今回もよろしくお願いします。
19話 “ハジマリノウタ”
「よし、今日の練習はここまで!お疲れ様」
曲が完成してから月日は流れ、とうとう明日はライブ本番となった。
「私たち、最初より全然動けるようになったよね!」
「うん!明日の本番、全力で楽しむだけだよ!」
ことりちゃん、穂乃果も体力が付き、神田明神階段ダッシュも2、3本なら連続して行えるようになった。
「2人とも、しっかりストレッチをしてください。明日に疲れを残すわけにはいかないんですから」
「……でも私たちよりも、一番成長したのは海未ちゃんだよね〜」
「うんうん、ほんと、そうだよねぇ〜♪」
「なっ…!馬鹿にしているのですか!?」
「俺もそう思うな」
「優真先輩まで!?」
うん、間違いなく海未だな。
この一ヶ月、作詞や作曲以外にも問題が山積みだった。
▼
まずは衣装。
衣装自体には何の問題もなかった。
むしろことりちゃんが作ってきた衣装はとても素人が作ったとは思えない、市販のものだと言われれば納得してしまうほどの出来だった。
では、何が問題だったのかというと……
「これを……着るのですか……?
こんな丈の短いものを……?」
そう、海未だ。
海未がスカート丈の短いものは履かないと言って聞かなかったのだ。
しかしここは穂乃果とことりちゃんの説得でなんとか海未が了承、衣装はこのままで行くことになった。
……まぁ直せとか言われてもそんな時間ないんだけどね。
そして次。
ここでも海未が問題を引き起こした。
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話は一週間前に遡る。
一週間前、俺は生徒会権限で講堂の使用許可をねじ込み、μ'sのリハーサルを行う事にした。
穂乃果達のクラスメイトの3人が照明などの手伝いをしてくれるという事で、彼女達との打ち合わせも兼ねて念入りに行われるはずだった。
……はずだった。
いざステージに立って曲に合わせて踊りのリハーサルの位置確認をしようとした時だった。
海未が突然固まって動かなくなったのだ。
「……海未?」
「海未ちゃん、どうしたの?」
穂乃果が近くに駆け寄る。
「……いや、いざ人前で歌うと思うと…緊張して……」
……この子、もしかしなくても、アイドルに向いてないのでは…。
いや、ビジュアルの話ではない。
海未はとても可愛いし…って何を言うとるんだ俺は。
「人前じゃなければ大丈夫なんです、人前じゃなければ……」
「それじゃ意味ないだろ……」
とにかく、ライブは一回限りではない。
毎回こんな風に緊張されるのはマズイ……。
どうにか改善しなくては。
▼
「────ってことで!ここでチラシを配ろう!」
リハーサルを終え、俺たち4人(なぜか俺も)でチラシを配ることになった。
「チラシ…ですか」
「ここで人に見られるのに慣れれば大丈夫でしょ!それじゃ始めよう!」
穂乃果とことりちゃんはチラシを配りに行った。
「……なんかあったら俺に言って。なんとかするから」
海未にそれだけ言い残し、俺も与えられたノルマを達成するために動き出した。
「……っし、俺の分は終わりっと」
元から俺の分は少なめに渡されていたため、すぐに配り終わった。
問題の海未はどうだろうか…
「……って全然減ってないじゃん…」
さっきから渡そうとして声を出しているが、小さすぎて全然届いてない。
見てられなかったので、海未を助けに行くことにした。
「海未、それじゃダメだ。もっと声を出さないと」
「うぅ……すいません……わかってはいるのですが……」
これは本格的に大丈夫か……?
どうする、嫌がっているのに無理やりやらせるのは無意味じゃないのか…?
と、その時。
海未に手が差し出された。
「───1枚もらうわ」
「にこ、先輩……」
差し出した手の主は、矢澤だった。
「なんて顔してんのよ、アンタ」
「っ……」
約1年前、矢澤と初めて会った時を思い出す。
あの時の彼女の笑顔は今でも忘れられない。
俺たちはあの笑顔を見て矢澤を手伝おうと思うようになったのだから。
でも今海未の表情は、それには程遠い。
「そんな顔してたら、こっちまで暗くなるじゃない。─────アンタ、アイドルってのが何かわかってないみたいね」
海未は何も言い返せずに、悔しそうな顔をしている。
「それとも何?そんな顔でステージに立つつもりなの?それなら私はもう何も言わないわ。
─────私は入部を認めないけどね」
俺も矢澤の言葉を黙って聞いていた。
矢澤の言っていることは、厳しいが正しい。
ここで矢澤を止めたら、それこそ海未のためにならない。
「確かに練習も大事だけど、最後にライブの成否を分けるのは、“気持ち”と“覚悟”よ。
今のアンタにはどっちもないものよ。確実に2人の足を引っ張ってるわ。
────やる気がないならやめちゃえば?」
…ここまで言われて黙ってんのかよ、海未。
海未はきつく目を瞑り、唇を噛み、拳を握り締めている。
─────逃げるな、海未。
矢澤の言葉を受け止めて、前に進め…!
海未が目を─────口を開く。
「私だって…!2人とステージに立ちたい!
ライブを成功させたいんです!!」
「だったら!!」
矢澤は海未の両肩を掴む。
「“変わり”なさいよ!!自分の意思で!!
─────アンタ“には”いるでしょうが…!
辛い時に支えてくれる仲間が…!同じ夢を持った仲間が!隣にいるんでしょうが!!」
最後の、苦しそうに放たれた矢澤の言葉は、俺の胸も締め付けた。
同じ夢を共有できず、志半ばで潰えた彼女の夢。
きっと矢澤には、仲間を持ちながらそれを持て余しているような行動をとる海未が、許せなかったのだろう。
「……周り見なさいよ」
矢澤の言葉で、海未は後ろを振り返る。
そこには、穂乃果とことりちゃんが笑顔で立っていた。
「2人とも……」
「海未ちゃん!手伝うよ!」
「3人でやれば、すぐ終わるよ!」
そういって海未に駆け寄る2人。
海未はそれを、どのように感じたのだろうか。
そして海未は改めて矢澤と向き合う。
「にこ先輩…。ありがとうございました。先輩のくれた言葉…肝に銘じます」
「お礼なんていらないわ。…悪かったわね、ひどいこと言っちゃって。
──────大切にしなさいよ
“それ”は、簡単に手に入るものじゃないんだから
…それじゃあね」
矢澤はそういって校門から出て行った。
「……もうやれるよな?海未」
「はい……!“変わって”見せます、自分の意思で!」
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「あれから海未ちゃん、全然緊張しなくなったもんね!」
「はい……自分に負けてはいられませんから」
そう笑う海未は本当に一週間前とは比べ物にならないくらい成長した。
今日に至っては一番早くチラシを配り終えたほどだ。
「……ついに、明日だね」
「…あぁ」
この一ヶ月、あっという間だった。
作詞、作曲、振り付け、練習。
どれを取っても大変なものばかりだったが、不思議と苦しくはなかった。
あとは、明日の本番に全てをぶつけるだけ。
…っても俺は応援しかできないけど。
「3人とも、明日は頑張れよ。俺は一緒にステージには立てないけど、横で応援してるから」
「ありがとうございます!優真先輩!
…そしてこの一ヶ月、本当にありがとうございましたっ」
「それは明日のライブが成功してから改めて聞かせてくれよ。それまでは取っといてくれ」
「……はい!」
最後に、4人でお参りすることになった。
─────明日のライブが、成功しますように。
なんの飾りも捻りもない、単純な言葉。
でも俺たちは、ただそれだけを願っていた。
▼
『以上で、新入生歓迎会を終わります』
新入生歓迎会は滞りなく進み、無事終了した。
残り一週間は俺はほとんどμ'sの練習についていたため、生徒会業務の方はほとんど絢瀬と東條の2人で回してくれていた。
2人には感謝してもしきれない。
ついに、始まる。
俺たちの最初のライブが。
▼
俺は3人が待機している控え室に足を運んだ。
コンコンッ
ドアをノックする。
『はーい!どなたですかー?』
「俺だ。入ってもいいか?」
『あ、優真先輩!どうぞどうぞ!』
ドアを開けると、ステージ衣装に身を包んだ3人が立っていた。
ことりちゃんが作った衣装は、実にアイドルらしく、可愛らしいものだった。
「3人とも、凄い似合ってるよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「あぁ、本当だよ。ことりちゃん、本当にお疲れ様。練習と衣装作りの両立、すごく大変だったと思う」
「いえいえ!私も楽しんでやれましたから♪」
「ならよかったよ。……海未、その衣装に抵抗はないんだな。本当に成長したな」
「はい。今更立ち止まることなんて出来ませんから」
俺の言葉に笑顔で答える海未。
その笑顔に緊張や不安は微塵もない。
「──────ついに本番だ。あとはやってきたことを全力で出すだけ。
お前たちの本気を、観客に思い切りぶつけてこい!」
「「「はい!」」」
「優真くん」
控え室を出て、講堂に戻ろうとしたとき、絢瀬と出会った。
「絢瀬。お前もあいつらの応援してくれるのか?」
「─────ライブを、中止させにきたわ」
……は?
こいつ……なにを……?
「……どういうことだ」
「言葉通りの意味よ。ライブをする意味が無くなったわ」
「説明になってないぞ」
「だから言葉通りよ。意味がないって言ってるの」
その態度に、俺の中の何かが───切れた。
「────おい」
「っ…!?」
先ほどまでとは違う、俺から発せられる威圧感に、絢瀬が怯む。
「説明になってないっていってんだろ。
そんな一方的に中止告げられて納得なんて行くわけないだろうが」
「……」
絢瀬の傷ついた表情を見て、俺は正気に戻る。
「……悪い、言い過ぎた」
「……こっちこそ、キチンと説明しないでごめんなさい」
「言いにくいことなのか?」
「……講堂を見れば、わかるわ」
俺に背を向けて講堂へと歩き出した絢瀬を追って、俺も歩き出す。
────そして講堂についた俺は、唖然とした。
「なん…だよ、これ……!」
俺の目に映ったのは────無。
人1人いない、スカスカの観客席。
開演5分前だというのに、どういうことか。
それに矢澤はおろか、凛と花陽さえ来ていない。
─────これほどまでか。
確かに満員御礼なんてものは期待して無かった。
他の部活に行く人もいるだろうし、用事がある人だっているだろう。
しかし─────ゼロとは。
ここまではさすがに俺も想定外だった。
──────これが現実だ。諦めろ──────
どこかからそう聞こえるようだった。
「こんな……ことって……」
「……これが結果よ、優真くん」
絢瀬が言い出しにくかったのも当たり前だ。
自分たちの努力を、一瞬にして無に帰すようなこの結果。
そしてこの結果を導いたのも間違いなく俺たち自身。
それでも絢瀬は、自分が泥をかぶってでも彼女達を傷つけないように、止めようとしてくれたのだ。
「……あの子達が傷つくだけだわ。早く止めてあげないと……」
「───────待てよ……!!」
「……始めるつもりなの?誰もいないのに?」
「…誰か来るかも…しれないだろ……!」
「これ以上は待っても無意味よ。続行の価値があるとは思えないけど」
「……そうじゃない……!」
「……やっぱり最初から止めるべきだったわ…。これでわかったでしょう?軽い思い付きで行動したって、何も変わりなんてしないのよ。…あの子達が傷つく前に止めないと……」
「───────そうじゃない!!」
頭が回らない
息が苦しい
俺はどうしてこんなにも無力なのか
何もできない自分に心底嫌気がする
考えろ
どうすればいい
どうすればいい
どうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすばどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどすればどうすればどうすればどうすれどうすればどうすどうすればどすればどうすばどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすばどうすればどうすればどうればどうすればどうすばどうすればどすれどうすればどうすばどすればどうすどうどうどうどうどうどうどうどうどう
「──────大丈夫や、ゆーまっち」
その声は、負の連鎖に陥っていた俺の思考を現実へと引き揚げた。
「東…條……」
「あの子達は、こんなことで折れるような子達やない。一緒に見守ろ?何があっても最後まで」
「希!?あなたまで!?」
「えりち。あの子達の夢を止める権利は─────ウチらにはないよ」
「……どうなっても知らないわよ…」
こうして俺たち3人は、成り行きを最後まで見守ることにした。
俺も覚悟を決めた。
これから先何が起こっても、絶対にあいつらから目を離さない。
そして幕は開く───────
目の前に広がる悲劇を、彼女達はまだ知らない。
キリがいいのか、悪いのか…w
序盤の山場です。
次回もよろしくお願いします!