気合入りすぎて、文字数も過去最大です。
読み疲れるかもしれませんが、最後までお付き合いよろしくおねがいします!
それから一ヶ月後。
2月ももう終わろうとしており、季節は春を迎えようとしていた。
あれから矢澤達は練習に励んでいるようだった。
矢澤は次のライブも成功させるんだと張り切っていた。
俺はそんな矢澤を、心から応援していた。
これだけ努力している矢澤に、結果が伴って欲しい。
そう祈るばかりだった。
しかし、彼女の努力は、脆くも崩れ去ることになる。
▼
俺が何気なく矢澤達の様子を見に行こうとアイドル研究部の部室に行こうとしていたところ、大きな声が聞こえた。
「待ってよ!!どういうことよ……!みんなで決めたじゃない!!最後までやり抜こうって!みんなで笑顔を」
「重いんだよね、そういうの……」
「私たち、ただ単にアイドルが好きで入っただけだし」
「にこちゃんは厳しすぎなんだよ。正直、もうついていけない」
部室のドアは開けっ放しで、外にいる俺にまで鮮明に声が聞こえてきた。
────なるほど、あの時の表情の意味はそういうことか。
つまり、矢澤以外の仲間達には本気でアイドルをするつもりなんてなかったってことだ。
もともとアイドル“研究”部だ、矢澤以外はただアイドルが好きだっていう気持ちがあっただけで、自分たちも本気でやろうなんて思っていなかったんだろう。
スクールアイドルをやってみるのも、面白そうだとか興味本位だったのだと思う。
でも、アイツは違った。
本気でスクールアイドルに取り組み、本気で輝こうとした。
そのために誰よりもストイックで、努力を惜しまなかった。
みんなが自分と同じ理想を抱えている、そう信じて。
しかし、その結果が、これだ。
周囲と矢澤の認識の違い。それが今回の結果を生んだ。
矢澤の高すぎる理想のアイドル像が、周りを押し潰してしまっていたのだ。
初ライブが終わったあの日から、少しずつ。
彼女は周囲との溝を、気づかぬうちに広げ続けていたのだ。
“元”仲間達が部室から出て行った後、俺は部室のドアの前に立った。
矢澤は椅子に座って俯いていたが、人の気配を感じ取ったようで、顔を上げる。
「……朝日…。聞いてたの……?」
「…ドア開いててあれだけ大きな声出してれば嫌でも聞こえるさ。…でも、盗み聞きしたことは事実だ、悪かった」
そう言って部室の中に入ろうとしたのだが、
「─────来ないでッ!!」
矢澤から制止され、その足を止める。
「矢澤…?」
「来ないでって……言ってるでしょ……!」
矢澤は睨みつけるように俺を見る。
「どうしたんだよお前…」
「アタシはあんたと話すことなんて何もない!」
言葉ではそういう矢澤。
でも俺は確かに見た。
揺るぎない覚悟に満ちた紅い瞳が、感情の滴を貯めて揺れているのを。
それを見た俺は部室のドアを閉め、矢澤へ向けて歩み出す。
「っ…!来ないでってばッ!!」
俺は矢澤の声を無視し、矢澤へと近づいていく。
「だから……!!っ…」
なおも俺を止めようとしたが、俺は矢澤の前に辿り着き、
その頭の上に手を乗せ、しゃがんで目線を矢澤の頭の前まで下げた。
「……朝日…」
「……自分の感情を抑え込んだっていいことなんて何もない。
涙を見せたくない、弱いところを見られたくない。
その気持ちはわかる。
でもそれを続けてたら、本当に壊れちまうぞ。
……俺はそんなお前を見たくない。
お前には、笑っていて欲しいんだ。
ここにいるのは俺とお前だけだ。
だから、思い切り、ぶつけて欲しい。
お前の思ってること、感情の全てを。
5分でも10分でも一時間でも一日でも
俺はずっとお前の側にいる。
だから、思いっきり泣いた後────
また、お前の“笑顔”を、俺に見せてくれ」
そこまで言った時、矢澤の右頬を涙が伝った。
「……みんなと一緒に…アイドルが…したかった……
みんなと一生懸命努力して…
あのわずか一瞬の輝ける時間を…みんなと共有したかった…
見に来てくれた人達が……幸せになれるような時間をつくりたかった、もっとあのステージに立ちたかった、期待に応えたかった!みんなを笑顔にしたかった!!
……スクールアイドル…やっていたかった……」
途中涙声になりながら、矢澤の叫びが二人だけの部室に響いた。
その間、俺は矢澤の悲痛な叫びを、ずっと矢澤の目を見て聞いていた。
その悲痛な叫びを、受け止めるように────共有するように。
「……見っともないところ見せたわね…。でも、ありがと。スッキリしたわ。…これで少しは諦められるかも」
しばらく泣いた後、矢澤は俺から目をそらしながらそう言った。しかし俺は─────
「諦めるのは早いぜ、矢澤」
「……え…?」
俺の言葉に、心底驚いたような顔をする矢澤。
「俺だって、またお前のステージが見たい。
だから、絶対こんなところじゃ終わらせねぇよ。
俺が絶対、お前がもう一回歌えるような機会を作る。
だから、俺を信じてくれ」
「でも、どうやって……?」
「…今の所はあてはない。ただ、考えならある」
「あてはないって……!アンタっ、よくそんな…」
「大丈夫だ。俺を信じろ。
絶対に、お前がまた輝けるような場所を作ってみせる。
だから俺を……アイドル研究部に入れてくれないか?」
「え……?」
「“一人にしない”。そう言っただろ?」
俺は笑顔で矢澤に言った。
矢澤はしばらく考え込んでいたが、顔を真っ赤にしながら小さく、
「……ありがと………」
と、呟いた。
▼
それから、俺たちはこの学校で2回目の春を迎えた。
2年目も絢瀬、東條と同じクラスになり、さらに今年からは矢澤も同じクラスになった。
そして今日は入学式。
もうあれから一年経つんだと思うと、なんだか懐かしいような、寂しいような──。そんな気持ちになる。
今俺と絢瀬と東條の三人は、クラス発表の掲示板の横で、生徒受付をしていた。
「ご入学おめでとうございます。教室の方はあちらから入られて右の方の教室になります」
受付を済ませた新入生とその保護者に冊子とプリントを渡し、丁寧に対応していく俺たち3人。
そして交代の時間が来て、俺たち3人は掲示板の前へと立つ。
「…あれからもう一年経つのね…」
「ほんまに、あっという間やったなぁ」
「あぁ。正直あんまり実感わかないよ」
制服の青から赤になったネクタイ───女子はリボンで男子はネクタイだ───を指先でいじりながら俺は言う。
「それにしても、ゆーまっちまた背伸びた?」
「そうね…どんどん見上げる形に…」
「ん?そうか?5センチくらいしか伸びてないんだけど……」
現在俺の身長は174センチ。
念願の170台に突入し正直嬉しい。
「欲を言えば後3センチは欲しいな……」
「…貴方巨人か何かになるつもりなの?」
そんなバカみたいな話をしてた時。
「優真くん!希ちゃん!絵里ちゃん!」
俺たちは名前を呼ばれて振り返る。
そう、今日は“彼女”がこの学校へ入学してくる日。
「ことりちゃん。入学おめでとう」
「ありがとう優真くん!」
「ほんまにおめでとう、ことりちゃん」
「ハラショーね♪」
3人がそれぞれのお祝いの言葉をことりちゃんへと送る。
「……あの…優真くん…」
「ん、どうしたの?」
あれ……どうしたんだ?下向いてもじもじして。
「……その……実は、私っ」
しかし、その声は。
彼女の“親友”によって、遮られる。
「おーい!ことりちゃーん!!」
声をかけたのはオレンジ色の髪をサイドアップでまとめ、透き通るような空色の目をしたいかにも活発そうな女の子。
その後ろからついてきているのは、いかにも大和撫子!っといった綺麗に整えられた、少し青味がある美しい黒髪ロングの、おしとやかそうな女の子。
「もう穂乃果……いきなり走り出さないでください」
「先に走り出したのはことりちゃんだよ!海未ちゃんが放っとくと迷子になるっていうから!」
どうやらオレンジ色の髪の方が“穂乃果”で、黒髪ロングの方が“海未”と言うようだ。
「穂乃果ちゃん、海未ちゃん!ごめんね、置いて行っちゃって……」
「いきなりびっくりしたよー!ことりちゃんったら、いきなり走り出すんだもん!……あ、この人たちが、いつも話してくれる勉強教えてくれる人?」
そして彼女は俺たちに向けて挨拶をした。
「高坂穂乃果です!よろしくお願いします!」
そして横にいた彼女も同じように。
「園田海未と申します。よろしくお願いします」
「君たちがことりちゃんの言ってたお友達か。俺は朝日優真。よろしくね二人とも」
「私は絢瀬絵里。わからないことがあったらなんでも聞いてね」
「ウチは東條希!よろしゅうね〜」
「さ、自己紹介も済んだところで。君たちは早く受付に済ませて教室に入った方がいいよ。ゆっくり話すのは入学式の後にでも出来るから」
「あ、はい!行こう、ことりちゃん、海未ちゃん!」
「うん!…じゃあまた、後で、優真くん」
「失礼します」
3人は校舎の中へ入って行った。
「……さて」
「私たちも」
「準備しなきゃ、やね♪」
▼
入学式というのは堅苦しいものだ。
式の間ひたすら謝辞や祝辞を聞き続け、そこに楽しむ要素なんて何もない。
ここ音ノ木坂も、その例外ではない。
────去年までは。
「では、ここで、在校生による新入生歓迎の発表を行います」
……少しざわつく会場内。
それはそうだ。進行表にも、何も書いてはいない。式の運営者と、学校側で招待した来賓しか知らない正真正銘のサプライズ。
壇上が片付けられ、簡易のステージができる。
そこに現れた、一人の女子生徒。
「皆さん、ご入学おめでとうございます。音ノ木坂学院アイドル研究部、矢澤にこです!」
────さぁ、やってやれ、“笑顔の魔法使い”。
この程度のざわめきなんて─────
────“歓声”に変えてみせろ!
「みなさんを、今日一番の笑顔にします!
聞いてください!
────“まほうつかいはじめました!“!」
▼
彼女の歌を舞台袖で聞きながら、俺はこの一ヶ月のことを思い返していた。
三月初旬。
「失礼します」
俺と東條と絢瀬の三人は理事長室に来ていた。
ある内容について、理事長へ直接提案、説得をするためだ。
「1年A組、朝日と東條と絢瀬です。今日は理事長に提案があって来ました」
「────あら、なにかしら?」
そう言って俺たちに興味があるような笑顔を向ける理事長。
「理事長、“俺たち”アイドル研究部に、入学式で新入生歓迎のライブをやらせてもらえないでしょうか」
理事長はなにも言わない。
「ライブをすることで、校内の活気にも繋がると思うんです」
「どうか、許可をお願いします」
東條と絢瀬も頭を下げる。
これが俺たちの計画。
矢澤にもう一度、ステージに上がってもらうための最後のチャンス。
俺は東條と絢瀬に頭を下げ、この計画に協力してもらった。
これは俺が言い出したことで、二人には手伝う義務も責任もない。
しかし二人は二つ返事で承諾してくれた。
二人は名義だけアイドル研究部へと貸してくれている。
学年成績トップ10に入る三人でお願いをすれば、少しは揺らいでくれるはず…
そう期待しての計画だった。
「……入学式は単なる学校行事ではありません。来賓の方々も来られますし、それを私物化するのはいささか問題があると思います」
「……そう…ですか……」
「でも……なんとかやってみるわ」
「え……?」
驚く俺たち三人に、さらに驚くべき事実を告げる理事長。
「“娘”を助けてくれたお礼は返さなくちゃね」
「……あっ、もしかして…!」
よく見れば────顔とかそっくり。
「“ことり”を助けてくれてありがとう。母親として、本当に感謝するわ」
▼
それから理事長の根回しがあり、理事会で入学式にライブを行うことが許可された。
ただし条件として、俺たち3人は生徒会への強制加入が決定。
俺は二人を巻き込んでしまったことを申し訳なく思ったが、二人はなにも気にしている様子もなく、当然のように俺と矢澤に最後まで付き合ってくれた。
そこからの一ヶ月、俺たちと矢澤を含めた4人は必死に準備を重ねた。
曲も四人で作詞し、作曲の方はギターを軽くかじっただけの素人の俺が作ったとても聞けたようなものじゃないシロモノを、男子クラスメイトに編曲してもらいなんとか完成した。
そして今、彼女は最高に輝いている。
「ほんま成功してよかったなぁ〜……にこっち、ほんとに凄い…新入生みんなあんなに笑顔になってる」
「あぁ、本当に凄いよあいつは。……二人とも本当にありがとう。俺のワガママにここまで付き合ってくれて」
「言いっこなしよ優真くん。困ったときはお互い様なんだから」
こうして“笑顔の魔法使い”のライブは、大成功だった。
▼
「優真先輩!凄かったですね今日のライブ!こうパーってなってワーって!!」
「穂乃果、それじゃ全然伝わりませんよ……しかし、本当に元気をもらえる歌でした」
「穂乃果ちゃん、式終わってからず〜っといってるよ〜」
式が終わり、俺たち3人は再びことりちゃんたちと合流していた。
「そう言ってくれるなら、あいつもきっと喜ぶだろうさ」
「そのために必死に練習してきたもんな〜。にこっちも努力の甲斐があったってもんやろ♪」
「曲作りも頑張ってたものね。そーよね、優真くん?」
「え!!あの曲、優真先輩が作ったんですか!?」
「おい、絢瀬っ!……あぁ、一応、俺だ」
編曲の段階で俺の作ったものの面影がなかったなんて言えない。
「そうだったんですか!?優真くん、すご〜い!」
「あ、あはは……」
ことりちゃん、そんなキラキラした瞳で俺を見ないでくれ、死にたくなる。
「さぁ、今日は入学祝いだ。俺が奢るから一緒に昼ごはんでもどう?」
「わぁ〜本当ですか!?是非是非!」
「よし、決まりだな!……あぁ、みんな、少し先に行っててくれ」
俺は5人に先に行かせた。
みんなが行った後、俺は“通話中”の携帯を取り出す。
「聞こえたか?…矢澤」
『……えぇ、聞こえてたわ』
俺は携帯で矢澤と通話したままにして、穂乃果たちの感想を聞かせていた。
そうすることで、矢澤にも自信が出ると思ったからだ。
『朝日。今回のこと、本当にありがとう』
「気にするな。俺もまたお前のライブが見れて満足だ。
矢澤、お前の歌う姿は、みんなに笑顔と元気を与える。
俺は本当に凄いことだと思う。だから……」
『言われなくても、大丈夫よ。……アイドルは辞めない。
……でも、しばらくはステージには立たないわ』
「え……?」
『……ずっと一人でやり切れると思ってた。でもいざ仲間を失ったらあんなに落ち込んで…今回もアンタがいなかったら、きっと私は立ち直れなかった。あんたたちがくれた機会には、すごく感謝してる。
……でもやっぱり、私はあの時間を、同じ理想を持った仲間と共有したい。
夢を諦めるわけじゃないけど、今は少し、自分を見つめ直したい。
だから、しばらく“スクールアイドル矢澤にこ”は、活動休止するわ』
「そっか……。うん、でもお前がそう言うなら俺がそれをどうこう言うことはできないな。
いつかまた、お前がステージに立つ姿、楽しみにしてる」
『ええ!そのときには、あんたを絶対笑顔にして見せるから!』
矢澤の顔は見えないけど、容易に想像できる。
ビラ配りのときに初めてみた、最高の笑顔に決まっている。
「……俺が一緒にステージ立ってやってもいいぜ?」
『うっさいわよ、バカ』
そう言って矢澤は電話を切った。
はい!二年生になりました!
この話は構想を練っているときは全然話が膨らまなくて困っていたのですが、いざ書き出すと合計10000字近いというww
後一話で、原作に突入できそうです!
今回もありがとうございました!
感想評価お待ちしております!