∽移り行く風のように∽   作:アクア=イスタロス

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第59話

―――――【第59話 遭遇】―――――

 

静まる京都の夜。

普段ならこの時間帯に訪れる人物は誰1人としていない。

それが工事中のデパート付近であればなおさらである。

そう、普段であれば……――

 

「くっ、あれほどの着ぐるみを着ていながらこれほどの俊敏性を持っているとは…」

 

「でも、大分追いついたわ!もうすぐ射程範囲内よ!!」

 

再び敵の罠に嵌り、まんまと木乃香を奪われた刹那とアスナ(+α)は近衛を攫った猿の着ぐるみを纏う女を追っていた。

途中、駅構内に人がいないことからこの一連の動きは計画的な物と分かり、一層敵を警戒しながら追いかける。

先程、電車内で敵の呪符によりあわや溺れそうになるものの、刹那の斬空閃により何とか窮地を脱した。

一息つく間にまたもや逃げられたが、遂にデパートの工事現場にて敵を捉える事に成功した。

 

「フフ…よーここまで追ってこれましたな」

 

「あ、あの人って!新幹線の!!」

 

「そやけどそれもここまでですえ。3枚目のお札ちゃんいかせてもらいますえ」

 

「!おのれ、させるかっ」

 

そういって猿女――天ヶ崎千草は何かの札を構える。

その札に対し、先程からの仮定…敵は呪符使いということを確信しつつも、アレを使わせるのはマズイと無謀ながらも敵に特攻する刹那。

しかし――

 

「お札さん、お札さん。ウチを逃がしておくれやす。――喰らいなはれ!『三枚符術、京都大文字焼き』!!」

 

「くっ!」

 

「刹那さん!」

 

刹那は間に合わず、札は投げられてしまった。

昼間は通行人で賑わうであろう広い道路であるが、投げられた札を中心に巨大な大の字の炎が現れる。

京都名物の巨大な焼き文字だが、それを現物と比べこそすれば小さいものの、たった1枚の札で再現できただけに猿の気ぐるみを着ていたとは思えないほどの実力を持っている。

やはり、侮れない。

 

「ホホホ、並みの術者ではその炎は越えられまへんえ。ほな、さいなら」

 

逆巻く炎を自らの力で突破できず、悔しがるアスナだが、その傍らに立つ刹那に諦めの表情はなかった。

気を落ち着かせ、自らの師との訓練を思い出す。

 

「(たしかに強力な炎だが――師匠の訓練ほどではない!)斬空閃!!」

 

先程、符術によって出現した水流を押し出すのにも使用した斬空閃を今回は広範囲で放ち、逆巻く炎を吹き飛ばす。

まさか自分の大技がこうも簡単に破られたという事実に今度は猿女の方が慌てだした。

 

「くっ、この技…神鳴流か!?」

 

「さすが刹那さん!私も行くよッ!」

 

「もちろんです!」

 

「くっ…さすがに追ってくるだけの力はあるんやな。ならウチはこれを使うだけや。現れや、猿鬼!熊鬼!」

 

炎を突破した2人はその勢いで突撃、決着はついたかと思われたが、猿女の出した猿と熊の式神によって2人の剣は届かず、再び膠着状態となる…。

――かに思われた。

 

「たぁー!」

 

アスナの振るった刀によって1撃で猿鬼が送り返される。

彼女が振るうその刀――本来ならば野菜坊主とのパクティオーによって得られる彼女の唯一無二の破魔の剣――の劣化版である。

制作者であるリュランが訓練用に創ったとはいえ、魔法無効化、式神無効化を付加して創り上げた本物に劣らない逸品である。

しかし、付加した能力が本来の形で付加されなかったためか、はたまた彼女自身が持つ魔法無力化のせいか、若干使い勝手が悪い…らしい。

それはともかく、式神に優位性を見出したアスナはそのままもう一方を、刹那は近衛を取り返すべく猿女との間合いを詰め、刀を構える。

そこへ、空から新たなる客が舞い降りてきた。

一瞬の内に刀を交えるがどちらも押し切る事が出来ずに、再び距離が開く。

 

「あいたたたー…どうも~神鳴流です~おはつに~」

 

「お、お前のような者が神鳴流剣士…だと?」

 

「はい~。月詠と申します~。…見たとこ、あんさんは神鳴流の先輩さんみたいやけど、護衛にやとわれたからには本気でいかせてもらいますわ~」

 

「…昔の私であれば呆気にとられ油断していたが、今は違う!行くぞ、月詠!!」

 

再び2人は斬り合う。

刹那の野太刀に比べ月詠の小太刀はそれこそ間合いは狭いが小回りが利く上、両手に1本ずつ持つ2刀流である。

さらに、掛け声が緩い感じの割に剣筋は鋭いという矛盾するかのような戦い方にリズムが狂わされる。

慣れない相手な上、早く近衛を取り戻さねばと普段であれば起こる筈の無い焦りが見え始める刹那。

そんな刹那が月詠相手に苦戦する中、もう片方のアスナはというと――

 

「くっ…ちょこまかと…」

 

熊鬼は既に送り返したが、周りを駆ける小猿が強敵であった。

戦闘経験が浅いアスナだったが、今回はそれが特に仇となった。

すばしっこい相手と相対する場合、身体目がけて武器を振り回すのではなく、足元を狙い飛んで避けたところを空中で叩くのが基本となるのだが、アスナはそれを教わっていない。

そのため、先程から小猿本体を狙っては外している。

それでも苦しい状況が続いたが、動きに慣れたのだろうか。

避けられてこそいるが、段々と狙いが良くなってきている。

しかも、無意識で足元も狙っているのだ。

屈んで避けられないと悟って空中に身を投げ出した小猿が1匹、また1匹とアスナの剣に倒されてゆき――

 

「こ・れ・で…ラストーッ!」

 

盛大な掛け声と共に最後の1匹を倒した。

時間は掛かったが、1人であれだけの数の素早い相手を倒したというのは大きな自信へと繋がるだろう。

大きくガッツポーズを決めたアスナであったが、そういえばと近衛達の方へ顔を向ける。

そこではお互いが堂々たる動きを見せ、膠着状態が続いていた。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

場所は変わり、ここは工事中のデパートの屋上。

そこには、ジッと戦闘を見つめる者の姿が2人。

1人は先程リュランと話をしていた少女、テルティウム。

もう1人は何かの動物を模したお面を被る人物。

ただし、仮面の人物の立ち姿が堂々たるものなのに対し、テルティウムの立ち姿は熱を感じさせない、蜃気楼のようなおぼろげなものであった。

2人の間に会話はなく、ただ戦闘を見物するだけで時間が流れていった。

 

「…おい」

 

「…何か」

 

ようやく口を開いたと思えば、聞こえてきたのは年端も行かぬような鈴の声。

対するテルティウムもトーンは違えど似たような響きであるため、仮面の人物は少女なのかもしれない。

最も、このような裏に関わる少女がただの少女な筈がないが。

 

「行かなくて良いのか?」

 

「…さぁ」

 

眼下を見れば、小猿相手に何とか勝利したアスナがガッツポーズ。

そして嬉しそうに小太刀を振り回す月詠の猛攻を、時に刀で受け流し、時に紙一重で避けながら反撃の隙を狙う刹那の姿。

前者はさて置き、後者の戦いは真逆の戦い方ではあるが、十分実力があると言えよう。

最も、刹那の場合は中学生が学ぶ事の出来るレベルより少々出来るとはいえ、防戦一方。

逆に月詠は完全に遊んでいる。

このまま戦えば勝負を決する事はないとはいえ、見えたも同然。

戦闘を見つめる2人の頭の中では今の戦闘中に何度刹那やアスナを殺害できるか数えるのも面倒なぐらいのレベルだ。

…それでも、仮面の人物はともかく、テルティウムは主であるリュランの言っていた言葉の意味を少しばかり理解する事は出来た。

 

即ち、『彼女たちの潜在能力』について。

 

今のままでは自分たちの計画の進行を遅らせることしかできないだろうが、この戦い、そして次なる戦いで経験を積んでしまえばどうなるか。

もしかすれば、行動を共にする天ヶ崎千草の計画を打ち破るほどに成長するかもしれない。

それぐらいの可能性を、眼下の2人の中学生は秘めていた。

 

「(さすが主が目を付けた人物だ。そもそも片方はアスナ姫だし。素質は十分過ぎる。もう片方も何かの血が混じっているようだし。鍛え上げれば一角の人物に成れそう)」

 

「…おい。そろそろやばいんじゃねーの?」

 

ふと隣の声に従って再び眼下を見ればいつの間にか形勢はかなり変わっていた。

月詠と刹那は相変わらずであったが、天ヶ崎の方が少々危ないようにも感じられた。

 

「…そうだね。そろそろ千草さんたちを引かせようか。これ以上長引かせるのはナンセンスだね」

 

「ようやくか。あたいは月詠の方に行くぜ」

 

そう呟くと仮面の人物はトンっと屋上から飛び降りた。

その姿を視界に収めながら、テルティウムも音無くその場から消える。

デパートの屋上に熱はなく、誰かがいた形跡は何も残っていない。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

【side 刹那】

 

未だに目の前の月詠と名乗る神鳴流の剣士を倒せない。

剣筋から見ても、たしかに神鳴流なのは分かるが、こんななりの輩に後れを取るとは……。

いや、見た目で強さを判断するようでは、私もまだまだというわけか!

 

「甘いですえー。『ざーんがーんけーん』(注!=斬岩剣)」

 

くっ!

発音もおかしい筈なのに、威力は普段の私より上だと!?

向こうでは新たに出現した数体の式神に対し、最初のような奇襲的な攻撃が通じなくなり、苦戦するアスナさん。

まずい……このままでは、このちゃんが……ッ!

 

「ホーホホホホホ!この程度やったんか!これなら問題あらへんわ」

 

高笑いする猿女。

くそっ!

どうすることもできないのか、私は!

せっかく、師匠の下であれだけの鍛錬を積んできたというのに…ッ。

…これが、師匠の想いを裏切る私への罰だとでも言うのですか!

答えてください、師匠……――

 

「こ…このかをどうするつもりなのよ…」

 

「せやなー、まずは呪薬と呪符でも使て口を利けんよにして、適当な鬼に前も後ろも凌辱してもろて精神壊して、最後には無理やりにでもウチらの言うコト聞く操り人形にするのがえーな。あ、なんならアンタらにもその一部始終を見せたろか?どーせ最後の方は可愛ええ声で鳴くやろし、それで自分を慰めるとええで」

 

「「!!!!」」

 

…許さない。

私の生まれや育ちを罵倒し、貶し、時には身分を下と見た下賤な連中から性的な言葉で脅される事は慣れたし、聞き飽きた。

例え他の者がどう思おうとも、私は長によって救われ、このちゃんによって生きる意味を知り、師匠によって今まで以上に強くなれた。

1人でも欠けていれば、今の私は此処には居ない。

長と師匠の恩義に報いる為にも……こんな私とずっと一緒に居てくれるこのちゃんの為にも……ッ!

 

私の大切な人を貶す人物は許さないッ!!

 

「許さんッ!!(木乃香になんてことするのよッ!!)」

 

目の前ではアスナさんが素早く猿女に近づき頭を殴打。

相手が怯んだ隙にこのちゃんを奪い返し、そのまま退避。

それと同時に私が止めをッ!

 

「『秘剣 百花繚乱』!!」

 

打ち飛ばした猿女が建物に激突する。

だが、当たる瞬間に防御したのか、まだ気絶はしていないようだった。

しかし、衣服を全て吹き飛ばしたため、抵抗も此処までだろう。

 

「くっ…よもやこんな出来るとは、侮っとったわ。…せやけど、こっからは本気で行かせてもらいますえ」

 

再び胸元から札を出し、全裸で構える猿女。

しまった、まだ手の内が……――

 

「これ以上は必要ないわ、千草さん」

 

猿女の後ろに新たな人物が現れた。

同時に、月詠の傍にも。

まさか、此処に来て新手が来るとは…ッ!

真名に援護を依頼してなかったツケがこんな時に来るとは…!

 

「!新入りか、何でや?今は取り返されただけやし、ウチらにはまだ――」

 

「…焦らなくても、まだチャンスはある。それに貴女の最終目的はこの程度じゃないはず。欲に溺れて大望を見失ってはいけないわ」

 

…どうやら、まだツキに見放されていないようだ。

会話を聞くに、撤退するらしい。

だが、後から現れた2人…片方はともかく、もう1人の白髪の少女は…私の手に負えない程の気を感じる。

……ぐっ。

 

「…そうやな。ウチらには叶えへんといかんモンがあるんやった。…あんたら、おぼえてなはれ!!」

 

「……でも追われるのは面倒だからね。『ラーク』ルビカンテ、彼女たちの相手を。適当に相手したら帰ってきて構わないわ」

 

!!

新入りと呼ばれた白髪の少女が札から新たな式神を呼びだした。

現れたのは翼を持つ片角の鬼。

倒すのは容易ではないが、負ける事はなさそうだ。

しかし、この鬼を相手する間に敵は逃亡するだろう……今はこのちゃんの安全が最優先。

そして、深追いは禁物だ。

ならば、今夜はこれで引き上げるべきだろう。

 

「アスナさん、引きましょう。このちゃんを取り返した今、彼らの相手をする必要はありません」

 

「そうね、あっちも引くみたいだし」

 

少しずつだが、後ろへと引く。

すると、戦意が無いと見たのか、片角の鬼は主が一定の距離を離れるのを待って帰って行った。

あとに残されたのは浴衣がボロボロの私達2人と浴衣が肌蹴たこのちゃん。

いや、浴衣がボロボロになる程度に済んだことを喜ぶべきか。

目的であるこのちゃんは無事のようだし、今日は良しとしよう。

 

「ん……」

 

「!!このちゃん!」

 

「あー、せっちゃん…。ウチ、夢見たえ…変なお猿に攫われて、酷い目に遭わされそうになって…でも、せっちゃんやアスナが助けてくれるんや…」

 

「…もう、大丈夫やよ。このちゃん」

 

「うん。…でも…って、あれー?ウチ何でこんなところでこんなカッコしとるんやろ?」

 

「あ、それは、えっと…多分、寝ぼけてたんや!」

 

「んー、そやろか?ん~?」

 

「あはは…色々あったわねー。まだこれが初日の夜だなんて…」

 

「と、とりあえず帰りましょう!これ以上遅くなると、誰かに見つかった時に……特に師匠だったら(ガクガクブルブル)」

 

「うっ……(ガクガクブルブル)……いますぐ帰りましょ!!」

 

「?せっちゃんもアスナも急にどないしたんやろ?あーん、待ってやー」

 

慌てて帰ろうとする刹那とアスナを見て、首を捻りながら追いかける近衛。

しかし、そこには先程までの戦闘があったとは思えないような笑顔があった。

 

こうして近衛木乃香をめぐる初日の夜は過ぎていったのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…最後まで僕達空気だったね…」

 

「…そうだな、兄貴…」

 

「…壊した物の後始末とかぐらいしなくちゃね…」

 

残された野菜からは哀愁の気配しかしなかった…。

 

 

 

 

∽to be continue∽

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