―――――【第54話 襲撃、闇夜の麻帆良学園】―――――
『リュラン殿よ、大変じゃ!』
今日は待機もないため、魔法球に籠もって斬魄刀の研究を行っていると、外から緊急用の連絡が来たと分身が連絡を寄こした。
今まで緊急連絡など来た試しがなかったので、一体何が起きたのかと首を捻りながら連絡を受け取る。
「どうした妖怪。緊急用で連絡とは何が起きた」
『例のアレを持った敵勢が手薄であった図書館島付近の湖を泳いで世界樹広場北側に侵入したんじゃ!現在はガンドルフィーニ君と高音君、そして佐倉君が応戦しておるが敵勢は少なくとも10人はおるようじゃ!!頼む、救援に向かってくれい!!』
「ったく…。仕方ねぇな」
壁にかけてある白いローブを羽織り、アルタリオンを腕に隠し持つ。
現在は、刀身が消えているが、俺の意思で刀身を復元できる。
また、刀身の長さも調整できるので、色々と便利である。
最も、アルタリオンの真の力はこんな物ではないが…。
「――あれか」
世界中の頂点へと転移し、北側を眺めてすぐに気がついた。
普段は物静かな図書館島付近で多種の色が激しく飛び交っている。
おそらく魔法の射手だろう。
だが、防衛側と思われる陣営からの魔法は少ない。
妖怪の言った応戦メンバーを思い浮かべ、理解した。
ガンドルは銃がメインだし、グッドマンは影。
唯一魔法の射手を使うであろう人物は佐倉のみだ。
…ま、考えていても仕方ない。
「『魔法の射手・連弾・風の461矢』」
多少近づき、敵味方の区別がつく程度までの場所に陣取ると、上空から雨あられのように魔法の射手をバラまく。
属性は捕縛がメインなので風だ。
「なっ!?」
「ぎゃああぁ…」
目の前の3人に集中していたために上空からの奇襲への対応が遅れた多数の敵が魔法の射手の犠牲となり、無事に気絶状態で捕縛に成功した。
だが、残る2人の敵は今の攻撃に反応できるだけの力を持っているわけだ。
「リュ、リュラン先生」
「怪我はないか」
「は、はい!私もお姉さまも、ガンドルフィーニ先生も無事です」
佐倉の言葉を受けて後ろを見渡せば、ボロボロではあるがしっかりと自分の足で立つ2人の姿。
ところどころ血が出ているが致命傷には程遠いな。
応急処置をする必要もなさそうだ。
「そうか。ならば近くで倒れている敵を出来るだけ回収して後方に向かえ。無論、武器の回収も怠るな」
「な、私達もこのまま戦えます!」
力強く叫ぶその心意気は良いが…と考えながらグッドマンに近づき、彼女の額を軽く突く。
すると、軽く突いただけでにも関わらず、グッドマンはその力に耐えられずに地面に腰をついた。
「……強がったところでボロボロだろう。さっさと下がって休め」
「…くっ、お願いします。リュラン先生」
敵をまともに倒せぬまま下がる事はそれほど屈辱なのか。
多数の敵に対し、少数の味方で援軍が来るまで戦い抜いた実績は評価に値すると思うのだがな。
ま、それを教えるのは俺じゃない。
何人かの捕虜といくつかの武器を回収して去っていく3人を見送り、残った2人の敵の方を向く。
考えなしに向かってくれば簡単に迎撃できたのだが…そう上手くはいかないようだ。
「くっ。頭上からの奇襲とは…」
2人のうち、少々暑苦しい人相と体格の持ち主の方が声を出した。
ふむ、奇襲を嫌うか。
なら……挑発してみるか。
これで突っ込んでくれば儲けもの。
「時間もなかったんでな。おざなりな対応だが、許せ」
言葉と一緒に手をひらひらさせる。
古くから使われる手だが、猪には効果的なのは歴史が証明している。
そして、今回もまた1人。
「ふ、ふざけるなァァァアア!!」
怒り心頭のまま開放もしていない斬魄刀を振りかざして突撃してきた男の斬撃を軽く避け、後ろに回り込んで首筋を一打ち。
大した反撃もなく、呆気なく気絶して地面に倒れ込んだ。
どんな斬魄刀を持っているのか、来る時までは期待していたのだが、どうやら最後の1人の分しか見れないようだ。
「これで、残るは1人」
「…羽ばたけ、『鷹丸』」
相方がやられたと分かるや否や、残ったもう1人の敵はぼそりと何かを呟いた。
その呟きに同調するように、手に持っていた刀の形が変化し、何故か手を離れて宙で羽ばたき始めた。
これは……――
「…へぇ、珍しいタイプだな。まさか、生物の形を取る斬魄刀とは…」
宙を羽ばたく姿はまさに鷹。
鋭い眼光でこちらを睨む様は、空の王の名に相応しき姿だ。
色々と聞きたい事はあるが、捕まえたところで吐きはしないだろう。
つまり、力づくで聞きだすのみ。
「我が主直々に賜った一振りだ。…往け」
「…甘い」
飛来するその斬魄刀を言葉と同時に軽く避けた。
そのまま相手へと詰め寄る。
だが、男の顔に焦りは見えない。
「ふっ…甘いのはそっちよ」
「何…?――!ちぃッ!!」
相手の声が聞こえたと思えば、後方から接近する何かに気がつき、慌てて避ける。
見れば、先程避けた鷹を模る斬魄刀であった。
なるほど、自動追尾か、もしくは手動での操作が可能のようだ。
「獲物を狩るまで飛び続ける空の王。…それが、鷹よ」
再び飛来する斬魄刀を避けながら男を観察するが、男の仕草に変化はない。
何度か繰り返すが、手で動かしている様子は見られなかった。
「小癪だが…自動で飛んでいる以上、狙うは容易い!」
斬魄刀を狙って無詠唱の魔法の射手を放つ。
その数は17。
かなりの速度で接近する双方の攻撃が空中で衝突する――
「ふふふ。殺れ!!」
――かと思われた瞬間、鷹を模った斬魄刀が複数に分裂して魔法の射手を避けた。
小さくなった分、速度が増し、多方向からこちらへと接近し……直撃した。
「これぞまさに、奇襲なり…。悪いが、我らも任務故」
ザッ、ザッと男がこちらへと接近する足音が聞こえる。
普通に近づいてきたところを見ると、罠の可能性は考慮していないらしい。
…ならば、好都合。
「油断大敵…ってな」
無音のまま男へと近づき、背後から首筋に気を打ち込む。
勝ったと思い込んでいた相手にさらなる奇襲を掛けるのはかなり容易かった。
「…ぐっ、馬鹿な…。避ける暇はなかった筈…」
「…この国には古くから忍びなる職があってだな」
ポンっと音を立てて鷹の形を模した斬魄刀が刺さったまま地面に倒れている俺の身体が消え去る。
代わりに残ったのはある程度の太さを持つ丸太。
――そう、変わり身の術である。
具体的な方法は調べられなかったが、気を用いて疑似的に再現した。
暇があれば長瀬から教わろうと思っているが、機会がない。
挑まれる機会は多数あるにも関わらず、こちらの機会は全くない。
不思議なモノである。
「…無念」
男の手が懐へと伸びて――届かない。
もちろん、自爆の対処は完璧だ。
「悪いが自決はさせん。全身の神経を麻痺させるとともに懐にある起爆スイッチも壊させてもらった。大人しく捕まるんだな」
「…くそっ」
男の身体が完全に動かなくなったのを見計らい、持ち上げる。
そして、傍に落ちていた斬魄刀と後方に倒れたままの猪男とその手にある斬魄刀を拾い、妖怪の部屋へと転移する。
切り替わった風景の中でまず目に入ったのは報告中であっただろう先に帰しておいた3人の姿。
あの後何もなかったようで何より。
「戻ったぞ、妖怪」
「うむ。助かったぞ、リュラン殿。お陰で大切な先生と生徒を失わずに済んだ」
「…斬魄刀は研究に使うから頂いていくぞ。捕虜は好きにしろ」
新たに手に入れた『鷹丸』、そして名を知らぬ9本の斬魄刀。
まずは刀身や柄の長さを測り、鍔の形をスケッチする作業から始まる。
それを踏まえ、今日に残る伝記や歴史書から名前を探す作業が始まる。
正直、捕虜の頭の中を除けばいいのだが、無理にやり過ぎると壊す危険性があるためあまり使わない。
まぁ、見つからなければ色々とやる必要があるのだが…これは教えない。
部屋に戻ると、エヴァンジェリンと茶々丸が来ていた。
俺の部屋の筈なのだが、勝手にくつろぐ主と掃除をしていた従者を見て、ため息。
「…人の部屋で何を勝手にくつろいで居やがる」
「良いだろう?別に減るもんじゃあるまい」
「そういう問題じゃない」
聞き分けのない生徒に拳骨1発。
痛かったのか、頭を抱えて転がり始めたエヴァンジェリンを無視して茶々丸の方を向く。
俺と主のやり取りを見ながら掃除を続けていた。
「それで、何故茶々丸は俺の部屋の掃除を?」
「暇でしたので。見たところ掃除をする必要を感じませんでしたが、手持無沙汰のまま待機するのは私の心意気に反しますので」
「…そうか」
「はい。…それでは、頭を抱えているマスターに代わって要件をご説明させていただきます」
茶々丸が説明した内容を簡略にすると…。
もう1度全力で模擬戦を行いたいようだ。
それはいつもどおりなのだが、他にも斬魄刀と戦ってみたいらしい。
現状では3本しか使えないのだが…まぁいいだろう。
茶々丸に了承の意を伝えると、軽く頷いてまだ頭を抱えたままのエヴァンジェリンを肩に担いで退室して行った。
…主としての威厳がまるでないな。
……いつも通りだな。
「日取りは後ほどといったが…それほど空けるわけにはいかんから数日後か。それまでに1本でも名前が分かるといいのだがな」
無理は承知だが、そう考えずにいられなかった。
斬魄刀を研究して早十数年。
未だに自力での名前発見は出来ていない。
斬魄刀を削るわけにもいかず、アルタリオンの時のように心の世界に入ることもないので難航している。
…しかし、色々と考えるうちに1つの疑問が浮かぶ。
意図的に考えずにいたが、そろそろ本格的に調べる必要があるかもしれない。
つまり――これを所持していた組織はどうやって名前を探し出していたのかについて。
既存の書物ではない事は確か。
他の可能性は祭られていた遺跡などに書かれていたか、世界に出回っていない書物を所持しているか。
もしくは俺の目を超えるほどの目を持つ人物がいるか、だ。
無論、俺自身が解析に特化しているわけじゃないから、その可能性が1番高い。
あとは、どこに組織の本拠地があるかを調べるだけなのだが…拷問は難航したままだ。
捕虜は情報を漏らすことなく耐え続けているか、全く知らないのどちらかである。
秘密主義もここに極まれり、だ。
…これ以上、被害が拡大するのも防がなくては、な。
あまりやりたくなかったが…やるしかあるまい。
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「がぁっ、ぎぃぅぅぅううううッ!」
「アアアアアアアアッ!」
「……………………」
あちらこちらから男女問わず絶叫が響く。
中には死んだのか気絶したのか、身動き1つしない者もいるが、大半は絶叫したままだ。
此処は麻帆良の裏の世界。
タカミチや瀬流彦などの教師を含め、普段から活動する麻帆良の主な者たちが知る事のない秘密の事情。
それが――この場所、通称『棺桶』だ。
麻帆良を襲撃し、捕虜となった者たちの末路は基本的に此処だ。
中には知らず知らずのうちに利用された者も居るので、記憶を完全に処理して表に復帰させることもあるようだが、大抵はここで骨の髄まで調べ尽くされて消されるのが運命だ。
…どんなに正義を詠う組織であっても、こういった設備は必ずあるのが現実である。
情報を得るためには…多少の犠牲は付き物であると考えるのが一般的であるためだ。
それが、大きな組織であればあるほど。
無論、『完全なる世界』であっても例外ではない。
違うのは情報を得た後の捕虜の処理の仕方ぐらいだろう。
俺は犠牲を否定する。
故に、拷問を終えた捕虜は今までの記憶を消して、偽の記憶を植え付けて何重ものプロテクトを掛けた上で組織の一員――さらには家族として新たな人生を歩けるようにサポートしてきた。
…褒められた対処ではないが、少しでも人の命が消える事を防ぐための処置だ。
まぁ、記憶を完全に抹消するのだからその人物の命を奪っているような物ではあるが。
話が逸れた。
今回此処に来た理由は簡単だ。
これまでの襲撃者の中で斬魄刀を所持していたリーダー格から記憶を読み取るだけだ。
最も、俺が一番やりたくない方法である事に間違いはない。
これを行ってしまえば、最悪廃人になる可能性がある。
それでも、これ以上の被害を認めるわけにはいかない。
教え子たちに危険が迫る前に、俺が手を汚すだけだ。
案内されるままにとある拷問部屋へと向かう。
そこには、少し前に麻帆良を襲撃した斬魄刀『地鳴雲』の持ち主であった男がぐったりとしていた。
いくつかの人体が欠損しているので、かなり激しい拷問を繰り返しているのだろう。
それでも話さない様子を見ると、かなりの精神の持ち主のようだ。
…ま、俺のやり方の前ではそんなものは意味を成さない。
「…離れてろ。巻き添えを食うぞ」
俺の言葉で案内してきた者が部屋の外へと退出する。
扉が閉められ、記録デバイスがない以上、ここでのやりとりが外部に漏れる事はない。
「…解析、開始」
男の頭に手を当てて記憶を読み取り始める。
男が生まれ、これまで生きてきた人生の全てが頭の中に甦る。
…最初はどこにでもいる少年だった。
それが、些細な切っ掛けによってこちら側へと堕ち、今に至るようだ。
その過程に注目する。
男がこちら側へと堕ちる切っ掛けとなった事件の後、この男に接触してきた人物がいた。
男の人相と、話す内容を――――
『――が、――崎龍―かな?』
『―んたは?』
『私は―――だ。――、怖が―――てもいい。―は君を――しに来ただけだ』
『…何故、俺なんかを?』
「簡単な―だ。君はこの――に復讐したいのだろう?この、綺麗で色に満ちた欺瞞の世界に」
『…出来るのか?』
『もちろんだ。私達と共に来るのであれば』
『…よろしく、頼む』
『もちろんだとも。ようこそ、『完全なる世界』へ』
∽to be continue∽