―――――【第8話 時の流れ】―――――
数日後だと思ったか?
外れだ、時代は既に20年も経過しているのだよ。
と、冒頭にバカみたいな暴露をしてみたが、簡単にこの20年間について話そう。
鍛錬を始めてから2年ほどで魔法の制御自体は問題ないほどにはなった。
もっとも、比べる相手がいないので「見る分には」と頭に注意書きが付くぐらいだ。
魔力の容量増大は結局分からない。
1日中鍛錬し続け、ある時は全力で何十発とサギタ・マギカを連射してみたが魔力切れという状態になれなかった。
制御が向上した今、サギタ・マギカ以上の魔法を連射してみてもいいが、それをやれるのは街が近くにあるときだけだ。
もしぶっ倒れた場合、助けは近い方がいい。
体術はじっくりと鍛えている。
もう20年も続けているわけだが、行っている間は無心になれるのでこれはこれで楽しい。
そろそろ我流の極致に辿りつかないかと僅かに期待を寄せているが兆しは見えない。
というか、兆しは見えるものなのかもわからないため、頭の片隅に置く程度ではあるが。
他にも、色々な武器を想像してみては使いこなしているが、一番しっくりくるものは刀であることが判明した。
とりあえず、冒険者らしく常に腰に装備している。
名はないが、稀代の名匠村正の残した剣に似せて作ってある。
見たところで誰も分かるはずもないが。
世界はかなり変化した。
レイナたちは上手くやっているらしく、魔法の存在が世界に認知されつつある。
もちろん、適性もあるし、魔法自体が強力な力であるため、一般には出回っていないが、上位の冒険者や王宮勤めの魔術師などには広く知れ渡っている。
魔法持ちと持たざる者に格差が出来つつあるが、仕方がないものだとして無視している。
それでも、魔法を悪用し、盗賊紛いの行いをする者たちには天誅をしている。
ぼちぼち噂に流れる程度にはやっているため、これで犯罪件数が減ることを願う。
最後に俺自身について。
既に気が付いていると思うが、俺が初めてこの世界に命を吹き込み、旅に出るまでに実に200年近い時間が経過している。
生物が定着し、それぞれの営みを行えるようになるまで見守り、問題がなければ次の地域に向かい同じことを繰り返していたわけだが、そろそろ終わりが近い。
今はその視察という意味合いが大きい。
…誰にも言ってないが。
話を戻そう。
人として生まれ、神に抗った俺は何の因果か知らないが、年を取ることが出来なくなった。
いわゆる不老というやつだ。
思いつく限り、最後の呪いの影響だとは思うが……呪いで不老とはどうなんだろう?
また、小説などによくセットになっている不死については不明だ。
まだ大きな怪我をしていないし、わざとする気にもなれない。
これに関しては成り行きに任せるつもりだ。
「さて、残すはあと1つか」
視察という名の旅もいよいよ終わりが近い。
旅の終着地は昨日訪れた街『ニャンドマ』の遥か南の街オスティアに建てられたと聞く人類最初の王国。
――その名も『ウェスペルタティア』
「未だ街が点々とする中で王を名乗り、国を建てた人物…興味が尽きんな」
背にしていたヤシの木から立ち上がり、側に置いたドラゴンローブを羽織る。
ホウガクカマキリという珍しい昆虫で方角を確かめつつ南へと歩く。
歩きがてら、このローブや体に纏う防具について話そう。
ここまでの道中、野犬やら虎やらビッグワームやらドラゴンやらに遭遇したが…原種だから弱いのか、俺が強すぎるのか。
ほぼ一撃で仕留めてしまっているので素材に困ったことがない。
故に、今まで使っていた初心者ローブを捨て、余っていたドラゴンの鱗や皮、血を使って最高級のローブを合成してみた。
……俺にそんな才能はないが、とある街に合成屋という場所があってだな。
金さえ払えば合成釜と呼ばれる特殊な釜を1時間使わせてくれるのだ。
そこで手持ちにある素材を適当に放り込み、防具一式を生みだした。
頭と腕、足とローブにはドラゴン素材を、胴と腰には(何故か)堅牢だと聞いた虎素材を使用した。(後に聞いた話では討伐した虎の正式名称はゴッドタイガーとのこと)
現状としては最高レベルの防具だろう。
戦闘回数はそれほどないが、前に一度ならず者が不意打ちで放った魔法を腕で防いだのだが、防ぐだけでなく反射までした優れ物の籠手と剣を弾くローブ、着る者に快適な温度をお届けする鎧――って、これは鎧とは思えないが、とにかく旅人1人の装備としては過剰ともいえるぐらいの代物たちだ。
このまま無事にたどり着けると思わないが、これだけあれば問題ないだろう。
「――!何か近づいてくるな…。飛竜か?」
装備について再確認している最中、南よりかなりの速さで近づいてくる存在を感じた。
オスティアの方面だが、珍しくはない。
聞いた話では広大なジャングルとかなり険しい山が連なっているようだからな。
飛竜ぐらいはいるだろう。
「ギャーオ!ギャーオ!」
「どんなのかと思えば何だあれは…虎?竜?」
鳴き声とともに空から現れたのは虎と竜を掛け合わせたような合成獣(キメラ)だった。
くくっ、これだからこの世界は面白い。
「グゥルルルル」
「さて、今夜は焼き肉と洒落込もうか」
腰で名もなき刀を構える。
いわゆる、抜刀の構えだ。
ジリジリと間合いを詰める。
少しずつ距離を詰める俺に対し、虎竜はこちらを警戒したまま動く兆しはない。
ならば、こちらから行くぞ。
「ふっ!」
「グオッ!」
神速の抜刀をした刀と虎竜の前足がぶつかるが、すぐに虎竜の足指が数本飛ぶ。
どうやら浅かったようだ。
もしくは意図的にずらされたか。
どちらにせよ、あちらは行動力を削がれたわけだ。
削った右前足側へ走り込み、すれ違いざまに後ろ足にも斬撃を当てる。
すぐさま苦しみの咆哮を上げたが、次にこちらを見る目はまったく違っていた。
目が赤く光り、体中の毛が逆立ち始めた。
おいおい、バーサーク状態にでもなったというのか?
虎竜が動く。
くっ、先ほどより早い!
だが…
「その程度、まだまだ見切りの範疇だ!」
紙一重で爪の攻撃を避ける。
だが、避けた直後に後ろから何かがぶつかってきた。
地面へと叩きつけら、痛む体を起こし、ぶつかってきた何かを見る。
それは尾であった。
どうやら、あいつは爪で薙ぐと同時に体ごと捻って尾による追撃を仕掛けたようだ。
よく考えたものだ。
「だが、尾の存在を俺に意識させたのは間違いだったな」
「グルルル…ギャォ!?」
足に魔力を溜め、一気に放出。
先ほどとは比べ物にならないほどの速さで尾を切り刻む。
呆気なく尾は胴から離れ、傷口からはある程度の流血が見えた。
「まだまだッ!」
「ギャアアアアアア!」
再び魔力を放出し、連続で斬る。
既に反応すらできない虎竜は甲高い絶叫を上げながら地に伏せた。
目に光はない。
「さて、血抜きするか」
ここで注意しなければならないのは血の臭いで集まる獣だ。
雑魚ならば殺気と魔力をばら撒けば逃げだすのだが、先ほどの虎竜のような上位生物には意味がない。
そこで考えたのが札に魔力を込め、四方に張ることで意味を成す結界だ。
最も、手探りで作った上、大量の魔力を込めなければ使えない代物だ。
今のままでは常時数回分作るのは厳しいため、暇になったら効率化を考えたい。
まぁ、俺だけが使うのであれば問題ない話だ。
そうそう、今血抜きをしているが、その血を捨てることはない。
血には大量の魔力が秘められるので、加工すればドーピング剤――魔力補充剤となる。
前見た街で売られていたので話を聞いてみらそんなことを言われたのだ。
まぁ、生成方法はもちろんのこと、材料もほとんど聞けなかったため、自分で試行錯誤したが。
そんな過程を経て、作ったのがこの魔力凝縮機。
形状はさておき、一番上に魔力が込められた液体を流し込むと、あら不思議、無色無味無臭の3つが備わった魔力水が下の容器に溜まるわけだ。
原液でも構わないが、あまりに濃い魔力水だと魔力酔いするため、濃度を見ながら薄めて使うことをお勧めする。
おっと、話している間に血抜きも終わったようだし、解体して晩飯とするか。
オスティアまでは200キロほどあるが、まぁ、数日で着くだろう。
旅の終点は近いが、のんびりと行くとしよう。
∽to be continue∽