37話 【Days.1-1】スタート!夏合宿!
「全員揃ったわねー?」
とある駅。
絵里が点呼を取る。そう、今日はついに合宿の開始日だ。俺たち11人は、これから真姫の別荘で3日間合宿を行う。
……今不思議に思ったことはないかい?
『ん?11人?』ってね……
「皆さん!3日間よろしくお願いします!!」
憧れのμ'sを目の前に、ガチガチに緊張しているのは……そう、サトシだ。
今回、練習だけではなくナツライブで歌う曲を作ることにもなっているので、サトシの協力が必要不可欠だ。というわけで、満場一致でサトシも合宿に参加することになった。
ちなみに、サトシと3年生、真姫以外のμ'sメンバーは、オープンキャンパスの曲を作ったときに面識があるので、初対面ではない。
「剛力くん、今日からよろしく頼むわね」
「いえいえ絢瀬さん!俺みたいなやつがこの合宿に参加させていただいて光栄です!」
「そんなかしこまらんでええんよ?もっと気楽にいこっ♪」
「ああ東條さん!お心遣いありがとうございます……!」
「肩の力抜きなさいよ。アンタにそんな態度取られたらにこたちまで緊張してきちゃうじゃない」
「は?矢澤は少し黙ってろ。俺は今このお二方と喋ってるんだぜ?」
「ぬぁんでにこの時だけ態度が違うのよ!!」
μ's3年生組と、サトシのやりとりを見て周りが笑いに包まれる。
「まぁ、サトシ。本当に気楽にしなよ。こっちまで固苦しくなりそうだ」
「そうですよ!剛力先輩!私たち先輩の事も仲間だと思ってます!合宿に参加してくれて、むしろ感謝してるくらいです!」
「あぁ……高坂さぁん…うぐっ……ありがとう……」
「えぇ〜……」
「悟志、泣くとかキモいからヤメテ」
真姫は軽蔑した表情で、それ以外のみんなは少し引いたような態度で突然泣き出したサトシを見ていた。
「はいはい、穂乃果の言う通りよ、剛力くん。
……ところで、提案があるんだけど」
パンパンと手を鳴らして、注意を自分に向けて指揮を取ったのは絵里。μ's加入から数週間経ち、今ではしっかりメンバーを仕切るリーダー格だ。無論、周りも絵里が適任だとわかっているので、文句の声は上がらない。
そしてこの提案は……俺と希と絵里の今回の合宿の大きな狙いでもある。
「……提案…ですか?」
「そうよ、海未。μ'sはこれから───────
───────“先輩禁止”よ」
「先輩……」
「禁止⁇」
「俺と絢瀬で考えたんだ。今までμ'sは部活動的な側面も強かったから、先輩後輩の垣根を取り払ったほうが色々とプラスになることが多いんじゃないか、ってね」
「……確かに、今まで先輩ということもあって、意見を遠慮してしまうこともありましたね…」
「だろ?海未。みんなもそういうこと、ないか?」
「確かに……」
「正直先輩後輩なんて、ステージの上では邪魔になるだけかもね。にこは賛成よ」
「じゃあ、そういうことで。
μ'sはこれから先輩禁止よ!わかった?穂乃果っ♪」
「は、はい!……絵里ちゃんっ!」
「ハラショー♪」
「じゃあ凛も!ことりちゃんっ!」
「はい、凛ちゃん♪」
「ん、案外すんなりいけたな?」
「なんか、ずっと一緒にいるから、むしろこっちの方がしっくりくるっていうか……ね?穂乃果ちゃん!」
「うん、凛ちゃん!」
俺の疑問に、笑顔で答えた凛と穂乃果。
なるほど、な……
……その言葉で1人の少女の表情が少しだけ暗くなったのを、俺は見逃さなかった。
「じゃあ、穂乃果。矢澤のこと呼んでみ」
「うえぇ!?……えっと…」
「何緊張してんのよ。絵里の時はすんなりいけたじゃない」
ま、難しいだろうな。
穂乃果は矢澤に憧れてアイドルを始めたわけだから、その先輩に敬語を外せってのは難しい話だろう。それに穂乃果、こんなんだけど結構礼儀正しいからな。
……っていうのをわかって穂乃果に話を振った俺も俺なんだけどな。
「…………にこちゃん!」
「やれば出来るじゃない」
穂乃果は顔を赤くしている。そんな穂乃果を見てニヤニヤと笑う矢澤と俺だった。
「……じゃあ、優真くんも先輩禁止なの⁇」
「ん?どういうこと?」
「ゆ、優真先輩を、先輩を外して呼べと……?」
あぁ、そういうことか。
……でも、俺を先輩つけて呼んでるの、海未と穂乃果だけなんだけどな。
「呼びやすい方でいいよ。今更変えるのも大変だろ?それに、俺はステージで踊るわけじゃないし」
「……では、私は優真先輩で…」
「私も、そうしようかな!ずっと優真先輩って呼んできたからこっちの方が呼びやすいし!でも、敬語は外すね!」
「うん、全然いいよ」
「ありがとう!優真先輩!」
「おう。んで、サトシのことなんだけど。
こいつは先輩禁止で!」
「えっ!?ゆ、ユーマ!?」
「これからもサトシには協力してもらうことになるだろうし、この合宿がいい機会になるだろうから、仲良くなってやってくれ。いいよな?サトシ」
「お、おう。か、構わんぞ。ただ……」
「ただ?」
「お、俺のことは…悟志って…呼んでほしいな…」
「いらねぇよ!そんなピュアなカミングアウトお前のキャラじゃねぇだろ!!しかも語尾にハートマークつきそうな口調で言ってんじゃねえ!吐くわ!」
「 しっ、失礼だぜユーマ!お、俺だって……ど、ドキドキしちゃうんだぞ…?」
「筋肉ムキムキの益荒男がんなこと抜かすな!普通にキモいんだけど!!」
「う、うるせぇ!普段から女子に囲まれてるお前にはわかんないだろ!!」
こいつ……ウブすぎる!!
確かに今までこいつと女っ気のある話は全くしてこなかったけど……ただの根性無しじゃねぇか!
よくこの間は『彼女、ゲットだぜ!』とか抜かしてたな…
「あ、あはは……じゃあ、悟志くん。私は貴方をそう呼ぶわ。私のことも絵里でいいわよ」
「ウチも希でええよ!よろしく、悟志くん!」
「凛も凛も!悟志くんよろしくにゃ!」
μ'sメンバーがそれぞれ悟志くん、悟志さんと呼び合う。誰がどう呼んでるかはフィーリングで考えてくれ。多分あってるから。
「み、みんな……!ううっ…ありがとう!これからよろしく頼むぜ!」
ようやくサトシが本来の明るさを取り戻した。
先輩禁止はやっぱり正解だったな。
「そっちのほうがアンタらしいわよ。……悟志」
「は?なんで矢澤が呼び捨てしてんの?怒るよ?」
「だからなんでいちいちにこにだけ当たり強いのよ!!」
「漫才はそれくらいにして。家の車来たから。さ、行きましょ」
「真姫の言う通りよ。ほら、行くわよ?にこ」
「私が悪いっていうの!?」
「にこちゃんうるさいにゃー」
「ここ公共の場だし……静かにしないとダメだよぉ……」
「あーもう!知らない!!」
ふてくされた矢澤をみて、皆笑いに包まれた。
最初の雰囲気はよし。
さぁ始めよう!合宿だ!
▼
「ここが……?」
「別荘……?」
「大きいにゃー……」
真姫の家の車に乗って連れられてきたのは、真姫の実家にも勝るとも劣らない大きさを誇る立派な建物だった。
真姫以外の面々は、その大きさに見合った門の前で目の前の別荘を見上げるばかりだ。
「ありがと。……もう1サイズ大きな車でお願いすればよかったわね」
「いや、真姫。11人全員で乗れる車なんて私達乗ったことないから。十分だから!」
全くもって絵里の言う通り。
真姫は絵里の質問に軽く首を傾げると、何事もなかったかのように、門の横に鍵を差し込んだ。
──────これはまさか。
────────ガコン!
「「やっぱり!!」」
「い、いきなりどうしたのよ花陽、朝日」
「……自動門…」
「別の場所でも見られるなんて……」
真姫の家に行ったときぶりの自動門に若干感動を覚えながら、俺たちは先導する真姫に続いて別荘の中へと入っていく。
▼
「わぁー!中もやっぱり広いね!」
二階に荷物を置いて、俺たちは一階のリビングへと戻ってきた。もちろん男女別で、俺とサトシは同じ部屋。
「楽しそうね、ことり。……これなら、室内でも練習できそうね」
「もしかしてえりち、歌の練習もするつもり?」
「当たり前でしょ?『ラブライブ!』はもちろん、ナツライブまでも時間がないんだから。やれることは精一杯やりましょう?」
「私も、絵里先輩に賛成です。このような恵まれた環境、活かさない手はありません!」
「……海未?」
「えっ?……あっ…」
「……“先輩禁止”よ?」
しまった、という顔をした海未を絵里が笑いながら指摘する。そのまま流そうとした海未を、『今ここで』という顔をした絵里が逃がそうとしない。海未はしばらく戸惑っていたが、ゆっくりと口を開いた。
「──────絵里、さん……」
「…………」
「な、何か悪いところでも!?」
「なんだかな……」
「コレジャナイ感ハンパないのよね………」
「ゆ、優真先輩と……に、にこさんには関係がないでしょう!?」
「……やっぱり、海未…」
「ちょっと、距離感じるわ〜」
「呼び捨てでいいんじゃないか?」
「よ、呼び捨て!?目上の方を!?」
「それ無くすための先輩禁止だろ?慣れてもらわないと、逆に困るんだけど……。俺のことは別に先輩付けでもいいけど、せめて絢瀬たちだけでも、な?」
「……うぅ…」
海未は俺の言葉に更に困った様子を見せながらも、しばらく経つと覚悟を決めたように…顔を赤くしながら絵里と向き合い────
「─────────絵、里……」
「……なーに?海未っ♪」
「────────希…」
「んー?どうしたん?海未ちゃん♪」
「────────にこ」
「やればできんじゃないのよ、海未」
「うぅ……緊張しました……」
「お疲れ様、海未ちゃん♪」
「ことりは!あなたも先輩たちを……って……」
「……元からちゃん付けなんだよね〜♪にこちゃんも、慣れれば大丈夫かな⁇」
羨ましいような、悔しいような表情を海未に向けられても、気にしないというようにいつもの可愛らしい笑顔で笑うのはことりちゃん。
俺たち3年生も、その光景を見て思わず笑顔になる。
そこに、別荘に無事到着したとの報告を両親にしていた真姫が戻ってきた。
「お待たせしました……って、残りのみんなは?」
「残りのみんな?」
そういえば……やけに静かだなとは思ってたけど、あいつらがいない。単細胞コンビ…花陽……それにサトシも。
───────嫌な予感がするな。
そのとき、二階からドタドタと音が聞こえてきた。
「にゃにゃにゃにゃにゃーーーー!!」
「やっほーーーい!海だ海だーー!!」
「? 穂乃果、呼びました?」
「そんなボケいらないから!!おい、何してる!?」
二階から駆け下りてきたのは、穂乃果と凛。
……しかも水着姿で。
「え?何って……海に行くんだよ?」
「見ればわかると思うにゃ」
「うん。見ればわかるね。なんで海に行くんだよ、練習は!?」
「「………………あはっ☆」」
「舌出して可愛くいえば許されると思うなよ!
ダメだ。何のためにここ借りてると思ってるんだよ。さ、練習すんぞー」
「えぇー!そんなー!」
「海は!?」
「私ですが……?」
「それはもういいから!」
『おぉ〜!』
ふとみんながある一点を眺めながら声を上げたので、俺もその方向を向くと……
そこには水着姿の花陽の姿があった。
「花陽ちゃん、かわいいっ!」
「うぅ……あ、あんまり見ないでぇ……」
「…似合ってるぞ、花陽。……じゃなくて!
何でお前まで水着着てるんだよ!」
「だ、だってぇ……凛ちゃんと穂乃果ちゃんが海に行くって引っ張ってったから……」
「不可抗力なんだな、よしならお前は俺の味方だ。ほら、お前らさっさと着替えてこい」
「えぇー!なんでー!?」
「せっかく海に来たんだよ!?」
「せっかく海に来たから、練習だろ?」
「うぅー優真先輩のケチ!」
「ケチで結構」
ここは心を鬼にしなければ…。
「でも、お兄ちゃん……私も海に、行きたいな…」
「花陽!?お前こっち側じゃないのかよ!?」
「えへへ……」
くっ………我が妹ながら何ていう可愛さ。
……あ、妹じゃなかった。
「その辺にしとけよ、ユーマ」
再び、二階から声がした。
その声の主が、姿を表した────────
水着姿で。
「サトシ!お前もかよ!!あと筋肉すげぇなおい!」
「ん?そんなにジロジロ見るなよ……照れるぜ…」
「いや俺にそっちの気はねぇから!!しかもお前その水着……」
「ん……どうかしたか?」
サトシの水着は……まさかのブーメランパンツ。
別の意味でスタイルがいいサトシが履くと、どうしても面積が小さく見える。
ほら、メンバーの中にも数名目のやり場に困ってる人、いるし……花陽とか海未とか。
「……まぁ、いいんじゃないかしら。もうこんなに水着に着替えちゃってるんだし」
「絢瀬………」
「優真の気持ちもわかる。けど、みんなで遊ぶこともμ'sの先輩後輩の垣根を取り払ういい機会になるんじゃない?」
「……確かに、そうだけど……」
「私は反対です!」
「海未!お前だけが俺の味方だ!」
「さ、悟志さん……!あ、あのような破廉恥な水着で遊ぶなど……許しませんよ…!」
「そこ!?お前の反対ポイント、そこなの!?」
「……そこもですが、やはり練習すべきです!このような恵まれた環境で練習できること、真姫に感謝しながら練習するのが最善かと…」
おお、さすがは海未。俺の言いたいことを見事に代弁してくれたぜ。
これで海未はこちらの味方。
人数的には2対多だが、海未の意思は固い。
これで勝てる……!
「ふふふ〜♪」
「……なんだよ、東條」
「ウチ知ってるもんね〜♪
──────ゆーまっち、みんなの水着姿見るのが恥ずかしいんやろ?」
「なっ……!」
「あー、優兄ィ顔赤いにゃ〜」
「う、うるさい!ち、違うし!」
「優真先輩、全然説得力ないよ〜〜?」
「黙れ穂乃果。ニヤニヤしながらこっち見んな!」
くそ、希のやつ……!
図星なだけに反論しにくかった。
ことりちゃん達の水着の試着を見たとき、悟った。
あぁ、これは無理だと。
見てるこっちが恥ずかしくなる。
目の保養になる…以前に、俺にとっては目に毒だ。
特にμ'sはスタイルいいやつも多いし。
だからそれとなく練習に逃げようとしたのに……
べ、別にこれが一番の理由じゃないから!
「なんだよユーマ。水着なんかに照れてんのか?」
「うるせぇ!お前はどうなんだよ!?」
「アイドルの水着なんて見慣れてるからな。このぐらいなんてことないぜ!」
「くっ……汚ねェ野郎だ……」
「アンタ達…にこをそんな目で見てたのね。引くわ」
『お前は別に大丈夫だから安心しろ』
「どういう意味よ!?」
「とにかく!海で遊ぶのは無し!」
えぇ〜、と声が上がった。
……きっとここでことりちゃんが俺の意思を変えるためにアレを使ってくるはず。何回も食らってるんだ、使ってくるタイミングなんて大体察しがつくさ。耐えてみせる…!何回これに屈してきた?流石にもう耐性はついたはずだ……!
盛大にフラグを立てたそのとき。
「─────────優真くん………」
来た──────────!
来いよ、耐えてやるぜ……!
その呼びかけに振り向くと…
そこにはことりちゃん─────
────と一緒の表情を浮かべた花陽の姿。
まさか。
「待って!!ダブルパンチはまず─────」
『───────おねがぁい!』
………………………………。
「────海未、水着に着替えてこい。海行くぞ」
「な…!ゆ、優真先輩!?」
あれは無理だ。
耐えるとか耐えられないとかそんな話じゃない。
不可抗力。
「練習して正解だったね、花陽ちゃん♪」
「うん!ありがとう、ことりちゃん♪」
「仕込みが細かいわね、アンタ達……」
「……海未、どうする?」
「……はぁ…。終わったら練習ですよ…?」
「ふふふっ♪──────それじゃみんな!
──────たくさん遊ぶわよ!」
『おぉーー!』
かくして俺たちは、海をエンジョイすることになった。こうなりゃヤケだ、俺もアホみたいに楽しんでやるぜ!そう決意した俺は自分の荷物のある部屋へと戻り、水着に着替えるのだった──────
突然ですがこれまで評価をつけていただいた皆様に感謝の言葉を贈りたいと思います。
今まで一回もしたことがなかったので笑
本当は50話行ったときにやろうかなと思っていたのですが、早めの方がいいかなっていうのと、総合40話も記念になるかな、と思いまして。
グラニさん パフェ配れさん ウォール@変態紳士さん 田千波 照福さん くるくる凛さん l爺lさん 縫流さん 塩釜HEY!八郎さんtreebugさん シベリア香川さん マジェントさん 使露さん めっしゅさん
評価本当にありがとうございます!これからもこの作品をよろしくお願いします!
それから、この作品をお気に入りに登録してくださっている方々、本当にありがとうございます。この作品を書こうという原動力になるのは、皆様の応援のおかげです。
これからも精一杯執筆していきますので応援よろしくお願いします!
今回もありがとうございました!
感想評価アドバイス等お待ちしています!