∽移り行く風のように∽   作:アクア=イスタロス

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第57話

―――――【第57話 到着、美しき闇の都】―――――

 

道中、カエルによるハプニングがあったり、刹那が何やらきな臭い隠し事をしていたりと問題が発生したが、どうにか俺たちは京都駅に到着した。

これから、バスに乗り込んで清水寺へと移動する予定だ。

 

バスの道中は何もなかったと言ってよいだろう。

せいぜい、はしゃぎ過ぎている何人かの生徒の頭に戒めの拳骨を与えただけだ。

ただ騒ぐだけならまだしも、セクハラは見逃せん。

 

清水寺へと到着した俺たちは、まず清水寺をバックに記念撮影。

中学生と言えど女子校な上、最近の子供は発育が良すぎるためか中学生の記念撮影に見えないのが感想だ。

そしてどさくさに紛れて俺に抱きつこうとするな!

わいわいしている内に、いつの間にか引っ張られるように1番真ん中にいた。

教員は端の筈なんだが…ええい、だから抱きつくなと言っているだろう!!

それでもしがみつくように抱きつく生徒に疲れた俺はどうしようもないため無視することにした。

これ幸いとばかりに頭から始まって肩に腕、腰に足にと密集する生徒たち。

……暑苦しい。

 

そしてしずなさん。

苦笑してないで助けてください。

周りの生徒も笑ってないで助けろ。

抱きつけなかった生徒は悔しそうにするんじゃない。

 

全く、最初からこんなに疲れるハメになるとは…。

 

「京都ぉーっ!!」

 

「これが噂の飛び降りるアレ!」

 

アレって言うな、ちゃんと正式名を言え。

というか、京都の事について調べたんじゃないのか。

 

「誰かっ!!飛び降りれっ!」

 

「では拙者が…」

 

「止めろ」

 

「全くですわ」

 

鳴滝姉に命じられるままに飛び降りようと柵から身を乗り出した長瀬の首根っこを掴み、引き戻す。

生徒にそんな事をさせてたまるか。

そもそも、見た感じでは本気で飛び降りるつもりだったのかどうかわからない長瀬の発言と行動だが、本人が忍者である以上、生還できるからという理由で本気でやりかねない。

雪広がため息をつくのも分かる。

 

「ここが清水寺の本堂、いわゆる『清水の舞台』ですね」

 

端の方では綾瀬が説明を始めていた。

俺自身、日本生まれのため、京都についてはある程度知識として知っているが、細かい現状などは知らない。

逆に、京都がどのような過程と実情を経て今のようになったのかについては色々と調べたため知っている。

あとは詠春に聞いたぐらいか。

あの時は楽しかった、うん。

 

「本来は本尊の観音様に能や踊りを楽しんでもらうための装置であり、国宝に指定されています。有名な『清水の舞台から飛び降りたつもりで・・・』の言葉どおり、江戸時代では実際に234件もの飛び降り事件が記録されていますが、生存率は85%と意外に高く……――」

 

「うわっ!?変な人がいるよ!?」

 

本当だ。

詠春から聞いた情報など、目でもない。

俺が調べた内容でも、そんなマニアックな情報は分からなかった。

さすがは妖怪の集めた生徒たち。

一癖も二癖もある。

綾瀬の場合はこういった知識量だな。

 

「夕映は神社仏閣仏像マニアだから」

 

「…その記憶を学校の勉強に向けて欲しいものだ」

 

「リュラン先生のお願いであっても嫌です」

 

「…はぁ」

 

分かってはいるが、それでもがんばって欲しい。

すぐ近くに宮崎・早乙女といった成績の良い友達が説得しても勉強嫌いは関係ないらしい。

…手間がかかるなぁ…。

 

「それにしても、天気が良くてよかったよねー」

 

「ホントー」

 

「ねー、誰かシャッター押してー」

 

先程から仲の良いクラスメイト同士で写真を撮り合っている。

有名な観光地とあって、俺らのほかにも多くの観光客がここに来ている。

邪魔にならない程度に騒ぐように注意してあるためか、いつもよりは比較的大人しいのが幸いだ。

また、誰かが言ったように今日は綺麗に晴れた。

清水寺のあちこちでカメラを片手に、様々な場所で綺麗な風景を背景に友達と、家族と、そして恋人と思い出の1枚を納める姿がちらほら目に映る。

 

「しかし…ここからであれば京都の街が一望できるな」

 

「あっちにもこっちにも寺があるね」

 

「さすが京都!」

 

「歴史を感じるアルね」

 

良い雰囲気だ。

では、少し勉強時間を取るとしよう。

 

「ふむ…では君達に聞こう。なぜ京都には寺がたくさんあるのか知っているか?」

 

「聖武天皇の東大寺建設が尾を引いた結果かにゃ?」

 

まさかの方向から答えが飛び出て来た。

思わず唖然とした。

 

「…俺はその言葉が明石から出てきた事に驚きだよ…」

 

「ちょっと、リュラン先生ー!」

 

「仕方ないわよ。普段がアレだし」

 

「うぅ…馬鹿筆頭のアスナには言われたくない…」

 

「うぐっ…。これでも多少はマシよ」

 

「ははは…んんっ。本来、京の都は政治・文化の中心だ。それだけであれば華やかかと活気に溢れる物なのだが、政治には必ず陰謀が付き物だからな。暗き闇の中心でもあったわけだ。…今はともかく、昔は裏の存在――主に悪霊や物の怪といった類が自主的に、または能動的に都に入り込む事も多々あった。もちろん、悪戯だけしか仕出かさない類であれば被害は小さいのだろうが、中には多大な被害…例を挙げれば地震や落雷のような自然災害、他者を狙った呪詛や直接的怪我など人的災害出す奴もいた。そんな奴らを放置していては次は自分達に被害が及ぶかもしれない。そう考えた昔の貴族は御祓いに特化した者を外から呼んで、そいつらを退治、または封印するよう頼んだわけだ」

 

俺の説明を何やら神妙な顔で聞く超や綾瀬たちクラスメイト。

面白いのかどうかはさて置き、京都という街の歴史に興味があるのだろう。

授業ではやることのない闇の真実。

京都という華やかな表に隠された裏の事情。

このクラスで無くとも、興味を引きそうな話題だな。

たまにはこういった雑談も授業に取り入れると気分転換にはなりそうだ。

…俺の受け持ちは体育だが。

 

「しかし、被害が出る度に呼んでいては間に合わない事例もいくつか発生するわけだ。そこで考え出されたシステムが京の都の至る場所…朝廷を中心にして、鬼門の方角を含むいくつかの通り道に寺院を配置し、京の都にこういった悪霊が侵入することを防ぎ、それでも入ってきた悪霊にはすぐさま対応できるようこの道に長けた者たちを朝廷内に配置したんだ。因みにその御祓いに特化した術がいわゆる陰陽道で、その道に長けた者達を総称して陰陽師とか呼ばれた。有名なのは安倍清明とかだな。最も、陰陽道は御祓いだけじゃなく天文学やら占いとかもできるスペシャリストだったけどな」

 

これで終わりとばかりに手を叩いた。

話が終わったと分かった彼女たちはさっそく近くにいた者たちと今聞いた話について話し始めたようだ。

1番興奮して話し始めたのはやはり綾瀬。

次は意外にも、明石であった。

先程と良い、歴史には興味があるのか?

その奥の方で違う話題について話し合う者も居たが、それはそれでいいだろう。

自由奔放な様子だが、これがこのクラスの特徴だ。

俺は彼女達から目を放し、他の連中の様子を見る。

 

…視界の端に何かが柵から身を乗り出しているが気にしない。

 

「ハシャいで落ちないでくださいね、ネギ先生」

 

「ネギ先生にも喜んで頂けて良かったですわ」

 

野菜坊主の側にいるのは雪広と那波だ。

どちらが保護者なのか疑う光景だが、いつものことなので気にせずスルー。

…さらにその奥に、手すりに頬を擦り寄せる姿が見えた気がしたが、絶対に気にしてはいけないだろう。

趣味は人それぞれだ。

 

「そうそう。ここから先に進むと恋占いで女性に大人気の自主神社にあるです」

 

「え」

 

「恋占い!?」

 

「恋占いねぇ…」

 

「リュラン先生は少し黙ってるです」

 

恋占いと聞いた生徒たちが途端に騒ぎ始めた。

やれやれ、占いなど気休めにしかならんだろうに。

…ま、心の不安を解消したいと思うのは誰であっても、だな。

 

「リュラン先生。私達も行きませんか?」

 

「そうだね。リュランさん。今すぐ行くべきだ」

 

「そうやで~。行こうや~」

 

「あっ、リュラン先生…。わ、私もお願いします」

 

「ちょっと待て、お前ら。分かったから袖を引っ張るな!」

 

何時の間に来たのか、俺の側で服の袖を引っ張る生徒が数名。

抵抗しようにも、謎の圧力を受けて抵抗できない。

くっ、これが巷で噂の乙女パワーとでも言うのか!

結局、ずるずると引き摺られながら綾瀬が説明した恋占いの場所へと向かっていくのであった。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

「アレが噂の恋占いの石だって」

 

「目を瞑ってこの石からあそこの石にまでたどり着ければ恋が叶う…か。それぐらいで恋が成就するんなら安上がりな恋だな」

 

「リュラン先生は乙女心を理解してないのです。これぐらいの試練を簡単にこなしてこそ、叶う恋があると先人たちは言っているのです。そもそもこの距離で辿り着くだけでも大変だと思うのですよ?」

 

「これぐらいなら余裕だ」

 

「むっ、自信がお有りのご様子ですね。では、リュラン先生。私と一戦交えましょう!」

 

「あ、ずるい!私も!」

 

「いや、俺は恋占いなどする必要ないのだが…」

 

「私はこっち側で見てるわ」

 

「リュランさ~ん。頑張ってや~」

 

何故かこの恋占いで一戦交える事になった。

今から挑戦するのは俺に雪広、佐々木に宮崎だ。

反対側では神楽坂や近衛たちが待っている。

恋の成就を願えと言われても…誰との恋だ?

レイナ・フェイト・シエルとは通じているし…う~む。

 

「ターゲット確認!行きますわよ!」

 

「あーっ、何だすごいぞいいんちょ!」

 

「えっ…」

 

左から誰かが走り去る風が当たる。

俺が誰との恋を成就すればよいのか考えているうちに結構な時間が経ったようだ。

どうやら声を聞くに、雪広がよくわからん何かを使ったらしい。

記憶通りであれば恋の心眼とやらなのだが…絶対一般人のレベルを超えてるぞ…。

因みに、俺は対象の気配をこれまた心眼で見抜いている。

こっちは経験則も混ざっているが。

 

「ずるーい!いいんちょ、目開けてるでしょ!」

 

「ホホホ、まさか!!これで私と彼の先生との恋は見事成就ですわ!!――!?」

 

急に先行していた雪広と佐々木の気配が下に消える。

アレだ、例の妨害行為だ。

だが、ただの落とし穴(中にはカエルがいるが)では俺を止める事は出来ん。

 

「よっと」

 

落とし穴の手前で軽くジャンプし、避ける。

この程度、戦場を駆けてきた俺には造作もない事。

そしてそのまま反対側にあった石へと辿り着いた。

 

「おー、さすがリュラン先生!」

 

「うむむ。さすがです」

 

「これぐらいは、な。それより、雪広と佐々木は?」

 

到着した瞬間に聞こえたのは和泉の驚きの声や綾瀬の驚嘆する声、そして近衛たちから拍手。

出来て当然なので、それほど嬉しいとは思わない。

それよりも、落ちた筈の2人の怪我の方が心配である。

妨害が目的の罠で怪我はないとは思うが念のために。

 

「あっちにいます。怪我とかはないみたいです」

 

どうやら2番目に到着したのどかが指す方向へと振り向くと元気そうに神楽坂と騒ぐ雪広の姿があった。

まぁ、あれぐらい騒いでいれば怪我はないだろう。

 

「ふむ。元気そうでなによりだ。確認だが、怪我はないな?」

 

「は、はい。大丈夫ですわ」

 

「私も大丈夫だよ~」

 

「そうか。それは一安心だ」

 

言葉では安心と言えど、本当は安心できていない。

少なくともまだ1つは妨害(的な嫌がらせ)があるのだ。

回避はできないだろうから早期の対策をするべきだ。

 

「次は音羽の滝やね。はよ行こリュラン先生」

 

「あ、このちゃん!待ってください!」

 

「俺の意思は無視か。一応教師なのだが…」

 

「あはは…」

 

顎に手を当てて考えていた俺だったが、急に服の袖を引っ張られる感覚があり、考えを中断し引っ張る方を見る。

そこには袖を引っ張る近衛と真名がおり、その後ろには止めようとせずに苦笑しながら見守る刹那と神楽坂の姿。

おい、苦笑してないで2人を止めろ。

そして、遠くで笑ってないで助けろ、エヴァンジェリンと茶々丸!

 

 

 

 

「あー!なんかスゴイ混んでるよ!」

 

「ゆえゆえっ、どれが何だっけー!?」

 

「右から健康・学業・縁結びです」

 

『左・左ーッ』

 

「おい、他の観光客の迷惑だろ。順番と節度を守れ」

 

「ん~…手遅れだと思うよ、リュランさん」

 

「…と言いつつちゃっかり自分の分は確保しているんだな、真名」

 

「もちろんだ。スナイパーは獲物を逃しはしない」

 

「……」

 

声をかけるが時既に遅し。

我1番とばかりに各自、柄杓で滝から流れる水を飲んでいる。

呆れる俺に声を掛けてきた真名の方を振り返るが、その手には柄杓と液体。

ちゃっかり過ぎるだろ、おい。

そして滝の水を飲み始めた生徒から様々な感想が出始め……――

 

「…何か、みんな酔いつぶれてしまったようですが…」

 

「えぇーーーーっ!?」

 

「いいんちょっ、しっかりしなさいよっ!!」

 

「はひー?」

 

またもや時既に遅しと言えよう。

飲んでいた生徒全員が酔いつぶれて寝てしまっていた。

1杯程度ならあまり問題ない筈だが、予想以上におかわりをする生徒が多い。

面倒なので、近くの3-Aの生徒を呼んでバスへと運ばせる。

酔いつぶれた生徒の顔を確認していると、雪広や佐々木などを筆頭に、真面目な宮崎や近衛、アキラまで飲んでいた。

よほど縁を結びたいらしい。

誰と、とは言わない。

 

「ん…?何かお酒臭くないですか?」

 

「あー!その甘酒でごぺっ」

 

近くを通りかかった新田先生と瀬流彦に嘘の報告をする野菜の意識を奪う。

今、この状況で嘘の報告はすぐにバレる。

本来であれば、飲酒は修学旅行中止の上、停学なのだが、今回は公共の場における悪質な悪戯であることは周りから見ていても分かる。

よって、まずは正確な報告と迅速な収拾が必要だ。

酒であると認知した上で自主的に飲んでいないと証言があれば、警察への通報のみで終わる筈だ。

 

「大変です、新田先生、瀬流彦先生。どうやら音羽の滝の縁結びの個所に酒が仕込まれていたようです。見たところ、あまり度は高くないので健康に害は出ないとは思いますが…。それでも、多数の生徒が酔いつぶれてしまっています」

 

「何と!?それは本当ですか、リュラン先生!?」

 

「えぇ。その証拠で上にこんな酒樽が…」

 

「むむ…。全く、質の悪い悪戯だ!すぐに警察に被害届を出しましょう。生徒達には可哀想だが、これを持って旅館に引き揚げさせるとしましょう。瀬流彦君、警察に連絡を」

 

「分かりました」

 

「新田先生は他のクラスの生徒をお願いします。俺としずな先生でこの場の生徒と協力して寝てしまった生徒をバスに運びます」

 

「うむ。こちらは任せてくれ」

 

「しずな先生。他の観光客が騒ぐ前にバスへ運びましょう。神楽坂、寝てない生徒と協力して運ぶのを手伝ってくれ。野菜坊主、邪魔だ」

 

「わかりました」

 

「わ、わかったわ、リュラン先生」

 

意識の無い野菜坊主を適当な脇にどけて生徒を運び出す。

スカートが捲れ、直視してはいけないような惨状だが、やらないわけにはいかない。

酔いつぶれていないにも関わらず絡んでくる真名に拳骨を与え、酔いつぶれた生徒の運び出しを残りの3-Aの生徒に告げる。

俺も何人かの生徒を背負い、バスへと向かった。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

「助かったぞ、神楽坂」

 

「ううん、気にしないで。でも、まさか酒が仕込まれてるなんて…」

 

「警察には被害届を出してある。犯人が捕まるかどうかは分からないが、少なくともこの件はこれで終わりだ。御苦労さま」

 

「うん!」

 

元気な返事をした神楽坂に微笑んだ後、あれからの事を思い出す。

音羽の滝で寝てしまった生徒をクラスメイト全員で協力してバスに押し込み、他のクラスには悪いが旅館へと向かった。

最初の対応が功を奏し、他のクラスの生徒から変な勘ぐりはなく、無事に旅館へと到着した。

今では酔った生徒は各班の部屋に寝かせており、起きている生徒は予定を繰り上げて動くように指示してある。

旅館のあちらこちらでワイワイ騒ぐ声が聞こえるが、夜ではないし、他の観光客もいないため、迷惑にはならないだろう。

…従業員の方には邪魔かもしれんが。

 

「あの、リュランさん……」

 

「…ん?あぁ、悪いな」

 

「いや、平気だけど…(リュランさんの撫で方は気持ちいいし…)」

 

最後に不吉な単語が聞こえた気がするが気のせいだろう。

ともかく、昼間の事件は新田先生が警察への対応をすると言っていたのでお任せし、俺は旅館の見廻りだ。

そのまま神楽坂と廊下を歩いていると休憩所近くから野菜と誰かの声が聞こえる。

…人払いも掛けずに堂々と話すとは、やはり成長してないな。

 

「そ、そういえばリュラン先生。私の事、アスナでいいよ?神楽坂って呼びにくいでしょ?」

 

「教師だから呼びにくいという理由で下の名前を呼ぶわけではないが…厚意に甘えるよ、アスナ」

 

「う、うん」

 

休憩所ではなく、3-Aの部屋へ向かう道を選ぶ。

アスナは何も気がつかずに俺と話しながらこちらへと付いて来た。

他愛もない話で時間をつぶしながら、ロビーを通り、部屋に向かう階段に着いた。

そこで、携帯に着信が入る。

相手は…エヴァンジェリンのようだ。

 

「アスナ、先に部屋に戻ってくれ。俺はちょっと仕事の話だ」

 

「あ、うん。食事の時間まで部屋にいるね」

 

アスナが階段を上がって行った事を確認し、電話に出る。

 

「…どうした?」

 

「あ、繋がりましたね。マスターに代わります」

 

出たのは茶々丸だった。

…まだ携帯の扱いに慣れてなかったのか。

 

「出るのが遅いぞ。…まぁいいがリュラン、そっちはどうだ?」

 

「生徒は無事だ。身体に害はないレベルだし、他のクラスの生徒も探る様子はない。そっちの調子は?」

 

「問題はない。それとお前の付き人のフェイトとか言ったか。あいつの報告によれば、この周囲一帯に魔法を使われた痕跡も、罠の形跡もないようだ。安心していい」

 

「今は安心だが、本格的に安心するのは早いだろう。…最も、相手の妨害は子供騙しレベルだが」

 

「ふっ、その通りだな」

 

「とりあえず、引き続きフェイトには周辺の監視と警戒を。エヴァンジェリンと茶々丸は気付かれないように待機してくれ」

 

「了解した。では、また何かあったら連絡する。…ところで、私の名を呼ぶ時省略してくれ。親しい仲だと自負しているが、愛称で呼んでくれた方が私としては好ましい」

 

「ふむ。ではこれからはエヴァと呼ぼう。それでは頼んだ」

 

会話を切り、携帯をポケットにしまう。

いくら、子供騙しの妨害をする程度の連中と言えど、最低限の対処はしているようだ。

また、フェイトの分身はちゃんと仕事をしているらしい。

本人は俺の命令で情報を探しているだろう。

……やはり、どこかで休ませてやらんといかんな。

ともあれ、今夜が勝負の鍵を握ると言っていいだろう。

記憶通りの人物のみであれば、いくらでも対処の仕様はある。

逆に、予想外の人物がいれば…気を抜く事は出来ない。

最も、近衛を奪われなければこちらの勝利と言えるのだが。

…おや、通路の奥の方にいるのは真名と刹那に先に部屋に戻った筈のアスナか。

 

「――」

 

「――」

 

「――?」

 

何か話しているようだが、さすがに遠くて聞こえないか。

もう少し近づくとしよう。

 

「――っ!…何だ、リュランさんか。驚かせないでくれ」

 

「急に気配が消えたので敵かと思いましたよ…」

 

「うわっ、リュランさん!?」

 

急に出現した俺に対し、三者三様の対応を見せた後、現れた人物が俺だと分かると途端に脱力した。

…刹那に関しても今までと変わらない対応だな。

新幹線で見せたあの姿が本当なのかどうか、今でも信じられんな。

……教え子を疑わなければならない立場は辛いな。

 

「消したつもりはないのだがな。油断し過ぎだ」

 

「無意識でこのレベルかい?やれやれだよ…」

 

「さすがですね、師匠」

 

「あ~…私も頑張ってるはずなんだけどなぁ…」

 

己の実力不足をぼやくアスナだが、そもそも訓練に参加してから日にがあまり経っていないのだからしょうがない。

…そして刹那も少しは俺を警戒しているらしい。

先程から無意識に右手で柄の位置を確認している。

最も、刹那が抱える秘密を知った今、知られるわけにはいかないと考える刹那の気持ちが痛いほどに理解できるが。

 

「それより、何話してたんだ?」

 

「師匠ならば問題ありませんね。…今日の一連の出来事についてです」

 

「程度は嫌がらせの範疇だったけど、関西呪術協会の妨害だと思ってね。対応を決めていたのさ」

 

「あぁ。間違い無くあちらからの妨害だ。狙いは分かっているのか?」

 

「…ネギ先生がお持ちになっていた封筒だと思いますが…師匠のお考えは?」

 

「それもあるだろうが…1番の狙いは近衛だろうと踏んでいる」

 

「えぇっ!?木乃香!?」

 

アスナが物凄い驚いている。

まぁ、それはそうだろう。

まさか、自分の親友が狙われていたなどと聞かされてはな。

 

「…リュランさんもか」

 

「あぁ。裏に通じている者であれば分かることだ。東の妖怪と西の長――近衛詠春は娘婿。いくら形式に従うと言えど、身内であれば簡単に打ち合わせすれば、対談の時間ぐらいはいくらでもできるだろう。反抗勢力の邪魔が入らぬように警護をそろえ、親書の受け渡しも簡単に行える筈だ。それをわざわざ運んでいるところを奪っても意味はないのは一目瞭然。ならば他に狙いがあると考えて当然だ」

 

「そして、他に私たちの学校を狙って利益になるターゲットといったら…近衛木乃香。現東の長の孫にして西の長の娘である彼女以外、考えられないだろうね」

 

「?」

 

そう、原作通りに彼女が狙われて当然だろう。

彼女を意のままに出来れば日本の裏を牛耳ったと言っても過言じゃない。

それだけの価値が彼女にはある。

アスナは分かっていないようだが、またあとで説明しよう。

 

「……」

 

「刹那。近衛が狙われた時はお前が頼りだ。いくら近衛が裏の事情を知らないと言えど、奴らは知ったこっちゃじゃない。襲うときは必ず襲ってくる」

 

「師匠……」

 

「これまでの訓練はこの時のためだ。周りを頼るなとは言わん。だが、己が決めた事ならば、全力でやり遂げて見せろ。最後まで護りきれた時、これまでの訓練に報いたと考えろ」

 

「…はい!」

 

だが、彼女が味方であろうと敵であろうと、俺の教え子に変わりはない。

過ちを犯そうとしたならば、俺は全力で止めるだけだ。

そこは譲らない。

教え子を護るため、全力を注ぐ。

ただ、それだけ。

 

「…リュランさん」

 

「ん?」

 

「…どさくさに紛れて刹那の頭を撫でているよ?」

 

「…おぉ。いつの間に」

 

一応、刹那の背景を理解した筈だから下手に手を出そうとは考えていないのだが……。

…ふむ。

 

「全く…撫でるのなら私にして欲しいね」

 

「む。それだけは見過ごせません。私だって師匠に撫でられたいのですから!」

 

「刹那はいつも撫でられているだろう!」

 

「真名だって普段からベタベタしてるじゃないですか!」

 

おや、いつの間にかシリアスな雰囲気が粉砕されて、桃色がかった空気が……。

これは非常にマズイ。

こんな空気のまま放置すれば何があるか分かったもんじゃない。

 

「2人とも落ちつけ。撫でて欲しいならいくらでも撫でてやるから」

 

「「う…」」

 

効果は抜群のようだ。

今の2人はまるで小動物のようだ。

2人は撃墜した。

 

「…私もしてほしいなぁ…」

 

「あ~、うん。後でな」

 

「…むぅ。わかったわ」

 

アスナからも要望があったが、今は手一杯だ。

仕方ないが、諦めてもらうしかない。

2人を撫でた後、アスナも撫でて、ひと段落する。

 

「とりあえず、今後の方針は近衛の護衛が優先。ついでに親書の強奪を防げばいい」

 

「はい」

 

「わかった」

 

「了解」

 

「細かい段取りは3人に任せる。まぁ、アスナは分からんことだらけだろうから2人に些細なことでも良いから質問して疑問を消しておく事。2人は必要な物があれば俺に言ってくれ。有る程度の物であれば揃えよう」

 

「分かりました。何かあれば携帯で知らせます」

 

「ああ。俺は引き続き旅館内の見廻りをしているからな」

 

見廻りといっても実際はそこまですることはない。

旅館の従業員に迷惑をかけそうな生徒を見かけたら注意するぐらいだ。

あとは他の教師とスケジュールを確認したり、裏関係では瀬流彦と打ち合わせをしたりするぐらいだ。

そのため、今は今夜の襲撃に備えて暇を潰すしかない。

もしくは、罠が仕掛けられぬようにこちらから罠を仕掛けることもできるが…過剰のように思える。

…しかし、その前に何かあった気もするが…何だっただろうか?

 

 

 

 

∽to be continue∽

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