ラブライブ! ─ 背中合わせの2人。─   作:またたね

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合宿の1日目の夜の話です。
就寝時の優真と悟志の場所についてですが、絵里の横に優真、原作の真姫の場所に悟志、希の横に真姫となっております。
それ以外のメンバーの場所はアニメの通りです!
それでは今回もよろしくお願いします!


【Days.1-4】バトル!終わらない夜!

40話【Days.1-4】バトル!終わらない夜!

 

 

 

君の過去を知ってる」

 

 

 

サトシは今まで見たこともないような真面目な顔をしてそう言った。

 

「……先生から聞いたのか?」

 

「あぁ。ユーマがどんなことがあってあんな風になったのか、気になったから」

 

「……知ってたなら、言えよ」

 

「言うつもりなんてなかったさ。ユーマとは楽しくバカなことしていたかったからな」

 

「……真姫はそのことを知ってるのか?」

 

「んや、少なくとも真姫は知らないはずだぜ?」

 

良かった。

俺の過去を知った上であんな接し方をされ続けてたなんて胸糞悪すぎるからな。

 

「……で?なんで今それを話題に出した」

 

「……真姫から色々話は聞いてた。1年生が加入しやすくなるように手を差し伸べたのはお前で、絵里さんと希さんがμ'sに入れるようにしたのもユーマだってな。

……さっきも言ったけどお前は優しい。優しいから苦しんでる人をなんとかして助けようとする。

……でも、思うんだ。

 

────それはまるでユーマが“過去の自分を助けようとしているみたいだ”ってな」

 

「っ─────────!!」

 

「何回でも言ってやる。ユーマ、お前は優しい。

優しいからこそ、“優しさ”の使い方を間違っちゃいけない。

 

 

 

今のお前のソレは─────唯の“自己満足”だ」

 

 

 

「………………………………」

 

否定、できない。

俺はただ、傷ついた彼女たちを見て自分と重ね合わせ、それに救いの手を差し伸べることで自分が救われた気分に浸っていただけだったのか……?

 

 

……でも。

 

「……だったら放っておけばよかったっていうのかよ」

 

サトシを鋭く睨みつけた。

心の奥から湧き上がる激情を抑えつけようとしたが無理だった。

 

 

「目の前で苦しんでいる人を見て何もしないでいろって!?無理に決まってるだろ!!そんなこと……俺には出来ないっ!!」

 

 

この気持ちは嘘じゃない。

誰かを傷つける自分から─────誰かを助けられるような自分へと。

そんな自分に変わりたいから、俺は。

 

「違う、そうじゃない。その思いは大切だ。

だからこそ、だ。

お前の誰にでも平等なその優しさで、傷つく人がいるんじゃないのかって言ってるんだ」

 

「だからなんだよ。それが苦しんでる人を放置していい理由になるっていうのか?

 

俺は“優しくなりたい”んじゃない

 

“誰かを助けられるように”なりたいんだよ!」

 

「……馬鹿が…!それが自己満足だって言ってんだよ!!」

 

「自己満足でもなんでも!!俺はそうなるんだ!!ならなきゃいけないんだよ!!」

 

お互い立ち上がり、激しく睨み合う。

一触即発の空気。だからと言って俺は自分の意見を曲げるつもりはない。

これは俺だけの意志じゃないんだ。俺と、母さんと、凛の───────

 

しばらく睨み合った後、サトシがはぁ、っとため息をつく。

 

「……ユーマ、俺はお前の意志を尊重したい。

だから、一つだけアドバイスだ。

─────本当にそうなりたいなら、お前には足りないものが一つある」

 

「……なんだよ」

 

「それはお前が自分で気付くことだぜ?

 

 

 

────────逃げるな、向き合え」

 

 

 

最後の二言は、俺の心に深く突き刺さった。

俺の曖昧な心の内を見透かして告げられたその言葉が全てのように思えた。

 

そしてしばしの沈黙の後、先ほどとは打って変わってにかっと笑って見せたサトシが口を開く。

 

「……まぁ俺が言いたかったのはそんなところだぜ!悪かったな、色々酷いこと言っちまって」

 

「……別に気にしてねぇよ。俺も熱くなっちまってごめんな」

 

「はは、お互い様ってことだな。……あーあー、ガラにもないことするもんじゃないな。恥ずかしくてたまらないぜ」

 

心なしか頬を赤らめながらサトシが笑う。

 

「じゃあ仲直りの印に…覗きにでも行こうぜ!」

 

「はぁ!?何言ってるんだよお前!?」

 

「こんな奇跡あり得るか?9人もの美少女が一糸纏わぬ姿で和気藹々としているんだぞ!?これを覗かずして何をするっていうんだ!?」

 

「色々と最低だなお前!」

 

……まぁでも。

こんなバカなことを言ってる方が俺とお前らしいよな。

こいつも空気を変えようとしてるだけで本気で言ってるわけじゃないだろうし、たまには乗ってやるのも悪くないかもな。

 

「……わかった。その提案、乗るぜ」

 

「マジかよユーマ!お前がいれば百人力だぜ!」

 

「……じゃあ行くか!」

 

「いざ覗き!」

 

ガシッ!

互いに相手の手を強く握り、友情の握手を交わす。

……あれ?本当に行くの?冗談だよね、サトシ!?

 

 

その時

 

 

 

 

「─────ナニを覗くの?」

 

 

 

 

大寒波のような冷気を纏ったその言葉が俺たちに突き刺さり、震えを呼び起こした。

ゆっくりと声の主の方を向くと……

そこに立っていたのは真姫。その後ろには他のメンバー。即ちμ's全員。

全員が同じような視線を俺たちに向けている。

形容するならば……“ゴミを見るような目”だ。

 

マズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイ…………!

 

口角が釣り上がってピクピクしているのがわかる。

何か策を講じねば……この現状を打開する何かを!

 

考えろ────────

 

冷静になれ──────

 

 

ことりちゃんが痴漢にあっていた時ばりの思考を働かせ、全力で生き延びる策を編み出そうとする。

そこ、無駄遣いとか言うな。

 

 

────────!

 

 

ひ、閃いた……!でもこれでいけるのか…?

でもこうするしかねぇ!頼むサトシ、うまく合わせてくれよ……!

 

 

 

「おおおぉぉぉおおあああぁぁぁ!!!」

 

「うぐはぁっ!!」

 

俺はサトシの手を振り払い、その勢いのままサトシの顔面をぶん殴った。

 

 

 

「おらぁー!サトシてめぇー!しっ、新曲に“覗き”なんて歌詞、つっ、使えるわけねぇだろうがあぁー!」

 

 

 

しくじった気しかしねぇぇぇぇ!!

でも後はサトシを信じるしかない!

頼むサトシ、話を合わせてくれ……!

 

 

 

「……何しやがんだてめええェェェエェ!!」

 

「ごはぁあああっ!!」

 

サトシは怒りに満ちた表情でお返しとばかりに俺の顔面を本気でぶん殴ってきた。

鍛え抜かれたサトシの肉体から繰り出された鉄拳は的確に俺の頬骨を打ち抜き、俺の体は力量に従って数メートル後方に弾け飛んだ。

 

……わかってない!

こいつ絶対に俺の作戦の意図わかってないよ!!

確かに悪かったけど本気で殴ることないだろ!!

 

し、しかしまぁなんとかうまくいった…!

これで覗きの話が歌の話だと誤解させることができたはず────────

 

 

 

「───────茶番は済んだかしら」

 

「真姫ちゃーん、言われた通り手錠と縄持ってきたにゃー」

 

「ゑ?」

 

「鞭とバットもあったから取ってきたよー」

 

「よし。──────さて、命乞いするなら今よ」

 

「待て待て待て!!俺たち冗談のつもりだったんだって!本気でするつもりなんてなかったから!な、サトシ!」

 

 

 

「えっ、あっ…お、おおぉう!あああ当たり前だぞ……」

 

 

 

嘘下手くそかよォォォ!!

目が縦横無尽に泳ぎまわっちゃってるよ!

顔が嘘ですって言っちゃってるよ!!

っていうかお前本気でするつもりだったのかよ!

 

 

「……さぁ2人とも」

 

『あの世で仲良くね♪』

 

「「あああああああああああああ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

「いっくぞー!」

 

バフン。

 

「やっはー!気持ちいいにゃー!」

 

「ふふふ、この転がり心地、悪くないわね……!」

 

「広いところでこれやるの夢だったんだよね〜♪」

 

「穂乃果、凛、にこ!邪魔だからどいてください!」

 

「……なんでみんな一緒に寝るのよ」

 

「合宿やからね♪」

 

「たまにはこういうのも悪くないでしょう?」

 

「お兄ちゃん、悟志くん……だ、大丈夫…?」

 

「流石にあれは……やりすぎたよね……」

 

「あぁ、ことりちゃん、花陽……」

 

「2人は俺たちの女神だぜ…!」

 

あの悲劇からしばらく経った後、今2人以外のメンバーは広間に布団を11人分敷いて就寝の準備をしている。やーあの仕打ちはやばかった。まぁ端的に言うと“ドMの人が喜びそうだった”とだけは言っておこう。

しかし真姫はなかなかに女王様気質が「ふんっ!」痛ぇ!

 

「何すんだよ真姫!」

 

「絶対失礼なこと考えてたわね」

 

「なんでわかった!?」

 

「隠さなかったところだけは褒めてあげるわ。

……凛、鞭持ってきて」

 

「ゴメンナサイ」

 

「ほらほら、じゃれあうのもそれくらいにして」

 

「絢瀬……」

 

「……朝日くん、早く寝ましょう」

 

「絢瀬さぁぁぁん!すごく関係が後戻りしてませんかね!?」

 

「早く寝ますよ、朝日殿」

 

「殿!?確かに似合ってるけどそんな呼び方したことないだろ海未!」

 

「………………あさ」

 

「やめてことりちゃん無理して乗らなくていいから!!君にまでそんなことされたら俺のメンタル死んじゃう!」

 

ここまでする!?覗き未遂てここまでやるの!?

合宿1日目でライフ無くなりそうだよ!!

しかも言い出したのはサトシなのにサトシはノータッチかよ!

 

 

 

 

 

 

「じゃあ電気消すわよー?」

 

布団に入ってからしばらくした後、真姫の合図で、部屋のすべての電気が消えた。

窓からカーテン越しに差し込む月明かりだけが俺たちを照らす。

しばらくの間、静寂が俺たちを包む。

何処からか、寝息も聞こえてきた。やはり昼間遊んで疲れていたのだろう。

俺も寝るか……正直埋められたり虐待受けたりして疲労は十分溜まってる……

そして段々と訪れてきた睡魔に身を委ねようとした────────その時。

 

(優真……)

 

俺の隣からか細く呼ぶ声が聞こえた。

つまり声の主は俺の横で寝ている─────

 

(どうした……絢)

 

(キッ)

 

(……絵里)

 

名字で呼ぼうとしたら睨まれた。

今2人きりじゃないじゃん!

 

(…………ちょっと…えっと……)

 

(どうしたんだよ?)

 

 

 

(─────こ、怖くて……暗いのが)

 

 

 

(……え、暗所恐怖症?)

 

(……軽くだけど…いつも寝る時はもう少し明るいから)

 

こいつは意外だな。絵里にそんな弱点があったとは。さっきの睨みを睨みを利かせた表情とは打って変わって怯えたような顔になっている。

……本気で怖がってるみたいだな。

 

────────仕方ない。

 

(少しこっち寄れ)

 

(えっ……う、うん)

 

互いに枕をお互いの方へ寄せ少し距離を近づけた後、俺は自分の腕を絵里の布団の中へと突っ込んだ。その時柔らかい何かに当たった気がするがきっとお腹だ。……お腹なはず。

 

(え…?ゆ、優真……?)

 

 

 

(────握ってろ。多少はマシになるだろ)

 

 

 

(あっ……う、うん……)

 

絵里の表情が気になるが、見ることはできない。

俺自身内心ドキドキして気が気じゃないからだ。

 

(じゃ、じゃあ失礼します……)

 

にぎっ。

 

(!?)

 

(えっ!?ど、どうしたの……?)

 

(あ、いや……何でもない)

 

……そう来たか。

俺としては“腕”を握ってろって事だったんだが……

 

手を繋いできましたか。

 

絵里の予想外の行動に、俺の心拍も一気に上がっていく。絵里の手は思いの外小さくて、柔らかくて……って何を考えてるんだイカンイカン。

 

(……少しは安心した?)

 

(うん。……ありがと、優真)

 

(よかった。じゃあ早く寝なよ。絵里が寝るまで繋いどくから)

 

(…………やだ)

 

(……絵里?)

 

 

 

そこで絵里の方を見たのが間違いだった

 

仄かな月明かりに照らされた彼女の表情は形容しようもないくらい美しくて

 

 

(──────ずっと繋いでて)

 

 

儚げな表情で告げられた言葉

微かに紅く染まった頬

若干崩れた髪

着崩れた寝間着から覗いた肩、首筋、鎖骨

 

 

全てが魅力的で、俺の理性を吹き飛ばそうとする。

やばい、これは……

しかし俺は鋼の心で持ちこたえ───────

 

(……わかった、おやすみ)

 

絵里とは逆向きに顔を向けた。

……心臓に悪いんだよ。

普段あんな顔見せないくせに。

 

……でも。

─────絵里の寝顔を見たいって思うのは、仕方ない事だよな?

 

そんな思いを退散させるため俺は無理矢理にでも眠りにつこうとした。

しかし────────

 

 

 

バリッ!!ボリッ!!

 

 

「え……?」

 

「……何の音?」

 

 

ガリッ!!バキッバキッ!!

 

 

「何だにゃぁ……?」

 

「真姫、電気!」

 

「んっ……何…?」

 

俺の指示で真姫が電気をつける。

再び明るくなった広間。

そしてその中に一つだけ膨らんだ布団。

俺はそこに駆け寄り布団を剥がす────すると。

 

『あぁ〜!』

 

「んむっ!」

 

そこには穂乃果がいた─────煎餅をかじって。

つまり音の主は穂乃果だ。

 

「何してんだよお前……」

 

「眠れなかったから、何か食べたら眠くなるかなぁ〜って」

 

えへへ〜と笑う穂乃果。

 

「全く……海未と悟志くんを見習いなさい?もうぐっすりと寝てるのよ?」

 

海未とサトシはこの騒ぎの中でもぐっすりと眠っており、その寝顔は安らかだ。……ていうか、穂乃果も暗くて寝れなかった絵里に言われたくはねぇよな。穂乃果は知らないだろうけど。

 

「もぉ〜〜うるさいわねぇ〜〜!」

 

その声の主はゆっくりと起き上がりこちらを向くと……

 

「ひいぃ!?」

 

顔面にパックと……キュウリの輪切りを貼り付けた姿を俺たちに見せた。

 

 

「……に、にこ、それは…?」

 

「美容に決まってるでしょ?」

 

「……ハラショー…」

 

矢澤に当たり前のように返されて、絵里も戸惑っている。……そんな美容法聞いた事ねぇぞ。

 

「もう!いいからさっさと寝るわy」

 

矢澤の声は遮られた。突如飛んで来た枕によって。

 

「真姫ちゃんなーにするのー?」

 

「うえぇっ!?」

 

希の声に皆が後ろを振り返る。

どうやら真姫が矢澤に枕を投げた……事にしたい希が投げたようだ。

 

「アンタねぇ……!」

 

「いくらうるさいからってそんなことしちゃぁ……ダメやんっ!」

 

そして希は手に持っていた枕を凛へと放った。

それを凛は、直撃の寸前で受け止めた。

……何気にすげぇ。

 

「……何する…にゃっ!」

 

「ふぐっ!」

 

凛はそれを希に投げ返す……と見せかけ隣の穂乃果に投げた。

 

「よーし……!えいっ!」

 

「きゃあっ!な、何するのよ!」

 

「投げ返さないの〜?」

 

穂乃果は真姫へと枕を投げた。

それを煽ろうとする希を見て、俺は意図を悟る。

……そういうことなら。

 

「私は別に……んぐっ」

 

俺は近くにあった枕を真姫目掛けて投げた。

そして俺を睨みつけた真姫に、ニタリと笑顔を返す。プライドの高いお姫様にはこれが一番効果的だろう。

 

「……上等だわ!やってやろうじゃない!」

 

ほら食いついてきた。

そして俺たちは枕投げを始めた。チームもなく、ただ相手目掛けて枕を投げるだけ。楽しそうな声が広間に響く──────

 

 

──────参加していない奴のことを忘れて。

 

ドサッ。

 

『あっ……』

 

誰かの投げた枕が、気持ちよさそうにしていた海未の顔の上に落下した。

 

「…………………………何事ですか………」

 

ゆっくりと……のっそりと……“鬼”が立ち上がる。

 

「わ、わざと狙ったわけじゃ……!」

 

真姫の弁解を聞くに、真姫が鬼を目覚めさせてしまったみたいだ。

 

「…………明日は朝から練習と言いましたよね……?それをこんな夜遅くまで………ふふっ、ふふふふふ……」

 

「こ、これやばいんじゃねぇか……?」

 

「海未ちゃん、寝てる時に起こされるとすごく機嫌が悪くなるから…!」

 

 

 

「眠らないというのなら───────」

 

 

スッ─────────

 

 

「んがはぁっ!」

 

目で追えない速さで振り抜かれた腕から放たれた枕は轟音を上げながら俺たちの横を通過し、海未の正面にいた矢澤の顔面を撃ち抜いた。

 

 

 

 

「─────────眠らせるまで」

 

 

 

 

「にこちゃんっ!……ダメにゃ…もう手遅れにゃ!」

 

「超音速枕……」

 

「……ハラショー…」

 

 

 

「さぁ…覚悟はいいですかぁ…?ふふふふふ……」

 

 

やばい、本当に怖いんだけど!!

笑顔が笑顔になってねぇ!

 

「どうしよう、穂乃果ちゃんっ!」

 

「やるしかない……!ここは戦うしk」

 

「ごめん海m」

 

ヒュドン!!ズバン!!

 

穂乃果と絵里の2人が投球モーションに入った瞬間、超音速枕が2人の顔面を襲った。

2人とも俯せで布団に倒れ込み、そのまま意識を失った。……眠れて良かったな、絵里。

 

1分弱で3kill。全滅も時間の問題だ。

海未は弾丸(まくら)を回収し、次は花陽と凛に狙いを定めている。いくら凛といえども、超音速枕を取ることは不可能だろう。

 

「も、もうだめにゃあーー!!」

 

「助けてえぇぇぇ!!」

 

 

 

新たな犠牲者が生まれようとしたその時

 

 

 

もう1人の眠れる巨人が目を覚ます─────

 

 

ドンッ!

 

海未から放たれた弾丸を胴体で受け止めた偉丈夫。

 

 

 

「「────────悟志くん!!」」

 

「サトシ!」

 

そうだ……!俺たちにはまだいる…!

希望はまだある……!

 

 

「─────泣いてる女の子に暴力を振るうのは、たとえ同性でも感心しないぜ、海未さん。

 

 

──────相手になってやる、来いよ」

 

 

 

「かっ……」

 

かっけえええええ!!

ここまでサトシを頼もしいと思ったことはない!

俺がこの場にいる異性だったら確実にあいつに惚れてるぜ!

 

鬼と巨人が互いに一つの弾丸を手に睨み合う。

 

 

先に動いたのはサトシ。

 

 

──────おもむろに腕を振り上げ

 

 

その腕を大きく振りかぶり

 

 

優しく布団に枕を置き

 

 

毛布に包まり寝床についた────────

 

 

「っておおおおおおおおおい!!!」

 

「悟志くん寝ちゃうノォ!?」

 

「……ごめん、やっぱ眠いじぇ」

 

「じぇって何!?もしかして“ぜ”って言おうとしたのか!?」

 

「……ユーマ、うるしゃい」

 

「キモっ!!字面は可愛いけど筋肉隆々の男子が言ってると思うと吐き気がするわ!!」

 

「おやしゅみ」

 

「待ってサトシ!頑張って!せめてあいつを仕留めてからに────────」

 

その時。

俺の後頭部に衝撃が襲う。

サトシとの会話に夢中になりすぎて完全に意識の外だった。海未の超音速枕が俺に直撃したのだ。

あぁ、あいつらこんなのくらってたんだな……

─────あとは頼んだぞ……。

ここまで沈黙を貫いていた“2人”にわずかな希望を託し、俺はサトシと添い寝するように布団へ倒れこみ、意識を手放した───────

 

 

▼▽▼

 

 

「あぁ、お兄ちゃん!!」

 

「優兄ィ!」

 

海未の弾丸を受けて倒れた優真を見て花陽と凛は悲鳴をあげた。

 

「さぁ……あなた達の番ですよ……」

 

今度こそダメだ。

2人は半ば諦めの表情で襲い来る鬼をただ眺めていた。しかし───────

 

「ぐはっ……!」

 

海未が突然ゆらゆらと倒れた。

そして凛と花陽は鬼を倒した英雄の名前を呼ぶ。

 

「────────希ちゃん!」

 

「真姫ちゃん!」

 

希と真姫の2人は海未が完全に油断する時を見計らって気配を殺し、今の今まで機会を伺い続けていたのだ。そして今、2人のダブル枕で海未を完全に沈めた。

 

「全く……」

 

「真姫ちゃんありがとにゃ!でも元はと言えば真姫ちゃんが始めたことにゃー」

 

「ち、違うわよ!あれは希が……あとことり、あなたいつまでソファーの裏に隠れてるのよ」

 

「……えへへ、バレちゃった」

 

真姫の呼びかけに応じてことりがソファーから顔を出した。どさくさに紛れて海未に殺られないように身を隠していたのだ。

 

「ま、ウチは何もしてないけどねーっ♪」

 

「あなたねぇ……!」

 

 

 

「─────自然に呼べるようになったやん♪」

 

 

「えっ……?」

 

「名前。ウチのことも、ことりちゃんのことも」

 

「あっ………」

 

希の言葉で、ことり、そして凛と花陽も笑う。

その光景を見て真姫は顔を赤くした。

 

「本当にメンドウやなぁ、真姫ちゃんは」

 

「……別にそんなこと頼んでなんかないわよっ!」

 

真姫は不貞腐れてそっぽを向いてしまった。

それを気にする様子もなく希は更に言葉を続けた。

 

「さて、本当に寝よっか。……なんとか寝る場所探しながら」

 

目の前に広がる状況を見て全員が苦笑いを浮かべる。海未に沈められた全員は縦横関係なくテキトーに布団の上に転がっている状態だ。もはや最初の並びなど面影もない。

 

寝ている全員に改めて布団を掛けてから、生還者組はなんとか場所を探して眠りについた。

 

こうして波乱の合宿1日目は幕を閉じた。

 

 

───────はずだった。

 

朝日優真。

彼にもう一波乱起きるのはあと数時間後の話……

 

 

 

 




最近サトシを面白いと言ってくれる方が多くて本当に嬉しいです!
これからの彼の活躍を楽しみにしていてくださいっ笑

今回もありがとうございました!
感想評価お気に入りアドバイス等お待ちしております!

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