ラブライブ! ─ 背中合わせの2人。─   作:またたね

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なんと、UAが5000を超えておりました!
本当に嬉しいです!
閲覧してくれる皆様ありがとうございます!
今後も期待に添えるようがんばります!

ではでは、今回もおつきあいよろしくお願いします。


願い

 

 

 

「よーい……スタート!」

 

 海未の合図で俺、穂乃果、ことりちゃんの三人は走り出す。

 

 時刻は早朝、ここは神田明神。

 海未の提案でダンス、歌練とは別に朝夕二回の基礎トレーニングが行われることになった。

 なぜか俺も走ることになっているが、ここまできたら本格的に自分の体を叩き直そうと思う。

 で、今は神田明神のあの意味不明に傾斜があって長い階段をダッシュで登っている。

 

「うおおーーーーー!!

 

 雄叫びを上げながら俺たちの前を駆け抜けていく穂乃果。しかしその勢いは続かず、階段の半ばあたりでぜーはー言いながら大幅に失速してしまう。

 その横をスッとペースを守って通り抜けていく俺。

 

「……フッ」

「ぬぅ〜〜〜!」

 

 我ながら大人気ないと思うが、穂乃果を振り返りニッタリとした笑顔を穂乃果に向けた。

 それを見て顔を赤くしながら怒りを露わにする穂乃果。

 そんなことをしながら頂上にたどり着き、穂乃果は倒れこみ、ことりちゃんも膝をつく。

 

「だはーー!疲れたぁ〜」

「も、もう無理ぃ……」

「……二人ともお疲れ様」

 

 運動不足とはいえ、俺も一応高校生の男子。

 階段を一回全力で登るくらいならば多少息を切らすくらいで乗り切れる。

 

「さぁ、2人とも!少し休憩したらもう一往復行きますよ!」

「えぇ!?もう一回やるの!?」

「何を言っているのですか。これを朝と夕方、10往復ずつです!さぁ早く立ち上がって!」

「……海未、最初からそれは飛ばしすぎじゃないか?確かに俺は昨日時間はないって言ったけど、体を壊したら元も子もないだろ?最初は数を減らしておいて、慣れてきたら数を積もう」

 

 俺の言葉に、海未はしぶしぶ納得したように頷く。

 

「……朝日先輩が、そこまで言うなら」

「さすが優真先輩!よくわかってますね!…じゃあ朝はここまでってことで……」

 

「────何言ってんの?」

 

「え…?」

「まだ上半身の筋トレと、体幹トレーニングも残ってるんだけど?……確かにやりすぎは良くないけど、筋肉のつき方のバランスが悪いのも良くない。

ダンスの時、体の各部位の動きにズレが出るからな。

……ほら、やるぞやるぞ」

「うぅ〜やっぱ優真先輩も鬼だー!」

 

 騒いでいる穂乃果はいいとして、俺は先ほどから座り込んでから動けていないことりちゃんの様子が気になった。

 

「ことりちゃん、大丈夫?」

「えっ……あっ…だ、大丈夫です……もう少し、休めば……」

「言っただろ?無理は良くない。トレーニングの仕方にも人それぞれに合ったやり方があるんだ。…ことりちゃんが出来るようなメニューを海未と話し合っておくから。もう少し休んで動けるようになったら、こっちの練習に入っておいで」

「…はい、ありがとうございます…」

 

 やはりきつかったのだろう、少し顔を赤くして俺に感謝を述べることりちゃん。

 

「いいからいいから。────おーい穂乃果、始めるぞー」

 

 

 

 その時だった。

 

 

「君たち」

 

 

 聞き慣れた声が、俺たちの耳に届いた。

 

 

「─────東條」

 

 そこにいたのは、巫女装束に身を包んだ東條だった。

 

「希先輩!?なんでここに!?…それにその格好…」

「朝と夕方、ここで働かせてもらっとるんや。ここは神聖でスピリチュアルな所やからね。ウチのパワーの補充にぴったりなんよ」

 

 なんだパワーの補充って。

 

「希ちゃん可愛い!とっても似合ってますよ♪」

「ふふっ♪ありがとな、ことりちゃん。─────そうや、放課後もここで練習するんやろ?ちゃんと神様にお参りしていき」

「はい!わかりました!」

「…あの、希先輩」

「ん?海未ちゃんどーしたん?」

 

 

「────希先輩は、私たちの活動に反対ですか?」

 

 

 ……やはり、海未は気にしていたのだろう。

 あの時、初めて穂乃果がスクールアイドルをやると宣言した時、賛成を口にしたものはいなかった。

 信頼する先輩から後押しをもらえなかった。

 その事実が少しショックだったようで、穂乃果もことりちゃんも海未と同じような表情をしている。

 

 

「───────そんな訳ないやん。

ウチはみんなの味方よ?」

 

 

 穂乃果の笑顔がみんなに勇気を与えてくれるなら

 “東條”の笑顔はみんなを暖かさでつつんで、落ち着きを与えてくれる。

 ────もっとも、“あいつ”の笑顔とは違うけど。

 

 

 

「希先輩…!ありがとうございます!」

 

 

 

「いやいや。……でも一つわかってほしいんや。

 

えりちはあんな態度をとったけど、心の中では、穂乃果ちゃん達を応援しとるはずや。立場上大っぴらにはできんだけでね。だから、えりちのことを嫌いにならないであげて。

それが……ウチのお願い」

 

 東條……本当にお前は…。

 

「希ちゃん……。はい、わかりました。絵里先輩にもいろいろあるんですよね…」

「生徒会長なら尚更、私達以上のプレッシャーがかかっているはずですし…」

 

 

「────でも!私たちの思いと、絵里先輩の思いは一緒だと思うんです!だから……いつか一緒に頑張れたらな、って」

 

 

 穂乃果の言葉に、ハッと目を開く東條。

 その表情からは、何を考えているかまでは読み取れなかった。

 

 

「穂乃果ちゃん……

 

───────ありがとう。

 

えりちがおったら、そういうはずやから。

 

……ほな、ウチ仕事に戻るから。

みんなも無理し過ぎんようにな」

 

 

 そう言って東條は持ち場へと戻っていった。

 

 

 

 

「あ!優兄ィたちだ!」

 

 神田明神での朝練を終え、学校へ向かっている途中、凛と花陽に出会った。

 

「凛ちゃん、花陽ちゃん、おはよう!」

「おはようございます!穂乃果先輩!何やってたんですかにゃ?優兄ィも今日は先に行くって言ってたし」

「実は私たち────スクールアイドルを始めたんだ!」

「で、俺が3人の指導をすることになったんだ

「へぇー、すごい!あいど」

 

 

 

「アイドルウゥゥゥゥゥゥ!?」

 

 

 

 凛を遮り、穂乃果の“アイドル”という言葉に過剰に反応する花陽。

 今の花陽からは普段のおっとりしたオーラは消え、一種の鬼のような雰囲気を醸し出している。

 

「それは本当なんですか!?」

「えっ?あ、本当だよ?」

「すごいですーー!!まさかうちの学校からスクールアイドルが出るなんて…」

 

 それから花陽は高速で俺たちには聞き取れない呪文のようなものを唱え出す。

 俺や凛にとって花陽のこの姿はもはや見慣れたものなのだが、穂乃果達3人はそうではなく、それぞれが苦笑いを浮かべている。

 

「──────はっ!また私、一人で……うぅ〜」

「大丈夫だよかよちん!凛はこっちのかよちんも好きだにゃ!」

 

 本当にこの2人は相性ぴったりなんだよなぁ。

 そして花陽は改めて穂乃果達に向き合って言う。

 

 

「先輩方……頑張ってくださいねっ!」

 

 

「ありがとう、2人とも♪」

「ねぇ、2人とも!────2人も一緒に、やってみない?」

 

 

 …穂乃果は俺の想像通り、2人を誘った。

 ……そして結果も俺の想像通りだった。

 

 

「ふええええええええ!?む、無理ですよ私には!!声も小さいし、鈍臭いし……」

「り、凛にも無理だよ!ほら、凛髪も短いし、

─────女の子っぽくないし……

…あ、かよちん!飼育委員の仕事しなきゃ!ほら早く早く!」

「え?あ、凛ちゃん待ってぇ〜」

 

 そう言って2人はその場から走り去っていった。

 

「……行ってしまいましたね」

「うーん、ダメだったかぁー。あの2人、絶対アイドル似合うと思うんだけどなぁー」

「それは同感だな」

 

 ……でも、ずっとあいつらといた俺にはわかる。

 

 本当は、アイドルをやってみることに

 すごく興味を持っていることが。

 

 あの2人はあと一歩が踏み出せないのだ。

 

 

 ─────だからその勇気を、あいつらに。

 

 口には出さないが、そう穂乃果に祈る俺だった。

 

 

 

 

「ちょっと朝日!」

 

 昼休み、俺は矢澤に声をかけられた。

 矢澤とは3年も同じクラスになって、昼飯も一緒に食べている。

 ちなみに絢瀬と東條も一緒に食べているが今日は絢瀬が生徒会室に用事があるということで俺と東條、そして矢澤の3人だ。

 

「廊下のアレ見た!?」

「アレ?」

「アイドルよアイドル!この学校でスクールアイドルやるって!」

「……ああ、貼り紙か。本当にいろんなところに貼ってるんだな」

「そういうことじゃないわよ!…わ、私のところにも来るかしら……」

 

 矢澤の表情は普段の自信ありげなそれとはまったく違う、動揺や焦りに近いものになっている。

 

「…え、何?もしかして緊張してるの?」

「してないわよ!誰が緊張なんかっ……」

「あ〜、にこっち顔赤〜い」

「ニヤニヤしながら言うんじゃないわよ!……あーもう!そうよ!…正直少し嬉しいわ。

…でも、期待してるわけじゃない。

軽い気持ちで始めたのかもしれないし」

 

 そう言う矢澤の声には、隠しきれない嬉しさがにじんでいた。

 

 

 

 

「優真先輩!はやくはやくー!」

 

 

 そして放課後、俺は穂乃果から連絡を受け、二年生の教室へと向かった。

 

「どうしたんだ、そんなに急いで」

「きたんです!名前!」

「……! 本当か!」

「えーと、なになに〜」

 

 穂乃果が綺麗に折り畳まれた紙を開いた。

 

 そこに書かれていたのは────

 

 

 

「───────u's(ゆー、ず)?」

 

 

 

「おそらく、μ's(ミューズ)だと思います」

「あの、石鹸の?」

「穂乃果ちゃん、絶対違うと思う…」

「恐らく、神話に出てくる9人の女神から付けたのかと」

「9人の…女神……」

「うん!いいと思う!私は好きだな♪」

「私も気に入りました」

 

 

 

 

「うん!今日から私たちは──────

 

──────────μ'sだ!」

 

 

 

 三人が嬉しそうにしている中、俺だけが皆と違う反応を取っていた。

 

 

─────どういうつもりだよ。

 

 

 俺はカバンを持って教室を出ようとしたが、穂乃果に呼び止められる。

 

「あ!優真先輩!どこ行くんですか?」

「……ちょっと急用ができた。先に練習していてくれ。俺も後で必ず神田明神へ行く」

 

 3人の返事を聞かずに俺は教室を飛び出す。

 

 

 

 

 ──────いた。

 学校中を歩き回ってやっと見つけた。

 

「東條」

「ん、ゆーまっち。どうしたん?」

「……アレ、どういうつもりだよ」

「なにが〜?」

「とぼけるな。グループ名だよ。───あれ、お前が書いたんだろ」

「なんのことかわからんなぁ」

「いい加減にしろ。筆跡を見ればわかる。……しかも筆跡を見れば俺がお前が書いたものだと気づくことも、お前はわかっていたはずだ。その上でお前は筆跡を変えなかったって事は、それを俺に気づいて欲しかったって事だ。──────何企んでる」

 

「企んでるなんて、心外やなぁ。ウチはただ、学校のために動いてるだけや」

 

 適当にあしらう東條に俺の苛立ちも限界に達する。

 

「東條…!いい加減にっ」

 

 

 

 

「────ねぇ、“優真くん”」

 

 

 

 

「……え…?」

 

 東條の口調が───雰囲気が変わった。

 

「“私”の話、聞いてくれる?」

「東條……?」

 

 

「あのね。私、この学校が大好き。この学校に来るまで“独り”だった私に、本当の友達ができた。

“ゆーまっち”にえりち。ことりちゃんに穂乃果ちゃんに海未ちゃん。にこっちに凛ちゃんに花陽ちゃん。────みんな私の大切な友達。その出会いをくれたこの学校が大好きなんだ。

でも、気になることがあったの。

 

 

真面目すぎて、周りと衝突しがちな女の子」

 

 

 ……絢瀬のことだ。

 

 

「高い理想を持ちながら、それを共有できずに自分の殻に閉じこもってる女の子」

 

 

 ……矢澤のことか。

 

 

「自分の憧れを、自分の心の中にずっと閉じ込めて、自分に嘘をついてる女の子」

 

 

 ……凛と花陽のことだ。

 

 

「そして、優真くんも知ってるよね?

────人と関わりたいのに、自分に素直になれない、誰よりも熱い気持ちを持ってる女の子」

 

 

 ……西木野さんのことだろうか。

 

 

「みんな自分の心に“鍵”をして、“仮面”を貼り付けてる。─────────“私たちにそっくり”だよね」

 

 

 そう言って笑う東條───いや、“希”。

 

 

「でも、そんな私たちを繋いでくれる存在が現れた。絶対形にしたかった」

 

 ……穂乃果達3人のこと、か。

 

「だから、みんなの力になってあげたい。

私にはできないけど、穂乃果ちゃんと優真くんなら、きっとみんなを助けてあげられる。

同じ悩みを抱えたみんなが集まって、一つの目標を持って頑張れば、絶対奇跡を起こせる。────カードもそう言ってるの。……私にできるのは、影でみんなを支えてあげることだけ」

 

 “希”は、祈るように─────願うように綴る。

 

「だから優真くん…」

「わかった」

「…え……?」

「それが“希”の願いなんだろ?わかったよ、俺に任せてよ」

「……でも、いいの…?」

 

 

「自分からお願いしてきたんだろ?何遠慮してんだよっ。

────大丈夫、俺が何とかしてみせるから」

 

 ──────μ'sは“9人の女神”。

 それを完成させることが希の“願い”なら俺は。

 俺のやることは決まっている。

 

 

「……しっかし、お前も大概素直じゃねぇよなぁ」

「え?」

「μ'sは“9人の女神”。その中に、ちゃっかり自分も入ってるじゃん。最初から穂乃果に声かければよかったのに。

あれか?ナンパ待ちか?」

 

 俺がニヤニヤしながらからかうと、

 希は顔を真っ赤にして反駁してきた。

 

「うううううるさぁーい!からかわないでよ!本気なんだよ!?」

「ははは、悪い悪い。冗談だって」

「もう……バカ」

 

 

「……絢瀬だろ?」

 

 

「…」

「今お前がμ'sに入れば、本当に絢瀬は一人になる。そうしないために、お前は加入しないで絢瀬を支えようとしてくれてるんだろ?

 

 ─────そうしてやってくれ。

 あいつはなんでも一人で抱え込んでしまうから。

 誰かがそばに居てあげないときっと壊れてしまう。

 そしてそれにふさわしいのは俺じゃなくてお前だ」

 

 そう言って俺は希に近づき───

 ────頭の上にぽんっと手を乗せる。

 

 

 

 

「だから絢瀬のことは任せたよ。

 

μ'sのことは、俺に任せて」

 

 

 

 

「……相変わらず優しいね、優真くんは」

「……お人好しの希に言われたくないよ」

 

 

 

 

 その時、俺が少しだけ“昔の俺”に戻っていたことに気付いていたのは、希だけだったようだ。

 

 

 

 二人はしばらくそのまま無言だった。

 

 

 

「……さて、俺あいつらのとこ行くわ。生徒会の仕事と絢瀬のこと、よろしくな」

「うん……ありがとな、ゆーまっち”」

「あぁ、気にすんな、“東條”」

 

 俺は振り返り、下駄箱へと歩き出す。

 その時後ろから声が聞こえた。

 

 

 

「──────────。」

 

 

 

「ん?なんか言った?」

「んーん、なんでもないで♪」

「そっか。なら、また明日」

「うん、じゃあね」

 

 今度こそ俺は穂乃果達のところに行くために下駄箱へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そういうところ、大好きだったよ。優真くん」

 

 

 

 

 

 

 

 “μ's”に込められた、“希”の願い。

 それは俺に大いなる原動力をくれた。

 

 

「叶えるに決まってるだろ────

─────それがお前の望みなら」

 

 

そう呟くと俺はあいつらが待つ神田明神へと走りだした。

 

 

 




ファーストライブまではまだまだ時間がかかりそうです泣
でも一人一人の心理描写を丁寧にしていきたいので、ゆっくり書いていこうと思います。
そして今回、地の文を少し少なめにしようと努力してみました。(少なくなったとは言ってない
いかがでしたでしょうか?

今回もありがとうございました!
感想評価アドバイス等お待ちしております!

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