∽移り行く風のように∽   作:アクア=イスタロス

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第56話

―――――【第56話 蛙ぴょこぴょこ無限ぴょこ】―――――

 

修学旅行当日。

駅の集合時間は9時だが、教師陣は生徒よりも早く集合時間が設定されているため、2時間早い7時に駅構内の集合場所へと到着する。

既に新田先生、しずなさん、瀬流彦の3人が来ており、その後ろには何故か3-Aの生徒の姿も見える。

聞けば、待ち切れずに始発出来たとか。

…いや、待ち切れなさ過ぎるだろう。

 

その後、時間通りに他のクラスの担任教師が、その数分後に野菜坊主が到着し、今日から4泊5日のスケジュールの確認を行う。

まぁ、今日以外の予定については当日の朝にもう1度行うので、今は簡単にだ。

1日目のスケジュールはこんな感じだ。

 

9:00、集合

9:50、出発

10:16、東京駅着

10:26、東京駅発

12:59、京都駅着

14:00、清水寺見学

16:00、見学終了

17:00、旅館着

 

1日目は移動と清水寺での全体見学があるため、内容はあまりない。

だが、時間通りに行動できないと、電車の乗り過ごしが発生するかもしれない。

時間厳守は大切だ。

 

「それでは京都行きの3A、3D、3H、3J、3Sの皆さん。各クラスの班ごとに点呼をとってからホームに向かいましょう」

 

9時きっかりにしずなさんからの合図で各クラスが行動を始める。

俺たち3-Aは先頭車両のため、分かりやすい。

 

「じゃ、1班から順に班長は俺に点呼してから乗り込め」

 

なお、各班のメンバーは以下の通りだ。

 

1班:柿崎・釘宮・椎名・鳴滝(風)・鳴滝(史)

 

2班:春日・古・超・葉加瀬・四葉

 

3班:朝倉・那波・長谷川・村上・雪広

 

4班:明石・和泉・大河内・佐々木・長瀬

 

5班:綾瀬・神楽坂・近衛・早乙女・桜咲・宮崎

 

6班:絡繰・龍宮・エヴァ・ザジ

 

…色々と考慮した結果、6班は1人少ない。

理由はメンツを見れば分かると思うが、裏の関係者で固めたからだ。

事件が発生すれば、俺を含め何人かは動く必要がある。

しかし、学業の延長線という修学旅行の特性上、個別行動は推奨されない。

だが、班のメンバーが理由を知って動くのを承認すれば、ぎりぎり問題ない…はず。

そのため、6班はレイニーデイを含む4人となった。

 

車両の入り口で点呼を取りながら出席簿を確認する。

どうやら、全員乗ったようだ。

新田先生としずなさんに合図をして俺も乗り込む。

教員席の頭上の棚に荷物を乗せ、全員席に座っているか再度確認する。

 

「それではみなさん。15年度の修学旅行が始まりました。この4泊5日の旅行で楽しい思い出を一杯作ってくださいね」

 

『はーい!』

 

「麻帆良の修学旅行は半分近くは自由行動となる。だからといって考えなしに行動すれば、怪我や迷子になる危険性もある。各自がしっかりと麻帆良の学生であることを自覚し、この旅行が勉強の一環である事を踏まえたうえで、楽しい旅行とするように。なお、怪我に気をつけないとこうなる」

 

「えー、お弁当…「あぶっ!」あっ、すいません」

 

周りから笑い声が聞こえる。

まぁ、カートに轢かれる者など、普通はいないだろう。

俺自身、ネタとしか見えない。

 

「では、京都に着くまでの2時間半、安全に過ごせ。以上」

 

 

 

 

「フェイト。様子はどうだ」

 

「車内から反応がいくつかあります。そのうち、件の魔法少年としずな先生、瀬流彦先生、そして主の弟子である生徒やさきほど顔合わせした折に確認した者を除くと見覚えのない反応が1つ」

 

「…ほぅ。案内してくれ」

 

早速反応があるとは。

ま、車内で妨害を掛けるとすれば誰かしら乗り込んできているだろうとは思っていたが…まさか探知に引っ掛かるとは。

俺やフェイトのように内側の力を隠さない理由は自分の力に自信があるのか、それとも単なる馬鹿か。

 

「了解しました。こちらで――」

 

『きゃああぁぁぁ!!』

 

「この悲鳴。来たか」

 

「…仕方ありませんね。案内は後ほど」

 

間が悪いとしか言えない。

フェイトが案内しようとした方向とは逆――つまり、先頭車両の方へと足を運ぶ。

扉の向こう側から聞こえる悲鳴が止まらない。

勢いそのまま扉を開け、見えた光景は――

 

「…カエルだな」

 

「…カエルですね」

 

生徒が食べようとした箱の中や、飲もうとした水筒の中から今もなおわらわらと現れ続けるデフォルメされたカエルの群れ。

何をするわけでもなく、ただ飛び跳ねるだけ。

最も、1匹2匹程度であれば問題ないが、これだけの数がいると…デフォルメされていた事が唯一の救いか。

それでもちらほら気絶した者がいるので悠長にしている暇はないが。

 

「…見たところ、周りの生徒に人的被害はなさそうですね。せいぜい気絶程度のようです」

 

「陽動が目的だろうからな。もしくは無言の圧力か」

 

とりあえず、フェイトと共に近くにいたカエルを捕まえる。

試しに握り潰したところ、圧力に耐えられなくなったのか煙を出して紙に戻った。

…グロテスクに潰れて出てはいけない物が出てこなくて良かったとホッとした。

 

「フェイト」

 

「お任せを」

 

フェイトが何かを投げた。

その何かは次々にカエルを貫通してゆき、貫通したカエルは先ほどと同じように煙を出して紙に戻った。

椅子にぶつかって止まったその物体を見れば、細く丸められて針に見える紙であった。

…紙であの貫通力を出したのか。

つくづく万能な従者である。

 

「さて、カエルは全て消すか捕まえるか出来たようだが…ここからどう動くやら」

 

予想は付いている。

だが、問題はどこから出てくるのか、である。

すると、フェイトが何か分かったらしい。

 

「…未確認飛行物体が接近しています。後ろからです」

 

「何?」

 

フェイトに言われて振り返った瞬間、開かれた扉の隙間を縫って俺たちの隣を通過していった何かを目撃した。

見ればツバメのような物体が、バタバタとしていた野菜坊主に近づき、手に持っていた封筒のような物を嘴に咥えて再び引き返して来た。

 

「し、しまった!親書が!!」

 

ツバメを追って野菜坊主も走り去って行った。

…やはり、親書か。

こんなにも安々奪われるとは。

記憶通り、ボケボケな上、どこか抜けているな。

 

「…フェイト」

 

「はい。追跡します」

 

ここで先程のツバメを捕まえるのは簡単だった。

だが、ここで捕まえてしまえばツバメを放った黒幕が誰なのか分からない。

俺は記憶があるが、現実に絶対そうだとは言い切れない。

よって、黒幕を抑えるには証拠がいるので、ここは親書を餌にこのまま泳がし、手に取る瞬間を抑える方が効率的だ。

 

フェイトに声を掛けると、瞬時に追跡を始めた。

そして数秒後、車内のとある位置でツバメの存在が消えたようだ。

フェイトの言葉を聞き、すぐさまその場へと転移する。

そこにいたのは意外な人物であった。

 

「これは……」

 

「…刹那?」

 

「あっ、師匠。どうかしたのですか?」

 

親書を手にしていたのは刹那であった。

だが、彼女の背後には斬られたツバメを模った紙が落ちている。

…彼女は目撃して斬っただけか。

記憶通りと言えば記憶通りだが間が悪い――まただな。

嫌にタイミングが悪い。

 

「いや、手に持っている封筒はどうしたのかと思ってな」

 

「先程、後ろに落ちている式紙が咥えていたので咄嗟の判断で。不味かったでしょうか?」

 

「…いや、お前を責めても仕方ないな。事情は夜にでも話す。今は近衛の護衛に――って、お前は何故ここにいるんだ?」

 

ふと考えれば、おかしな話だ。

近衛の護衛を優先させていた筈の刹那がここにいるのはおかしい。

トイレはもっと前にあるのを確認してある。

そして、ここは麻帆良とは関係ない一般人が多数いる車両だ。

……何をしていた?

 

「…申し訳ありません。これについてはお話しできません。例え、師匠と言えど」

 

「……何に首を突っ込んだ、刹那」

 

「…失礼します」

 

気不味そうに頭を下げ、封書を俺に差し出してきた。

疑いたくはないが、刹那は俺に内緒で何かしているようだ。

…色々と考えてみるが、どれも想像の域を出ない。

 

「何を隠す、刹那――」

 

「待てーっ!」

 

…今日は間が悪い日らしい。

2度ある事は3度あると言うが、まさにである。

振り返れば、ツバメを追いかけて来たのであろう野菜坊主が扉を開けて飛び込んできた。

それと同時にフェイトが姿を消す。

空気を読んだらしい。

流石と言えよう。

だが、乱入者のせいで刹那への質問は出来なくなった。

 

「……ネギ先生…」

 

「さ、桜咲さん…。それにリュラン先生も…」

 

野菜坊主の肩に乗る例のエロネズミの姿を見つけ、念話も出来ないと舌打ちする。

面倒な存在だ。

 

「あ、あの…その親書…」

 

「…これはネギ先生の物でしたか?」

 

「は、はい!あ、ありがとうございます!助かりました!!」

 

「いえ…。それより、気をつけた方が良いですね。――特に、『向こうに』ついてからは。…それでは失礼します」

 

「ど、どうも御親切に…」

 

野菜坊主は頭を下げている間に、刹那は先頭車両へと歩いて行ってしまった。

結局、何をしているのかについては聞けず仕舞いであった。

さらに、刹那の何かを匂わせるような発言もいただけない。

本当に、何があったのか。

そして、目の前で野菜坊主がこそこそとエロネズミ相手に話しているが、俺の存在を忘れているのか。

……やはり、こいつはただの馬鹿か。

 

「野菜坊主。エロネズミに話しかけていないで戻るぞ。傍から見れば痛い子だぞ」

 

「ふぇっ!?あ、いえ、これはその!ま、待ってください!話を聞いてください~!!」

 

無論、無駄話を聞くつもりはない。

それよりも、俺の関心は刹那だ。

隠し事の1つや2つは当たり前だとしても、あのような表情を見せてなお隠そうとする事とはどんなことだろうか。

そして、そんな物事にいつ手を出したのか…。

……この修学旅行、想像以上に波乱がありそうだな…。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

野菜坊主を置いて自分の席へと戻ると、フェイトから念話が届いた。

どうやら一般客の車両を調べていたらしい。

優秀な家族を持てて嬉しいものだ。

 

『気の残留を調べた結果、リュラン様の生徒が会っていたと思われる人物の気を発見しました。場所は先程の場所からさらに後方に2両移動した通路です』

 

『何か他に手掛かりとなるような物はないか?』

 

『……すみません。どうやら掃除したようで、塵1つ落ちていません。おそらく、証拠を残さない配慮でしょう』

 

『…………今から実験をしてみよう。残留した気はまだ残っているな?』

 

『?ええ。もちろんですが…一体何を?』

 

『少し待っててくれ。数秒で向かう』

 

再び席を立ち、携帯に耳を当てながら通路へと向かう。

こうすれば、携帯がかかってきて席を離れるように見えるからな。

そして通路まで動いたところで転移を発動。

瞬時にフェイトの傍に降り立つ。

 

「ここです」

 

「…量もある程度あるな。――よし。『記憶再生』」

 

気が残留している部分に手を当てて、その物体が持つ『記憶』を読み取る。

その気の持ち主の記憶が脳裏で次々に現れては消えていく。

数年分を眺めている内にようやく目的の場面が訪れた。

 

 

 

 

『――しかし、アンタも損な性格をしてるよな。わざわざ嫌われ役を名乗り出るなんてな~』

 

『いえ、これでお嬢様を救えるのであれば構いません。それが私の役目』

 

『…ぐふふ。護衛ってのも面倒なもんだ。……これが組織からの指示だ。すぐに処分するから覚えろ。メモは残すなよ~?』

 

『……!?バ、バカな!?私にこれをやれと!?こんなこと…出来るわけが…ッ』

 

『ぐふふ、いいのか?アンタがやらなきゃ組織の誰かがやるんだぜ?アンタの愛しのお嬢様が誰かの手で汚されるのをアンタは黙って見てるのかな~?』

 

『…ぐっ、しかし……ッ』

 

『…はぁ。残念だよ、桜咲刹那。アンタはもっと分別のある人間だと思ってたんだがな。……いくら近衛詠春が後ろにいるっつてもすぐに終わりを告げる。他ならぬ、ワイらが主の手によってな。そん時アンタは身をもって知るわけだ。あの時実行してなかったからこんな目に会うってな。――じゃあな~』

 

『ま、待ってくれ!……私がやる』

 

『ぐふふ、それでいいんや。決行は今日から3日間のうちに天ヶ崎千草が近衛木乃香を利用して行うリョウメンスクナノカミの復活の儀の最中だ。…忘れるなよ、アンタがやらなきゃ組織の誰かがやるんだぜ。……巫女の処女膜が破瓜した際に流れる血を捧げることでリョウメンスクナノカミは完全なる神へと昇華する。そうすりゃワイらに勝てる者など居はしない』

 

ここで場面が途切れた。

最後に映ったのは何かの動物を模ったお面を付けたこの気の持ち主と握りしめた拳から血を流し、苦渋に満ちた表情で泣く刹那の姿だった。

 

 

 

 

「……フェイト」

 

「はっ」

 

「今から俺が見た記憶をお前にも与える。この僅かな情報から今日中に組織を割り出せ。加減するな、完全なる世界の幹部を使ってでも見つけ出せ」

 

「了解しました」

 

今の俺は怒りで煮え滾っている。

よもや、こんなくだらない事に生徒が巻き込まれているとはな。

狙われた近衛は元より、やらざるを得ない状況に追い込まれた刹那。

何があった結果にこの組織と行動を共にしているかは分からない。

だが、俺は刹那の流した血と涙を信じる。

まずは詠春と連絡を取らねばならんな。

今の記憶と共に、フェイトが調べるであろう情報を渡し、内部闘争に備えさせる。

俺自身はスクナを粉砕すると同時に敵組織の中核を潰す。

 

 

 

 

教え子に手を出す奴を俺は許さない。

 

 

 

 

∽to be continue∽

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