ラブライブ! ─ 背中合わせの2人。─   作:またたね

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【Days.1→2】メンドクサイお姫様……達?

41話 【Days.1→2】メンドクサイお姫様……達?

 

 

「んんっ……」

 

「んがっ!!」

 

激痛が走る。

俺の顔に何かが墜落してきた痛みで、俺は意識を取り戻した。

 

「ってェ……」

 

ゆっくりと目を開けると、俺の目の前にあったのは────────丸太。と見せかけたサトシの腕。

 

「こい、つ……」

 

どうやらサトシが打った寝返りで、その腕が俺の顔に降ってきたようだ。

 

「腕太ぇんだよお前は……」

 

愚痴を零しながら、サトシの腕をどかして半身を起こす。そして目の前に広がっていたものは────

 

「……なんじゃこりゃ」

 

死屍累々? …阿鼻叫喚?…地獄絵図?

布団には縦も横もなく、9人がただ横になっているだけだった。そして思い出す。

ここで繰り広げられた、恐怖の戦い…

あの惨劇を。

みんなが毛布をかけられているところを見ると、きっとなんとか鬼を討伐したのだろう。

……さて、もう一回寝ますかねぇ。

俺はそう決意して再び目を瞑る。

 

……

 

……

 

……

 

……くそ、寝れない。

変な時間に起きたからかな…ってか今何時だろ。

んー、寝れないって思えば思うほど眠れねぇ。

どーしよっかなぁ……あ、そうだ。

 

風呂に入ろう。

昨日はシャワーしか使わせてもらえなかったからな、これを機にゆっくり堪能させてもらおう。風呂に入れば寝れるかもしれないし。

うん、そうしよう。

 

「…っし」

 

俺は立ち上がり、足音を立てて皆を起こさないようにゆっくりと移動を始めた。

廊下に灯った明かりを頼りに、俺は浴場へと向かった。

 

 

 

 

更衣室も既に電気が点いており、俺はすぐに服を脱いで浴場へと足を踏み入れた。

別荘の温泉は野外に備えられており、季節が夏に近づいていたこともあって裸でも寒くはない。

温泉はすでにお湯が張っており、湯気が立ち上っている。俺は腰に巻いたタオルもそのままに、若干のかけ湯の後温泉へとつかった。

 

「はあぁ〜〜〜」

 

思わず声が出る。それほど心地がよかった。

風呂っていいなぁ……心まで落ち着くぜ。

 

 

 

しかし俺は気づかなかった。

寝ぼけていたのだろうか。

何も疑問に思わなかった。

 

温泉のお湯が張っていることも。

更衣室に電気が点いていたことも。

廊下に明かりが灯っていたことも。

 

───部屋に寝ていたのが、“9人”だったことも。

 

 

 

俺の少し隣に、赤髪の少女が座っていることも。

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「……………………えっ」

 

「……………………」

 

「……………………………………あっ、その」

 

 

「──────────キャ」

 

 

真姫が悲鳴を上げようとした寸前。

俺は真姫に飛びかかり口を抑えた。

 

「落ち着け…!確かにどう考えても俺が悪いけど今叫んでも何にもならない!いらん誤解を生むだけだ!」

 

「─────────。」

 

こくこくと頷いた真姫。それを見て安心した俺は真姫から手を離し、すぐさま距離をとって背を向けた。

 

「……ほんとごめん。まさか誰かが先にいるなんて思ってもなかったんだ」

 

「……別にいいですよ。朝日さんはそんなことする人じゃないって信じてるし」

 

それならば夕方のあの仕打ちはなんだったんだと突っ込みたいのは山々だが、今はそれどころじゃないと思い直す。

 

「ありがとう。……じゃあ俺上がるから。ゆっくりどうぞ」

 

そして立ち上がろうとしたその時──────

 

「──────待って!」

 

真姫に呼び止められて、俺は動作を止めた。

 

「真姫…?」

 

「こっち見ないで!!」

 

「はいぃ!!」

 

反射で振り向きそうになったのを、真姫に怒鳴られた。黙り込んだ2人の間には、バシャバシャという水音だけが流れている。

その水音はだんだん近くなり───────

俺の後方すぐ側で止まった。

そして真姫の柔らかい手の平が、俺の背に触れる。

 

「……真姫、さん?」

 

「───話が、あるんです。聞いてくれますか?」

 

真姫の表情は見えないが、その声は真剣そのものだった。俺は意識を切り替えて、真姫の話を聞く。

 

「わかった、何?」

 

 

「──────もっと素直になりたい」

 

 

真姫は溜め込んでいた思いを、ゆっくりと……少しずつ吐き出し始めた。

 

「みんながくれる優しさに応えたいの。

今まで人との接し方がわからなくて、たくさん傷つけて……

でも初めてだから。こんな私とずっと一緒にいてくれて、私を友達だって……仲間だって言ってくれたのは。

もう嫌なのこんな自分じゃ……!

 

自分の気持ちを、素直に伝えられるようになりたい!」

 

真姫の心の叫びが、2人だけの浴場に響く。

そしてそれを聞いた俺は────────

 

 

「ははは……」

 

 

笑った。

 

「なっ……!何笑ってるのよ!こっちは本気なんだけど!」

 

「いやぁ、ごめんごめん。……本当にそっくりだな、って思ってさ」

 

「え……?」

 

「俺が高校1年の頃、真姫と全く同じ悩みを浮かべていた人がいたんだ。『自分の思いを素直に伝えられるようになりたい』ってね」

 

「……それって…」

 

 

「……絢瀬だよ。あいつも君と同じ事で悩んでた」

 

「……絵里が…?」

 

「想像つくだろ?μ'sに入る前のあいつを考えたら」

 

「……確かに」

 

「だろ?……あいつも自分の想いに素直になりたいって言ってたんだ。時間かかったけど、最近やっと素直になれたんだ。だから真姫も変わりたいって思えば変われると思うよ?」

 

……でも思う。

真姫が変わる必要は、ないんじゃないかって。

俺たちがいろいろしてるのは、真姫が“変わるため”じゃない。あくまでも、真姫が“素直になるため”。

だって俺たちは────────

 

 

「……だから私のために色々としてくれたんですか?」

 

「バレてた?……うん。絢瀬と東條と3人で、真姫がみんなと打ち解けられるように、ってね」

 

「……どうして」

 

「ん?」

 

「どうしてみんな……そんなに優しいの…?」

 

……きっと今まで受けたことがないのだろう。

見返りのない、純粋な優しさというものを。

 

「私の言葉や態度で、傷つくことの方が多いはずなのに……」

 

それ以上に、俺たちは知ってるから。

君の優しさを……情熱を。

しかしその次に放たれる言葉は俺を驚愕させるものだった。

 

 

 

「─────他のみんなと違って、4月に知り合ったばっかりなのに」

 

 

 

「……!」

 

そう、か……

真姫は今まで引け目に感じていたのだ。

他のμ'sメンバーは自分が知り合う前から仲が良くて。矢澤も他の皆ほどではないが、3年生メンバーとも仲が良く、持ち前の明るさで他のメンバーとも仲がいい。

 

───────自分だけが、“独り”だと

 

そのことが更に、真姫が素直になることへの枷になっていたのだろう。だからあの時……今日……いや、昨日の駅で凛が言った言葉───────

 

『なんか、ずっと一緒にいるから、むしろこっちの方がしっくりくるっていうか……』

 

この言葉に、真姫は表情を暗くしたんだ。

 

「ずっと私に気を遣って優しくしてくれてるんじゃないかって…思って……」

 

──────────馬鹿。

 

「真姫」

 

「っ……」

 

尚も何かを続けようとした真姫の声に無理やり被せた。

 

 

「自分が必要ないなんて事考えてるなら、俺はお前を許さない」

 

「……」

 

「──────μ'sはこの9人なんだ。

この9人じゃなきゃダメなんだ。一人も欠けていい奴なんていねぇよ」

 

「……朝日、さん…」

 

「……後ろ向け」

 

「えっ?」

 

「いいから」

 

しばしの沈黙の後、再び水音が響いた。

 

「……いいわよ」

 

「おう」

 

そして俺は振り返り……真姫の頭に手を乗せた。

 

「……これのために?」

 

「さっきの態勢じゃできなかったからな。嫌か?」

 

「……悪い気はしないわね」

 

本当は正面向いて目と目を合わせて言いたかったけど、さすがにそれは遠慮した。……今の態勢も結構アウトだけど。

 

「……どうしてみんなが優しくしてくれるか、だって?決まってるだろ。

 

───────みんな真姫が大好きだからだ」

 

「……え…?」

 

「不器用なところ、素直じゃないところ……そんなところを全部ひっくるめて、みんな真姫の事が大好きなんだよ。もちろん、俺を含めてね。あ、変な意味じゃないよ?」

 

「……意味わかんないわよ」

 

「気づいてないだろうけど、君にはいいところがたくさんあるんだぞ?

……素直になれないのは、自分の本音で相手を傷つけないように、っていう優しさの裏返しだ。

そして自分の言葉で相手を傷つけてしまった時には、それ以上に自分が傷つく繊細な心を持ってる。

……君はちょっとだけそれを拗らせてるだけだ。

少しだけ……ほんの少しだけ変わるだけでいい。

君の全てを変える必要なんてない。

まずは今の自分を─────俺たちが好きになった今の君を、君自身が好きになってくれ」

 

「………………」

 

真姫は、何も答えない。

 

「……俺が前に紙に書いて渡しただろ?

 

『君が素直になれなくったって

それで離れていく人なんてμ'sにはいない。』

 

って。

……大丈夫、ゆっくり少しずつ素直になれればそれでいいんだよ。真姫なら大丈夫、自分の意思で変わろうと出来たんだから。

 

……だからもう泣くな」

 

「……うるさい、わよ…」

 

俺は知っていた。

真頭に乗せた手から、真姫の頭が震えている事を。

 

「……わ、私………」

 

真姫が涙声で、自分の心の内を語りだす。

 

 

「私も……μ'sのみんなが大好きなの…………

 

ずっと一緒にいたい…………」

 

「あぁ。俺たちも同じ気持ちだよ。

 

だから真姫は真姫らしく。真姫のやりたいようにやれ。

 

これが答えだ」

 

「……うぅっ……ぐすっ…………」

 

2人だけの浴場に真姫のすすり泣く声だけが響いていた。

 

 

 

 

 

「……もう大丈夫?」

 

「……はい、ありがとうございました」

 

しばらくした後、真姫は泣き止んだ。

今はお互いに背中を向けあっている。

 

「真姫、先輩禁止だぞ?」

 

「朝日さんは対象外でしょ?」

 

「お前はダメだ」

 

「何よそれ。……はぁ」

 

「なんだよ面倒臭そうに」

 

「別に。……じゃあ私上がるわね」

 

「ん、わかった。俺もしばらくしてから上がる」

 

更衣室で鉢合ったりしたらそれこそアウトだし。

 

「……振り向いたら殺すわよ?」

 

「物騒な言葉使ってんじゃねーよお嬢様」

 

 

その言葉には返事はなくて

 

真姫は俺の背中に自分の背中を合わせてきた。

 

「……真姫?」

 

 

 

「──────ありがと……“優真さん”」

 

 

 

それは……反則だろ。

唐突なデレに俺の顔が一気に赤くなった。

これがツンデレの破壊力。

 

「……ん。気にすんな。俺も君の悩みが聞けてよかった。だから───────

 

その言葉、“絵里”と“希”にも言ってあげてくれ」

 

「え………?」

 

「……真姫が素直になってくれたから、俺も一個素直になっとこうかってな。……みんなには内緒にしててくれよ?」

 

「……わかった、わ。…じゃあ私本当に上がるから。

……おやすみなさい、優真さん」

 

「おう、おやすみ、真姫」

 

真姫が立ち上がり、浴場を後にした。

真姫の悩みを解決してあげられたのかはわからないけど……真姫との心の距離は縮められた気がする。

それを噛み締めながら俺はしばらくした後広間へと戻り、静かに眠りについた───────

 

 

 

 

 

 

「んっ……」

 

俺、二度目の起床。

ゆっくりと目を開くと、まだみんなは眠りについていた。今何時だろう……?少なくとも、カーテンからは朝日が差しているから夜が明けたのは間違いない。

そして改めて周りを見回して、ある1人の姿がないことに気づく。

その姿を探して、俺は外へと出た──────

 

 

 

別荘を出て目の前の砂浜、そしてそのアスファルトとの境界を成す段差の所に、その姿はあった。

 

「────────東條」

 

「ん……ゆーまっち。おはよっ、早かったね」

 

「お前の方こそ早いな、眠れたか?」

 

「うん、ぐっすりやったよ」

 

自分の口調が、硬くなっているのがわかる。

今は全然そんな場面じゃないのに。

そんな時に嫌でも自覚する。

自分がこいつを意識してるってことを。

 

「……隣どうぞ」

 

「……おう、ありがとう」

 

希の促しに従って俺は横に座る────少しだけ距離を開けて。

 

「……綺麗な朝日やね」

 

「あぁ、本当に綺麗だ。昨日見た夕日も綺麗だったけどな」

 

「……楽しいね、ゆーまっち」

 

「ん?」

 

「─────合宿。楽しいね」

 

「……うん、楽しい」

 

「ふふっ♪」

 

何気ない短い会話が続く。

何とも言えない空気が俺たちの間には流れている。

互いに気まずいのはわかってて、それでも離れたくはないような、微妙な距離。

 

しばしの沈黙の後、希が爆弾を投げ込んできた。

 

「─────えりちとイチャイチャした感想は?」

 

「なっ……!!お、お前聞いてたのかよ!?」

 

「ウチの地獄耳を舐めん方がいいよー?ねぇ、どうだった?えりちのて、の、ひ、ら♡」

 

こいつ……完全におちょくってやがる!

希はニヤニヤとした笑みを浮かべて俺の方を見ている。

 

「あ、あれは絵里が寝れないって言うから……」

 

「お、“絵里”??」

 

「どうせ全部聞いてたんだろ!なら今更隠す必要ねぇよっ」

 

半ばヤケクソになりながら希に反駁した。

しかし希の追撃は止まらない。

 

「ふふふ、おもしろーい♪じゃあ……

 

──────真姫ちゃんと混浴した感想も、聞きたいなぁ〜」

 

「それも見てたのかよ!!」

 

「真姫ちゃんがお風呂に行ったのは知ってたんやけど、しばらくしたらゆーまっちが起きてお風呂に行きだした時は笑いそうになったよー!

ま、面白そうやから止めんやったけど♪」

 

「……ん?てことはお前……」

 

 

「え?起きてたよ?」

 

 

「お前えぇぇぇ!!」

 

「だって、面白そうやったし、何より……

 

────聞いてくれたんやろ?真姫ちゃんの悩み」

 

「…………!」

 

「────────ウチに出来るのはあそこまでってわかってたから。最後に真姫ちゃんを助けてあげられるのはゆーまっち。そう思ったから託したん」

 

ふふっ、と希が俺に笑顔を向けた。

 

「……買い物の時のあれも、枕投げも…俺が真姫と話し合う時の下準備のために……?」

 

「さー、どーやろね」

 

言葉はしなかったが伝わった。

全ては俺と真姫の対話のための下準備だと。

 

こいつは────────

 

どうしてそんなに誰かのために?

 

どうしてそんなに俺を信じてくれるんだ

 

どうしてそんなに────優しいんだよ

 

 

 

 

『お前のソレは───────唯の自己満足だ』

 

 

昨日サトシに言われた言葉を思い出す。

希のこれが本当の“優しさ”なのだと、感覚が告げている。だとしたら俺のソレはやはり間違っていることのように思える。

どこが、と聞かれたら答えられないけど、何となくそんな気がした。

 

「……ゆーまっち?」

 

「……あぁごめん、考え事してた。

……真姫と話したよ。あいつの悩み、思ってること…全部打ち明けてくれた。その上であいつの思いも聞けた。……きっと大丈夫。何かあったらその時は……」

 

「ウチらが支えんと、やね」

 

「あぁ」

 

笑顔を向けた希に、俺も笑顔で返した。

その笑顔は朝日に照らされていつもよりも儚げに見えて……何故だろうか。

 

「にしても、ゆーまっちもモテモテやなぁ……」

 

「何がだよ」

 

「両手に花でも足りんのやない?あんなにたくさんの女の子から囲まれて」

 

「……ありがたいことですよーだ」

 

何を言っても希にいじられる気しかしないのでテキトーに返答しておく。

 

「あー、そんな言い方するんやー。みんなに言っちゃおうかなー、えりちと真姫ちゃんのコト」

 

「待て、それはマジでやばい!いろんな意味で殺される……!」

 

「へへへっ♪じゃあお願い事ひとつ聞いてくれるなら見逃してあげてもええよ?」

 

「……わかったよ、聞くよ」

 

「おー?言ったね?ならじっとしててね」

 

 

 

すると希は少し座る場所を俺の方に寄せ

 

互いの腕が触れ合う距離まで近づいた後

 

自分の頭を俺の肩へとそっと乗せた。

 

 

「…………何してんの?」

 

「……いいやろ?たまにはウチも誰かに甘えたいのっ」

 

そして希は地面に着いていた俺の手の上に、自分の掌を重ねて優しく握った。

自分の心拍数が上がっていくのがわかる。

意識しだしてしまった相手からそれをされるのは……正直色々とやばい。しかしお願いを聞くと言ってしまった手前、無下にすることも出来ずに俺はただ無言で海を眺めているしかなかった。

再び訪れた静寂。

先ほどのそれより、物理的な距離の変化があり気まずさも一入だ。

その静寂を破ったのは、またもや希だった。

 

「……ゆーまっち。ウチ嬉しいん」

 

「……なにが?」

 

 

 

 

「─────キミが笑ってるから」

 

 

 

「……俺?」

 

「最近ずっと楽しそう。えりちが入ってからよく笑うようになった。それまでは……私のお願いでたくさん無理をさせちゃってたからね。

だからそんな風にしてるキミを見ると、やっぱり安心するんだ」

 

希の雰囲気が変わった。

 

「……こっちでもいい?」

 

「……好きにしなよ─────“希”」

 

「ありがと──────“優真くん”」

 

以前は自分の中の心の揺れを認めたくなくて、“希”との会話を否定した俺だったが、今回は何故か受け入れることが出来た。

 

「……落ち着くなぁ、キミの隣は」

 

「え?」

 

「あ……!な、なんでもない!!忘れて!!」

 

「いや、聞こえなかった、すまん」

 

「……そっ、か…良かった」

 

きっと今言った言葉は希も言おうとは思ってなかったのだろう。それをむやみに聞き返すのは良くないと思って俺は問いたださなかった。

ま、なんとなくわかるしね。

 

 

──────俺も同じ気持ちだよ

 

 

お互いの考えてるコトなんて、痛い程わかるのに

どうして俺たちはこうなってしまったんだろう

どこで間違えてしまったのだろうか

 

───どうしてこんなにも素直になれないのだろう

 

 

「……なぁ、希」

 

「ん?どうしたの?」

 

「……昨日の君の言葉の事だけど」

 

「?」

 

「真姫と3人で買い物行った時」

 

 

 

『─────放っとけないの。よく知ってるから。あなたによく似たタイプ』

 

 

 

「……あれ、絵里の事だと思ってたけど……違った。

 

──────『俺と“希”』のことだったんだな」

 

 

自分の本心を隠して

“誰かのため”が行動指針で

どこまでも素直じゃない

 

そんな真姫の姿はまるで俺たちのようで

 

「あ、わかっちゃった?」

 

「元々俺に気付かせるつもりだったんじゃないのか?」

 

「さぁ、どーだろうね」

 

俺にバレるのはわかってたくせに。

またそーやって嘘をつく。

 

「……ねぇ、ふと思い出したんだけど」

 

「……何?」

 

「───────あの子、元気にしてるかな」

 

希が何を言おうとしてるのか、わかる。

わかってしまったからこそ、俺は顔を歪めた。

 

 

「──────“紬”ちゃん、今どうしてるんだろ」

 

 

紬。俺と希を繋ぐ大切な絆。

でも今は─────────

 

「──────元気にしてるんじゃないか?」

 

そう言うしかなかった。希を悲しませたくない。その思いが俺に嘘をつかせた。

 

「──────そっか」

 

希を何かを察してくれたのか、それ以上その話題を口にすることはなかった。

俺たちは互いに嘘がつけない。

ついてもすぐにわかってしまうから。

 

「優真くん。私μ'sのことが大好き。

───君が創ってくれたあの場所が大好きなんだ」

 

「……俺が作ったわけじゃないよ」

 

「ううん、違うよ。確かにμ'sを作ったのは穂乃果ちゃんたちだけど、それを利用した私のワガママのために色々頑張ってくれたのはキミだよ。

────だからμ'sは、キミが私にくれた居場所」

 

「……やっぱ違うだろ」

 

「え?」

 

「……そのために頑張ったのは俺だけじゃない。希はもちろん、穂乃果たちも色々頑張ってくれたじゃないか。だからμ'sは、“みんなで作ったみんなの居場所”だ。でも──────」

 

そして俺は希が重ねていた右手を、俺の肩に乗せられた希の頭の上に置いた。

 

「─────君がいなかったら俺は絶対やり遂げられなかった。今のμ'sがあるのは君のおかげだよ。……ありがとな、希」

 

「……ふふふ♪本当にズルいなぁ、優真くんは」

 

「……口調混じってるぞ?」

 

「いーのいーの!……優真くん」

 

「ん?」

 

すると希は俺の肩から頭を離し

 

俺の目を見て笑う

 

 

 

 

「───────ありがとね♪」

 

 

 

 

その笑顔は

 

俺の心の中の何かをこじ開けた

 

 

『────お前、好きな人いるのか?』

 

 

昨日のサトシの問いが頭の中に蘇る。

あの時は出すことを否定した俺の心。

……でも今ならわかる。

 

────────自覚したよ

 

ずっと避け続けた問いに答えが出た

 

俺はこいつのことが─────────

 

 

 

 

 

 

────────好きだ

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ戻ろうか。優真くん付き合わせちゃってごめんね」

 

希はそう言って立ち上がろうとする。

それがなぜか苦しく思えて────────

 

「──────希」

 

呼び止めてしまった。

 

希が俺の顔を覗き込む。

呼び止めたまではいいけど、どうしよう。

……ああもう思ったこと言えばいい!

 

「……もう少し一緒に居てくれたりしないですか?」

 

「ふ、ふふふ……あはははは!」

 

「わ、笑うなよっ!」

 

「だ、だって…その言い方……あはは…」

 

「うるせぇ!悪かったな!」

 

「ごめんごめん。…いいよ。

 

私ももう少しキミと一緒に居たい」

 

「……おう、そっか…」

 

そして希は俺の隣に座りなおした。

先ほどよりかは少し距離があるけど、それで満足だった。

 

「優真くん。私はキミを信じてる。私はずっとキミの味方だからね?」

 

「ありがとな。俺もお前のこと信じてるから。

たくさん迷惑かけるかもだけど───────

これからもよろしくな」

 

俺の言葉に、希は笑みで返した。

 

今は自分の思いは伝えない。

希は今まで俺を助けてくれた。

今度は俺の番。廃校を阻止するために踊り、歌い続ける希を側で支え続ける。

そして廃校を阻止できたその時は、言おう。

俺の気持ちを、今度こそは。

 

改めて2人で眺めた朝日は、さっき見たそれよりも何故か輝いて見えた。




今回、やっとあの伏線が回収できました。
真姫が0章に出てこなかったのは、この話のためでした。
この話は小説を投稿しだしてからずっと書きたかった話です。
真姫の心の葛藤を上手く表現できていたら嬉しいです。
そして優真の心に大きな変化が起きました。
この希とのやりとりを、いつか希サイドで書きたいと思っています。
そちらの方もどうぞご期待よろしくお願いします!

長くなりましたが今回もありがとうございました!
感想評価お気に入りアドバイス等お待ちしております!

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