―――――【第6話 光陰矢の如し】―――――
「突然だが、俺は旅に出る」
「「「え?」」」
そう言うと、リュランはリュックを背負い扉から去っていく。
突然過ぎる展開のため全く反応ができなかった三人を残し、リュランは旅立った。
ここからはリュランの世界歩行記を紹介していこう。
そのまえに残された彼女たちの今をお伝えしよう。
「ちょ、私たちはどうなるのよ~!?」
「え~っと…計画通り、レイナ様が『始まりの魔法使い』として世界に魔法を教えていけばよいのでは?」
「では、従者は私ですね」
「はい。私はここで皆さんのお帰りをお待ちしています」
「え?え?え?」
「まぁ、転移魔法も何とか完成したわけですから、すぐに戻ってこれます。問題はないでしょう」
「まずはこの世界にとって魔法は当たり前ってことを認知させないとね。レイナ様、ガンバ!」
「え、あ、うん。じゃ――」
残された三人は自分たちにできることを始める。
すなわち、世界に対する魔法認知と魔法の布教である。
魔法史の始まりともいえる出来事は世界の片隅で静かに始まったのである。
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と、そんなこんなな話は置いておき、俺が旅に出る理由は2つだ。
1つ目はこの世界の確認。
自分で作ったとはいえ、どこかに不具合がないかどうかを確かめるのは当然だ。
イメージとして「魔法先生ネギま」という本を掲げているが、一番気を使ったのは魔力の存在だ。
ただの星に生物を生みだすのはそれほど難しくはない。
しかし、無機物――それも魔力のような今までの日常でほとんど使ってこなかった代物をイメージしろというのが厳しいの一言だ。
とりあえず、星の核付近に魔力製造機のようなものを置き、大地を通じて放出されるようにしてある。
また、大気に放出された魔力を自然が吸収し、大地に戻すことで循環が起きるようにもしてある。
今後については数百年後の様子を見て判断しよう。
2つ目は自分自身の鍛錬だ。
神の力を奪えたのは僥倖だったが俺自身が使いこなせるわけじゃない。
突然の戦闘で万が一使えないと判明した場合、命の危険に陥る可能性が高い。
ある程度は使えることが分かっているが、どこまで使えるのかを確認する意味でも鍛錬をする価値はあるだろう。
「さて、どこへ行こうかな……」
空を見上げる。
雲が右から左へと流れている。
方角的に、風向きは東。
「なら東に向かうか。風の行くがままに」
リュックを担ぎ直し、歩き始める。
足元に小さく咲く花が静かに揺れていた。
「ふむ。案外近くにあるモノだな」
歩いて2時間。
距離にして80キロほどか。
空に立ち昇る煙と建物を見つけた。
レイナが生物を生みだし、俺が調整してから既に60年という年月が経過している故、当然と言えば当然かもしれん。
とりあえず、文明のレベルを調べなければな。
残り2キロほどある距離をゼロにする。
…いや、転移したわけではない。
『千里眼』を使用しただけだ。
これも神から奪った力の1つだ。
何度か使っているからか、2キロ程度であれば簡単に見える。
「…毛皮の服かと思ったが嘘か真か、布の服を着てるとは、な」
驚いたことに、人類の文化は原始時代を通り越して弥生時代に突入したらしい。
もっとも、ここが日本である保証はないため、弥生時代という名称も違うのだろうが、ここは分かりやすい考え方で捉えてくれればいい。
だが、いくら布の服といえど今の俺の姿では不信感丸出しだろう。
「黒のローブに黒のリュック。どう見ても変だな」
少なくとも好意的には見られないだろう。
というわけで、衣装チェンジをしよう。
「こんなところで創造を使うのも残念な気がするが仕方あるまい、うん」
創造によって見たものにほど近い服を作り出す。
そして今まで着ていたものはリュックの中へ。
このリュックは外見一般的な代物だが、空間魔法によって四次元リュックとなっている。
さらに、許可なく他人が持ち運ぶと勝手にワープして手元に戻ってくる防犯対策も付いている。
破壊されても困るので火や雷、水や氷に風や闇など思いつく限りの防魔呪文もかけておいた。
――ああ、創造で勝手に作った魔法だから非効率この上ないが、能力は折り紙つきだ。
さて、変装も完了したところで街に入るとしよう。
「いらっしゃい、いらっしゃい!新鮮な野菜はいかがだい!!」
「うちの家具はどうだい!丈夫で長持ち、使い勝手も抜群さー!」
「え~、切り傷、火傷、腹痛によく効くお薬を売ってますよ~」
「……賑わってるな。遠目から見た感じではここまでとは思わなかったな」
メインストリートと思われる道を北に進む。
左右の商店では店の親父や売り子が威勢良く声を張り上げていた。
道を歩く者たちも子連れ、カップル、一人など様々だ。
中には危ない商売の店もあったが…まぁ、俺がとやかく言う必要はない。
何も見ずに次の街へと行ってもよいのだが、使われている貨幣や品物の相場、フリーの旅人がどう稼いでいるかなど、知るべき情報は山のようにある。
とりあえず、野菜を売る親父の店に顔を覗かせた。
「へい、いらっしゃい!グーイの野菜屋へようこそ!何をお探しで?」
「少し見て回るだけだ。必要なものがあればその時に言おう」
「はいはい。それでは後ほど。おっ、奥さん、いつも御贔屓に悪いねぇ!」
俺の返答に脈無しと見たか、すぐに次の客へと移る親父。
当たり前だがやり慣れてるな……。
そんな親父から目の前の品物に目を移す。
まず驚くところは書かれている数字は1や0のような見慣れた数字だ。
しかも、値の末尾にはしっかりと「円」の一文字。
……どうやら世界に普及している貨幣は日本円らしい。
偶然か、はたまた都合が良いのか知らんが俺からすれば分かりやすくていい。
さて、野菜屋と言っていたが、リンゴやオレンジなど果物もある程度揃っている。
だが、隣に並ぶいもやほうれんそう?のようなものに比べると10倍近い値が付いている。
野菜が百円程度に対して千円とか…ぼったくりに等しいだろうに。
まぁ、季節ではないのか、それとも簡単に取れないのか。
理由はある程度出てくるが実際のところはわからない。
ま、当初の目的は達成できたのでよしとしよう。
次に探しているのは冒険小説には欠かせない『ギルド』のような施設だ。
期待しているわけではないが、あれば嬉しい。
情報収集と鍛錬が容易になるからな。
「――で、まさかのあると…」
人伝いに話を聞くと、目の前の建物内でおつかいや畑仕事などの雑務、及び野犬や魔獣などの討伐依頼を一手に受け付けているそうだ。
文明の進み具合に頭が痛い。
いくらなんでも早すぎると思うのだが…。
「ともかく、入ってみるか」
扉を開け、中へと進むと意外に綺麗な内装であった。
目の前に2つのカウンターがあり、右奥には掲示板らしき板と紙。
その手前と左側にはいくつものテーブルが並んでおり、利用者と思われる者たちがちらほら。
何人かこちらを見ているが、気にするまでもない。
まずはカウンターにいる女性に声をかけるか。
「いいか」
「あ、はい。今日はどのような御用件でしょうか?」
「この施設について聞かせてほしい。何分、旅をして長いが初めて見るのでね」
「そ、そうですか。んんっ、この建物は通称『依頼斡旋所』と呼ばれてまして、街の市民の皆さまから寄せられる依頼を張り出し、請け負う方に仕事として紹介、成功の暁には依頼者様からの成功報酬をお渡しする、といった場所となります。また、討伐系の依頼で持ち帰った品物の買い取りも行っております。こんなところでよろしいでしょうか?」
「ああ。こういった建物はどこにでもあるのか?」
「小さな街や村でなければほとんどございます」
だから返答にどもったのか。
よほどの田舎者か、辺境を旅してきたと思われたのだろう。
まぁ、間違ってないが。
「では、買い取りをしてほしい。これだ」
「えっと…野犬の毛皮が3枚と野兎の毛皮が2枚、これは…魔樹でしょうか?」
「動く木の怪物と出会ってな。倒した際に松明に使えそうだと考えて切り取ってきたものだ」
「分かりました。魔獣の枝が10本、と。全て買い取りでよろしいですか?」
「ああ、構わない」
「それでは少々お待ちください」
そういうと女性は品を持って奥へと引っ込んだ。
中で金額の計算をしてるのだろう。
もしくは目利きのできるものに確認を取っているのだろう。
「お待たせしました。どれも傷が少ない状態でしたので合計で三万二千円となりますがよろしいですか?」
「ああ」
「ではこちらが金額となります。落とさないよう、ご注意くださいね」
高かったのか安かったのか全く分からない金額配分だが、とりあえず当面の資金をゲットした。
野菜屋で見た金額を考えるとほどほどといったところか。
単純計算で2週間は問題ないはずだ。
これで宿に泊まることもできる。
受け取った金入り袋を直接リュックにしまう。
これで盗られる心配はない。
「世話になった」
「いえいえ。またのお越しをお待ちしております」
綺麗なお辞儀に見送られ依頼斡旋所――面倒だからギルドを出る。
出て近くの店を眺めていると少し後ろから複数の視線を感じる。
ただの視線ならよいが、感じからするに良からぬものだ。
どうやらギルドで金を得た俺を襲って奪おうとする盗賊紛いの者たちか。
数で来ること自体は悪くないが、それでは初めから自分たちは弱いことを教えているようなものだ。
街からある程度離れてから襲うのだろうが、今回は相手が悪かったな。
さて、鍛錬がてら戦わせてもらうとしよう。
∽to be continue∽