∽移り行く風のように∽   作:アクア=イスタロス

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第53話

―――――【第53話 街へ】―――――

 

東京、渋谷。

日本の首都として政治・経済の一角を担い続けてきた街。

年中、多くの人々が仕事であったり、買い物であったり、観光であったりと歩いている姿が見られる。

無論、その姿は日本人だけではなく、アジア系だったり、欧米系だったりする。

そのため、昼でも夜でも、色鮮やかな風景が街に溢れていた。

 

「ねぇねぇ。あそこにいる人…」

 

「やばっ、チョーカッコイイ!」

 

「背の高い銀髪とか…じゅる…」

 

「千尋。よだれ出てるよ」

 

待ち合わせ場所として人気の高いハチ公前のオープンカフェ。

そこに、通り過ぎる人たちの目を集める人物がいた。

銀髪にサングラス、黒色のスーツ。

目元が見えないのが残念だが、全体を見るに美形。

季節としては少々遅い気もするスーツが、それを無視しても様になるその姿に、多くの人――特に女性の視線を集めていた。

 

そんな視線を集めている事など気にもせず、彼は椅子に座り、足を組んで本を読んでいた。

その彼に近づく者が1人。

 

「お待たせしました」

 

「…時間通りか。相変わらずだな」

 

「リュラン様こそ」

 

「ここで様は止めてくれ。呼び捨てで良い」

 

「は、はい」

 

現れたのはこちらもまた美形。

薄紫色の髪に白い肌。

目立ちにくいレモン色のワンピース。

にこっと笑うその姿に、またまた通りかかる――今度は男性の視線を集めていた。

ちらほら、隣にいる彼女に頬やわき腹を抓られて痛そうではあるが。

 

「では、行こうか」

 

「はい」

 

「…ああ、フェイト。その腕に付けたブレスレットは新しいものかな?」

 

「はい。リュラン…と街へ行けるとのことで、今まで着ける機会の無かった物でしたが…。どうでしょうか?」

 

「とても似合っているよ。俺にはもったいない位だ」

 

「ありがとうございます」

 

突然街中に現れた美男美女のカップル。

誰もがその2人を見つめていた。

 

彼らの名はリュランとフェイト。

本日、街歩きという名のデートである。

 

 

 

 

――――――――――

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――――――――――

 

 

 

 

「ねぇねぇ、そこのおねーちゃん。そんな奴より俺たちとあそぼーぜー?」

 

ハチ公前を離れ、2人はメインストリートを歩いていた。

右手に見える様々な店舗のウィンドウを眺めながら、あーだこーだと批評し、可愛い物を見つけては無表情――の中に少しだけ赤く染まった頬でじぃっと見つめるフェイトを苦笑しながらリュランが見つめていたり、良さげな服を見つけては試着で突発的なファッションショーが開催されたりと、中々有意義な時間を過ごせていた。

そろそろお昼ごろかとリュランが時計を眺めていたとき、そんな無粋な声がこちらの耳に届いた。

 

「…あなた方にそのように気安く話しかけられる理由はありません。お引き取りください」

 

「ひゃひゃひゃ!りょーちん、ばっさり切られてやんの」

 

「いやいや、これぐらいの方が口説きがいがあるんだってーの!」

 

後ろに連れる2人の男と騒ぎ立てる姿はとても滑稽だった。

他人の迷惑を顧みず、ただ自分の欲望のまま動く姿。

見るに値せず、と2人は判断した。

 

「…くだらん。行くぞ、フェイト」

 

「ええ」

 

「あ、待てよ!」

 

そんなやり取りを無視して先へと行こうとした2人だったが、その動きを見たりょーちんと呼ばれた男がフェイトの腕を掴む。

振り払おうとするが、相手は無駄に握力が強かった。

 

「人を無視してどこへ行こーとするんですかー?隣の男はさっさと消えてくださーい」

 

「そーそー!人の恋路を邪魔する馬鹿は馬に蹴られて死ねって言うしー」

 

「おお!さすがジューベェ!頭良い!」

 

「だろだろ?俺って天才!」

 

どこをどう見ればそんな発言が出来るのか。

周りにいた通行人は、意図せず同じ言葉を頭に浮かべた。

 

「おらおら、さっさと消えてくんねーかな?あんたには用はねんだからよー」

 

「ま、消えないんなら…ブサッといっちゃう?」

 

ほとんど会話に入って来なかった最後の1人がようやく口にしたかと思えば、見せたのはサバイバルナイフ。

鈍く光る刀身を見せびらかし、ケラケラと笑っていた。

 

「ぼうちゃんはすぐそうやって手が出るんだからー」

 

「だってよ、手っ取り早いしぃ?」

 

「じゃ、さっさと男はボコって女と楽しみますか!」

 

ブチッ

 

男たちの発言の直後、妙に耳に残る音がストリートに響いた。

その音を聞き、頭に手を当ててやれやれと肩を竦めたリュラン。

そして、一言告げた。

 

「あまりやり過ぎるなよ」

 

「無理です。私はともかくリュラン…を卑下する発言をしたのですから」

 

そして、フェイトは掴まれていた腕とは反対の腕の手で相手の男の掴んでいた手を掴み――地面へ叩きつけた。

 

「ごべっ!?」

 

「わわっ、りょーちん!?」

 

笑っていたと思ったら突然地面に叩きつけられたりょーちんなる人物はあまりの痛みに悶えていた。

誰がやったとぼうちゃんなる人物が2人を見れば、前に居るのは手を出そうとしていた女の方である。

顔が引き攣った。

 

「死になさい、害虫共」

 

その後の映像は本人たちの都合によりお見せする事は御遠慮することとなった。

たた、彼女より下された鉄槌は、絡んでいた3人の心と体を圧し折るには十分な威力を伴っていたとだけ記す。

また、その姿を見ていた通行人は顔を引き攣らせながら拍手していた。

 

後に、その現場に駆けつけた警察官は同僚に対し、こう言った。

 

――どうやればコンクリートに人が突き刺さるのだろう、と

 

それは、見ていた者にしか分からない。

 

 

 

 

――――――――――

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――――――――――

 

 

 

 

絡んできたゴミを破棄し、ウィンドウショッピングに戻った2人であったが、次は女性に囲まれる事が増えてしまっていた。

理由のほとんどはリュランであるが、中には先程の惨劇を見て感動した女性がフェイトにどうすればあのような力が出るのか聞きに来るといった事もあった。

 

迫る女性たちに呆れながら対処するリュランを見て、フェイトは少しばかり妬いた。

先程から、自分に構ってくれないからである。

隣のフェイトから黒い何かが出てきた事に気がついたリュランは慌ててフェイトの手を引っ張って囲いを脱出した。

突然の動きに対応できなかったフェイトを含めた女性陣は茫然としたまま、身動きしなかった。

 

「悪いな。あれほど来るとは思っていなかった」

 

「い、いえ。私こそ、感情を制御できずに申し訳ありません」

 

「…ふふ。生まれたばかりの時と比べれば格段の進歩だろう?笑って、怒って、妬いて…くくっ」

 

「も、もう忘れてください!」

 

囲みを抜けたリュランが向かったのは近くにあった公園だ。

そこでベンチに座って休息を取りながら、話題は先程から見せるフェイトの様々な表情について。

その光景を思い出して、真っ赤になりながらぽかぽかとリュランを叩くフェイト。

その姿は可愛いの一言に尽きる。

 

「さて、あと数店舗覗いたら帰るぞ」

 

「え、あ、はい。…もう、そんな時間なのですね…」

 

時計を見せられ、少々名残惜しそうに残念がるフェイト。

それを見て、リュランはまたもやフェイトの手を握り、歩きだした。

 

「あ、あの…」

 

「さっさと行くぞ。楽しい時間は出来るだけ長く過ごしたい」

 

「!…はい!」

 

笑顔に戻ったフェイトと共に、リュランは駅へと続く道のりを見ながら歩き続ける。

ふと、引っ張っていた手が止まり、どうしたのかと後ろを振り返れば、フェイトの視線はとある物に釘付けだった。

 

それは、ネックレスだった。

 

細いチェーンと中央に何かを形どった模様で出来たシンプルな物だ。

かなり長く見ていたため、買おうかと声を掛ける前にフェイトが駅へと続く道を歩き始めてしまった。

追いかけ、尋ねる。

 

「いいのか」

 

「はい。…私には似合いませぬし、時間もあまり残っていません」

 

本当にいいのかと口にしようとして、飲み込んだ。

その代わりなのか、腕を絡ませて歩き始めたフェイトを横目に、リュランは心の中でため息をついた。

 

駅を目前にして、リュランが突然声を上げた。

聞けば、買い忘れた物があるとのこと。

フェイトに切符を頼み、すぐさま来た道を引き返して行った。

その姿に少し呆れながらも、クスクス笑って切符を買うために販売機へと向かう。

そして10分後。

改札口前で待つフェイトの前に、リュランが駆け足で近付いてきた。

 

「悪いな。待たせた」

 

「問題ありません。それでは乗りましょう」

 

電車に乗り込むと夕方だからなのか、乗っている人の数は少なく、がらんとしていた。

無言のまま空いていた席に座り、フェイトはリュランの肩に頭を寄せた。

ガタンガタン、と電車が線路を走る音だけが辺りに響く。

鳴り響く音に耳を澄ませ、身体を委ねていると、1人、また1人と電車を降りていく。

そして、気がつけば電車内にはリュランとフェイトの2人しかいなかった。

 

「…フェイト」

 

「…どうかしましたか」

 

「少し目を閉じてくれ」

 

「?分かりました」

 

リュランに言われ、フェイトは目を閉じる。

そして、リュランは懐を探り、目的の物を手に取る。

 

「…いいぞ」

 

「…!これは…」

 

「今日は楽しかったな。また、時間があれば来よう」

 

「…はい!」

 

フェイトの首にかけられたシンプルなネックレス。

彼女が興味を示し、そして肩を落ち込ませながら諦めた品物だ。

それが、彼女の首で夕日に照らされていた。

 

「ありがとうございます。…リュラン」

 

腕に抱きついたフェイトの笑みは、夕日にも負けぬほどの今日1番の輝きを見せていた。

 

 

 

 

∽to be continue∽

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