ラブライブ! ─ 背中合わせの2人。─   作:またたね

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手を伸ばして

31話 手を伸ばして

 

 

 

 

 

廃校とします」

 

 

──────────────え……?

 

 

音ノ木坂が……廃校……?

 

 

その声を聞いた瞬間

 

 

穂乃果が中へと飛び込む。

 

 

「その話、本当なんですか!?」

 

「……!穂乃果……」

 

「本当に、廃校になっちゃうんですか!?」

 

「……ええ。本当よ」

 

「そんな……!あと一週間だけでもなんとかなりませんか!?絶対になんとかしてみますから!!」

 

 

 

「……えっと、いや、廃校にするっていうのは、オープンキャンパスの結果が悪かったらの話よ」

 

 

 

「オープン……キャンパス……?」

 

「はい。そこで来てくれた中学生にアンケートを取り、その結果で廃校の如何を決めます」

 

「なんだ〜…よかった…」

 

「全然良くないよ、穂乃果ちゃん…!」

 

「その結果次第では、本当に廃校が決まってしまうんですよ……?」

 

「あぁ、そっか……!」

 

「……理事長」

 

絢瀬が理事長の前へと出る。

 

「─────オープンキャンパスに向けて、生徒会は独自に活動をさせてもらいます」

 

今までのお願いとは違う、断言。

絢瀬から感じるのは、そんな断固たる意志。

 

「─────止めても無駄みたいね」

 

その意志に、ついに理事長が折れた。

 

「ありがとうございます。…失礼します」

 

 

 

でも──────そんな気持ちじゃ、何も…

 

────あの時見つけた“答え”はどうした?

 

あの頃に逆戻りじゃないか、絢瀬

 

また義務だけで動くのかよ…!

 

 

 

「おい、絢……」

 

俺の呼び掛けを最後まで聞くことなく、絢瀬は理事長室を後にした。

そして東條と目が合う。

それだけで伝わってくれたようで、東條も絢瀬を追っていった。

 

そして俺たちは再び理事長に居直る。

 

「──────オープンキャンパスは3週間後。

そこで結果を出せなければ……」

 

 

それ以上は理事長は何も言わなかった。

 

 

 

 

「なんとか…しなくちゃ……!」

 

あれから俺たちは『ラブライブ!』エントリーの許可をもらい、部室へと戻ってきた。

 

「やっぱり、私たち……」

 

「後輩のいない学校生活……?」

 

「……そうなっても、仕方ないんじゃない?」

 

「─────そんなこと、絶対させない!」

 

穂乃果が強い気持ちを露わに、宣言する。

 

「オープンキャンパスで、ライブをやろう!

そこで、入学希望者を増やすしかないよ!」

 

「……あぁ。恐らく、オープンキャンパスには部活動紹介がある。そこで歌うんだ。

 

 

─────大勝負だ、気合いいれんぞ」

 

 

俺の言葉に、メンバーも強く頷いた。

 

 

▼▽▼

 

 

「どうするつもり?えりち」

 

希が私に問いかける。

 

「……決まってるでしょ?活動の許可をもらえた今、生徒会は学校存続に向けてオープンキャンパスで行う催しについて考えないと」

 

「……そう。

 

──────それでええの?」

 

「……何が」

 

「────それがえりちの“やりたいこと”なん?」

 

「……そうよ。

 

……希がやりたくないのならそれでいいわ。

 

──────私が1人でやってみせるから」

 

私の言葉に、希は目を見開く。

 

「えりち…………!?」

 

 

「──────行きたいのならあの子達の所に行けばいいじゃない」

 

 

「なんで……そんなこと…!」

 

「……もういいから」

 

「えりち……」

 

傷ついた顔をした希を見て、私も────いや。

 

私は希をそのままに生徒会室へ歩き出した。

 

 

 

────だって私が邪魔なのは貴方達の方でしょう?

 

 

 

 

「1!2!3!4! 5!6!7!8!」

 

あれから一週間が経った。

オープンキャンパスまであと2週間、もう時間はない。

曲は製作途中だったものをサトシの協力を得て急ピッチで完成させた。

これまでも何回か博打を打ってきたが……

この難易度は今までの比ではない。

残された時間で練習を重ねて、完成度を高めていくしかない。

 

でもこの曲は……“7人”で歌うものじゃない。

 

この奇跡を起こすには、“あいつら”の力が必要だ。

 

だけど……

 

現状、絢瀬は俺と東條のどちらも避けている。

説得は困難だ……

 

「5!6!7!8! ストップ!」

 

「よーし!今の所、大分出来るようになってきたね!」

 

「うん!これならオープンキャンパスにも、間に合うかも!」

 

ダンスをしていたメンバーは喜んでいたが、リズムを取っていた海未とダンスを“観て“いた俺の表情は暗い。

 

「……いえ、ダメです…。今のままでは…」

 

「…………確実に間に合わない」

 

俺たち2人の言葉に、残りのメンバーの表情も暗くなる。

……仕方ないで済ませるわけにはいかないが、どうしようもないことではあるのだ。

μ'sはメンバーが増えて7人。ダンスの振付の指導は俺が中心にやっていくのだが、一人一人に丁寧に教えていくには時間がなさすぎる。

そう、ダンスを指導できる人間が足りないのだ。

 

……その時、“アイツ”の顔が思い浮かぶ。

 

…俺もダメだな。いない奴を頼ろうとするなんて。

 

その時。

 

「──────絵里先輩に頼もうよ!」

 

俺の思考を読んでいたかのような穂乃果の提案に、心底驚いた。

 

「絵里ちゃんに……?」

 

「うん!絵里先輩ダンス上手だし、絶対私たち上手になれるよ!」

 

「でも…絵里先輩、生徒会で忙しいんじゃ……」

 

「そうよ。…それにあの人が私たちのために好意的に動いてくれるとは思えない」

 

「それは違うわ、真姫。絵里は態度こそ冷たいけど、心の中では私たちを応援してるのよ」

 

穂乃果の言葉は、少なからず動揺を生んだ。

俺自身もまだどうするのが正しいのかわからない。

……いや、どうすればいいかなんて最初からわかってる。

私情が絡んで、逃げたがってるだけだ。

 

「─────俺は賛成だ」

 

「優真先輩……。──────私も賛成です」

 

「朝日さん…?それに海未先輩も…?」

 

「穂乃果が正しい。俺一人じゃ全員に伝えられる分には限界がある。絢瀬が俺たちに指導してくれるなら、俺たちは確実に一段階先へと進める。

……俺たちに時間はないんだ、手段なんて選んでられないのは真姫だってわかってるだろ?」

 

「……そう、ですよね。すいませんでした」

 

「残りのみんなも、いいか?

もちろん絢瀬には無理はさせない。逆に俺たちも出来ることは生徒会に協力しよう」

 

俺の言葉に、全員が頷いた。

 

 

 

 

「失礼します!」

 

俺たちはすぐに生徒会室を訪れた。

絢瀬と東條はもちろんそこにいた。

ただ、心なしか空気が、重い。

最近クラスですら2人が話しているのを見ない。

 

「…どうしたの?」

 

絢瀬が無表情のまま俺たちに問いかける。

 

「─────絵里先輩、私たちにダンスを教えてくれませんか!?」

 

「……私が?」

 

「はい!次のライブを成功させるには、絵里先輩の力が必要なんです!」

 

「……私にそんな時間はないわ。貴女達だってわかってるでしょ?」

 

「そこをなんとか!お願いします!私たちが生徒会で手伝えることなら、なんでもしますから!」

 

『お願いします!』

 

全員で、頭を下げる。

 

「貴女達……」

 

「……いいんやない?えりち」

 

「希……」

 

「実際生徒会は人員不足、生徒会を手伝ってくれるんならえりちがダンスを教えるロスを差し引いても、プラスになるんと違う?」

 

「……」

 

さすが東條。俺がフォローが欲しい時に、的確なフォローをくれる。

 

「……わかったわ。ダンス、見させてもらうわ」

 

「絵里先輩……!」

 

メンバーが喜びの声を上げる。

そんな中、一人の少女が皆と様子が違うのな気になった。

 

……真姫?

 

真姫だけは厳しい目つきで絢瀬のことを見ている。

何を考えているのか、俺にすらわからない。

 

「じゃあえりち、早速アレ聞いてもらわん?」

 

「アレ?」

 

「オープンキャンパスで発表する生徒会の学校紹介。ウチらで考えたんやけど、他の人のアドバイスも欲しいんや」

 

「……わかった。みんなもいいよな?」

 

俺の問いに、全員が頷く。

 

 

 

 

「ですから、音ノ木坂学院は非常に歴史に満ちた学校であり……」

 

絢瀬の凜とした声が、生徒会室に響く。

つくづく生徒会長向きだな、なんてことを考えながら絢瀬のスピーチを聞いていた。

 

ただ……

 

内容は、きっと……

 

東條は2人でこの原稿を考えたといっていたが…

多分嘘だろう。東條も一緒に考えていたのなら、こんな内容になるはずがない。

内容はよく言えば模範的。

悪く言えば……堅い文で、聞いていてつまらない。

 

スピーチを聞いている間、μ'sメンバーはそれぞれ多様だった。

 

真面目な面持ちで話に耳を傾ける海未、ことりちゃん、花陽。

顔をしかめながら聞いている矢澤、真姫。

そして首をカクカクと揺らしながら睡魔と戦っている穂乃果と凛。

 

「んあああああらっしぇあ!!」

 

奇妙な叫び声と共に、穂乃果が目覚めた。

絢瀬も思わず原稿を読むのをやめ、ぽかんとした顔で穂乃果を見つめていた。

 

「……ごめんなさい、面白くなかった?」

 

「あ…いえ!知らなかったこともたくさん聞けて、すごく興味深かったです!」

 

穂乃果の言葉に同意の笑みを浮かべる何人かのμ'sメンバー。

 

違っていたのは、2人。

 

 

「私は面白くなかったわね」

 

「私も」

 

 

矢澤と真姫の両名だ。

 

 

「……絵里、アンタ本当に新入生を音ノ木坂に勧誘する気あるの?」

 

「…当然よ」

 

「だったら何よそのスピーチは。確かにアンタのスピーチは完璧だわ。学校の紹介もできてるし、アンタの学校への思いも伝わってきた。

でも、あんなスピーチを聞いて私は音ノ木坂に来ようとは思わないわね」

 

「っ……!」

 

「いい?絵里。私たちはオープンキャンパスを成功させるだけじゃダメなのよ?

“大成功”させないとダメなの。

オープンキャンパスに来てくれた中学生が、音ノ木坂を受験したいと思ってくれないと意味がないの。

アンタのスピーチは“普通の”学校がやる普通のスピーチ。

でも音ノ木坂には後がないのよ?

そんな普通のスピーチしていいわけ?」

 

矢澤の言葉は厳しい。

しかしそれは同時に相手に対しての優しさも孕んでいる。

だから俺は矢澤を止めなかった。

 

「今のままのだったらアンタのスピーチなんて学校を出る頃には忘れてるわ。もっとオープンキャンパスに来てくれた人の印象に残るようなスピーチを考えるべきだと思うわ」

 

「にこ……。ごめんなさい、ありがとう。

とても参考に、なったわ……」

 

「……こっちこそ、色々文句言って悪かったわね。

…今日は原稿の見直しとかで忙しいでしょう?

ダンスの指導は明日からお願いするわ。

……さ、みんな戻りましょ」

 

矢澤の指示で、みんなが生徒会室を後にしようとする。

 

──────ただ一人を除いて。

 

「真姫?どうした?」

 

「─────ごめんなさい、先に行っててもらえます?

私、先輩と話がしたいから」

 

「……ウチも出てったほうがいい?」

 

「……できれば、助かります」

 

「そっか。ほないこ!ゆーまっち!」

 

「えっ…ちょ、おい!押すな!」

 

東條が俺を押して、生徒会室から追い出した。

 

「みんな!先に上がっといてくれんかな?ウチもゆーまっちに話があるから!」

 

東條が残りのメンバーにそう言うと、みんなは屋上へと向かっていった。

 

「……で、話って?」

 

「ん?ないよ?」

 

「は……?」

 

「……気になるやろ?」

 

そう言って東條が指差したのは、生徒会室のドア。

 

「……お前、最低だな…」

 

「結構結構♪ほら、聞くよ聞くよ!」

 

 

はぁ…とため息をつきながらも正直気になっていたので、俺もノリノリでドアに聞き耳を立てた。

 

 

▼▽▼

 

 

「こうやって2人で話すのは初めてですね、絢瀬先輩」

 

「……そうね」

 

私、絢瀬絵里は今生徒会室で後輩と2人きりだ。

彼女は西木野真姫さん。希から聞いた話では、穂乃果達3人のファーストライブの時に曲を作ったのは、彼女なんだとか。

だとするなら……すごい才能だ。

しかしそんな彼女と私は正直あまり接点はない。

一緒にカラオケに行ったことがあるのは事実だが、実質その時が初対面で会話もなかった。

 

「……で、西木野さん」

 

「真姫でいいですよ」

 

「……真姫、話って…?」

 

「……あなたに、ずっと言いたいことがあったんです」

 

彼女は躊躇いながら……それでも瞳には確かな覚悟を宿し、言葉を紡いだ。

 

 

 

「私はあなたのことが嫌いです」

 

 

 

「っ……」

 

何も飾らない、ただ事実だけを告げたその言葉は、私を傷つけた。

 

「あなたを見ると思い出すんです……以前の私を」

 

「以前の……貴女?」

 

「……“やりたいこと”と“義務”の板挟みになって、自分でもどうすればいいかわからなかったあの頃の私に。─────今のあなたもそうでしょう?」

 

「…………」

 

「…穂乃果先輩達は、あなたをとても尊敬してる。そして、強く信じてる。穂乃果先輩達から聞くあなたの姿は、優しく立派で、とてもしっかりとしている姿。

……少なくとも、以前の私のような優柔不断な今のあなたの姿は、私の尊敬に値しないわ」

 

……何も、言えない。黙って聞いているしかない。

 

「……そんな今のあなたの様な私に、ヒントをくれたのは朝日さんでした」

 

「……優真くんが?」

 

「はい。彼はそんな私を助けてくれた。

 

だから今度は、私があなたを助けます。

 

───────絵里先輩

 

 

あなたの“本当にやりたいこと”はなんですか?」

 

 

「……!」

 

私が……“本当にやりたいこと”。

 

私は考える。

けれど答えは出ない。

躊躇いと迷いが、私の心を縛り付ける。

 

「……今はまだ答えが出ないと思います。私もそうだったから」

 

「貴女は……どうやって答えを見つけたの?」

 

「……私は最後まで一人で答えを出せなかった。

でも、あなたならできるはず。

あなたは私よりも、賢いですから」

 

真姫はそう言って、初めて私に笑顔を見せた。

今の話を聞いた後の話には、その笑顔は苦悩の果てに答えに辿り着いた大きな輝きを宿して見えた。

 

「私からも、ヒントを。

……“一つじゃなくてもいい”んですよ?」

 

「え……?」

 

「……それでは私はこれで。

……信じてますよ?私だって、あなたを尊敬したいので」

 

最後にそう言い残し、真姫は生徒会室を後にした。

 

……私の本当にやりたいこと………。

 

わかっているようで、心のどこかがそれを認めようとしない。

……ゆっくり考えよう。そして絶対、答えを見つけ出す。

そう決意して、私は大きく深呼吸をした後、原稿の修正に取り掛かった。

 

 

 

 

部屋から出てきた真姫から俺たち二人にかけられた言葉は、予想外のものだった。

 

「……お待たせしました。さぁ、行きましょう」

 

「……え?怒んないの?」

 

「何がです?」

 

「ウチら、盗み聞きしてたのに…?」

 

「わかってましたよ、そんなこと。

…っていうか、2人が聞いてるの前提で話してましたし」

 

真姫も心底呆れたような表情を浮かべている。

 

これは……一杯食わされたな。

 

俺は真姫の頭にぽんっと手を乗せた。

 

「真姫……ありがとな」

 

「なっ……!べ、別に!私はμ'sのためを思ってやっただけで……あっ」

 

口を滑らせたことに気づいたらしい真姫は、顔を真っ赤にした。

 

「……そうよ!μ'sのために、絵里先輩の力が必要だと思ったのよ!悪い!?」

 

「いや、ウチら何も言ってないけど……」

 

「……それに。……どうせ一緒にやるなら…メンバーになってほしいから。

それだけです、ほら行くわよ!」

 

真姫はそう言って一人で走り出してしまった。

そんな様子をみて俺と東條は目を合わせると、2人で笑った。

 

 

なぁ、絢瀬。

お前の周りはこんなに優しい人でいっぱいなんだ。

だから……後はお前が……

その手を受け入れるだけ。

 

 

そして俺たちも真姫を追って屋上へと歩き出した。

 

 

 

 

 




今回試験的に改行を控えめにしてみました。
今までのを振り返って改行の幅が大きすぎたような気がしたので…
前の方が見やすいとか今回の方が良かったとかありましたら、
ぜひ感想欄に書き込んでくれたら嬉しいです。
今後の参考とさせていただきます!
さて、次回のタイトルを発表します

Venus of AquaBlue 〜ユキドケ

今までを超える大ボリュームでお届けいたします。
更新まで少々時間がかかるかもしれませんが、ぜひご期待ください!
では、今回もありがとうございました!

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