―――――【第55話 事情】―――――
手の震えが止まらない。
この男の記憶にあった組織名が頭の中でリフレインする。
――完全なる世界。
まさしく、俺の立ち上げた組織の名だ。
まさか、まさか、まさか。
否定したい気持ちを押し留め、詳しい情報を読み取ろうと再び男の記憶を探り始める。
…全身から嫌な冷や汗が流れ続けていた。
『――『完全なる世界』?何だ、その組織は』
『今から20年近くも前の話だ。こことは別の世界で大陸全土に影響を及ぼした一大組織の名だ。…まぁ、今となってはそのほとんどが潰されたわけだが』
『そんな組織が、何をするんだ?』
『なに、簡単な事だ。我々は再び世界を掌握する。そのために、各地の情報を収集する必要がある。その斥候を他でもない、君に任せたい』
『俺に…?』
『ああ。…君には才能がある。――この刀を使うだけの、才能が』
目の前の男が差し出した刀をこの記憶の持ち主が握る。
そして、記憶の持ち主の意識に変化が生じた。
『…力を感じる。力を、感じるぞ…ッ!』
『…くくっ、私の見立ては間違いなかった。その刀は『地鳴雲』という。名を告げることで真の力を発揮するこの世界の神秘だ』
『オオッ、オオッ!』
もはや目の前の男の言葉など聞いてはいなかった。
意識にあったのはただ1つ。
力を手に入れた喜びだけだ。
『くくくっ。では、しばらくはその刀の力を余すことなく使うための訓練をするといい。時期を見計らって君の出発を伝えよう』
『…場所とターゲットだけ、教えてくれ』
『…いいだろう。場所は東京、麻帆良学園。ターゲットは……リュラン・アルタメシアだ――』
それ以降の記憶も覗いていくが、これ以上の情報を得ることはできなかった。
男の脳とのリンクを切り離し、一息つく。
汗は、引いていた。
「…俺の組織とは無関係だな。名前を借りているだけに近い。……だが、許すわけにはいかん」
俺の組織であるならば、俺の情報など必要としない。
故に、俺の完全なる世界とは無関係だ。
だが、人を救うための組織を、間違った方向の目的の組織の名として利用しているのだ。
絶対に、許すわけにはいかない。
また、組織の名と接触した人物の人相しか情報がないように思えたが、俺は見つけた。
男の眼に映っていた背景の決定的な特徴に。
「男の目に映っていたのは金閣寺。つまり、男が会話していたのは金閣寺の畔にある茶屋かどっかだ。…手掛かりは京都にある」
本拠地かどうかは調べなければ分からないが、これ以上にない情報だろう。
少なくとも、此処日本には、古来より魑魅魍魎が巣食うとされる魔の都、京都がある。
悪の組織の本拠地としてうってつけだろう。
周りに同じような組織があるため、隠れ蓑にするには行いやすい。
…念のため、詠春には連絡しておこう。
そういえば――
「今年も修学旅行の時期が近づいて来たな。その中の候補地として京都があった気がするな…」
基本的に生徒たちが主導で行先を決めるため、俺に決定権はないが、もしも3-Aの行先が京都であるならば……。
「探索する手間が省ける。そして、向こうは情報を得る絶好の好機」
俺としても、向こうとしても、逃すわけにはいかないチャンスとなる。
願わくば、行先が京都でありますように……。
色々と考える俺の後ろで男の脳が溶けて液体状となって耳から流れている事に気がついたのはそれから数分後の事である。
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「えーと皆さん!来週から僕達3-Aは京都・奈良へ修学旅行へ行くそーで…!!準備は済みましたかー!?」
『はーい!(はぁと)』
相変わらずの雰囲気にため息。
曲がりなりにも教師ならば、静かにHRぐらいやってくれ。
生徒と一緒に騒ぐんじゃない。
教室の後ろの方で常識人の数名が呆れてるだろう。
「この学校は人数が多いので修学旅行の目的地はハワイ等の数か所からの選択式となっていますわ。うちのクラスは留学生も多く、ネギ先生も日本は初めて…。日本文化を学ぶ意味でもクラスの総意で京都・奈良を選択させて頂きました」
委員長である雪広がその経緯を野菜坊主に説明している。
たしかに、妖怪の意図とはいえ、このクラスは留学生が多い。
約4人に1人が留学生だ。
これは驚くべき数である。
……まぁ、厳密には魔法世界とか、魔界とかからなのだが。
「あ、ありがとうございます、いいんちょさん!!いいですよねー京都!」
雪広の手を握りながら大喜びしている野菜坊主を見ながら、俺は今後の予定について考えていた。
とりあえず、今回の修学旅行中に何かあちらからアタックがある事は確定だ。
俺然り、野菜坊主然り。
俺としては、今回の旅行中に敵の本拠地を叩き潰せれば嬉しい。
もちろん、そこまでは無理だとしても、ある程度の情報を得る事が出来れば良いと考える。
既にフェイトに命じて組織の人員を数名、京都の各組織に潜り込ませている。
また、大きな組織には土のエルドゥであるキャトルを潜らせてある。
冷静な彼女の事だ。
問題なく潜入任務を行っているだろう。
さて、京都に行くとのことなので、問題は色々とあるが、一番の懸念材料は近衛だろう。
彼女は妖怪の孫で、詠春の娘だ。
つまり、東西の大規模な組織を継ぐに相応しい血を持っている。
そして、生まれ持つ膨大な魔力。
利用されれば魔導兵器にもなるほどの量だ。
しかし、その近衛自身には魔力の知識も無く、自分がどれだけ危ない立場にいるのか理解しているわけではない。
本来ならば、危険が生じる可能性がある以上、基本的な知識と共に自衛訓練ぐらいは行うべきなのだろう。
だが、親馬鹿の詠春に聞かされた。
――あの子には、平凡で裏を知ることなく幸せに生きて欲しい、と。
その考えがどれほど甘い事なのか、詠春自身良く知っている筈だ。
それでもなお、自分の子供の幸せを願うのは、親として当然なのかもしれない。
…無論、俺自身も近衛には幸せな人生を送って欲しいと思う。
だから、近衛に危害を加える者は容赦しない。
もちろん、俺の教え子全員に対しても、だ。
そこで、こちら側の戦力を数えてみよう。
まずは桜咲刹那、龍宮真名の両名。
言わずもながらだが、既に実戦を経験済みであり、俺自身が鍛えているわけもあり、学園全体でも上位の力を持っている。
完全なる世界のメンバーと照らし合わせても引けを取らないだろう。
刹那は近接のスペシャリストだし、真名はオールレンジで対応できる。
何かあれば、生徒の中で真っ先に名前が思い浮かぶだろう。
次に長瀬楓、古菲の両名。
裏の世界をほとんど、もしくは全く知らないのだが、その実力は上記の2人に劣らない。
特に、古は気の概念も知らない状態で現状まで鍛え上げているので、これからの伸びしろは期待できる。
また、長瀬も裏の世界を知り、それを踏まえた訓練を始めているのでこちらの成長にも期待だ。
あまり裏が絡んだ事態に巻き込みたくはないが、事情を話せば力を貸してくれるだろう。
もしもの時はお願いするとしよう。
そして、エヴァンジェリンと茶々丸だ。
本来であれば呪いのため、修学旅行に参加できないエヴァンジェリンとその世話をする茶々丸だが、今回は妖怪を脅すだけで何の問題も無く参加できるため、今も嬉しそうに微笑んでいた。
表裏を問わず、間違いなく最強に値する1人だ。
茶々丸も、装備を変更するだけでいくらでも強くなれる。
頼めばほぼ間違いなく何かご褒美を与えなければならないが、頼もしき味方に違いはない。
最後に、組織に潜入しているキャトルと後々合流する予定のフェイトの2人。
ほとんど説明はいらないが、全方面に特化…意味が分からない言葉だが、それを言うに値するフェイトと、土のみとはいえ、完全特化のキャトルは下手な実力者などでは相手にもならないだろう。
キャトルはタカミチ以上だろうし、フェイトにいたってはエヴァンジェリンと同等に戦えるだろう。
頼もしい限りである。
…考えてみれば、大戦の英雄と、その部下であり家族、そして魔法界で恐れられる闇の福音という豪華メンバーが揃っているのだ。
負ける要素はない。
不意打ちにさえ気をつければ、問題なく叩き潰せるだろう。
「リュラン先生、ネギ先生。学園長がお呼びですよ」
「了解した」
「あ、はーい!」
ふと気がつけば、しずなさんが扉の外から俺と野菜坊主を呼んでいた。
理由は妖怪らしい。
呼び出しの理由を読めたが、俺には何を頼むのか。
…ま、野菜坊主のサポートが妥当か。
……それと引き換えに色々と注文するか。
先に野菜坊主が妖怪の部屋へと入り、話を聞くらしい。
理由は言わずもながら。
「――し、修学旅行の京都行きは中止~~!?」
叫ぶな。
外で待っている俺にも聞こえるぞ。
「――じゃあ、僕のせいですか!?」
だから叫ぶなと言っているだろう。
ま、予想通りの説明を受けているようで想像しやすいが。
「――では、失礼します。あ、リュラン先生。どうぞ」
中で叫んでいたのが嘘のような笑顔で帰っていく野菜坊主。
…とりあえず、扉を開けっ放しで帰ろうとするな。
せめて扉は閉じて行け。
それがマナーだ。
「俺を待たせるとは良い度胸だ。その頭、解剖してやろう」
「フォ!?待て、待つんじゃ!いきなしその手に持つ凶器はなしじゃ!」
「ふん。さっさと要件を言え」
解剖できなかった、当然と言えば当然だが。
ま、次の機会に取っておくとしよう。
次の…機会に…。
「う、うむ。君も修学旅行の行き先が京都であることは知っておるじゃろ?じゃが、先方の関西呪術教会が魔法先生の立ち入りに難色を示してきての」
「いつも通りの茶番だな」
去年も裏会議で聞いた気がする。
去年は…神多羅木だったか。
毎年毎年飽きもせず、だな。
「それを言うな。んんっ、そこで今回は東西の和解を図るため、ネギ君を特使として西に送ることにしたんじゃ」
「上は既に繋がっているくせに、何を今更」
西の組織…関西呪術教会の長は戦友、近衛詠春だ。
また、目の前にいる妖怪の娘婿でもある。
妖怪の言う難色とは、詠春が掌握しきれていない下部組織のいくつかなのだが、そもそも指示を出す上位陣は完全にグルだ。
これを茶番と言わず、何と言うか。
「うぐ…おっほん。そこでじゃ、君にネギ君のサポートを頼みたいんじゃがダメかのう?」
「いいぞ」
「はぁ、やっぱりダメk――今、何と言ったんじゃ!?」
俺の返答があまりにも意外だったのか、眼を見開いて聞き返してきた。
身体を前のめりにしてきたので、顔が少々近い。
男に迫られる趣味はないので先程より距離をあける。
「ついに耳も腐ったか。そろそろ墓場に行け」
「まだまだ儂は現役じゃ!!」
「…サポートの件。引き受けてやると言ったんだ」
「おぉ!本当k――「ただし」――何じゃ?」
「サポートを引き受ける代わり、こちらからも要求がある。それが聞き入れられるならば、だ」
「…聞こう」
少しばかり悩んだようだが、内容を聞いてから判断するようだな。
ま、色々と問題がある条件に違いはないが。
「1つ目はエヴァンジェリンの修学旅行行きを認める事。2つ目は俺のサポートとして1人、外部からの付き人を許可する事。3つ目は修学旅行中、野菜坊主が関わる案件で発生する被害の賠償はお前が受け持つ事。以上だ」
「むむむ…。2つ目の付き人はわしの独断で許可しよう。じゃが、3つ目はすぐには頷くことはできん。この時期に予算審議はほぼ不可能じゃし、そもそも来週の話じゃからのう。予算を捻出しようにも、難儀な話じゃ。…さらに、1つ目など他の魔法先生の反対があるじゃろうし、絶対に無理じゃ。そもそも、ナギの呪いで行けぬ筈じゃろう?」
「……」
「そ、そのような目でわしを見るな。…分かった、3つ目もわしのポケットマネーから支払うことで合意しよう。1つ目は呪いが誤魔化せるのであれば、わし自ら魔法先生たちの説得に当たる。それで手を打ってはくれんか?」
「約束は違えるなよ。……ああ、許可をもらったから教えておこう。エヴァンジェリンの呪いはすでに解いてある。俺が抑止力として見張っているが、お前らが勝手にあいつの怒りに触れた場合は知らんからな」
さらっと問題の件について暴露してみる。
知られたところで、それを確かめる術がないと知っているからこその暴挙だ。
…ま、エヴァンジェリンの証言が正しければあの馬鹿は3年経ったら呪いを解いた筈だ。
それをすでに10年も余分にオーバーしているんだ。
本来なら解いても問題はない。
「な、ちょ、待つんじゃ!!今、さらっととても重要な事を――」
「あぁ、近衛の護衛は詠春からも頼まれてるから言わんでいいぞ。じゃ」
さて、俺の考えた通りに物事が進んで一安心だ。
エヴァンジェリンも行ける事が確定したし、俺が何を壊したとしても賠償は妖怪持ちだ。
もちろん、無茶はしないが何が起こるか分からんしな。
そして、フェイトが何事も無く俺のサポートとして動けるのは大きい。
俺が生徒を見て回っている間に何か起きたとしても問題なく対処できるだろう。
修学旅行の不安がある程度消えたため、俺は少々浮かれたまま授業へと向かう。
そのため、本日の授業は少しばかり遊び過ぎた気がしたが、生徒たちの受けも良かったので気にしない。
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「で、俺は何で此処に…」
「そんなんウチらが用があって連れてきたんやろー?」
「あはは…最近、木乃香は積極的よね」
「…アスナも積極的にいかへんと取られてしまうで?」
「うっ…それはそうだけど…」
「…はぁ…」
今、俺はこの前フェイトと共に来た洋服店に来ている。
理由は話を聞いて分かると思うが、近衛と神楽坂に拉致――もとい、連れてこられたからだ。
側には刹那もいるが。
「おい、刹那」
「何でしょうか、師匠」
「修学旅行についてだが…俺は野菜坊主のサポートを正式な依頼として受理した。野菜坊主は西への親書を届ける任務を受けたとのことだ。その親書の受け渡しの妨害が予測される。その過程で近衛に被害が出るかどうかは分からんが、俺も詠春から頼まれている以上、さりげなく見守る予定だ」
「そうですか。師匠が居てくれれば私としても安心できます」
勝手に安心しきっているようだが、大丈夫か?
「何を言っている。俺も常にいれるわけじゃない。それこそ、俺を引き離すための陽動ぐらい考えられているだろう。だから、お前が1日中側にいて護るのが当り前だろう」
「もちろんです!このちゃんは私が護ります!!安心するのは私の精神面での事です」
…仲が良さそうで何より。
これなら、下手に距離を開けて護衛する事はない。
今の刹那の実力であれば、大抵の刺客は問題ない。
「…ああ、ついでではあるが教えておこう。修学旅行中、俺のサポートとして外部から俺の知り合いが来る。俺の付き添いではあるが、基本的に近衛の護衛として動かせる予定だ。もしお前の手に余る事態が発生した時はそいつに助けを求めろ。…だが、あくまでもそれは最後の手段だ。安易に手を借りようとするならば、お前はこれ以上成長できないだろう」
「了解しました。…それにしても、師匠のお知り合いですか。どのような方なのか、興味があります」
「完璧超人だ。戦闘も、家事も。おそらく、俺の次に強い」
「……」
刹那が絶句してしまった。
まぁ、純粋な戦闘能力であればレイナの方が上の筈なのだが…どうもどこか抜けているからな。
総合的にはフェイトの方が優秀。
「リュランさ~ん、せっちゃ~ん。何しとる~ん?」
「何でもない。すぐに行くから待ってろ」
「あ、まま待ってください!話はまだ終わってませんよ!」
俺が伝えるべき情報は伝えた。
これ以上は話すつもりはないんだが…。
そして、呼ばれて行ってみれば、近衛の手にあるのは黒のジャケット。
近衛には絶対合わない。
何のために手に取っているのだろう。
「リュランさん、これ着てみ?」
「……俺のか」
「木乃香、自分の買い物忘れないでよ」
「そうですよ、このちゃん。師匠ばっかり構っていないで自分用も探しましょう」
「いいやん、少しくらい」
「必要な分は所持している。これ以上は必要ない」
「ええやんええやん。リュランさんのケチ。せっかく可愛ええ教え子が先生に似合いそうな服を選んでるんやで?ここは笑って買うてやるパターンやろ」
「それやると月半ばで財布の中身が消えるから却下」
主に真名とか真名とか真名のせいで。
考え事をしていたら、内ポケットから財布が落ちてしまった。
色々と入っているため、本来の形から大きく変形してしまっているため、偶に落ちることがある。
そろそろ整理するべきか。
「ありゃ、ダメやんリュランさん。財布落としたら……ん?」
「あ」
「これ…タロットカードなん!?」
「?」
「……!!」
落ちた弾みで中身が散らばる中、近衛が1番見て欲しくない類の物を見つけてしまった。
近衛がタロットカードだというソレは、もちろんタロットカードではなく、魔法使いであれば大半の者が持っているであろうパクティオーカードだ。
パクティオーカードとは、魔法使いとそのパートナーとの契約の絆である。
基本的に、魔法使いは呪文詠唱中は無防備であり、攻撃された場合呪文が発動できない。
それを護るのがパートナーとなった『ミニステル・マギ』と呼ばれる魔法使いの従者の役目である。
契約方法はさまざまあるが、1番世間一般に広がっているのは契約魔法陣上でキスをすることである。
そのため、今日では戦う事がほとんどないため、契約を結ぶパートナーを恋愛対象とすることも多い。
また、契約を結ぶと主である魔法使いの魔力によって身体能力の強化を行う事が出来、各パートナーごとに潜在能力を引き出す事が出来る固有のアーティファクトが与えられる。
それが目の前に4枚。
内訳は仮契約1枚と本契約3枚だ。
本来、仮契約こそ何人でも可能だが、本契約は必ず1人だけであり、本契約を結んでしまえば仮契約を結べないのが通例だ。
そして、本契約を結んでしまえば、それまで結んでいた仮契約は消えてしまう。
だが、俺は創造主という名の規格外。
何がどうなったのか分からないが、いつの間にかアマテルとの主従関係から今日の契約の基礎を思い立ったどこぞの誰かがパクティオーの魔法陣を考えつき、この存在を知ったレイナが何度も契約しろと騒いだため、とりあえず仮契約なる物を結ぼうとしたところ、何故か勝手に本契約に移行したのだ。
その後、喜びのあまりはしゃぐレイナに嫉妬したフェイトとシエルにも迫られたためやってみたところ、普通に契約できてしまった上、どちらもが本契約という状態であった。
彼女たちは喜んでいたが、俺としてはあまり喜んでいられない。
こうも本契約が乱立していいものなのだろうか……。
なお、本契約と仮契約の違いは魔力による身体能力強化の程度とアーティファクトの力のさらなる解放である。
同じ魔力量であっても、仮契約を1とするならば、本契約は10ほどの違いが現れると研究結果が論文として発表されている。
また、仮契約から本契約に移行した何十組ものパートナーたちにアンケートを取ったところ、アーティファクトに秘められた力が増えたとか、威力が強力になったなど本契約だからこそのメリットが多数、資料として残っている。
話を戻そう。
最後の1枚はナギとの契約であるが、これは友情とか、連絡を簡単にするために使用することが主だ。
…ま、今では使うことも無いわけだが。
して、その結果、本契約と仮契約が同席する今の状態へとなったのだ。
そして、本来の理を強引かどうか知らないが捻じ曲げてしまったためか、必ず2枚カードが出てくるようになったのだ。
そのため、1枚は本人に、もう1枚は必要ないため、俺が持つこととなった。
近衛はタロットカードだと思っているそれらを物欲しそうに眺め、神楽坂は面白そうに横から覗きこみ、刹那はこのカードが示す意味(本契約と仮契約が混ざっている事を知らないにしても)を知っているためか若干赤いような青いような顔だ。
「ひゃー、この3枚には女の人の絵が描いてあるやん。こっちはリュランさんの姿やし!ええなぁー」
「ふーん。リュランさんもこんな物持ってるんだね。ちょっと意外」
「……(バタバタ)」
見ただけで三者三様の答え頂いた。
刹那を除き、本来の意味を知らない者から見れば、たしかにこれはただのカードにしか見えない。
たまに勘で当てるバカもいるが。
「これってどこで造ったん?ウチもほしーなー」
「あー…これは非売品だ。俺専用」
「へー、非売品ねぇ…。何か用途があるの?」
「さぁてな。これ以上は大人の事情だから教えてやれん」
ひらひらと手を振って追及を避ける。
大人の事情という言葉を聞いて、神楽坂はこれ以上聞くのを止めたようだ。
また、刹那は何もしゃべっていないが、神楽坂のすぐ後ろで頬を膨らまして抗議の視線をこちらに送ってきている。
…怖いと思う前に可愛いのだが。
「ねぇリュランさんー。コレ、ウチのも作ってくれへんかなー?」
「!?(ビクッ)」
刹那が分かりやすい反応を見せた。
幸い、1番後ろにいたため、残る2人にはバレていないが。
……もう少し訓練が必要らしい。
「さぁな。良い子にしてれば貰えるかもな」
「むー、リュランさんの意地悪~」
もしも作ったしまえば詠春から何を言われるか分かったもんじゃない。
それに、作ったとなれば裏の事情に巻き込むのは必然。
俺が巻き込まないように避けたとしても、行動力のある近衛の事だ、偶然に偶然を重ねて知ってしまうのだろう。
…ん?
結局知られるのであれば、隠す意味はあるのだろうか。
結局近衛に押し切られて黒のジャケットを購入したわけだが、それ以上に悩みが増えて頭を抱える俺であった。
∽to be continue∽