ラブライブ! ─ 背中合わせの2人。─   作:またたね

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明日明後日の投稿は厳しいと言ったな。
あれは嘘だ。
ってなわけで、無事なんとか書きあがりました!
今回は凛ちゃん勧誘回です!


Venus of yellow 〜輝く星

 

 

 

 私、星空凛は走っていた。

 理由は簡単、待ち合わせをしているある人の元へと走るため。

 珍しいな、向こうから凛を誘ってくれるなんて。

 最近μ'sの練習が忙しくて大変だったみたいだけど、無理とかしてないかな…?

 そんなことを考えながら待ち合わせ場所の校門へ辿り着くと、もう既に凛を待っていてくれた。

 

 

 

「─────優兄ィ!」

「ん、凛。悪いな、いきなり呼び出して」

「大丈夫にゃ!こっちこそ遅れてごめんなさい」

「気にすんな。……んじゃ、行くか」

「え?っていうか今日は何の用で……」

 

 

 

「──────遊びに」

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

「んにゃーーー!楽しいーーー!」

 

 遊びに行く、と言った優兄ィは本当に遊ぶつもりだったようで、凛たち2人はカラオケとボウリングをした。

 他の女の子と行くときは恥ずかしくて歌えない大好きなアイドルの曲も、優兄ィが相手なら歌えた。

 だって、凛みたいな男っぽい子が可愛らしいアイドルの曲なんて……変だもん。

 でも優兄ィは私の好きなものを理解してくれるから、そんな遠慮はいらない。

 凛は久々のカラオケを本気で楽しんだ。

 

 そしてボウリング。自分で言うのもなんだけど、凛はボウリングが大の得意。

 かよちんはもちろん、優兄ィにも勝てる自信がある。そして実際、今回の勝負は凛の勝ちだった。

 

 

 

 ─────あぁ、楽しいな。

 

 こんなに楽しいのは、久しぶりだ。

 

 なんでだろう?

 

 

 

 ─────優兄ィが、笑ってるからかな?

 

 

 

 音ノ木坂に通うようになってから、優兄ィは少しずつ“変わった”。

 ……いや、正確に言うと“戻った”が正しい。

 出会った頃の、明るくて、笑顔がよく似合う優兄ィに。

 忘れもしない、中学の頃起きた優兄ィの笑顔を奪ったあの事件。

 あれのせいで、優兄ィは全てを失い、全てを拒むようになった。

 でも、高校に入って希ちゃんと再会して、絵里先輩やことり先輩たちと友達になって、優兄ィは少しずつ、明るくなった。

 本当に、みんなには感謝している、

 凛一人じゃ、何の力にもなってあげられなかったから。

 だから、優兄ィと一緒に笑って遊べるこの時間が、たまらなく嬉しくて。

 

 

 

「だぁぁぁ!くっそ!また凛にボウリング負けた!」

「優兄ィも上手な方だけど……凛に言わせればまだまだだにゃ」

「抜かせ!次は倒す!……さて、カラオケは俺の勝ちで、戦績は1勝1敗か…。

…んじゃ、“アレ”で決める?」

 

 “アレ”とはもちろん…ダンスゲームのことだ。

 

「へぇ〜、いいのかにゃ?凛勝っちゃうよ?」

「俺もあれから鍛えたからな…リベンジと行かせてもらうぜ、凛!」

 

 

 そして凛たちは、ゲーセンへと向かった。

 

 

 

 

「……お、あったあった…ってなんだあれ」

 

 凛たちがやろうと思っていたダンスゲームには、行列ができていた。

 

「なになに……ペアバトル大会?

優兄ィ!大会だって!久しぶりに凛たちも出ようよ!」

「おぉ、面白そうだな!今からでも間に合うかな?すいませーん」

 

 優兄ィが受付の人と話している。

 しばらくすると優兄ィが戻ってきた。

 

「エントリーできたけど、もう“ultimate”しか空いてなかった。大丈夫だよな?」

「もちろん!逆にultimateじゃないと簡単に勝てちゃって面白くないにゃ!」

 

 凛たちが普段やっているダンスゲームには、5つの難易度がある。

 

 easy→normal→hard→expertときて、最も難しいのがultimate。

 通い詰めている手練れでも、油断しているとあっという間にゲーム失敗になってしまうのがこの難易度。

 

「さすが凛、頼もしいよ。エントリーしてるのは俺ら合わせて4組で、一気に優勝決めるらしい。

8人全員同じ曲やって、その合計で競うんだと」

「ん!了解にゃ!」

 

 

 

「おいお〜い見ろよ兄弟、こんな大会に腐れリア充が参加してやがるぜオオィ!」

 

 

 

 優兄ィから説明を受けていると、片方は金髪にオールバック、もう片方は銀髪で横髪を完全に刈り上げている、今時もはや絶滅危惧種の風貌をしたチャラ男二人に絡まれた。

 

 

「本当ですね兄貴!この大会も腐ったもんですねぇ!オイコラ、ガキ2人仲良くeasyでイチャイチャしてな」

「……なんですかいきなり」

「オイオイ、俺たちをしらねぇのかよ!!巷で噂のダンシングブラザーズの俺たちをよ!」

「すまん、知らん」

「かっはぁぁぁ!こぉりゃぁホンットーにシロートだなお前ら!!体使う前に勉強から出直してこいや!」

 

 

「優兄ィ、どうしよう。すごい弱そう」

 

「うん、俺もそう思ってたところだ」

 

 

「あぁん!?舐めた口聞いてんじゃねぇぞ!!

いいかぁ?兄貴はこのゲームの全国ランクAクラスのハイレベルランカーなんだよ!

お前たちごとき、眼中にもねぇんだよ!!」

「…ふぅん」

 

 優兄ィも凛も、笑顔でそれを聞き流した。

 

「くぅぅぅ!!腹たつぜお前ら!!ぜってえボコボコにしてやる!!」

 

 そして、ultimate戦の幕は開かれた。

 司会がどんどん進行していく。

 

『では、ultimateの参加者の皆さん!

皆さんが今回挑戦する楽曲は……こちら!』

 

「……!あれは…」

「最近追加された新規楽曲…!

しかも難易度は歴代最強と言われている…」

「おぉ?やる前から怖気付いたかぁ?吠えずらかく前に帰るなら今のうちだぞぉぉ?

っははははははは!!」

 

 

 ……そろそろ嫌になってきたなぁ。

 

 

 

「──────ねぇ、お兄さんたち」

 

 

「あ?」

 

 

「──────凛たちに構わないでもらえます?

 

 

 

──────眼中にないから」

 

 

「なっ……このガキ…!」

「ほら、お兄さんたちの番ですよ」

「くっ……見てろよこのっ……!!」

 

 

 最初の挑戦はダンシングブラザーズからだ。

 

 確かに言うだけのことはある。

 2人の合計スコアはAランク。

 上から2番目のランクで、好スコアと言える。

 

 

 その後、残りの2組も善戦したが、ダンシングブラザーズには及ばなかった。

 

 

「おいおいおい!この大会には雑魚しかいねぇのかよ!!なぁ兄弟!」

「本当だぜ兄貴!弱すぎて話にもなんねぇよ!!」

 

 あぁもう。本当にめんどくさい。

 

 そう思っていた時だった。

 

 

 

 

「───────うるせぇよ」

 

 

 

 

 優兄ィが2人に声をかける。

 その声にいつもの優しさは全く感じられない。

 

「あ?なんだ?」

「さっきから黙って聞いていれば……人を貶すことしかできないのか?たいした実力もねぇくせに。口だけは立派なもんだなお前ら」

「あぁ!?んだとゴルァ!?」

 

 

「─────うるせぇっつってんだろ」

 

 

「っ…」

「黙って見てろ。2度とそんな口叩けねぇようにしてやる。…凛、行こうか」

「うん!わかったにゃ!」

 

 最後の凛を呼ぶ声は、いつも通りの優しい優兄ィのものだった。

 

「最初は俺からでもいい?」

「うん!優兄ィ、頑張るにゃ!」

 

 ありがとう、と言って優兄ィはゲームマシンへと足を乗せた。

 このゲームのルールは単純。

 上から流れてくる矢印にタイミングを合わせて自分の足元に対応した上下左右のパネルを踏むだけ。

 

 そして曲が始まった。

 

 

 

 

 

「な…なんだよあれ…兄弟……」

「あ、ありえねぇよ兄貴…!フルコンボだと!?」

「ふぅ……んじゃ凛。

 

──────トドメ刺して来い」

 

「はーい♪」

 

 

 優兄ィの言葉に元気よく返事をして、凛もゲームマシンに足を乗せる。

 

 絶対に倒す。

 あの2人は絶対に許せない…!

 

 曲が、始まる───────。

 

 

 

「う、嘘だろ……?」

「2人連続フルコンボだと……?」

 

 

 

「だから凛が言っただろ?

 

 

─────眼中にもねぇんだよ、お前らなんざ」

 

 

 

 合計スコアは、Sランク。

 文句無しの完全勝利だった。

 

 

『決まったー!優勝は星空凛さん、朝日優真くんの2人です!おめでとうございます!』

「いぇーい!やったやった!」

 

 優兄ィと大きくハイタッチを交わす。

 周りの人たちも、あの2人には嫌気がさしていたようで、温かい拍手が凛たちを包んだ。

 

「くっそ……こんなガキに!!」

「あ、兄貴…こいつらもしかして…星空に、朝日って…『輝星』と『暗舞』じゃ…!?」

「なんだと…!?あの全国Sランカーの…!?こいつらが……!?」

 

 

 あぁ、その通り名、まだ生きてたんだ……。

 

 昔、優兄ィとかよちんとゲームセンターに通ってあらゆるダンスゲームの全国ランキングに名前を連ねる遊びをしていた。

 そしてそれで自信を得た凛たち三人は、ダンスゲームの大会へと参加しまくった。

 そこで結構高順位を独占していたら、その噂がネットで広まり、『輝星』、『暗舞』、『妖精』と言う通り名がダンスゲームオタクたちの間で蔓延した。

 

 それを見た凛たちは大会にも出なくなったから、完全に廃れたと思ってたんだけど……

 その名前を知っている限り、この2人もなかなかのダンスゲームオタクのようだ。

 

 

 

「調子乗った真似してすいませんでした!俺たち、お二人の大ファンです!!」

「も、もう大丈夫だから、顔をあげてくださいにゃ……」

 

 凛たちの事がバレてから、2人はただただ平謝りだった。

 

「いやいや!本当に無礼を働いてしまい……なんとお詫びしたらいいか…」

 

 

 

「あー、それじゃあ。

 

────もうあんな風に人を馬鹿にするの、やめてください。

んで、たくさん練習して、もっと上手になってください。

────そして、また俺らと勝負しましょう。

それで、どうですかね?」

 

 

「「………おぉ……!」」

 

 

ダンシングブラザーズが、瞳に涙を浮かべて優兄ィを見ている。

 

 

「「ありがとうございます!兄貴!」」

 

 

「兄貴ィ!?」

「感激しました!俺たちを弟子にしてください兄貴!」

「兄貴の兄貴だから……大兄貴!!」

「いや、ちょっと……まって!いらないから!弟子とかいらないから!!」

「ふふっ……あはははは!」

 

 泣きながら優兄ィに頭を下げるブラザーズと、

 それを見てあたふたする優兄ィが面白くて、凛も笑った。

 

 

 

 

 

 

「ったく……酷い目にあった…」

 

 ブラザーズから開放された凛たちは、近くの公園のベンチに移動して休憩していた。

 凛が座って待っていると、優兄ィがジュースを2本持って帰ってきた。

 

「ほらよ」

「えっ。これ、お金……」

「さっきのダンス。どっちもフルコンボだったけど、お前の方がスコアが高かった。だから凛の勝ち。これは賞品だ」

「あ、ありがと……」

「ん」

 

 少し運動した後なので、優兄ィのくれた炭酸飲料は心地いい。

 優兄ィも、凛の隣に腰掛けた。

 

「まーた凛に負けた…今回こそは勝った、って思ったんだけどな。お前、一人でも練習してただろ?」

「えっ?…うん。やっぱ体動かさないとソワソワしちゃうから」

「だよな。凛全然鈍ってねぇもん。

──────部活は決めた?」

「────ううん、まだだにゃ。

ダンス部に入りたかったけど、音ノ木坂にはないから…。何にしよう、って考えてたらもうこんな時期になっちゃって、今更入りにくい、っていうか……」

 

 

「─────ならさ、アイドル研究部入らない?」

 

 

「え……?」

「うん。そこなら俺もいるし、思う存分ダンスもできる。──────お前が密かに憧れてる、アイドルにもなれる」

「っ……!」

 

 

 これが本題か。

 直感的にそう思った。

 

「──────凛には無理だにゃ」

「なんで?」

「だって……凛、可愛くないし、髪もこんなに短いし─────女の子っぽくないし」

「……それが本心?」

「うん、そうだよ……」

 

 

 

 

 

「──────じゃあずっとそう思ってろよ」

 

 

 

 

 

「っ……!」

「なんで傷ついてんの?凛が自分から言ったことだろ?

もしかして“そんなことはないよ”って言って欲しかったのか?

 

いやいや、俺は凛の味方だから、いつでも凛の言うことには賛成だよ。

 

──────凛の言う通りだよ。

 

お前は可愛くないし、髪も短いし、女の子っぽくもない。

──────アイドルなんて似合わない」

 

「っ…」

 

 優兄ィの言うことは…間違ってない。

 ただ、凛がさっき自分で言ったことを認めただけ。

 

 なのに。

 

 ─────こんなに苦しいのは、どうして…?

 

 

 

「これで満足なんだろ?」

 

 

 ──────あぁ。

 

 

 優兄ィに言われたから、か。

 

 

 

「…何も言わないのか?お前のアイドルへの思いはその程度って事かよ。

……少しお前を過大評価しすぎてたのかもな。

お前なら、俺にこんなこと言われたら反抗してくると思ったんだけど。

 

 

本気で叶える気がないなら

 

夢に縋り付くなんてやめちまえ」

 

 

「……………………」

 

 

 

 何も…言い返せない。

 

 自分で言った言葉に傷ついて

 

 それを優兄ィに指摘されてまた傷ついて。

 

 どこまでも身勝手な自分に腹がたつ。

 

 

「……ごめん……なさ」

 

 

 凛の口から放たれようとした謝罪の言葉は、途中でかき消された。

 

 

 

 ────優兄ィから突然抱きしめられると言う行為によって。

 

 

 

「───────嘘だよ、ごめんね」

 

 

「!? えっ!?ちょっと、優兄ィ!?ななななななにして…」

 

 

「……ちょっと意地悪だったな。

凛がどんな気持ちであんなこと言ったか分かってて、お前を傷つけた。

凛が謝ることなんて何もない。

悪いのは俺だ」

 

 

「ちょ…!優兄ィ!こ、ここ公園っ…!」

「────────知るかよ、そんなこと。

 

俺からしたら、俺のせいで泣きかけてる幼なじみ慰める方が大切だ」

 

「…!」

 

 優兄ィに気づかれないようにと、うつむいて誤魔化していた涙はバレバレだったみたい。

 

 

 優兄ィは、まだ凛を離さない。

 顔が熱いぐらいに火照っている。

 でも暖かくて、優しくて、心地よくて……

 

 

 ずっとこうしていたい、なんて。

 

 

「あぁ〜!あそこのカップルあんなところでイチャイチャしてる〜!」

「うわぁ〜ラブラブ〜!」

「ヒューヒュー!」

 

 

 やはり目立っていたようで、その辺で遊んでいた子供たちが凛たちの方に集まってきた。

 

 

「だぁぁお前ら!見せもんじゃねぇよ!あっち行け!」

 

 優兄ィが追い払おうとするも、彼らのテンションを上げるだけだった。

 

「くっそ、なんなんだよ……あ、そうだ。

おい、そこの君たちっ」

 

 優兄ィの呼びかけに、近くにいた女の子2人と男の子が耳を傾ける。

 

 

「──────俺の横のこいつ、可愛いだろ?」

 

 

 

「!?ゆ、優兄ィ!?」

「ね、可愛いよね!」

 

 

「うん!すごいかわいい!」

「わたしもおねえちゃんみたいになりたい!」

 

 

「……!」

 

 可愛い。

 ずっと、自分には縁のない言葉だと思っていた。

 

 小学生の頃、勇気を出して履いたスカートはクラスの男子に馬鹿にされ、二度と履かないと誓った。

 運動が大好きで、動くのに邪魔だったから髪も短くしていた。

 だから、ますます男扱いされていた。

 でもやっぱり体を動かすことは楽しかったし、やめられなかった。

 

 

 

『凛は男の子みたいだよな』

 

 

 周りの男子たちの口癖。

 気にしないふりをしていたけど、やっぱりそれを言われると傷ついた。

 悲しくて、一人で泣くこともあった。

 

 でも、そんな凛を助けてくれた、ヒーローがいた。

 

 

 

『凛は可愛いだろうが!ふざけんなよお前ら!』

 

 

 

 凛が男子にそう言われると、決まって助けてくれる男の子。

 それが優兄ィだった。

 優兄ィとは親同士の付き合いで、ずっと一緒にいた。

 かよちんと一緒にたくさん面倒も見てもらった。

 

 その長い付き合いの中で、優兄ィは一度も凛を男の子扱いしたことがない。

 本当の妹のように、ずっと可愛がってくれていた。

 凛自身も優兄ィを本当の兄のように慕っていた。

 優兄ィは、面白くて、元気で、優しい。

 そんな優兄ィが、本当にお兄ちゃんだったらいいなって思ってた。

 

 

 でも、最近思う。

 

 

 この気持ちは、きっと───────

 

 

 

「────────ありがとね、3人とも」

「ま、まぁまぁだね!」

「うそつかないの!たくみくん、さっきかおあかくしておねえちゃんのことみてたでしょ!」

「ち、ちがう!」

 

 たくみくんと呼ばれた男の子は、ますます顔を赤くして女の子に反抗した。

 そのまま子供達は追いかけっこをしてその場から離れていった。

 

 

「なっ?」

 

 優兄ィが凛に笑顔を向ける。

 

「あの子たちも言ってただろ?

 

──────凛、お前は可愛い。

 

髪が短いのも、お前によく似合ってる。

 

俺の知る限り誰よりも繊細で、傷つきやすい女の子だ。

 

 

そんなお前にアイドルが似合わないわけないだろ?」

 

「優兄ィ……」

 

 

 そして優兄ィは、凛の頭に優しく手を乗せる。

 

 

「──────凛は俺が辛いとき、ずっと側に居てくれた。

 

 

今度は、俺の番だ。

 

 

凛の夢を笑う奴らは、俺がぶっ飛ばしてやる。

 

 

夢を追いかける凛を、ずっと側で支え続ける。

 

 

だから────────

 

 

もう自分に嘘つくの、やめろ。

 

 

お前の、本当の気持ちを…俺に教えてくれ」

 

 

 

 ─────ずっと隠してた、自分の本当の気持ち。

 優兄ィにはバレてたみたいだけど、直接口に出すのは、これが初めて。

 

 

 恐い

 

 緊張する

 

 でも

 

 今凛の目の前には、優兄ィがいる。

 大丈夫。優兄ィなら、受け止めてくれる。

 

 勇気を──────振り絞れ……!

 

 

「────────ぁ」

 

 

 口から出たのは、酷く掠れた声。

 そこで初めて、自分が泣いていることに気づく。

 優兄ィは、目を逸らさずに、凛を見てくれている。

 『お前の言葉を受け止める』と言う気持ちが伝わってくる。

 

 

 ───────聞いて、ほしい。

 

 

 ずっと抱えてた、この、夢を。

 

 

凛は優兄ィに届けるように、言葉を────放つ。

 

 

 

「……………………やりたい、よ……。

 

 

 

 

アイドル、やりたいよ………………

 

 

似合わないって言われても………

向いてないって言われても………

どれだけ我慢しようとしても……ぐすっ……諦め、きれないよ………

 

 

 

……凛もアイドル……やりたいよぉ………」

 

 

 

 そこまで言って、もう限界だった。

 自分でも信じられないほど涙が溢れる。

 嗚咽が止まらない。

 それだけ、自分の心を押し殺し続けてきたのだろうか。

 抑えていた感情が、止まらない。

 

 

 

 そんな凛を見て、優兄ィはもう一度優しく抱きしめてくれた。

 

 

 

「───────ずっと我慢してたんだな。

 

 

今まで助けてやれなくてごめんな。

 

 

もう凛は一人じゃない

 

 

──────お前の夢、俺達と一緒に叶えよう」

 

 

「うぅぅ……うあぁぁぁ…………」

 

 

 泣いた。優兄ィの胸の中で、今まで溜め込んでいたものを吐き出すように。

 優兄ィは凛が泣いている間、ずっと抱きしめてくれていた。

 

 

 

「はー、すっきりしたにゃー!」

「たくさん泣いたもんな、お前」

 

 あれから凛と優兄ィは公園を出て、今は学校へと向かっている。

 

「もう!ほっといてよ!」

「はははっ…凛、ありがとな」

「凛の方こそだよ!優兄ィのおかげで勇気が出せた。ありがとね!」

 

 

 そして、もう一つ、大切なことに気づいたよ。

 

 

 

 凛は優兄ィの“イモウト”じゃなくて

 

 

 

 

 ──────“コイビト”になりたいな。

 

 

 

 

「優兄ィ」

「ん?」

 

「──────ずっと一緒にいてね?」

 

「当たり前だろ?─────ずっと一緒だ」

 

 

 凛が言った“ずっと一緒”と、

 優兄ィが言った“ずっと一緒”は、きっと違う意味。

 

 でも、今はこれでいい。

 

 いつか、優兄ィもびっくりするくらいに可愛くなって、絶対意識させて見せるんだもんね!

 

 

「ほーら、行くよ!優兄ィ!」

「うぉっ!ちょ、凛!待て!」

「いっくにゃーー!!」

 

 

 

 凛は優兄ィの手を握って、走り出した。

 

 

 

 いつか、貴方にとっての“輝く星”になれますように。

 

 

 

 だからその時まで

 

 

 アイドル、頑張ります!

 

 

 応援しててね?優兄ィ!

 

 

 

 

 

 夕日に照らされた少女は、2人の仲間の元へと走りだす────────

 

 

 

 




優真が一番ありのままで居られる場所は、凛の隣です。
2人はとても固い絆で結ばれています。
優真達3人の通り名はそれぞれ、『きらぼし』『あんぶ』『フェアリー』と読みます。
二章はあと2話で完結します!
今回もありがとうございました!

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