―――――【第60話 想い】―――――
修学旅行2日目の朝。
今日は前日の全体行動と違い、班別による自由行動の日である。
基本的に、どの班も前もって決めてあるルートに従って移動する事になる。
そんな今日……旅館のとある1室にてとある人物が机にあるみょんみょん動く何かに対して話しかけていた。
「リュラン先生ー」
「ん?どうかしたか?」
「よろ…よろしけれべ、き、今日の自由行動ー…私達と一緒にまげ…まご…もご…」
人形に話しかけようとするも、何度も舌を噛む少女は前の毛で顔を隠す恥ずかしがり屋な――宮崎のどかである。
机にあるみょんみょん動く物はリュランを模った人形のような何か。
問いかけに対し、返事を返す様子から録音を再生させているのではないらしい。
後ろから出ているタグにはパル作と書いてあるが、これほどの物をどうやって作ったのか…麻帆良の不思議である。
そんなリュラン人形に、先程から何度も話しかけている宮崎。
普段は物静かな彼女だが、今日は想い人であるリュランと共に各地を巡る事が出来る絶好のチャンスのため、勇気を出すべく前もって練習しているのである。
流石は優等生だ。
…彼女に関しては無駄な気もするがそれは言わないお約束。
「その…私達と一緒に回りませんかー?回りませんでしょうかー?」
諦めず話しかけるが最後はよくわからない日本語となってしまっている。
練習なのだからもっと落ち着いてもよさそうなものだが……それができないからこそ、恋とは難しいものなのかもしれない。
「のどかー朝食だよ」
「1階大広間に集合です」
そうこうしているうちに早乙女と綾瀬が朝食の時間を告げる。
誘うための時間はあまり無いが、朝食が終わり次第、頑張って告げようと意気込む。
そこへ――
「構わないぞ、宮崎」
みょんみょん動くリュラン人形から良さげな返事が返ってきた。
いい加減、動きが目障りな気もするが、どうすることも出来ない。
「よ、よ~し~!!」
リュラン人形の言葉に勇気を貰い、気合を入れる。
いつもは顔を隠す髪を全体的に後ろに纏めポニーテールとし、いつもと雰囲気を変えてみる。
リュランがどう思うかはわからないが、喜んでもらえるようにと願って、親友たちが待つ大広間へと移動する。
大広間では既に多くの生徒が座敷に座っていた。
各班に分けてテーブルが用意されており、自分のご飯やみそ汁の量は各自で決めるようだ。
宮崎のいる5班は既に全員そろっており、後は宮崎を残すところであった。
「す、すみません。遅れました…」
「そんなに待ってないよ」
「そうです。他の班はまだそろっていないとこの方が多いぐらいです。のどかが気にすることありません」
「じゃ、本屋ちゃんも来たことだし、いただきまーす!」
『いただきます!』
アスナの合図で食べ始める。
近衛は刹那と仲良く、アスナは早乙女と何かについて話し合いながら食べている。
宮崎も綾瀬と今日巡る名所について笑いながら話し、食べ進める。
食べながらふと、周りを見渡すと昨日の集団飲酒事件によって被害を受けた3-Aの者は皆、気がついてはいないが飲酒によって発生した二日酔いの気だるさや、旅行の初日の夜に寝てしまった事に対しショックを受けているようだった。
宮崎自身も(知らずに)酒を飲んだはずだが、量が少なかったためか、あまり二日酔いの症状は出ておらず、また夜に期待した何かがあるわけでもなかったため、それほど落ち込んではいなかった。
「昨日は色々と楽しかったですね。最後の方で寝てしまったことはともかく…」
「でも、昨日はリュラン先生と話せなかったなー…はぁ」
……訂正しよう。
彼女もリュランと話せなかったため若干ではあるが、落ち込んでいるようだった。
「すでに終わってしまった事を悔み続けても仕方ないです。しかし、今日は班別ですし、教員はどこかの班にくっ付いて動く筈です。よって、食べたらすぐにリュラン先生を誘いましょう!おそらく、他班もリュラン先生を狙ってくると思われます。これは、他のクラスからも予想されるので、かなり急ぐべきでしょう」
対する綾瀬は親友である宮崎に色々とアドバイスを告げる。
今日を逃せば宮崎がリュランと2人きりになれる確率は極端に減るからだ。
親友の恋を成就させてやりたい一心で、彼女のアドバイスはなおも続く…。
宮崎や綾瀬たちが食べ終えてロビーへ移動すると、すでにそこは騒がしかった。
何について騒いでいるのか気になるアスナと早乙女はすぐさま曲がり角にまで近づき、そっと様子を見る。
それに遅れて近衛、刹那、綾瀬、そして最後に宮崎が近寄り、そっとロビーの様子を窺う。
そこでは中心にいる人物を周りに囲う女子生徒が引っ張り合っている姿だった。
「リュラン先生!今日は私達と周りませんかー!?」
「えー、私達とだよ!」
「先約は私達だもんねー」
どう見ても3-Aのクラスではない生徒が混ざっている。
担任は自らが受け持つクラスの班しか混ざることができないと今年より定められた。
主に、リュランのせいではあるが。
よって、このやり取りは最初から無意味な物であり、彼女達は後からやってきた新田先生により連れて行かれた。
…その一連の流れを呆然と見ていた各々だが、1番最初に動いたのは意外にも宮崎であった。
「あ、あのリュラン先生!!よ、よろしければ今日の自由行動…私たちと一緒に回りませんかー!?」
普段の彼女からは考えられない音量とはきはきとした声でリュランに話しかけた。
リュランを含め、今度は唖然としていた表情で眺めていた一同だったが、リュランの言葉によってここら一体の空気が変わった。
「…そうだな。今日は宮崎の勇気に敬意を表して宮崎たち5班と回ることにしよう」
周りから、宮崎の勇気に喜びの声と宮崎が動いたことに対して、驚きの声が上がる。
その後、会話に出遅れた生徒やのんびりと支度をする生徒を余所にリュランを含めた総勢12名が奈良へと移動した。
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奈良公園…シカが公園内をあちらこちら歩きまわり、観光客はシカせんべいを片手に歩きまわるシカに餌を与えている。
今日は平日だが、公園内には多くの観光客が歩いており、シカが集まっている場所は賑わっている。
シカへの人気ぶりがよくわかる光景である。
そんな公園の門近くに彼らはいた。
「へー、結構大きいわね」
「数も中々いるみたいやね。ほら、せっちゃん。シカせんべいやろ?」
「うん、このちゃん」
初めてシカを見るアスナはその大きさに驚き、近衛は刹那とシカせんべいを与えている。
その傍らでリュランはシカを撫でており、シカが逃げないところをみると、触られることに慣れているか、はたまたリュランが特別なのか……。
というか、シカが角や体を擦り付けて来ているからどう考えてもリュランは特別だ。
シカに慣れた世話係でもこんな事は少ないだろう。
現に、確かめようとエヴァが撫でようとすると、シカはサッと違う場所へ逃げてしまう。
やはり、リュランが特別なだけのようだ。
逃げられたエヴァは少し悔しそうな表情を浮かべていた。
「くっ…なぜだ…」
「マスター、ドンマイです」
「…言うな。余計空しい…」
エヴァが茶々丸に慰められる傍ら、レイニーデイは持ち前のスキルを生かして、こちらもシカと触れ合い、真名、早乙女、綾瀬、宮崎はシカと触れ合っている皆の様子を眺めていた。
最も、真名と宮崎の視線はずっとリュランに注がれており、逆に彼は、先程からその視線に寒気を感じると呟いていた。
少々時間が経ち、ずっとシカを撫でていたリュランがふと周りを見渡すと、側に宮崎、綾瀬、早乙女の2人がいないことに気づく。
しかし、自販機の近くで話し合っているところを見ると、心配はないと考えたか、再びシカ――に加えて近くにいたエヴァや近衛と戯れる。
その様子を真名と刹那はムッとした表情で、さらにその2人の様子を苦笑いで見るアスナ。
茶々丸はその間、ずっとオロオロしていた。
一方、宮崎は早乙女らに勇気を出したことを褒められ、さらに上を目指せと宮崎に発破と気合を入れられていた。
発破と気合を入れられた宮崎は若干涙目になるが、そんなことなどお構いなしに早乙女は告げる。
「――告るのよ、のどか。今日ここでリュラン先生に想いを告白するのよ」
「え~~~!?そ、そんなの無理だよぅー!」
勇気を出してやっとの想いでリュランと念願の班行動を共にすることに成功したが、そもそも恥ずかしがり屋である宮崎はこれだけでも十分過ぎる成果である。
それに対し、早乙女はこの勢いに乗ったまま想いをぶつけろという。
その後も、早乙女の様々な誘惑と理論的に聞こえる説得は宮崎の羞恥ゲージを上げる一方である。
それは顔にも表れており、その顔は真っ赤であった。
「よし、まずはリュラン先生と二人っきりにならなきゃね。行くよ夕映!」
「ラジャです」
「あっ、ちょ!まだ心の準備が――…」
親友の恋を助けるべく行動する2人に宮崎の言葉は届かなかった……。
ここから宮崎の前に大きな壁が次々と現れていく。
「アスナアスナー!一緒に大仏見よーよ!」
「へぶっ!」
「せっちゃん、お団子買ってきたえ。一緒にあっちで食べへんー?」
「あ、うん」
「マスター、真名さん。あちらで奈良のみで販売されているという和人形なるものがあるそうです。見に行きましょう!」
「な、おい!1人で歩けるから放せ、茶々丸!」
「なんで私もなんだ…?」
すぐさま動いた早乙女と綾瀬の2人はまず、近衛と茶々丸をそそのかし、班員全員を移動させることにした。
レイニーデイをどうするか悩んだ2人だったが、素直に事情を話すとそこらへんをブラブラしていると答えてくれたため、心置きなく作戦を決行することが出来た。
…誘う瞬間、アスナに蹴りと突きが入った気がするがそこは気にするべき場所ではない。
あっという間に1人となって手持無沙汰となったリュランはどうするか悩むが、そのリュランの後ろからこの作戦において心臓ともいえる彼女が追いつく。
早乙女と綾瀬の行動を止めるために走ったことで息が切れているが、それ以上に身体が震え、心臓は身体から飛び出しそうになるぐらいドキドキしていた。
無論、顔は真っ赤である。
――もちろん、リュランは気づいていないようだが。
「ああ、あのーリュラン先生……」
「ん?あぁ、宮崎か。…なぜか俺と宮崎を除く全員がどこかへ消えてしまってな。かなり強引だった気もするが、不思議な事があるモノだ」
訂正しよう。
リュランの顔は至極真面目に見えるが、どうやらこの状況を楽しんでいるようだ。
証拠に、口元が笑っていた。
「そそそそうですね。ど、どうしましょうか?」
今の宮崎は話すだけでも心臓がドキドキしているが、リュランは気づくそぶりを見せない。
急に決まったとはいえ、親友たちが作ったこの2人っきりの状況に、宮崎も心を決めるのであった。
「ふむ。いつ見ても大きいものだな……」
「リュ、リュラン先生は前にも来たことがあるんですかー?」
「あぁ、今回が2回目だ」
他愛も無い会話をしながら東大寺大仏殿へと足を運ぶ2人。
スーツ姿のリュランと制服姿の宮崎。
リュランはともかく、宮崎も髪で顔を隠さなければアイドルにも成れるぐらいの容姿は持っている。
よって、2人が着ている服さえ無視すれば、結構お似合いのカップルかもしれない。
…それを本人達に言った場合、宮崎が処理落ちするかもしれないが…。
その2人の様子を建物の柱の陰から見守る早乙女と綾瀬。
小さな声で急かすが、その声は届かない。
だが、そんな気持ちは届いたのか…のどかが息を吸って叫ぶ。
「あっ、あのー、リュラン先生ーッ!」
「おう、どうした宮崎」
「先生ー!わっ、わわ、わたし、大…す…すき…大仏が大好きでっ!……あぅ」
「そうか。だが、わざわざ気合を込めて言わなくても大丈夫だからな?」
結局告白できず、よくわからない発言をするのどかに、絶賛勘違い中(に見せかけた)のリュランは当たり障りのない返事を返す。
柱の陰からは早乙女と綾瀬がまるで幽霊のように宮崎を叱る。
…悪霊に見えるのは気のせいだろう。
その後ろで事の次第を見守る他多数が苦笑していた。
とある数名は不機嫌丸出しであったが。
その後も――
「私…リュラン先生が…大…大吉で…!!」
「?…あぁ、おみくじが引きたいのか?」
「いえっ、じゃなくて…大吉が大好き…。いえ、大仏…はうぅ…」
「む、超吉?なんだそれは」
おみくじ売場に行けば大吉と発言してしまい――
「先生!私、大…大福が…!!」
「大福か…そこにある喫茶店であるか見るとしようか?」
少しばかり歩きながら話せば大福と発言してしまう始末。
と、いうような事情で悉く失敗し、完全に自信を失くして落ち込む宮崎。
…彼女の周りが若干暗いのはそのせいだろう。
「宮崎?その、何だ…大丈夫か?」
「は、はいぃ…」
さめざめと泣く宮崎を見てさすがに気がつかない振りをし過ぎたかとリュランも感じ、何だかんだ自分にも原因はあるので東大寺内に設置されたベンチのすぐ近くの自販機で買った缶ジュースを宮崎に渡し、頭を撫でる。
普段であれば狂喜するであろう状況だが、今までの失敗により、素直に喜べない宮崎。
そんな2人にどこからか声が聞こえる。
「ねえねえ、これがその穴?」
「そうそう!この穴をくぐれれば願い事が叶うんだって!」
「へ~。じゃあ私、やってみようかな~?」
「止めときなよ。どうせ、振られるのが落ちだって」
「そんな落ちはいらない!!」
2人が振り返って見てみると、そこには東大寺の柱の1つに開けられた四角の穴があり、その前で話す女子高生の姿だった。
どちらもかなりのレベルのようだが、話を聞く限り、片方は何度も告白しては振られているようだ。
不憫だとは思うが完全に接点が無いので、ここはスルーを決めるが、彼女達の話す内容は興味深いものだった。
「面白そうだな。まぁ、穴をくぐるだけで願いが叶うとは思わないが…1種の御利益なんだろう。もしくは、勇気を貰うおまじないか」
先程の会話に興味がそそられたのか、ジッと開けられた穴を見るリュラン。
その横顔と件の穴を交互に見比べ、決意を固めたのか穴の方へと歩き出す宮崎。
「先生!ちょっとくぐってみますね!」
「ん?じゃあ、俺は出口で待とう。」
「はい!…では、いざ!」
リュランが反対側に周ったのを確認すると、気合を込めて穴へと潜る。
小柄な体格のためかスイスイと動くことができ、これならいけるかもと思った矢先――
「(ギチッ)ん…?(ぐいっ)あれ…?(ぐいっ)!?お、お尻がハマっちゃいましたぁッ!」
「…少し待て。…ふむ、ポーチが引っ掛かっているだけだな。これならすぐに引っ張れるだろう」
「はぅ…。すみません、先生…」
前からのどかの引っ掛かっている部分を確認すると腰から下げていたポーチがちょうど隙間を埋めてしまっていたようだ。
自分のお尻が穴に引っ掛かるほど大きいと勘違いしていたのどかは若干、自分の勘違いに救われるが、どっちにしろ情けない姿を見せているためやっぱり落ち込む。
先程から涙目ではあったが、今ではもう泣きそうな顔である。
「んー…(スポッ)「キャー」うぐっ」
引っ張ること数回。
リュランの発言通り、すぐさま出てこれたのどかであったが、出てきた後の彼女の体制がおかしい。
リュランの首に腕を回し、自らの胸を体に押しつけるその格好は――
「は、はわぁ!!す、すみませんーっ!」
「い、いや、大丈夫だ。宮崎こそ怪我はないか?」
もはや泣いていると言っても良いぐらい目に涙を浮かべる宮崎。
そんな彼女の涙を自分のハンカチで拭ってやるリュランだが、今の宮崎には逆効果であった。
「ごめんなさいーッ!」
これまでの自分の行動に対して完全に自信を失くした宮崎はそのまま謝りながら外へと飛び出していった。
あまりにも予想外な俊敏さで走り去って行った宮崎の後ろ姿を唖然と見つめていたリュランであったが、落ちていた宮崎のポーチを拾うと一瞬にしてその場から消える。
そんな2人の動きを見ていた見物客は、囃したてることもなければ、あたかも今の事はなかったかのようにサッと散らばって行った。
その違和感に気がついたのは、宮崎の後を追いながらも周りの観光客に視線を向けていた綾瀬だけだった。
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場所は変わって、ここは公園内の一角にある休憩所。
ここでは近衛と刹那、そしてアスナの3人が休憩がてら、団子を食べていた。
本来は途中で逸れた他の班員を探すべきなのだろうが、先程の出来事を考えれば早乙女と綾瀬は一緒だろうし、宮崎はリュランと2人きりの観光をしている最中だろう。
前者はともかく、後者は邪魔してはいけないと思い、黒いオーラを放つ2人を引きはがして今に至る。
時折、近衛と刹那の間で妙な百合的気配が漂っていたことを除けば、ほんわかした雰囲気であった。
そこへ、バタバタと慌ただしく走る音が近づいてきた。
「…ん?」
「あ、本屋ちゃん……って、どうしたの!?」
「のどか、どうしたん?そない、目を真っ赤に涙を浮かべて…」
「あ…アスナさん、木乃香さん、桜咲…さん。私…私……」
急に現れ、さらに事情を告げる前に泣き続ける宮崎に何かあったのかと頭を捻る3人。
とりあえず落ち着かせようと、お茶と団子を追加し、別れてからの顛末を聞くことにした。
「へぇー、本屋ちゃん、リュラン先生に告ったんだ?」
「は、はい。――いえっ、しようとしたんですけど、私、トロいので失敗してしまって…」
結局、先程やってしまったミスについて悩んでいたのだった。
好きな相手に自分の悪い面しか見せれないのはどう転んでもプラスではない。
それが、宮崎の心に重く圧し掛かっていた。
「あ…すみません。桜咲さんとはあまり話したことないのに、急にこんな話をしちゃって…」
「いえ、大丈夫ですよ。困った時はお互い様ですから」
「そやよ?それに、せっちゃんは物凄く優しいんや!」
「こ、このちゃん」
「コラコラ。刹那さんが優しいのは良いとして、今は本屋ちゃんの事でしょうが」
アスナの言葉により、店先にも関わらずいちゃいちゃ(?)し始め桃色な空気を醸しだした近衛と刹那が姿勢を正す。
だが、4人を取り巻いていた空気が先程の発言により幾分か和らいだようにも見える。
…偶然とは思うが、さすが和みのスペシャリスト、近衛だろう。
「んんっ。…念のために聞いておきたいのですが、なぜリュラン先生なのですか?」
刹那が静かに当たり障りのない質問を返す。
最も、静かだと考えているのは彼女自身だけであって、傍から見れば黒いオーラを纏った少女が小動物的な少女に詰め寄っている姿にしか見えない。
ちなみに黒い少女は2人いる。
「あぅあぅ…。えっと、リュラン先生は、普段は素っ気ない態度ですので、最初は話すのが怖かったんです。でも、何度か転びそうな時に支えてもらったり、本を抱えている時に手伝っていただいたり…その時に見た先生の優しい笑顔が私をそっと包んでくれるような気がして…」
宮崎は自分の身体をそっと抱きながら語り続ける。
なぜ自分が他の先生ではなく、リュラン先生なのかを。
そして3人もリュランの事を考え、3人ともそろって同時に頷いた。
やはり、リュラン先生は素晴らしい人だと改めて感じながら。
…その笑顔を他の人にも見せている事に少々不満気味な2人の少女を除いて。
「そんな先生を、私は遠くで見ていられるだけで嬉しかったんです。それだけで、私は先生から温かさや勇気をもらえるから…。でも、今日は自分の気持ちを先生に伝えてみようと思って…………」
「ん…?どうかした?」
急に、話していた宮崎が話す事を止め、アスナ達を見つめる。
それに気づいたアスナが宮崎に問いかけた。
「えへへー。アスナさん、木乃香さん。お話を聞いていただいてありがとうございます。桜咲さんもちょっと近寄りにくい人だと思っていましたけど…そんなことないんですね♪」
「ふぇ?」
いきなりの宮崎の告白に、刹那から普段聞くことのできない声が聞こえる。
まさに藪から棒だったのだろう。
「何だかスッキリしました。私、行ってきますー」
「あっ、ちょっと!…行っちゃった…」
「え、あ、う、え?」
「ほらほら、アスナ、せっちゃん。ボケっとしてへんと追いかけるで!」
「あ、木乃香!わかったから手を引っ張らないで~!」
晴れ晴れとした表情を浮かべたまま去って行った宮崎を追いかけるべく、近衛は残る2人の手を引っ張りながら駆け始める――が、すぐにその2人に引っ張られることとなるのはお約束である。
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再び戻って、大仏殿に残されたリュラン。
流石に人目がある場所で堂々と縮地を行うことは出来ないし、先程のように周辺に大きな結界を何度も作るのも面倒である。
そのため、地道に歩いて宮崎を探し続けていた。
「ふむ…。どこへ行ったのだろうな、宮崎は…」
探す事20分。
常人離れした体力によって疲れないとはいっても、それはあくまで肉体になだけであって、精神には徐々に蓄積されるものだ。
初日の妨害ほどではないが、少しずつリュランの顔にも疲れが見えてきた時だった。
「リュラン先生ーッ!」
振り返れば、宮崎が息を切らせて立っていた。
先程見た時のように泣いてはおらず、ひとまずは安心である。
「宮崎、大丈夫か。心配したぞ。…あと、先程の場所に落としたポーチだ」
宮崎を追いかけてきた3人も木の陰に隠れる。
反対の場所には綾瀬や早乙女もいる。
ある程度離れた場所にはエヴァや茶々丸、真名にレイニーデイもいた。
……つまり事情を知る者たちが勢ぞろいしていたわけだ。
「あ、はい。すみません――って、そうじゃなくて、そうじゃなくて…。あ、あの!リュラン先生!実は私…大…大…大…根おろしも好きで…!」
「お、おぉ。そうか。俺も大根おろしは好きだ」
宮崎の相変わらずな発言に全員がこけた。
芸人に劣らない見事なこけかたである。
「いえっ、じゃなくて…大丸、あんころもち……いえっ」
「…宮崎、とりあえず落ち着け。まずは深呼吸だ。何か言いたいのであれば、ちゃんと聞くから焦らず、しっかりと落ち着いてからでいい」
リュランに諭され、宮崎は何度か深呼吸をする。
そして――
「先生、私…私、リュラン先生に助けていただいた時からずっと、ずっと大好きでした!今でも、リュラン先生のこと、大好きです!!」
「……」
宮崎の告白に周りの一同は騒然。
アスナ達は驚き、綾瀬達はガッツポーズを見せていた。
黙るリュランに対し、宮崎は続けて話しだす。
「いえ、突然こんな事言っても迷惑なのは…せせ、先生と生徒ですし…。でも、私は…私の気持ちを知ってもらいたかったんです」
先ほどとは打って変わって、しっかりとした表情でリュランを見つめる宮崎。
リュランも、その気持ちが本物かどうかを確かめる為、真剣な眼差しで宮崎の目を見つめる。
…そうして待つ事数秒…急に宮崎が後ろを向いて失礼しますとだけ告げて去って行ったのであった。
後に残されたのは、広い公園に1人で立つリュランとそのリュランを隠れて見る――
「隠れてないで出て来い。…今回だけは特別に怒らん」
――見つかっていた9人の姿であった。
呼ばれてビクッと身体を揺らしたが、怒らないと言われたためか恐る恐るではあるがリュランの前に姿を現す。
「い、いつから…?」
「最初からだ。…まぁ、野次馬なんてものは世の中いくらでもいるからな。何とも思わんよ」
「リュラン先生は…のどかの気持ちにどう答えるつもりですか…?」
「…それは本人に話す事であってお前らに話すことじゃない。…ふむ、もうこんな時間か。さすがに俺が一緒にいるのは気不味いだろうからな、先に帰るぞ。点呼の時間だけはちゃんと守れよ」
最後は上手く誤魔化されて引きとめる間もなく、リュランは去って行った。
残された9人のうち、宮崎と親しい5人は宮崎を探そうと、公園内を歩き始め、残る4人は見つけても何と声を掛けるか悩んでしまうため、本来の暇つぶしへと戻って行った。
そして、歩きまわるとさきほどアスナ・刹那・近衛が休憩していた椅子で息を整える宮崎の姿を見つけた。
「のどか!大丈夫ですか!?」
「あっ、ゆえ…うん、大丈夫だよ。ちゃんと、私の気持ちを言えたから…」
「そうですか…とにかく、今は待ちましょう。ハルナも、悪戯にこの事を広げてはいけませんよ?」
「わーってるって!親友の恋だもの、全面的に応援するさ!」
仲良く話す3人を余所に、反対側でこそこそと話す3人は冷や汗をかいていた。
「まさかとは思ってたけど…本屋ちゃんもとはねー…」
「はい…。私とは違って、勇気ある告白でしたけど…」
「のどかに取られへんようにウチも頑張らへんと!」
ため息をつくアスナ、落ち込む刹那、やる気を出す近衛とバラバラな3人であった。
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そして、旅館では―――
「ぼ、僕…僕、先生やりたいのにー!!!」
野菜が暴走し――
「ネギ君!とうとう魔法を使ったね!!今のもバッチリ撮らせてもらったよ!」
パパラッチとして名を馳せる朝倉にバレたのであった……。
しかし、よくよく考えてみればそんな写真1枚でどれだけの者が魔法の存在を信じるのだろうか。
今の時代、ネット上には数多のCG画像が溢れており、今回の1枚もそんな類の悪戯写真だと考える者が多数であろう。
また、もし信じたとしてもそれを声高に話す者もいないだろう。
自分の精神を疑われて病院を勧められてお終いである。
そして……魔法使いは少数ではない。
この画像がどこかの掲示板に乗せられたとしても、モノの数秒で画像の存在が消され、挙げた人物は記憶消去を施されるのが落ちである。
もし公開したのが自分だとバレたらどうなるのか…。
そんな単純な事を、スクープに目が行きすぎた朝倉は気づかないのである…。
ちなみに、その衝撃写真はその後の温泉内で2人きりの状況を雪広、佐々木、鳴滝らに見つかったため、女の喧嘩とはいえ朝倉はボコボコにされ、その拍子で携帯は壊れたのであった。
「あたた…。スクープ失敗かぁ。魔法使いは一筋縄じゃいかないわね」
「そんなことねーよ姉さん!!アンタ、キラリと光るもん持ってるぜ!!」
そして、スクープに失敗した朝倉と怪しい企みをその胸に秘めるエロネズミがいくつかのやり取りを経た後に結託する。
…旅館に思いもよらない嵐が吹き荒れる兆しであった。
∽to be continue∽