間回帰とは違う…俺だけの力。

 

「それが――」

 

 

 

 

「――あなたの力なのですね」

 

「――ああ。そうだ」

 

突然、例の世界へ引き込まれた。

今回は寝てない筈――とは言わない。

この世界の元も当たりは付けてある。

全てを握るのは、目の前の女性。

俺と同じ容姿を持つ、性別の違う存在。

俺の予想が正しければ、彼女は…――

 

「お前は…いや、君は俺と同じ存在。俺の半身とでも言おうか。俺であって俺ではない者。それが君の正体だ」

 

「ええ。我が魂の半身よ。私の名は『アルタリオン』。あなたが望んだ奇跡を実現する力の代行者でもあります」

 

「アルタリオン。それが君の名前か」

 

「ええ。由来は教えませんが」

 

「え、俺と同じ存在なのに!?」

 

「ここは煩過ぎます。後ほど静かな場所で教えます」

 

「…納得できんが、理解しよう」

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

彼女の顔に笑顔が溢れた。

何の患いも無い、純粋な微笑みだ。

 

「…ようやく笑ってくれた」

 

「あなたと本当の意味で話せるようになりましたから」

 

嬉しい事を言ってくれる。

…そうか、同じ魂だから当たり前か。

 

「…もう、時間ですね」

 

「…そうだな」

 

彼女の足元が消え始めた。

だが、今までのような不安感はない。

安心して見ていられる。

 

「ですが、会えなくなるわけではありません。あなたがあなた自身の心の世界を思い浮かべれば、いつでも私はそこにいます」

 

「…また会いに来るさ」

 

「…はい。お待ちしていますよ、リュラン」

 

目の前から突風が吹き荒れる。

思わず目を瞑り、突風が収まるのを待つ。

風が吹き止み、目を開ければ彼女の姿はどこにもない。

ただし、彼女は自分自身を残して行った。

 

――そこには、1本の剣があった。

 

装飾がほとんどないシンプルな騎士剣。

刀身から柄に至るまで、その全てが白という美しさ。

ただ、唯一柄に付けられた蒼い玉がその剣の高貴さを物語る。

これが彼(彼女)の力の結晶。

世界に唯一無二の剣である。

 

「…共に、この世界を生きよう」

 

柄を掴み、天へと掲げる。

月明かりが反射し、きらりと光る。

そこでふと、刀身に刻まれた文字に気が付く。

ほとんど刀身に同化しているため、月明かりの反射がなければ気がつかなかったかもしれない。

そこには、こう書かれていた。

 

「『奇跡を刻む悠久の風』、か。大規模に使うときはこれを叫べって?…今さらだが、恥ずかしいなぁ…」

 

頭に響いた彼女の言葉に思わず苦笑してしまう。

今まで色々と奥義名を宣言していたが、改めて言われると恥ずかしいものである。

最も、これからも使う度に宣言するだろうから、何も変わる事はないのだが。

やはり、この辺は心中を察してくれとしか言えない。

 

「さて、そろそろ現実へと戻るか。…研究も進めたいし」

 

目を閉じる。

別に閉じる必要もないが、気分の問題だ。

すっと、身体が浮き上がる感じがした。

 

 

 

 

そして、滝に打たれる瞬間に戻って来た。

 

「いたたたたっ!?」

 

先程まで心の世界にいたからか、身体の痛みに激しいぐらい敏感になっていた。

この現状を打破するため、気を放ったのだが、先程のような現象がリフレインした。

悩んだが、気にしてはいけないと考え、再び元に戻すと身体を拭くためにタオルへ手を伸ばした。

 

「……」

 

「……」

 

伸ばした先に、フェイトがいた。

さらに言えば、柔らかい物を掴んでいた。

手の先へと視線を動かしていけば、フェイトの――

 

「あわわわわっ!?」

 

「ひゃわわわわっ!?」

 

大慌てで手を引っ込めて、タオルで身を隠す。

…あれ、合ってはいるのだが、間違っている気がする。

フェイトも、何やら手をバタバタとさせ、最終的に自分の腕で身を隠すことで落ちついた。

…とりあえず、身体を拭いて服を着た。

その間、フェイトは舐めるようにジッとこちらを見つめていた。

……フェイトも恥ずかしかったんだ、これぐらいは我慢する。

 

服を着て、正座をして、フェイトも正座したところで沈黙。

どう話を切り出すか…悩んだ挙句、さっさと聞こうと決意した。

 

「「あの。あっ…」」

 

間が悪いのか、相性がいいのか。

同じタイミングで話し始めてしまい、結局どちらも尻つぼみで口を閉じてしまった。

…おし、ここはさっさと聞いて終わらせよう。

 

「あの、だなフェイト。此処へは何しに来たんだ?」

 

「は、はい。久しぶりに休みが取れたので、リュラン様のご予定をお伺いしようかと思ったのですが…。…あの、お邪魔だったでしょうか?」

 

「い、いや。先程終わったところだ。この後は何も予定がないからこれから考えるつもりだったよ」

 

「そ、それは良かったです。…も、もしよろしければなのですが……一緒に街へ行きませんか?」

 

「お、おう」

 

顔を赤く染めながら上目遣いで聞いてくるフェイトは反則であった。

何も考えずに即答。

了承の答えを聞いて、ぱぁっと笑顔になったフェイトも反則であった。

なんとか持ち直した空気を安堵し、笑顔で着替えてくると発言して帰ろうとするフェイトに慌てて待ったをかけて尋ねた。

 

「フェイトが入って来た時間は何時だ?」

 

「確か…午後10時頃だったでしょうか」

 

俺が研究のために魔法球に入ったのが午後5時。

寝て、心の中で彼女に発破を掛けられて時間を調整したのが入ってから3日ほど経っていたから…

 

――え、滝修行だけで2年が経ったの?

 

あまりにも唐突に発覚した恐るべき驚愕の事実だった。

呆然とする俺を、首を傾げて眺めていたフェイトであった。

 

 

 

 

その後、復活したリュランを伴って別荘へと戻り、衣装ケースから様々な衣装を取り出しては着替えを始めた2人だったが、顔を見合わせた瞬間に例の事を思い出したのか、顔を真っ赤にしてあわあわしていた。

…結構な年を重ねているにもかかわらず、初心な心を持つ2人であった。

 

 

 

 

∽to be continue∽

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