ラブライブ! ─ 背中合わせの2人。─   作:またたね

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前回の話と今回の話、構想段階では一話になる予定でしたww
まだまだ設計が甘いですね泣

では、今回もよろしくお願いします!


“魔法使い”と“女神”

16話 “魔法使い”と“女神”

 

 

「え!じゃあ私たち、部活動申請できないんですか!?」

 

 “希”──東條と話した後、神田明神の練習に参加した俺は、ずっと気になっていた話題を持ち出した。

 

 

「あぁ。部を設立するには、最低部員が5人以上必要になる。今の3人じゃ部を作ることはできない。……しかも何も部活動に加入していない状態で学校内の敷地で勝手に練習するのはまずい。だからしばらくはずっと神田明神で練習だな」

「そんな……」

「でもでも!優真先輩がアイドル部に入ってくれれば!」

「入っても四人だ。状況は変わらない。……それに俺の話を最後まで聞いてくれ。───何も考えがないわけじゃない」

 

 息を飲んで俺を見守る3人に、若干苦笑しながら俺は続ける。

 

「この学校に、設立当初は5人以上だったけど、現在は2人になって活動してない部がある。

──────それがアイドル研究部だ。

そして俺は、そこの部員だ」

 

「あ!じゃあそこに私たち3人が入れば…!」

「部員は5人になる……!」

「まぁ、一度設立した部なら、人数は関係なくなるんだけどな」

「では、明日の放課後、アイドル研究部の部長さんにお願いしに行きましょう」

「うん!そうしよう!よーし燃えてきたーー!」

 

 休んでいた3人にもやる気が出たようで、そこから一時間ほど筋トレをして、その日は解散となった。

 

 

 

 

 次の日の昼休み。俺は今日の放課後のことを話そうと矢澤に声をかけた。

 

「なぁ、矢澤」

「……何?」

「少し話があるんだけど、いいか?」

「……後にして」

 

 そう言うと矢澤は教室から出て行ってしまった。

 

「……なんだ…今の反応…?」

 

 そして矢澤は昼休み中、教室に戻ってくることはなかった。

 

 

 

 

 そして放課後がきた。

 あれから俺は矢澤と話すことができなかった。

 ……今日の矢澤からは、距離を感じる…。

 まぁ、あいつは放課後は時間が来るまでずっと部室にいるから、探すまでもないんだけども……

 ……なんだか嫌な予感がするな。

 

 そんなことを考えながら、合流した穂乃果達に、今日のことを伝える。

 

「すまないな。部長と話をつけるつもりだったんだが、話す機会がなかった。

……だから、アポなしで押しかける形になる」

「え、そうなんですか…?」

「いきなり大丈夫なのですか?」

「あぁ…多分。まぁなんとかなるよ」

 

 …嘘だ。さっきから嫌な予感しかしない。

 そして俺の嫌な予感は───タチの悪いことにだいたい当たる。

 

 思い過ごしであってくれと思いながら、俺たちはアイドル研究部の部室へと歩き出す。

 

 

 

「───────ここだ」

 

 人気の少ない特別棟にある、アイドル研究部の部室。

 俺たちが生徒会で役職持ちになる前までは、俺と東條と絢瀬の3人は、たまにここに遊びに来ていた。

 3人一緒に行くこともあったし、各々だけで行くこともあったが、最近は顔を出す機会が格段に減った。

 

「うぅ……緊張するね…」

「大丈夫だよ、穂乃果ちゃん。落ち着いて」

「じゃあ……行くぞ」

 

 

 コンコンッ。

 

 

 ドアをノックする。

 

『……誰?』

「俺だ」

『……入っていいわよ』

 

 許可を得たところでドアを開ける。

 

 

 

 矢澤はいつものように部室の奥のパソコンの前の椅子に座っていた。

 元から少し不機嫌そうだったが、俺の後ろに立っていた3人を見て、その雰囲気はさらに露骨になった。

 

「………あの人だ…!」

 

 穂乃果は、目を見開き、感動したような表情を浮かべている。

 それはそうだろう。穂乃果にアイドルのきっかけを与え、進むべき道を示してくれたのは、一年前の矢澤のあのライブなのだから。

 

「……何の用?」

「失礼します!音ノ木坂学院スクールアイドル、μ'sです!」

「……アンタたちが。で、何?」

「単刀直入に言います!先輩、私たちを、アイドル研究部に入部させてください!」

 

 

 

「お断りよ」

 

 

 

「…え……?」

「お断りって言ってるの。話はそれだけ?なら早く出てって」

「先輩!私たち、先輩のライブを見てアイドルを─」

 

 

 

「───アンタたちと話すことなんてない!!」

 

 

 

 先程より明らかに怒気の篭った矢澤の言葉に、顔を強張らせる穂乃果。

 

 

「おい、矢澤!?」

 

 

 堪らずフォローに入るも、

 

 

「あんたもよ!朝日!あんたは本日をもってアイドル研究部から除名するわ!さぁ、早く帰って!」

 

 

 矢澤の言葉に何も言い返せなくなってしまう。

 

 

 

「──────────帰ってってば!!」

 

 

 

 

「……」

「穂乃果ちゃん……元気出して……」

 

 部室を出た後、俺たちは中庭に移動した。

 穂乃果は憧れの先輩から罵倒を受けたショックから立ち直れないようで、いつもの明るさは完全に失われている。

 

「矢澤先輩……どうしてあんなことを……私たちを嫌っていたのでしょうか…」

 

「……そんなはずはない」

 

 そう、そんなはずはない。

 昨日の昼休みは、スクールアイドルグループが出来たことに、むしろ喜んでいた。

 後輩が来ることを楽しみにしていたようにも見えた。

 だからアポなしで突入しても矢澤は喜んでくれる…

 そんな見通しが俺の中にあった。

 

「……どうしてなんだ、矢澤…」

 

 

 

 

 朝日たちを追い出してから、私───矢澤にこはその場に立ち尽くしていた。

 

 ──────自分自身、悪いことをしたという自覚はある。

 反面、あの子達を認めるわけにはいかないという自分もいて。

 

 正直私の頭の中は、もう一杯一杯だった。

 

 

 そんな時だった。

 

 

「お邪魔してもええ?」

「……希…」

 

 先程から開きっぱなしだったドアの前に、希が立っていた。

 

「……あんたもあいつらの差し金?」

「まさか。ウチはにこっちにそんなことせんよ」

「そう…。入って」

「ふふ♪ありがとっ」

 

 部室に入りドアを閉めた後、希は私の定位置の椅子に近いところにあるパイプ椅子に座った。

 

「で?何の用なの?…希がここに来るなんて珍しいじゃない」

「そうやなぁ〜。えりちとウチが会長と副会長になってからは、あんまり来れんようになってしもうたもんなぁ」

 

 

 そう言って天井へ視線を上げる希。

 

 そしてその上げた視線のまま私に問いかける。

 

 

 

「───────どうしてあの子達を追い出したん?」

 

 

 

「っ!?……聞いてたの…?」

 

 

 

「ドアが開いててあれだけ大きな声出してれば嫌でも聞こえるよ。…でも、盗み聞きしたことは事実や、ごめんね」

 

 

 

 ────以前も聞いたことがある、その言葉。

 

 私を絶望から引き上げてくれた──────

 もう一度、私に光を見せてくれた、私の大切な友人からの言葉。

 

 でも、今は────────

 

 

 

「──────ゆーまっちはあの子達についた、って考えとるんやない?」

 

「っ!?」

 

 

 そこで希は私に向き合い、少し強く言う。

 

 

「それは違うよ、にこっち。

ゆーまっちはあの子達に、可能性を感じとるんや。

────あの子達が次のステップに進むためには、にこっちの力が必要なんや。

だからゆーまっちはここに来たんやと思う。

……ゆーまっちが生半可な覚悟の子たちを、にこっちの前に連れてくると思う?

────こんなことウチに言われんでも、にこっちなら最初から気付いてたんと違う?」

 

「……」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 全て希のいう通りだった。

 

 

 

『音ノ木坂にスクールアイドルグループができる』。

 

 その知らせは私の心を震わせた。

 

 また、あの日のようにみんなでステージに立てるかもしれない。

 そう思うだけで、心は弾んだ。

 中途半端な覚悟で始めたのかもしれないが、それ以上に私は“彼女たち”に期待をしていた。

 

 

 しかし、この思いはある一つの要因で崩れ去った。

 

 放課後、彼女たちは神田明神で練習していることを耳にした私は、こっそりと様子を伺いに行った。

 まだ始めたばかりで基礎を徹底的に磨いているようで、基本的に体力づくりが主な練習となっていた。

 決して楽しくはないであろう体力づくりを、互いに励まし合いながら、楽しそうに行っている。

 その姿に、なにも感じなかったといえば嘘になる。

 ────なんだ、結構本気なんだ、と。

 

 

そんな時

 

私は見てしまった

 

 

 

「やぁ、遅れてごめんな」

 

 

 

「あ……さひ……?」

 

 遅れて3人の前に現れたのは、朝日だった。

 

 彼は、彼女たちの指導をしているみたい。

 

 “朝日が彼女たちの指導をしている”。

 

 その事実は、私にショックを与えるには充分すぎた。

 

 

 

 私を“1人にしない”といった彼は

 

 

 

 今は別のアイドルグループの手伝いをしている

 

 

 

 あぁ、私は捨てられたのか

 

 

 

 また私は1人になるのか

 

 

 

 自分の考えが歪んでいるのはわかっていた。

 私がやっていることはただのやつあたり。

 

 そして、朝日が練習を見ている時点で、一つの確信を得た。

 『彼女たちは本気だ』と。

 そうでないならば、朝日が練習につくわけがない。

 

 でも──────私は。

 

 すぐにはそれを認められなくて。

 私の身勝手な感情で、あの子達を傷つけた。

 

 

 

 嬉しかったに決まってるじゃない

 

 

 『先輩に憧れてアイドルを始めました』、なんて。

 

 

 でもあんなにひどいことをして

 

 

 今更『一緒に頑張りましょう』なんて、言えない。

 

 

 

 

 ─────私だって、本当はあの子達とアイドルやってみたいわよ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「………」

「………」

 

 私も希も何も言わない。そんな時間がただゆっくりと流れていた。

 

 ───しかし、希といい朝日といい…どうして私の周りにはこんなに人の気持ちを読めるやつが多いのか。

 

「あ、今なんか失礼なこと考えてたやろ〜?」

「んなっ!?かっ、考えてないわよ!」

「……ウチもゆーまっちも、ちょっと人の心の動きに敏感なだけや」

 

 そう言った希の表情からは、少しの寂しさが窺えるような気がした。

 

「……あ、でも今回ゆーまっちはダメやで。あの人、自分自身が絡んだ話にはほんと鈍感になるから」

 

 ふふっ、と希は笑う。それを見て私も、少し笑った。

 

 

 

「──────さて。ここからはウチの……にこっちの1人の友人としてのお願いや。

 

あの子達に、力を貸してやってはくれんやろうか」

「……でも私は、あの子達に酷いことをした……」

「あの子達は、そんなことで折れたりせんよ。覚悟なら、にこっちに負けないものを持っていると思う。多分何回も、何十回でもにこっちのところにくると思うな」

 

 実際そうでしょうね。でも……

 

「……あの子達は、廃校阻止のためにアイドルを始めたのよね?」

「ん?そやけど…どうかした?」

「……確かに、覚悟はあるんだと思う。あの朝日が練習についているんだから。

でも、私の言ってる“覚悟”と、希が言ってる“覚悟”は違うかもしれない」

「……“廃校阻止の覚悟”やなくて、“アイドルとしての覚悟”ってことやろ?」

 

 ……何でこうも簡単に人の考えていることを…。

 

「……アンタのそういう察しの良いところ、好きだけど嫌いよ」

「どっちなんよそれ〜っ」

「とにかく!私はそれを確かめさせてもらうわ!」

「お!それって手を貸してくれるってこと〜?ありがとにこっち〜!」

「う、うるさい!ちょっとだけよ…ちょっとだけっ」

 

 

 

 ─────それにお礼を言うのは。

 

 

 

「希」

 

「ん〜?」

 

 

 

 

 

「ありがとね」

 

 

 

 

 

 それだけであなたなら伝えたい事、わかるでしょ?

 

 

 

「……ふふっ♪ええんよええんよ。あの子達、今日も神田明神で練習してると思うから。行ってあげて」

 

 

「わかったわ。それじゃあね。あんたも生徒会頑張りなさいよ」

 

 

 私はあの子達の待つ神田明神へと急いだ。

 

 

 

 

「にこっちも最後の最後で素直やないなぁ。

……ウチにできるのはここまで。

あとは頼んだよ─────────ゆーまっち」

 

 

 

 希の呟きは、私の耳には届くことはなかった。

 

 

 

▼▽▼

 

 

 

 部室での出来事からしばらく経って、俺は未だにショックを受けている3人を連れて、神田明神で練習を行っていた。

 ことりちゃんと穂乃果……特に穂乃果は目に見えて落ち込んでおり、海未も口ではテキパキと指示を飛ばしているが、その表情には曇りが窺える。

 

 まぁそれは、俺にも一つ原因があるんだが。

 

 

 このままやっても身のある練習ができるとは思えない。

 今日は帰って気持ちを切り替えさせて、足下からの練習に臨む方が効果的か……

 

 そう考えていた時。

 

 

 

「なーに意味のない練習してんのよ」

 

 

「矢澤……」

 

 

 俺たち4人の前に、矢澤が現れた。

 

「矢澤……先輩…」

 

 穂乃果も、驚きを隠せないようだ。

 矢澤が穂乃果の前に歩み寄り、二人は対峙する。

 そして矢澤が申し訳なさそうに口を開く。

 

「……さっきは──」

 

 

「さっきは申し訳ありませんでしたっ!」

 

 

「…えっ…?」

「…優真先輩から聞いたんです、矢澤先輩の昔のこと…。

…そりゃ、私たちが勝手に押しかけて、アイドル研究部に入りたいなんて言ったら、怒りますよね…」

「っ…!朝日……」

「……悪い」

 

 そう、俺は昔矢澤に起きた出来事を、3人に話した。

 俺たちが追い出された理由を考えると、これにまつわったこと以外に、考えられなかったからだ。

 

「……でも!私たち、本気なんです!

本気で学校の廃校を阻止したいんです!

そして、廃校を阻止したいのと同じくらい……いや、それ以上に!

 

アイドルをやってみたいんです!!

 

そのためには、矢澤先輩の力が必要なんです!

だから…だから……」

 

 

 

 穂乃果のこの言葉で届かないなら、

 もう矢澤の心を動かすことはできないだろう。

 

 

 ──────頼む、届け───!

 

 

「…………ライブ」

「…え?」

「ライブするんでしょう?…希から聞いたわ」

「……東條から?」

「…そこのライブで私にアンタたちの“覚悟“を見せなさい。……“アイドルとしての覚悟”を。

そこで私が納得する結果を残したら、アイドル研究部への入部を認めてあげるわ。

……それまでは、アイドル研究部の名前を、形式的に貸してあげる」

 

「先輩……うぅ……っ……せんぱーーーーい!!」

 

 涙を流しながら矢澤に飛びつく穂乃果。

 

「うわっ!ちょっと!何すんのよ汚いわねぇ!……あくまで仮よ!仮!私が納得しなかったら入部は無しなんだから!」

「う゛う゛〜矢澤ぜんば〜い」

「話を聞きなさいよ!!……あとにこでいいわ。…苗字で呼ばれるのあんまり好きじゃないから」

 

 …ん、今一瞬こっちを睨んだような。気のせいか?

 

 泣いてばかりで話にならない穂乃果の代わりに、ことりちゃんと海未が矢澤に話しかける。

 

「あの、にこ先輩……本当にありがとうございます!」

「本当に助かります」

「別に…あんた達には、ちょっとだけ期待してるから。…ちょっとだけ。

悔いが残らないように、練習頑張りなさいよ」

「「「はいっ!」」」

 

 涙から復帰した穂乃果も合わさり、3人が声を合わせる。

 ……また、東條が裏から根回ししてくれたのだろう。

 本当あいつには感謝しきれないな。

 

「……あと朝日。…さっきはごめんなさい」

「いやいや、気にしてないよ。俺の方こそ悪かった。

─────でも信じてたよ、矢澤」

 

 俺がそう言うと、矢澤も笑顏を返した。

 

 

「よーし!残りの練習も頑張るぞーー!!」

 

 

おぉーと返す二人。

こうして矢澤の協力の元、俺たちは新たなステップへと踏み出した。

 

 




評価してくれた方が四人になりました!
もう本当に嬉しいです、感謝感謝です!古いか。
次回は個人回となります!
個人回といっても、特別なストーリーというわけではなく、シナリオに沿ってある一人の女の子にスポットを当てるという形です。
記念すべき最初の個人回は誰になるのか、楽しみにしていてください!
では、次回もよろしくお願いします!
感謝評価アドバイス等お待ちしております!

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