―――――【第7話 戦闘】―――――
「おい、ちょっと待てよ」
ようやくか、と長いこと待たされた俺はため息をするのを堪えて後ろを振り向く。
…予想していたより数が多い。
8人はいる。
手にしているのは小さなナイフか、大きくて片手剣程度。
山賊にも届かないゴロツキレベルであった。
「何か用か」
「へへ。あんた、ギルドで大金を手に入れてたよな。それを俺らにくれよ」
リーダー格の言葉に下賤な声で笑う取り巻き達。
笑うのと同時に手に持つ凶器をチラつかせるのを忘れていない。
場数はあるらしい。
さて、改めてゴロツキたちの格好を見るが、一番前の男は上質そうな布服に身を纏って体格もいいが、他はまちまちだな。
中には動くのも辛いんじゃないかってほどのデブが動物の毛皮を被っただけの状態だ。
これはあまりにも酷いな。
「あんたにはそんな大金使いきれねぇだろ?だから俺たちがしっかり使ってやるよ。ありがたく思いな」
「そうだそうだ」
「げへへ、俺たちがちゃんと使ってやるんだな」
「……貴様らのようなゴロツキ共にやる金はない」
「ようよう。この数見てそんな口がきけるんかい?ここは大人しくしてた方が身のためだぜ?」
「…くだらん。口先だけで野犬にも勝てない三下に負けるつもりなどない」
「なっ…て、てめぇら、やっちまえ!!」
リーダーの合図で迫りくるゴロツキたち。
だが、手に持つのはナイフのみだ。
それほど恐れる必要はない。
これぐらいなら魔樹の方がよっぽど危険だ。
突き出してきた右腕を弾き、手首を掴んで遠心力で来た方向へと返す。
逆に飛んできた味方とぶつかって動けなくなった二人はすぐには動けない。
同時に左右から突っ込んできたやつらは刺さる寸前に足から力を抜き、相打ちを狙う。
いくら場数を踏んだといっても所詮数の暴力で戦ってきただけの奴らだ。
突然、刺す対象が真下に動くなどと予想するはずがない。
案の定、お互いの体を刺して動けなくなる。
遅れてやってきたデブの二人は特別何かするつもりはない。
腹に向かって肘打ちを入れ、腹を押させたところを膝に向かってローキックを咬ます。
ボキッと嫌な音が聞こえたが、こちらには何の害もないため無視。
ここでようやく最初に動けなくなっていた三人が向かってきたが、最初のような勢いはない。
様子を見るように動く三人だが、腰が引けているのは丸見えである。
向かって右側にいるノッポに走りだし、慌てて出してきたナイフを首を動かす程度で避けてゼロ距離まで近づく。
そして、顎に掠るぐらいのストレートを放つ。
他の二人も同様に片づけ、残りは……
「後はお前だけだ」
「つ、つえぇ……」
周りには地面に倒れ込むゴロツキたち。
死屍累々とはこういう状況を言うのだろう。
1歩近づく。
ビクッと体を震わせながら1歩下がる男。
また、1歩近づく。
「ぐっ、おい!こ、これが見えねえのか!?ち、近づいたらこれで切りさいしまうぞ!」
「ならば俺はお前が振り被った瞬間にケリをつけさせてもらうまでだ」
脅しは通じないと悟った男は無茶苦茶に剣を振り回す。
近づけないようにするためだろうが、1回1回の振る速さが遅いため、意味を成していない。
「く、来るな、来るな!!!来るなって言ってんだろうがッ!?」
「……遅い」
鳩尾に一突き。
白目を剥いて崩れ落ちた男を無視して太陽の位置を確認する。
どうやらそれほど時間は経っていないようだ。
「さて、無駄な時間を使ったな。さっさと行くとしよう」
男たちは放置だが、問題あるまい。
いざとなれば何とかするだろう。
リュックを背負い直した俺は再び東を目指す。
遥か水平線を映す大地を前に、今一度気合を入れ直した。
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「――とは言ったものの、これはさすがに、な」
目の前には何十もの野犬の群れ。
おそらく餌を探しに来たところに偶然ぶつかったのだろう。
グルルと威嚇するかのように相対する彼らをどう対処するべきか悩む。
だが、悩む時間もあまりないのでここは1つ実験に付き合ってもらうとしよう。
「たしか…『魔法の射手(サギタ・マギカ)。火の1柱(ウナ・イグニス)』」
右手を前に出して呪文を唱える。
記憶にある一番初歩の攻撃魔法だったはずだ。
唱え終わると右の掌に予想外の巨大な火の玉が出現し、目の前の野犬の群れ目がけて飛んでゆき――爆散した。
着火地点に黒煙が立ち昇り、俺は少し唖然としてしまった。
全く魔力の事を考えずに放ったが、いくらなんでもこれは強すぎた。
既に野犬の群れは逃げ去っている。
元々火が苦手なうえ、あれだけ巨大なモノを見せられたのだ。
逃げて当然だろう。
そして、煙が晴れ惨劇の現場を見ると制御の甘さをまざまざと見せられた。
「追い払うだけのつもりだったんだがな……横に数メートル、深さ1メートルもの穴を開けてたとは…」
穴の近くに野犬の死骸はない。
もし当たっていたとすれば確実に消し飛んだだろう。
それほどのものであった。
「当分魔法は誰もいない場所に向かってのみだな。追い払うにしてもこの威力じゃ威嚇の範囲内に収まらん」
今回の反省に1人ため息。
鍛錬の日々はまだまだ始まったばかりである。
とりあえずは空に向かって最弱のサギタ・マギカを打ち続けてみよう。
もちろん、誰かに見られても問題ないように、俺の周囲には結界を張り続けるが。
これはこれで魔力の制御や容量の増大を視野に入れての事だ。
いくら時間があるとはいえ、無駄にする必要はない。
「さてさて、次の街に着くころにはどれだけ制御できるようになるかな…」
これより落ちることはないだろうから後は上がるだけだ。
鍛錬の成果を楽しみに次の街へと歩き出す。
∽to be continue∽