―――――【第58話 温泉騒ぎ】―――――
「ふぅ…良い湯だ」
……む?
何だ、覗きに来たのか?
……ふっ、流石に同性の裸に興味のある者はいないようだな。
現在、俺がいるのは麻帆良学園が借りている旅館の露天風呂。
この時間は教員のみとなっているのだが、今は俺1人しかいないから自由に羽を伸ばせる。
さっきまで桶を鳴らして音が響く様子を楽しんでいたが…飽きたからな、ゆっくり湯に浸かっている。
…ん。
ガラガラと扉が開く音が聞こえた。
誰かが入って来たらしい。
「わぁー!これがジャパニーズ・バス。露天風呂って言うんだね!」
「おうよ!これに浸かって今日一日の悩みも一旦忘れようぜ!」
「…結局、桜咲さんとリュラン先生が西のスパイかどうかはわからなかったね」
「まぁ、奴らも熟練者なんだろーよ。簡単には尻尾はださねーさ」
…どうやら、野菜坊主とエロネズミのようだ。
しかし、奴らは俺と刹那の事を西側だと勘違いしているらしい。
…俺は奴らの前では何も見せていない筈なんだがな……何をどう考えている事やら…。
「あのリュランってやつの事はわからねーが、桜咲刹那は多少わかってるだろ」
「でも、僕達が知ってるのって、いつも剣みたいなのを持ってることと、式神を使うってことだけだよね?」
「む~…魔法使いの兄貴じゃ呪文唱える前に負けちまうよ」
「はぁ…魔法使いに剣士は天敵だよー」
野菜坊主とエロネズミの会話を聞いて思う。
それは誤解である、と。
確かに、剣士と魔法使いは真逆の職種であろう。
片や近距離、片や遠距離の間合いで戦うからな。
故に、純粋な魔法使いにとって剣士が天敵であるならば、剣士にとっても純粋な魔法使いは天敵となり得るのだ。
魔法使いからすれば、呪文を発動される前に接近されてしまうと攻撃できない。
逆に、剣士からすれば、近づく前に呪文を発動されれば攻撃できない。
つまり、1歩間違えば両者似たような状況になるわけだ。
また、極論を言えば対峙する者の力量に左右されるのは言うまでもない。
魔法使いとて極遠距離を好む者のいれば接近戦を好む者だっている。
真名のように銃だけで遠近両方戦える実力者だっている。
結局は自分の戦える間合いを取った方の勝ちになるだけだ。
…ナギやラカンのようなバグキャラにはそれが通用しないわけだが。
最も、現状の野菜坊主は恵まれた魔力量とそれを使いこなすだけの才能を持ちながら、一般的な魔法使いにすら及ばない魔法の運用技術しか持ち合わせていない。
宝の持ち腐れという言葉が1番お似合いか。
磨けばモノになる物を、甘やかして育てた結果だからな。
…ま、俺が心配する必要もなければ言う必要もない話だが。
…む、脱衣所に誰かの気配。
何やら妙に見知った気配だが…はて?
「…ん?誰か来たよ。男の先生方かな?……!?」
野菜坊主が驚く気配を見せた。
そこでようやく記憶の引き出しにしまわれた情報と合致した。
野菜坊主が戦闘に入っている時に刹那が入る時があったな。
さてはて、どうするべきか。
気配を絶っているとはいえ、今の刹那が気がつくかどうか。
……ところで、生徒の裸をガン見するのが教師の態度なのか、野菜坊主よ。
「ふぅ…困ったな。話せど話せど作戦が決まらない。…不確定要素が多過ぎる」
俺は刹那の不用心さに脱帽だよ。
旅館の中とはいえ、対盗聴用の魔法も呪符も使っていないのだから下手な会話は危険が伴う。
…俺自身は教えてないが、詠春はその辺の基本を教育してないのか…?
大丈夫か、神鳴流…。
「…それにしても、ネギ先生には失望したな。魔法使いとはいえ、あれではただの子供…戦力として数える事も出来ない。……!殺気、誰だっ!?」
「しまっ…くっ!」
事の次第を見守っていると、急に野菜坊主から殺気が漏れ出し、それに反応した刹那が即座に明かりを消して追撃の構え。
野菜坊主は不利を悟ったのか、岩陰に隠れたようだ。
…だが、岩如きで実力者の刀は防げない。
「逃がさん。『斬岩剣』!!」
「!?ラス・テル、マ・スキル、マギステル。『風花 武装解除』!!」
刹那の持つ刀『夕凪』が戦闘に飾られていた岩を容易く斬り裂いた。
断面を見ればその切れ味が良く分かる。
…人に使えばホラー映画真っ青の状況だな。
対して野菜坊主は相手の得物を奪うべく、武装解除の呪文を放った。
狙いは悪くない。
だが、相手が剣士である事を考えればその手は悪手だ。
接近戦を訓練しているのであれば必ず無手における戦闘も学んでいる筈だから。
そら、間合いを詰められて急所を……ん?
「…何者だ。答えねばひねり潰す――ってアレ!?」
「…あう?」
「「リュラン先生!?」」
何故だかわからないが、俺の急所がニギニギされている。
……ふむ。
「刹那。例えお前が俺の事を好きだったとしても、想いを告げるという過程をすっ飛ばして既成事実を作ろうとするのは如何なモノかと思うのだが」
「い、いえっ、あの、これはその…ふつかか者ですがよろしくお願い…ってこんなことを言いたいわけじゃなくて!!す、すみませんでしたリュラン先生!!」
「いや、隠す必要はない。誰だってたまには羽目を外したいものさ…」
俺は夜空を見上げる。
うむ、今日の夜空は星が綺麗に見えるな。
「言葉と行動が矛盾してます!!誤解しないでください!!」
バタバタと慌て始める刹那とその傍で突然の事態にただただ呆然としている野菜坊主。
急所を掴まれていないのと直接死の恐怖を味わっていないためか、泣いてはいないがその分復活するのが遅いようだ。
「さぁ、早めに起きたまえ、野菜坊主」
「けぱぁ!」
「お、おい!てめー、兄貴に何しやがるんだい!」
「ん?話すネズミとは珍しい……。しかしだな、野菜坊主よ。前にも言ったと思うが公共の場にペットを連れてくるのは如何なモノだろうか。特に、浴場は不特定多数が使う可能性が極めて高い。人の常識を理解できるか知らんが、自分で自分の身体を綺麗にできるとは思えないネズミが風呂に入るという事は汚れたまま入っていると思うのだが…その辺はどうなのかな?」
「はぅ!あぅあぅあぅあ…」
「い、いや、これはよう…そう!腹話術だ!そうだよな、兄貴!!」
「は、はい!実はそうなんです!それに、カモ君はとても頭の良い子なんで、僕の言葉もちゃんと理解してくれますよ!」
そうか、腹話術だったのか。
…なんて、理解すると思うか馬鹿め。
「そうか…。先生になってもなお、腹話術を使わないと話相手がいないとは…。一時期は天才少年と噂されていたが実際は残念な子だったんだな」
「…ネギ先生…」
「あ、いや、その…うわぁぁぁぁぁぁん!」
「あ、ちょ、待ってくれ兄貴!!」
結局、泣いて逃げ出した。
逃げたところで根本的な解決には至らないと思うが。
こういった突発的な場面においては未熟な精神面が大いに発揮されている事が良く分かる。
…生徒に勉学を教える前に自分の精神訓練をさせるよう妖怪に言うべきかもしれん。
「あ、あの…リュラン先生…」
「…何かな、刹那」
「あの、その、ですね…。わ、わたしは「ひゃあああ~~~~っ!」このちゃん!?」
「脱衣所の方だな。行くぞ」
「はい!このちゃん!!」
刹那が何かを言おうとした最中、どこからか叫ばれた悲鳴が夜の旅館に木霊した。
俺の耳が正しければ音源は脱衣所。
おそらく近衛の声だ。
急ぎ刹那を伴って脱衣所へと向かう。
――のだが、改めて言いたい。
この時間は先生専用の筈なんだが……。
それはさて置き、脱衣所へと到着した俺と刹那が見た非常識な光景に俺はため息をつきたくなった。
「……」
「……」
「いやぁ~ん!」
「リュ、リュランさん!?た、助けてー!!」
「あ、せっちゃん、リュランさん!?見んといて~っ!」
デフォルメされた小猿たちに下着を脱がされているアスナと近衛の姿だった。
予想していた展開とはいえ、あまりにもアホらしいこの騒動をどう鎮圧するか悩んでいる間にも近衛は下着が脱がされ、生まれた状態の姿へとなる。
そして、そのまま手足を持ち上げられて外へ――
「逃がさん!『百烈桜華斬』!!」
――いかんとしたところへ待ったを掛けたのが1人。
鞘から刀を抜き、神鳴流の奥義を放ちつつ近衛を護るよう抱き寄せる刹那。
この奥義は斬った直後に何故か桜の花びらがまるで何十枚も舞っている様に見えるから名付けられた業の筈。
それはともかく、俺は疑問を覚えずには居られなかった。
「刹那…そう何度もポンポン奥義を出してもいいものなのか…?」
「いや、まぁ…名前を言わずに斬ってしまうと只の抜刀術でしかありませんし…。寂しいじゃないですか」
いや、確かに見てる分には寂しいかも知れんが…。
そんなことを気にしてる場合か?
「…ともかく、無事か近衛」
「せや、大丈夫やったこのちゃん!?」
「あ、ありがとな。何やよーわからへんかったけど、助けてくれたんやろ?」
「ううん。このちゃんが無事でよかった…」
助けた恩人である幼馴染に感謝する近衛と無事であった事を喜ぶ抱きつく刹那。
ふむ、良い光景だ。
これでちゃんとした服と場所であればさぞ見物だっただろうに。
「ところで…何でリュランさんと刹那さんが一緒に浴場…?」
「それを今聞くのは無粋というものだぞアスナ」
「え~…」
アスナと会話しながら周囲に気を配っていると微かに鳥の羽ばたく音が響く。
襲撃者…たしか、猿おん――天ヶ崎千草だったか。
この後再び近衛を攫うために動き出した筈だ。
…俺の関心はそれより別の方にあるのだが。
「とりあえず刹那。お前は近衛と共にいろ。アスナは真名に連絡しろ、俺は少し周りを散策してくる」
「あ、うん――って、もういないし。…とりあえず、刹那さん、木乃香、お風呂に入りましょ?変な騒ぎで身体冷えちゃったし」
「そうですね。じゃあこのちゃん、入ろか」
「そやね~。久しぶりにせっちゃんと温泉や~♪」
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先程の襲撃から数十分後。
俺は2駅程離れた工事中のデパートの屋上に来ている。
理由はもちろん、襲撃犯である猿おん――天ヶ崎千草を追跡し、辿りついた場所が此処だからだ。
目的の人物は目下の道路で直接知らない人物と見覚えのある人物と話している姿が見える。
姿こそ肉眼で見えるが、声ばかりは聞き取れないためもう少し近づく事にしよう。
「―――やっと―――だが――面倒だ」
「―――彼らを―――次は――。じゃ、頼むよ――」
「はいです~。―――いいんやろ?」
「あぁ。――がいたら―――」
「は~い」
「ほな、頼むで」
声が届く場所に移動する前に会話が終わってしまった。
ほとんど聞き取れなかったが、おそらく今後の襲撃について計画していたのだろう。
気配が1つ消えて、残すは2つ。
姿を見せても問題ないだろうが、念には念を入れよう。
「…久しぶりだな」
「ああ、お久しぶりです。わざわざこのような夜分にどうかしましたか?」
「何故此処にいる。天ヶ崎千草の反乱など大して収穫も無いだろう」
「!!流石です、我が主。指示は1つ。彼女が復活させる鬼神『リョウメンスクナノカミ』の戦闘能力をこの目で確認する事。プラスαで捕獲が可能であれば捕獲して来いとも言われましたが」
「……誰にだ?この程度の案件、お前に来るとは思えんが」
「レイナ様にですよ。どうやら、主がお話しされた旧世界の京都に並々ならぬ興味を示したそうで。片っ端から資料を読み漁った結果、今回の話に至りました」
「…迷惑を掛ける」
「いえ。これも私の仕事です」
どうやらレイナが興味本位の命令を出したらしい。
結果、テルティウムがその命令を受けて此処に来た、と。
……フェイトにも迷惑を掛けただろうな…休みになったら甘えさせてやるか。
「――あの~……?」
遠くにいる何人かの顔を思い浮かべていると忘れたところから声が聞こえた。
ささっと顔を向ければ困惑気味の女がいた。
名前は聞かずとも分かるが、ここは礼儀に則って聞く。
「テルティウム。彼女は?」
「紹介が遅れました。彼女は月詠。こちらの世界で見つけた有望株…と言ったところでしょうか。色々と問題点も視えましたが」
「むぅ~。初対面の方に失礼しちゃいますわ~。んんっ、お初にお目にかかります~、月詠言います~」
中々緩そうな性格の持ち主である事は知っていたが、実際に正面で話されるとのんびりというか、物怖じしないというか…。
まぁ、その点を含めても強い事はテルティウムが見たんだろうが。
「今は名を名乗れない。とりあえず呼ぶ時は好きに呼べ」
「はいはい~。…ところで、あんさんお強いんですか~?」
「月詠。我が主が弱いはずがないだろう。…一応、この口調ではありますが口は固いので問題はないかと。決定権は主に委ねます」
「…テルティウムを信じよう。俺の名はリュラン。リュラン・アルタメシアだ」
「!なるほど~大戦の英雄さんですか~。…せやけど、何でこちら側にいるんですか~?」
「その質問はナンセンスだ、月詠。ただ、それで引くとは思ってないから先に告げておこう。主が我々の側にいるのではない。主の側に我々がいるのだ」
「…!…中々面白そうやわ~。今夜、ウチと遊びませんか~?」
笑顔を見せた月詠の閉じた目の奥からは無視するにはあまりにも大きすぎる魔の想いがチラついた。
やれやれと頭を振る。
「勘弁してくれ、一晩じゃ終わりそうにない。…ちぃ、話し過ぎたな。今後の猿おん――天ヶ崎千草の行動予定を教えてくれ」
「対象が手に入り次第、リョウメンスクナノカミを復活させる予定です。復活後は関西を勢力下に置き、そのまま関東へ侵攻するようです」
ここでの対象とは無論、近衛の事だ。
それにしても…リョウメンスクナノカミとはまた懐かしい物を…。
おそらく復活させる際に行う式は『再誕の儀』だとは思うが…どこまで力を解放できるものか。
もちろん、あの時同様、力づくで捩じ伏せる事が出来る気がしないでもないのだが。
「…十全にスクナが復活したとしても無理な話だ。詠春とて昔ほどではないが力はあるし、関西の有力幹部が黙ってないだろう。内紛が勃発して共倒れが関の山か。…猿おん――猿女とテルティウム、月詠の他に戦力は?」
「犬上小太郎という狗族の少年と上から来たと告げた仮面の人物が1人います。詳細が不明のため、現在諜報員を走らせています。遅くとも明日の昼までには報告できるかと」
「そうか。ならばそちら側の件はお前に任せる。好きにやれ」
「はい」
「月詠も戦いが好きなのは否定しないがほどほどにな」
「心のどこかに置いておきますぅ~」
とても不安な月詠の返答を最後にデパートを後にする。
しかし、犬上は予想通りとしても仮面の人物か……。
テルティウムの腕を信じていないわけではないが、俺自身でも調べる必要がありそうだな。
そして、俺を追おうとしていた何かを斬る。
チラッと確認したが、真っ二つになった札がひらひらと舞っていたのを見ると、術者は関西側らしい。
さすがに誰が放ったのかは分からない。
だが、簡単な呪符返しも放ったから多少は痛手を与えた筈だ。
ともかく、今夜は何もされないだろうと考える。
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一方、リュランが地のフェイトであるテルティウムと再開し、情報を共有する中、旅館に取り残された者達はというと――
「あ、あの…刹那さん。先程はすみませんでした」
「いえ、私の方こそ申し訳ない。事情がどうあれ、話を通していなかったのは事実ですから」
「それでですね…。改めて刹那さんと話し合っておきたいと思ったのですが…今は大丈夫ですか?」
「…分かりました。手元にある分を張り終えたら時間を取ります。それまでお待ちください」
「刹那さーん。こっちは張り終えたわ…って、あんたは!!」
「え!?なんでアスナさんが!?」
「…はぁ。面倒事はあちらからやってくるとはこの事ですか、師匠…」
刹那が野菜坊主と銭湯での出来事に関してやり取りをしているところにアスナが来てしまったためにアスナが裏に関わっている事がバレてしまい、嘆いていたのであった。
「…そうだったんですか」
事態を収拾するために、とりあえずアスナが魔法を知っている理由、及び刹那と京都の関係について野菜坊主に話した刹那とアスナ。
急に濃い内容を話された野菜坊主であるが、見たところパニックに陥ってはいないようである。
元々、日常では大人びた面を見せていた事もあるが、1日中パニックに襲われていた性もあってか、多少は成長したのかもしれない。
「私も最初は嫌々だったけどね。…でも、刹那さんとか真名さんの話を聞いて、私も頑張ろうかなって」
「私は元々そうなるべく育てられましたから。――っと、互いの事を話すのはここまでにして、そろそろ現状について話しましょうか」
刹那の一言により、先程まで明るく話していたアスナが気不味そうな表情をする。
その顔を見た刹那もどう説明するか口を噤んで戸惑うが、そんな微妙な空気を読まず、向こうからブチ破って来た。
「はい!僕も協力しますから襲ってくる敵について教えてくれませんか!?」
「…私の考えを先に言っておきましょう。私としてはネギ先生を必要としません」
「えぇ!?な、なんでですか!?」
まさかそんな言葉を告げられるとは思っても見なかったのだろう。
野菜坊主がとても驚いた様子で刹那に聞き返した。
そして、当たり前だとばかりに刹那は説明を始めた。
「第1に麻帆良学園に来てからの不甲斐なさです。もちろん、年齢や初めて教師という職業に就いた事を考慮していますが、それを補ってなお甘いと言わざるをえません。第2に裏の状況に対する認識の低さです。裏の出来事を表に出さない。これは無闇に堅気の人間に被害を出さないようにするための暗黙の了解です。ですが、ネギ先生は安易に魔法を使っては記憶を消そうとしています。無いとは思いますが、相手側が形振り構わず襲ってくるとすれば昼間の街中で事に及ぶかもしれません。その際に中途半端な対処をされては困ります。そして第3に……1番重要な事ですが、ネギ先生は戦闘の経験がほとんどない。咄嗟の戦闘であればある程、この経験が明暗を分けるのですが、今のままではネギ先生は安々と敵に首を渡してしまう事でしょう。以上3点からネギ先生の協力を必要ないと判断しました」
「…なんで戦闘した事がほとんどないだなんてわかるんですか?」
「今の発言がまさにだったのですがネギ先生のためにお教えしましょう。数日前、エヴァンジェリンさんと大鉄橋で戦いましたよね?」
「…はい」
「戦闘の後に学園長先生がおっしゃっていたかと思いますが、あれはネギ先生の実力をつけるための模擬戦でありました。よって、後からどこが悪かったのかを検証するために戦闘場面を録画してありました。私も機会があって見させてもらったのですが、そこから今回の結論に至りました。まず、戦闘に置いて敵を捕縛、もしくは行動不能にするのは敵を殺す事より遥かに難しいです。なぜならば、敵の戦力を全て捩じ伏せなければならないからです。そのためには様々な手段を用いると同時に優れた技術と確固たる実力が不可欠でしょう」
ここで刹那は一呼吸置いて野菜坊主を見た。
野菜坊主の目は真剣そうに見えて、どこか事実を知る事に怯えるような…そんな目をしていた。
刹那は見た事実を発する前に口を閉じ、気持ちを落ち着かせる。
そして、再び説明を始めた。
「はっきりと言いましょう。ネギ先生はエヴァンジェリンさんとの戦闘における際、1度だけ捕縛結界に誘導する事に成功していました。しかし、成功した事に諸手を挙げて喜んだ挙句、ノコノコと敵に近づいていく事も無いでしょう。少なくとも、敵が完全に動けないように捕縛を重ねる必要はあったでしょう。いくら相手が実力を出し切れていないとはいえ、ネギ先生にはない年季というモノが備わっているのは会話から分かった筈ですし、あの時は突発的な戦闘というよりは万全に準備をするだけの時間があったわけです。いくら自身が未熟と言えども対処の仕様はあったでしょう」
「……」
刹那の説明を聞いていくうちに野菜坊主の表情はどんどん冴えなくなっていく。
それを見かねたエロネズミがついに行動に出る。
「やいやい!こっちが下手に出りゃ、言いたい放題言いやがって!大体、あんたと兄貴の力がそれほど離れているようには思わないな!さっきだってあんたの得物を弾くことは出来たんだ!そのまま戦ってりゃこっちの勝ちだろうが!」
「カ、カモ君……」
「…あんた、やっぱバカ?」
エロネズミの発言を聞いたアスナが思わず呟いた。
野菜坊主も相方の応援を聞いて少しばかり元気が出たところを文句を言われたため、少しばかり顔が赤くなっていた。
「な、なにぃ!?」
それに対し、つい最近まで戦い方のたの字も知らなかった筈の女子生徒にバカにされ、憤慨するエロネズミ。
そして反論しようとするが、その口を顔を赤くしている野菜坊主によって閉じられる。
その野菜坊主の様子を見て、呆れつつも補足の説明を始めた。
「特別驚くことではありません。得物である刀がなければ戦えないなどという甘い考えは持ち合わせていません。そもそも、一流と呼ばれる先達は得物を選ばないというほどです。その教えを習うかのように、今もなお名を残す流派においては得意な得物こそあれど、必ずどんな武器でも扱えるように指導しています。そこには無手での戦闘も想定されます。もちろん、私の流派である神鳴流でもそう教わりました」
「…ま、私だって教わってから数か月程度しか経ってないけど、最低限として剣と無手の戦い方は教わってるしね。そこらのチンピラ相手なら負ける気はしないわ。逆に、アンタって杖を奪われたらどうすんの?詳しく知らないけど、一般的な魔法使いは魔法発動体がないと魔法を使えないんでしょ?」
「うぐっ…で、ですが僕だって…僕だって、出来る事はあるはずです!僕だって魔法学校を首席で卒業しただけの力はあるんですから!!」
刹那とアスナに畳みかけられた野菜坊主は自分を鼓舞するかのように自分の履歴を挙げて声を荒げる。
それでも、何かを倒したといったモノではなく、魔法学校をどういった状況で卒業したのかという程度ではあるが。
魔法学校を首席で卒業したという実績が実戦でどこまで通じるかは今の野菜坊主に知る余地はない。
そんな…少々追いこまれ気味の野菜坊主を見て、ため息をつきながら刹那は告げた。
「…わかりました。では、次の襲撃の際、ネギ先生の力を見せてもらいます。それで今後、ネギ先生を戦力として含めるかどうかを決める事にしましょう」
「勿論です!絶対に認めてもらいますからね!」
そういうと意気込んでその場を立ち去る野菜。
まだ作戦の段取りも決めていないのにである。
その様子に不安そうな表情になるアスナ。
「…大丈夫なの、刹那さん?」
「わかりません。ですが、今争っていても向こうの思う壺です。ならば、少し予定が変わりますが、私とアスナさんで前衛。後衛に真名を呼ぶ予定でしたが、ネギ先生を配置することで1度試してみましょう」
「…刹那さんがそう決めたなら私は構わないよ。エヴァちゃんもリュランさんも言ってたしね。『いかなる時も万全と考えるな。逆境の時にこそ活路を見抜け』ってね!」
「はい。…それと、ネギ先生がいる前ではあまり師匠の名前は出さないでください。あまり表情には出しませんが、師匠はネギ先生を嫌っています。…いえ、根本的には嫌っていないのかもしれませんが、おもらく師匠が同じ大戦の英雄でありネギ先生の父親でもあるナギ・スプリングフィールドの知り合いだからなのでしょう。父親の事を聞かれるのが面倒なのだと推測しています」
「あ~…、なんとなくわかるかも…。うん、気をつけるね」
最初に会った時の野菜坊主の様子を思い出すアスナ。
時折、父親がどうだとか話していたような記憶がある。
その当時はその父親が魔法使いで、大規模な戦争を止めた現代の英雄だとは夢にも思わなかった事ではあったが。
「はい。ネギ先生にこのことがバレれば、父親の事を師匠に問い詰めるのは一目瞭然。…もしかすると、師匠が自分に父親の事を聞かせるのは当然だとでも言わんばかりの態度で迫るかもしれません。そうすれば……」
「…麻帆良学園の地形が変わるかもね。そもそも、いくら父親が知り合いだからって、子供は関係ないし。にしても、魔法学校の主席ってそんなに優秀なの?10歳が成れるぐらいだから大したこと無さそうだけど…」
「そこは師匠にお願いします。私は知りませんから。…ただ、首席だったからこそかもしれませんね」
「自分の実力を過信し過ぎてるってこと?」
「ええ。よく聞きませんか?才能を持って生まれて、ちやほやされて育つうちに自分は何でもできるから偉いんだって錯覚する人の話を」
「そう言えばそうね。…これから先、どうなることやら」
「……そうですね」
これから先の事を想い、ため息をつくアスナと何やら含みのある言葉を返した刹那。
この時の刹那の間が、後に、重大な意味を持つこととなる事をこの時のアスナは知らなかったのである。
∽to be continue∽