幾つかの注意書きを。
・この話は完全番外編です。本編とは未関係でございます。
・この話では、一部性的描写、百合描写があります。
その類の話は受け付けないという方は、☆印が本文中に存在しますので、そことそこの間を飛ばして読まれるよう、お願いいたします。
後半部分は、優真と絵里がイチャイチャするベタ甘ストーリーなので、そこだけ読みたいという方も☆印の間は飛ばしていただいても構いません。
・作者は、絢瀬絵里ちゃんが大好きです。
では、何時ものシリアスな感じとは一味違った「背中合わせの2人」をお楽しみください!
【絢瀬絵里生誕記念 特別話】 Venus of AquaBlue Sp.〜 シアワセ
「絵里ちゃんの誕生日パーティーをしよう!」
こう言い出したのは、穂乃果だったか、凛だったか。
季節は秋、少しずつ冬の予兆が近づいてきた頃。1週間後は10月21日、そう、我らがμ'sのお姉さん、絢瀬絵里の誕生日だ。
今までもμ'sメンバーの誕生日を祝ってきたが、平日だったのでパーティーをすることはできなかった。
そこで、今回の絵里の誕生日が土曜日にあるということで、念願のパーティー開催ってわけだ。各々が俺の家に食材やお菓子を持ち込んでくることになっている。
μ'sメンバー全員で休日集まって何かするなんてことは夏休み以来だったから、俺自身正直楽しみにしていた。
────それが、まさかあんなことになろうとは。
▼
そして迎えた絵里の誕生日当日。
昼前に絵里と希以外のみんなが集まり、料理班は料理、飾り付け班は部屋の装飾を行っている。
絵里には集合時間を少し遅く伝えてある。
みんなで準備するはずだったけど自分がきた時にはもう終わってて…というちょっとしたサプライズだ。
「ことり!そこに置いてある野菜とって!」
「はーい、にこちゃん。優真くん、少し火を見ててください!」
「あいよ、了解。…海未、そっちの下処理終わってる?」
「はい。いつでも大丈夫ですよ」
料理班の俺、にこ、ことりちゃん、海未の4人はキッチンで忙しく作業をしていた。
うちのキッチンは何故か無駄に広く、4人くらいなら余裕で入る。
この中でも、普段から家で妹たちに料理を振るっているにこのスキルは素晴らしく、大活躍している。
最早にこが作る料理の下準備を俺たちが受け持つ形だ。
うん、料理の方は問題なさそうだな。
────で、飾り付け班はというと…
「ちょっと凛!それはもう少し上だって言ってるでしょ!」
「これ以上上は届かないにゃ!」
「椅子でも使えばいいじゃない」
「なんで上からなの!?真姫ちゃんさっきから見てるだけだし!少しは自分でやるにゃ!」
「何よ!凛に指示が出せるわけ!?」
「あわわわ……け、喧嘩はやめて……」
「「かよちん(花陽)は黙ってて!」」
「ううぅ……誰かたすけてぇ……」
「あぁ!間違えた!折り紙の鎖が一周しちゃった!!」
……もう見事にハチャメチャだな。
協調性の欠片も感じないぜ。
穂乃果に至っては2人の喧嘩完全に無視してるし。
「……にこ、俺向こうに回ってきてもいい?このままじゃあいつらいつまでも終わりそうにない。3人で回せそう?」
「わかったわ。大丈夫よ。半分以上終わってるし、後は3人でもなんとかなるわ」
「ありがとね。……ったくあいつらは…」
「おい凛、真姫。何喧嘩してるんだよ。そんな場合じゃないだろ?」
「だって優兄ィ!真姫ちゃんさっきから口しか動かさないんだよ!?」
「だってじゃない。実際場所を指示する人は必要だし、それができるのはこの中じゃ真姫か花陽だろ?それとも凛がやってみる?」
「うう………」
「ほら、だから言ったじゃない」
勝ち誇って胸を張る真姫。
「……まぁ凛が不平を言う気持ちもわかる。真姫、指示の仕方っても考えてやってくれ。
……まぁ仕方ないか、今から俺が指揮をとる」
「うん、それなら凛も文句ないよ!」
「なんでよ!私なら文句があるっていうの!?」
「だからさっきから言ってるでしょ!?真姫ちゃんは…」
「──────うるせえぞ、2人とも」
「「ひっ……!」」
雰囲気が変わった俺に恐怖する2人。
「俺が指示するからには、テキトーな仕事して許されると思うなよ?俺の言うことには全てYesで答えろ。いいな?」
「「は、はい……」」
「声が小せえぞ!!」
「「はいぃぃぃぃ!」」
これから始まる圧倒的な恐怖政治に、半分諦めの気持ちを抱く凛と真姫に対し、苦笑いを浮かべる穂乃果と花陽だった。
そして時刻は午後1時半過ぎ。
そろそろ絵里と希が来る時間だ。
俺の指揮で飾り付けの作業効率は倍以上に跳ね上がり、なんとかギリギリ間に合った。
後から振り返ると、俺の指揮もなかなかえげつなかったと思う。
……凛と真姫が肩で息をしている、と言えばどれだけの過酷を強いたのかがわかるだろうか。
「し、信じられない……」
「つ、疲れたにゃ……」
「2人とも、お疲れ様っ」
「なんでかよちんそんなに元気なの!?」
「っていうか朝日さんの指示、私と凛にだけ厳しすぎませんでしたか!?穂乃果と花陽は全然元気なんですけど!」
「だって、作業が滞ってたのほぼ君ら2人のの言い合いのせいだし。2人にその責任を追及するのは、ねぇ?」
「うぅ……そう言われると…」
「何も言えないにゃ……」
「ほらね。っと、2人が来たみたいだ。
俺が中に入れるから、みんな準備しといて!」
2人を招き入れ、リビングへと案内する。
そして絵里がドアを開けた───────
─────せーの!
『絵里(ちゃん)、誕生日おめでとう!』
▼
パーティーは盛り上がり、絵里にプレゼントを渡すことになった。
「まずはにこからよ!絵里!おめでとう!」
「ありがとう、にこ!開けてもいいかしら?」
「もちろん!驚くんじゃないわよ?」
そして中から出てきたのは…
「DVD……?」
「そうよ!μ'sのPVの中で、絵里のシーンだけ集めたにこにーお手製のスペシャル版よ!最後にはにこにーからのメッセージが5分入ってるわ!」
「……ありが、とう…」
ふふん、と(なry)胸を張る矢澤。
絵里は微妙な表情を浮かべているが、嬉しそうではある。
「次はウチ!えりち、おめでとう!」
「これは…シュシュ?」
「うん!……ウチと、色違いの…。嫌だった…?」
「いいえ!とても嬉しいわ希!ありがとう!」
「ほんとに?よかった〜」
少し恥ずかしそうにしていた希も、絵里の笑顔を見て笑った。
「次は私たちからだよ!絵里ちゃん!」
穂乃果たち二年生が、絵里に少し大きめな袋を渡す。
「これは…?」
「開けてみて開けてみて!」
「……! ハラショー!」
中から出てきたのは、可愛く飾り付けられたコルクボード。その中には、μ'sメンバーとの思い出の写真や、三人からのメッセージなどが書かれていた。
「ことりちゃんと海未ちゃんと頑張って作ったんだよ!」
「ありがとう!穂乃果、ことり、海未!」
嬉しそうに笑う絵里に、3人も笑みを浮かべた。
「次は凛達の番だよ!」
ふふんと意気込むのは、凛と真姫。
さっきまであんなにいがみあってたのに、仲がいいのか悪いのか。
「絵里、受け取りなさい……!私たちの力作を!」
そう言って2人が運んできたのは、大きなダンボール。
しかも2つ。
「……開けても、いいの?」
「どうぞー!」
箱の中に入っていたのは……
「……カップ、ラーメン……?」
そう、カップラーメン。
しかも二箱、ギッシリと。
「ただのラーメンじゃないよ!」
「これは私と凛が様々な店を回って掻き集め、吟味した最高のラーメン……
そう、その名も!」
「「“チリトマトラーメン”よ(にゃ)!」」
………………。
なんと言うか、反応に困る。
しかし絵里はというと、瞳をキラキラと輝かせていた。
「ハラショー!!こんなものがあるのね!!」
「ちなみにそれにマヨネーズをかけて食べるのが、絵里ちゃんの中のひ」
「おい、凛!メタ発言はやめろ!」
「次は私の番です!絵里ちゃん誕生日おめでとう!」
「これは……甘酒?」
「はい!甘酒はすごいんですよ!例えば……」
「やめとけ花陽。話しても多分伝わらないよ」
俺の的確なツッコミに、しょぼんとする花陽。
「でも、ありがとう花陽。ちゃんといただくわ」
「はいっ!でも、ぜひ今一杯飲みましょう!」
花陽の押しに負け、結局その場で絵里が飲むことになった。
───────俺のプレゼント、渡しそびれたな。
まぁいいか。後で渡そう。
───────平穏はここまで。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「絵里ちゃん……?」
花陽の甘酒を飲んだ絢瀬の様子が、どうもおかしい。
さっきから俯いたまま顔を上げない。
「……絵里?」
「……ねぇ、優真くん……私、欲しいものがあるの……」
何だ……?絵里の声が妙に色っぽいぞ…?
嫌な…予感がする…!
「─────貴方の初めて、私に頂戴♡」
……は!?
こいつ何を言ってる!?
俺は焦りの余り思わず立ち上がってしまった。
「絵里…どうした!?」
「お願い…体が熱くて、ムズムズするの…♡」
「花陽っ!お前絵里に何した!?」
「ええぇ!何もしてないよぉっ!プレゼントの甘酒を飲んでもらったら突然こうなっちゃって……」
「こいつ甘酒だけで酔ったのか!?どんだけアルコール弱いんだよっ!!」
「ねぇ、優真くぅん……」
「くそっ……!おい絵里!しっかりしろ!」
「ちょっと!やめなさいよ絵里!」
見かねた真姫が、制止に入ろうとする。
絵里は真姫の声にゆっくりと振り返り、真姫を見る。
そして彼女は妖艶な笑みを浮かべたまま真姫に歩み寄り──────
─────そのまま口付けた。
「なっ……!?」
真姫自身も目を見開いて驚いている。
俺たちも唖然として、止めに入ることを忘れていた。
軽くどころか、相当ディープだ。
所々漏れる声が、妙にいやらしい。
絵里が真姫の後頭部を押さえているので、逃げるにも逃げられず、されるがままだ。
どれくらい経っただろうか、ようやく2人はようやく口を話した。
真姫は絵里の支えを失うと────そのまま後ろに倒れた。
「真姫ィィ!!」
「絵里…貴女……上手すぎっ…」
最後にそう言い残して、彼女は気を失った。
「キスだけで気絶させたですって……!?」
「どんだけテクニシャンなんや…!」
「絵里ちゃん……すごい……」
「うぅ、破廉恥ですっ……」
「海未ちゃん!?」
「海未ちゃんが倒れたにゃ!」
「気絶しちゃったのぉ!?」
「純情すぎだろ!見るだけで気絶するとかどんだけピュアなんだよ!!」
「……ふふっ」
っ!しまった、海未に気をとられすぎた…!
俺はなす術もなく絵里にソファに押し倒される。
こいつ、どこからこんな力が!?
「さぁ、優真くん…一つになりましょう…?」
秋とは言ってもここは室内。女子の服は比較的素材が薄い。
絵里の肌の感触がリアルに伝わってくる。
「絵里っ!頼むから落ち着いてくれ!!」
やばい、もうだめだ…!
諦めかけたその時。
「だっ、だめえぇぇぇぇ!!」
そう叫びながら、俺と絵里の間に顔を割り込んできたのは、ことりちゃんだった。
そしてことりちゃんは絵里の顔を自分の正面に向けさせると─────
そのまま自分から絵里に口付けた。
「こ、ことりちゃん!?」
「自分からいった!?」
「何してるのよことり!それじゃアンタも…って……お、応戦してる!?快楽の波に流されないように、自分から仕掛けてるっていうの!?」
「こ、ことりちゃん…えっちだにゃぁ……」
残りのみんなも顔を赤くしながら2人の激しいキスに夢中になっている。
俺の顔の目の前で嬌声を上げながら深く口付け合う2人。
そんなものをみせられて、平静でいられるわけがない。
(くそっ、冷静になれ……!感情に流されるのはマズイ!ことりちゃん、俺を守ってくれたのは嬉しいんだけど、自分からキスしに行く必要はあったかなぁ!?どんだけテンパってたんだよ……!!)
真姫の時より遥かに長く、濃厚なキスを終えた2人は、ようやく互いの口を離した。
その際に伸びる銀色の糸。
俺はそれを見て恥ずかしくなり、思わず目をそらす。
そしてそのまま、ことりちゃんは膝を崩した。
「ことりちゃん!大丈夫!?」
俺は下を向いたまま動かないことりちゃんを心配して、声をかけた。
「……ねぇ、優真くん……」
……あ。
この感じ……すごいデジャヴ……!
「ことり……暑くなってきちゃいましたぁ♡」
「感染ったァァ!!キスだけで酔っ払うとか弱すぎだよことりちゃん!!あと本当に脱ごうとするな!!」
「え⁇続きは2人きりで…⁇もう…優真くんは欲張りさんですね♡」
「うっはぁかわいいい!!
…じゃねぇ!たち悪りぃぃ!!
絵里より遥かにたちが悪いわ!
……おい誰か!2人を止め…て……く…………」
「あはっ♪凛ちゃん…くすぐったいよぉ…♡」
「ふふ♪穂乃果ちゃん可愛いにゃぁ…♡」
「ぁあ…希ちゃん、にこちゃん……ダメぇぇ…♡」
「ふふふっ、体は正直やんなぁ♡」
「もう、だらしないわよ?花陽♡」
何も見てない何も聞いてない何も見てない何も聞いてない何も見てない何も聞いてない何も見てない何も聞いてない………………!!
え、何?なんでこいつら顔赤くして服の上から絡み合ってんの!?
そして改めてテーブルに目を向けると…
人数分に注がれた甘酒があった。
「おいアホ白米ィィ!!何無駄に感染者増やしてんだゴルァ!!」
「だってぇ…みんなが絵里ちゃんとことりちゃん見てたら…ぁあ… 興味があるって…言ったから……」
「で、みんなして飲んだのか!?それで酔ったのか!?甘酒で!?みんなして酒弱すぎだろうが!!しかもなんで全員酔ったら淫乱になるんだよ!!」
「でもお兄ちゃん…これすごいよぉ…すごく、気持ちい」
「それ以上は黙ってろ!頼むからお兄ちゃんの前では純粋な天使でいてくれ!!」
「ふふっ、捕まえたぁ……♡」
「っ!しまったまたっ……!」
絵里が先ほどまでの馬乗りの状態から、完全に俺にのしかかってきた。
俺と絵里は完全に密着状態だ。
絵里のいろいろな柔らかな部分が俺の体にあたり、色々とマズイ。主に俺の理性が!
「あぁん!絵里ちゃんずるいよぉ〜。ことりもそこがいい〜!」
「今は私の番よことり。大人しくしてなさい…?」
「うう〜っ、いいもん!……優真くん。
──────ことりも、そこに、いきたいなぁ」
……! やばい……!
“アレ”が飛んでくる…!!
「おね…ぐぎゅう」
右手は自分の体の下敷きになっていたので、俺は唯一自由がきく左手で、ことりちゃんの顔を掴んだ。
今“アレ”を食らったら、本当にゲームオーバーになる…!
「んっ……優真くぅん…いきなり、強すぎっ…♡もっと優しくシて⁇♡」
「誤解を招くような言い方はやめてもらおうか!!」
「ふふっ♡優真くん……」
っ!もう絵里に抵抗する手段がない……!
今度こそもうダメだ─────
俺は諦めて現実を受け止めようと目を閉じた。
しかし、俺が予期していた感触は、いつまでたってもこなかった。
恐る恐る目を開けると、絵里は俺の胸に顔を埋めていた。
「絵…里……?」
眠っていた。気持ち良さそうな寝息を立てて。
いつの間にか俺の左手から離れていたことりちゃんも、床に横になってスヤスヤと眠っていた。
他のみんなも、まるで屍のように各々伸びていた。
「酔っ払って疲れたら寝るとか呑んだくれの親父かよ……」
冷静に突っ込んだら、一気に疲労感が襲ってきた。
動きたいのは山々だが、上で気持ち良さそうに寝ている絵里を起こす気にもなれなかった。
「……寝よ」
俺は考えることを放棄して、襲ってきた睡魔の波に身をゆだねることにした──────
▼ ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「んっ……」
眠っていたような、感覚。
私、絢瀬絵里はどうやら眠りから目覚めたようだ。
花陽からもらった甘酒を飲んでから、全く記憶がない。
周りのみんなも、死んだように眠っている。
私、いったい何を……?
と、そこで気づく。
自分の下に敷かれている、温もりに。
「ゆっ────────」
優真くん、と叫びかけて堪える。
周りのみんなを起こしてしまう…静かにしないと。
なんで優真くんが私の下敷きに!?!?
しかも、いろいろ当たって─────!
急激に恥ずかしくなった私は、すぐに立ち上がろうとした。
──────でも。
──────心地いいなぁ。
暖かくて、優しい温もり。
出来ることなら、このままずっと─────
「……起きてるなら降りてくれると助かる、絵里」
「ひむっ……!」
再び叫びかけた私を、優真くんは私の頭を抑えて自分の胸に押し付けることで黙らせた。
その突然の行動と、優真くんの体からする男らしい匂いに、ドキドキが止まらずに顔が紅潮しているのがわかる。
「……みんなが起きる」
「……ごめん、なさい…」
沈黙。
結局、優真くんは私をずっと抱きしめたままだ。
それが恥ずかしくて──────少し嬉しい。
「……私、いったい何を…?」
「……覚えてないの?」
「ええ……花陽から甘酒をもらったところまでしか……」
「……そっか。無理に思い出さなくていいと思う。それが絵里のためだ。
─────さて、ちょっと散歩でもしない?」
優真くんの提案に、私は頷いた。
家の外に出て、待つこと2分ほど。
優真くんが家から出てきた。
ちょっと待っててと言われて先に外に出ていたが、何をしていたのだろうか。
「お待たせ、絵里」
「ううん、気にしないで。……何してたの?」
「……花陽の甘酒を処分してきた」
「え!?プレゼントを!?」
「……ここじゃなんだ、歩きながら話すよ」
そう言って歩き出した優真くんの隣に私も並ぶ。
「……花陽がくれたアレ、甘酒じゃなかった」
「え?それってどういう……?」
「……聞きたい?」
「……うん」
「……アレ、アダルトグッズだった」
「アダっ…!?」
「甘酒に模した、媚薬的なのなんだと。
酔ったように感情を昂らせるらしい。
しかもメイドインチャイナ。あいつ、見た目に飛びついて詳しく説明見ないまま買ったんだろうな……」
花陽なら仕方ないか……と優真くんは呟く。
──────────あれ?
「じゃあもしかして……優真くんの上に私が乗ってたのって……?」
「絵里、世の中思い出さないほうが幸せなこともある。
──────それが今だ」
「…………」
顔が、真っ赤になる。
私は優真くんになんて大胆なことを……!
「……ほら」
すると優真くんが手を差し出した。
意図を図りかねて首を横にかしげると、優真くんは少し照れくさそうに言った。
「────────寒いから、手貸してよ。
……繋いだほうがあったかいだろ?」
まだ10月なんだけど、なんて野暮なことは言わない。
「──────────うん……」
そして私は差し出された手を……握った。
「……さっきのお前はもっと激しかったけどな」
「もう!やめてよ優真くん!」
そんな話をしながら、2人で手を繋いで歩く。
優真くんの温もりを手から感じる。
2年前に出会った時からは、信じられなかった。
彼は私が音ノ木坂に来て初めて出来た友達。
そして私の───────初恋の男の子。
いつから好きだったのか、もうわからない。
出会った頃からだった気もするし、つい最近と言われても違和感はない。
それくらい、側にいるのが当たり前で、大切な人。
μ'sと生徒会の対立で、迷惑をかけたこともあったけど、彼は私を見捨てたりしなかった。
彼は、優しい。
優しいが故に、自分を犠牲にすることを厭わない。
行動力があるといえば褒め言葉になるけど、私からすれば、危なっかしくて見てられない。
そんな彼の側に、ずっと居たい。
側にいて、彼を支え続けたい。
彼は私にたくさんのものをくれたから。
彼は私に勇気をくれた。
私に、友達をくれた。
私に、居場所をくれた。
私に───────恋をくれた。
そんな彼に、想いを伝えてみたらどうなるかな?
勝算は全くないけど、ふとそう思った。
─────彼は私のこと、どう思ってるのだろう?
今日あんなに密着して、ドキドキしたのは───
嬉しかったのは、私だけ?
「……懐かしいね」
そんなことを考えながら歩いていると、ある場所へ着いた。
「ここは……」
「……君と出会った、公園だよ」
そう、私と優真くんが出会った場所。
あの出会いが、私を変えてくれた。
「あそこ、座ろっか」
そう言って彼が指差したのは、一つのベンチ。
「……ええ」
1つのベンチに、2人横並びで座る。
それがまるで恋人みたいで、私は思わず顔がにやける。
「……何ニヤついてんの?絵里」
「な、何にもないわよ!」
「……初めて会ったときのこと、覚えてる?」
「ええ。あのときは私を助けてくれてありがとう」
「──────お礼を言うのは俺の方だよ」
「え……?」
「……一回も言ったことなかったけど、俺は絵里に感謝してた。自分を変えたかった俺が、1番最初に出来た友達だったから」
「……優真くん」
「絵里は俺に、きっかけをくれたんだ。
だから俺にとって絵里は───────
特別で、大切な人だよ」
「い、いきなりどうしたのよ、優真くん」
突然の誉め殺しに、自分の顔が赤くなっているのがわかる。
嬉しいけど、恥ずかしい。
「──────────はい、これ」
そう言って彼が私に差し出したのは、小さな箱。
「これは…?」
「──────────誕生日おめでとう、絵里」
「これ、私に…?」
「君の誕生日だろ?他に誰に渡すんだよ。
……さっきは皆に紛れて、あげられなかったから」
「開けてみてもいい?」
「うん。気に入ってくれるかはわかんないけど」
その中に入っていたのは、小さなイヤリング。
「わぁ……!綺麗……!」
金で象られた水の雫の中心に、青く輝くアクアブルーの宝石が収められた、シンプルだが意匠が凝ったデザイン。
その輝きを見て、絶対に安物ではないと思った。
「これ、高かったんじゃないの!?お金っ……」
「ばーか。俺が絵里につけて欲しかったのを買ったの。お金なんか気にするなよ」
「うぅ…でも……」
申し訳なさは、ある。
────────でもそれ以上に嬉しすぎて、ドキドキが止まらない。
「……つけてくれたら、嬉しいな。
絵里がつけてるところ、見たい」
優真くんが少し恥ずかしそうにそう言う。
──────ちょっと仕返ししてみようかな。
「──────優真くんが私につけて?」
「え、俺が?」
「うん。……優真くんに、つけて欲しいな」
「……わ、わかった…で、でも俺つけたこととかないから上手くできるかわかんないよ?」
「いいからいいから!」
私は彼の顔に、自分の耳を近づける。
「じゃ、じゃあつけるよ……?」
彼も緊張しているのがわかる。
イタズラが成功して、少し嬉しい。
──────顔が近い。
優真くんの吐息が耳に当たって、くすぐったい。
さっきから心臓がバクバクしてる。
きっと私の顔、真っ赤だ……!
「──────つけたよ」
私の耳元から彼の顔が離れていく。
それを少し名残惜しく感じながらも、私は彼の顔を見た。
「どう?似合ってる?」
「……………………」
「優真くん…?」
「……あ、あぁごめん。ちょっと、見とれてた…」
顔を赤らめて私から目をそらしながらそういう優真くん。
「──────似合ってる。可愛いよ、絵里」
最後のとびきりの褒め言葉に、私の顔も一気にゆでダコのように真っ赤になる。
「あ、ありが……とぅ……」
照れくさいのと恥ずかしいので、お互いに顔を合わせられない。
沈黙が流れる。
き、気まずい……
「───────絵里、イヤリングがズレてる。直すから耳貸して」
沈黙を破ったのは優真くんだった。
「あ、うん……お、お願い」
先ほどのように優真くんの顔に耳を近づける。
すると彼は先ほどとは違い
自分の口元を私の耳に寄せ
囁く
「───────好きだよ、絵里」
「──────────え?」
突然の言葉に、意識が現実を理解しようとしない。
そして言葉の意味を理解したとき。
今までにないような幸福な感情が押し寄せる。
「いきなりごめんな。返事とか、要らないから」
さぁ、そろそろ帰ろうかと、優真くんがベンチから立ち上がろうとする。
自分は素直じゃない
そんなことわかってる
でも素直にならなきゃ
きっと一生後悔する─────
「わ、私も!」
そう叫びながら、優真くんの手を掴み、座らせる。
優真くんが動きを止める
そんな彼の目を見て
私は、伝える
「私も──────────好き
───────優真くんが、大好き」
繋いだ手が、暖かい。
心臓がバクバクする。
顔が、近い。
その距離、わずか10センチ。
そして2人は
瞳を閉じて
ゆっくりと顔を近づけ
唇を重ね合わ────────
「─────────優兄ィ☆」
ビクッと2人の肩が跳ね上がる。
そしてゆっくり公園の入り口を振り返る。
そこに立っていたのは───────笑顔が全く笑っていないμ'sのメンバー。
「……2人で何してたのかにゃ〜?」
凛が笑顔で問いかける。
────目が全く笑ってないけど。
「抜け駆けとは感心せんなぁ、えりち」
希も普段の優しいオーラは微塵も感じられない。
「絵里……死にたいみたいね」
死にたくないわよ!?物騒すぎるわよにこ!!
「うふふふふ、ふふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふ♪」
ことり、せめて何か言ってよ!
目が殺意すら携えてるんだけど!!
「─────絵里、私の、初めてを……!」
真姫、あなたは何を言っているの!?
1人だけ怒りのベクトルが違うわよ!?
その他のμ'sメンバーも、何も言っていないが、その笑顔はもはや恐怖でしかない。
優真くんも私も、ガタガタ震えていた。
「やべぇ……殺される……!逃げるぞ!絵里!」
「わっ……ちょっと優真くん!」
『待てーーーー!!』
私たちと、μ'sメンバーの鬼ごっこが始まった。
後ろは恐怖。でも不思議と楽しかった。
繋いだこの手
もう離さないでね、優真くん
私が初めて素直になれた
──────────私の大好きな王子様。
微笑む彼女の左耳には、光り輝く青い雫が1つ。
というわけで、絵里ちゃん誕生日おめでとう!
普段の本編では絵里の本来の優しさが強調されるような書き方をするように意識しております!
この記念話だけ読まれたという方、ぜひ本編の方もよろしくお願いします!(露骨な宣伝
さて、次回からは普通の本編の方へ戻ります。
では、今回もありがとうございました!
絵里ちゃんと、絵里ちゃん推しのみなさまにとって素敵な一年になりますように。