『アイドル』。
それは私の憧れで、目標で、誇りで……
私の夢。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
幼い頃の私…小泉花陽は今よりもずっと自分に自信を持ってなかったと思う。
いっつも幼なじみの凛ちゃんと一緒で、凛ちゃんについていくだけだった。
それでいいと思っていた。
周りに波風を立てず、他の人のいくままに流される。
これが争いを避けて、人と上手くやっていく方法。
だから私から他の人に自分の意見を言ったりすることなんてほとんどなかった。
そんなある日、ほんのちょっぴりだけ私を変えてくれた男の子が現れた。
─────凛ちゃん家の近くに引っ越してきた、“朝日優真”っていう2つ上の男の子。
凛ちゃんのお母さんと優真お兄ちゃんのお母さんが友人らしくて、二人はよく遊んでた。
私も、凛ちゃんに連れられて優真お兄ちゃんと一緒にいることが多くなった。
3人で色々な遊びをした。毎日がとっても楽しかった。
「花陽は、何がやりたい?」
優真お兄ちゃんは、必ず私の意見を聞いてくれた。
これは凛ちゃんと二人で遊んでいるときには絶対になかったことで。
「花陽、やんねーの?」
これも優真お兄ちゃんの口癖。
何でも臆病だった私に勇気をくれた言葉。
優真お兄ちゃんはこれを私に向けていつも笑顔で言ってくれて、そしてそれを聞くと私はとても元気になれた。
この言葉のおかけで、自分一人じゃ絶対にできなかったようなことも、たくさんできた。
優真そんなお兄ちゃんの優しさが…嬉しかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「花陽ちゃ〜ん!」
私が教室を出ようとしたとき、ことり先輩に声を掛けられました。
今日は凛ちゃんは用事があるといって先に帰っています。
だからアルパカさんに餌をあげてから帰ろうと思ってたんだけど……どうしたんだろう。
「ことり先輩。どうしたんですか?」
「よかった!まだ教室にいた!…ちょっと話があるんだけど、大丈夫?」
「は、はい!大丈夫です!」
「……あなたが花陽?」
そこで私は、ことり先輩の横に立っていたもう一人の人に初めて気づきました。
「あ、は、はい!初めまして!小泉花陽です!」
「そんな堅くならなくて大丈夫よ。……私は矢澤にこよ。にこって呼んで」
「は、はい、にこ先輩…!」
よかった、優しそうな人だ。
「じゃあ、部室に来てもらえる?」
「? 部室ですか…?」
「うん!……あ、忙しい?」
「あ、いえいえ!……ただ、飼育委員の仕事でアルパカのお世話しなくちゃいけなくて……それからでもいいですか?」
「アルパカ!?私もいく〜!」
『アルパカ』という単語が私の口から放たれた瞬間、ことり先輩が瞳をキラキラと輝かせながら私に詰め寄ってきました。
「ちょ、ことり!?……はぁ。私は部室で待ってるから、終わったら帰って来なさい」
「はぁ〜い♪いこ!花陽ちゃん!」
「あ、はい…」
ことり先輩…すごくたのしそう…
何故か私が先輩についていく形になって、私たちは飼育小屋へと向かいました。
▼
「……遅かったわね」
「うぅ…ごめんなさい…」
「ち、違うんですにこ先輩!ことりがアルパカさんに夢中になっちゃったから……」
「……まぁそんなことだろうとは思ってたわ。…早く座って」
あの後、その場を離れたがらないことり先輩をなんとか説得して、私達はアイドル研究部の部室に戻ってきました。
「…それで、私はどうしてここに……?」
「──────花陽、私と勝負しなさい」
「え……?勝負……?」
「そう、勝負よ。聞くところによると、アンタなかなかアイドルについて詳しいそうじゃない。アンタとにこ、どっちがアイドルに詳しいか……決着をつけましょ!」
その言葉で…私の中の何かに火がつきました。
「えぇ!そんないきなり…!
……でも、いいんですか?
─────多分私が勝ちますよ?」
「なっ……!」
「あの花陽ちゃんが…煽った…!?」
「…へぇ、面白いじゃない…!そのプライド、ギッタギタにしてあげるわ!」
「望むところです……!」
負けるわけにはいかない。
『アイドル』は私の誇りなんだから…!
「はいっ!では私が審判をしますっ!
ルールは早押し対決!2人が机に向かい合って、机の真ん中に置いてある一つのボタンを早く押した方が解答権を得ます!
正解すると1ポイントで、相手に3ポイント差をつけた方が勝ちです!
問題は全部で50問あるけど、さすがにそこまではいかないよね?
では、早速始めましょう!」
「──────手加減しませんよ、先輩…!」
「ふん!ストレートで屠ってあげるわ…!」
「にこ先輩言葉が怖いよ……。で、では第1問!
────大人気スクールアイドル“A-RISE”のデ」
──────簡単ッ!
しかし私がボタンを押そうと手を伸ばしたその時には─────
ピンポーン!
すでに先輩がボタンを押していました。
「な…!」
「速い!にこ先輩!」
「“private wars”」
「せ、正解!『A-RISEのデビュー曲はなんでしょうか』という問題でした!にこ先輩1ポイント獲得です!」
「────それがアンタの本気?たいしたことないわね」
「くっ……!」
もっと……もっと早く……!
もっと感覚を研ぎ澄ます────!
聴覚で…視覚で…五感すべてで問題を解く…!
「では、第2問です!
────最近頭角を現してきた男性5人組アイドル、“トルネード”のメンバーの平」
にこ先輩の手がボタンに伸びる。
私はそこから手を思い切り水平に振り
先輩とボタンの間に手を滑り込ませ
ボタンを押しつつ横に弾き飛ばすように振り抜いた。
「ひいぃ!?」
ボタンは轟音を上げながらすごい勢いでことり先輩の横を通過し、壁に衝突した後床に転がった。
「は、はなよちゃん…!」
「──────公式サイトの立ち位置で左から順に22、23、26、21、25歳で平均年齢は23.4歳、でも3日前にメンバーの一人の“竹潤”が誕生日を迎えたので23.6歳です」
「せ、正解!パーフェクト!問題は『トルネードのメンバーの平均年齢はいくつでしょうか』という問題でした!」
「……なによ、今のちはや◯る見たいなボタンの押し方は…」
「……勝つためですから…」
「─────やっと目が据わったわね、花陽…いや、“オタ陽”。これでにこも本気を出せそうね…!」
「絶対負けません……!」
「うぅ、私、大丈夫かなぁ……」
こうして私、オタ陽とにこ先輩の本気の戦いが始まった。
▼
「はぁ……はぁ……正直、想定以上だわ…!アンタがここまでやれるなんてね……!」
「わ、私も…びっくりですよ……!まさか…私の知識についてこれる人がいるなんてっ……!」
「うぅ……なんでこうなるのぉ〜〜」
不敵な笑みを互いに浮かべる私とにこ先輩、そして半泣き状態のことり先輩。
現在の得点は、私が25ポイント、にこ先輩が24ポイント。
次が最終問題なので、私が負けることはあり得ないが、“オタ陽”の辞書には、生憎勝利以外の2文字はあり得ない。
相手は最高の好敵手。気を抜けば一瞬でやられる…!
「では、最終問題です!
──────花陽ちゃんは、スクールアイドルがやりたいですか?」
「え……?」
私の張り詰めていた意識は一瞬にして途切れ、“オタ陽”から花陽へと戻りました。
「くっ……これは難問ね……。
────花陽にしかわかりそうにないわね」
「せ、先輩……?」
「花陽、これまでの戦いであなたがどれだけアイドルを愛してるか伝わってきたわ。あなたは私と同等か、それ以上の愛を持ってる。
並みの愛じゃこのまではやれないはずよ。
……そんな思いを持ってるからこそわかるわ。
あなただってあるでしょう……?
憧れのステージに立ちたい、夢に近づきたいと思ったことが」
「…!」
「……自信がないっていう気持ちはわからなくはないわ。でもね、誰だって最初から自信があるわけじゃないわ。
いい?
自信ってのはね、“努力して積み上げる”物なのよ。
たくさん練習して、苦しい思いもして……そうやって積み上げていった自信が、ステージに立った時、初めて輝くの……!」
「努力して……積み上げる物……」
「─────花陽ちゃん。私、運動も苦手だし、踊りも得意じゃないし、正直、アイドルには向いてないと思う。
それでも一生懸命努力して、この間ステージに立って、にこ先輩に認められて……。
本当に嬉しかったの!そして、本当に楽しかった!
またやりたいって思えたの!
だから────“スクール”アイドルに向き不向きなんてないと思うの。努力して得られるあの喜びは、誰にでも平等だと思うの!」
「努力して得られる、喜び……」
「そう。そしてその努力の原動力になるのが───
─────“やりたい”って言う気持ちよ」
「……!」
自信は努力して積み上げる物。
努力して初めて得られる喜び。
大切なのは─────“やりたい”という気持ち。
それでもまだ……
私には勇気が出ない。
「────では!ここで花陽ちゃんへ、ある方からのヒントを送ります!」
突然ことり先輩が、司会口調に戻りました。
「ヒント……?」
「そう!ヒント!ではいきますよ?んっ、んんっ!
─────『花陽、やんねーの?』」
「──────!!」
それは、昔に聞いた私にとっての魔法の言葉
いつもあと一歩が踏み出せない
そんな私の背中を押してくれた優しい言葉でした。
「ふ…ふふっ…。こ、ことり、アンタ……全然似てな…ふははっ」
「に、にこ先輩ーー!笑わないでくださいよ〜!結構本気で頑張ったんですよ!?」
「ご、ごめん…でも…っはははは…」
もう〜と言いながら顔を赤くして怒ることり先輩と、それを見てさらに笑うにこ先輩。
そして私もつられるように笑いました。
何故か涙が目からこぼれました。
────3人で一頻り笑った後、私に差し出された、1つの手。
「─────私達と一緒に頑張りましょう?花陽」
笑顔で問いかけるにこ先輩。
ことり先輩も、笑顔で私を見てくれています。
そして確かに感じた、私の背中を押してくれた優しい手。
─────ありがとう、優真お兄ちゃん。
私は差し出された手を、ゆっくりと取った。
その手の上にことり先輩の手が重ねられる。
そしてことり先輩はその手をそのまま下ろし
ボタンを押した。
─────ピンポーン!
「……やりたい、です……!
私を……μ'sのメンバーにしてくださいっ……!」
半分泣きながら、私は“答え”を出した。
「せいかーい!26対24で花陽ちゃんの勝ち!」
「……誇っていいのよ、花陽。あなたはアイドル研究部部長に勝ったんだから。あなた程μ'sに相応しい人なんていないわよ」
「うぅ……うぁぁん……」
何故だか涙が止まらない私を、2人は泣き止むまでずっと見守ってくれていました。
「……ありがとうございました…。なんか、スッキリしました」
「いいのよ。気にしないで」
「それじゃ、行こ!みんなも多分待ってるよ!」
「みんな…?」
「そう…“残りの2人”もね」
「……!」
あの2人も────一緒に。
その事実だけで、私はとても嬉しくなりました。
「ほら、行くわよ花陽」
「あ…にこ先輩、1つ、いいですか?」
私にはまだ、1つ心残りがあります。
「──────もう一戦、しませんか?」
「ゑ?」
「──────何ですって?」
「…あんな形の勝利じゃ、納得いかないんです。今度こそ、完全勝利してみせます…!」
「─────へぇ、面白いじゃない……!
いいわよ、受けて立つわ!!
──────ことり!準備しなさい!」
「えぇーーー!なんでこうなるの〜〜!?」
私は今、一歩踏み出した。
これから一生懸命頑張ります!
夢を叶えるために!
というわけで、花陽加入です!
この小説では凛と2人でいることが多く、あまり彼女に関して触れることがなかったのですが、今回いかがだったでしょうか。
花陽の第二人格、オタ陽に関しては完全にオリジナルです笑
本当の花陽ちゃんはあそこまで人を煽ったりはしません!悪しからず。
さて、次回の話なのですが、途中まで書いていた7000字が消し飛びました( ^ω^)
なので、明日明後日の投稿は厳しいかもしれません。
できるだけ早く書き上げますので、ご理解をお願いします泣
では、今回もありがとうございました!
感想評価アドバイス等おまちしております!