ラブライブ! ─ 背中合わせの2人。─   作:またたね

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前回の続きですが、一転シリアスな雰囲気の話へと変わります。
急な落差で戸惑うかもしれませんがどうかついてきてくださいね!
それでは今回もよろしくお願いします!


【Days.2-4→3】葛藤、そして作るのは

45話【Days.2-4→3】葛藤、そして作るのは

 

 

 

「お、やっと出たみたいだぞ」

 

俺と希はやっとの事で森を抜け、サトシの言っていた祠へと辿り着いた。すでにμ'sのメンバーはそこに集合していて、それに気づいた穂乃果たちは俺たち2人に向けて手を振っている。

 

「おーい」

 

「お、やっと来たかユーマ」

 

「あ、優兄ィ遅かっ……た…………ね?」

 

「迷ったのかと思ってた……わ……」

 

「心配した……わよ…………」

 

……ん?凛と矢澤と絵里の返答がおかしいな?

そして何やら俺が近づくなり急に視線が痛くなった。それに穂乃果と花陽はおぉーっ、と目を輝かせているし、真姫は苦笑を浮かべてなんとも言えない表情を浮かべている。サトシは露骨にニヤニヤして俺を見ている。……何かあったのか?

 

「……どうした、みんな」

 

「……“ゆーまっち”。あの……」

 

「ん……どうした?……“東條”」

 

 

 

「その……う、腕…」

 

 

 

「ん?…………あっ」

 

完全に忘れていた。

森の中を歩いている間は俺はずっと希の腕を握っていたわけで─────────

それを解かぬまま俺は皆と合流した。

 

「ご、ごめん!」

 

「い、いや別にええんよ……」

 

希は少しだけ頬を染めながら俺からそっぽを向いた。

 

「──────随分と楽しかったみたいね」

 

絵里の冷ややかな視線が文字通り俺に刺さる。

その温度、まさに絶対零度。

 

「いや、これは……と、東條が怖がってたから……」

 

「希ちゃんは始める前怖くなさそうだったけど?」

 

「なんで今日は無駄に指摘が鋭いんだよ、凛……」

 

「肝試しに紛れて希とイチャイチャと……本当アンタ不埒なやつね」

 

「そんな海未みたいなこと言うなよ矢澤……

 

……って海未は?」

 

そういえばと思って俺は皆に問いかけた。

先ほどから海未とことりちゃんの姿がない。

 

「それがまだ到着してなくて……」

 

「“まだ”?」

 

それはおかしい。ここに来るまでは一本道で俺たちはことりちゃん達には遭遇しなかった。

つまり俺たちより遅れて到着するなど……いや、そうか。

 

「みんな、あの曲がり道どっちにした?」

 

「左だよ」

 

「左よ」

 

「左だぜ」

 

やはりそうか……つまり。

 

「あの2人は左じゃなくて、右に曲がったってことか」

 

俺たちも左に曲がった以上、そう考えるのが妥当。

ことりちゃんと海未は右に曲がり、道に迷っているのだ。

ことりちゃんが……

 

 

ことりちゃん。

 

 

 

「───────ことりちゃんっ」

 

 

 

俺は小さく、誰にも聞こえないようにそう吐き棄てると、懐中電灯も持たずに一目散に森の入り口へと走り出した。

 

「おい、ユーマ!?」

 

「優真!?」

 

「優真さん!!」

 

俺を呼び止める声を気にも止めず、俺は森の中へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

暗い道のりを、己の勘だけを頼りに走る。

そして俺は先ほどの分かれ道のところへと辿り着いた。

先ほどとは違って右に曲がろうとした……

その時。

 

 

「─────────優兄ィ!」

 

 

今度は確かに聞こえた、俺を呼ぶ声。

その呼び方で俺を呼ぶのは、世界にただ1人だけ。

 

「────────凛」

 

俺の元に着くなり、膝に手を当てて息を上げる凛。

体力魔人の凛が息を上げている。

それだけ本気で俺のことを追ってくれたのだろう。

 

「お前……どうしてここに」

 

「だ、だって……優兄ィ1人で走って行っちゃうから……居ても立っても居られなくて……」

 

「……危ないだろ、1人で」

 

「凛のセリフだよ!何考えてるの!!1人で走って戻って行って……!!」

 

「っ……」

 

数年振りに、凛に本気で怒鳴られた。

 

 

 

「心配……したんだから…………」

 

 

 

懐中電灯にわずかに照らされた凛の顔からは……確かに涙が流れていた。

 

 

 

凛を、泣かせた

 

 

 

その事実は、俺の胸を強く締め付ける。

 

 

 

3年前も、こんな風に凛を泣かせて後悔した。

その時誓ったはずなのに、俺は……

 

「……ごめん、凛。俺が悪かった。心配かけてごめんな」

 

「……うんっ…」

 

俺はどうすることも出来ずに、ただ凛が泣き止むまで立ち竦んでいた。

しばらく経った後、凛が顔を上げる。

 

「もう大丈夫か?」

 

「うん……さっきはごめんね」

 

「いや、悪いのは俺だから。気にするな」

 

「ねぇ優兄ィ……一つ聞いてもいい?」

 

「ん?」

 

 

 

 

「優兄ィが必死になって駆け出したのは───

 

 

──────ことりちゃんだから?」

 

 

 

 

「……何で?」

 

「だって優兄ィ、ことりちゃんの名前呼んで走って行ったでしょ?……海未ちゃんもいたのに」

 

「……聞いてたのかよ」

 

「んーん。聞こえてなかったにゃ。でも今の優兄ィの返事でわかっちゃった。やっぱりことりちゃんの名前呼んでたんだねっ」

 

「…………」

 

凛は無理やり作ったであろう笑顔を俺に向ける。

凛に鎌をかけられ、俺は思わず顔をしかめた。

いや、それだけじゃない。

凛に言われたこと、それが何故か俺の気に障った。……事実でもないのに。

……いや、自覚してないだけで──────

 

───────それが事実だから?

 

「迷子になってたのが凛だったら──────

優兄ィはさっきみたいに駆け出してくれた?」

 

「当たり前だろ」

 

これは即答できる。嘘偽りない俺の答え。

凛は俺にとって大切な人だから。

 

「そっか……でも、たぶん違うと思うな」

 

「は……?」

 

「優兄ィはきっと“誰が迷っても”探し出そうとしてくれる。でもさっきみたいに“一目散に”駈け出すのは─────────

 

ことりちゃんの時だけ……だよね?」

 

「……………」

 

「後は希ちゃんの時くらいかな?」

 

「………………何、がいいたい」

 

「優兄ィはみんなに優しいよ。でもことりちゃんに向けるそれは……みんなとは違う気がするにゃ」

 

 

 

 

 

『今さらそれ言うの!?貴方3年生以外普通に呼び捨てじゃない!』

 

『や!年下はセーフなの!…凛とか花陽とかいるから妹にしか見えない…し……』

 

『なんで最後どもったのよ』

 

『い、いいから!わ、悪かったよ……』

 

 

 

 

あの時の絵里との会話

このとき俺の頭に思い浮かんだ1人の笑顔

 

 

 

『ことりにとって、優真くんは最高のヒーローですよ♪』

 

 

 

初めて彼女と出会ったあの日……

彼女が理不尽な辱めを受けていたあの日からずっと

俺は彼女を守りたいと思っている

だからこそ俺にとって彼女は特別で

でも、その特別が、まさか

 

「優兄ィは、ことりちゃんだけ“ちゃん”をつけて呼ぶよね…?」

 

そんなはずはない

 

「ねぇ、優兄ィ」

 

そんな言い方じゃまるで

 

「優兄ィはことりちゃんのこと──────」

 

 

 

 

 

────俺がことりちゃんを好きだ、みたいな

 

 

 

 

 

「───────好」

 

「違う」

 

「…………」

 

「違うから。もうその話やめろ」

 

凛が俺から視線をそらし少しだけ俯向く。

納得してくれたとは思えない。

でも黙ってもらわないと、俺の心が潰れそうだった。

ことりちゃんに抱いたこの気持ちが……恋心?

だったら俺が希に抱えているこの気持ちは?

どちらも俺にとって大切な人……で…………

希は……“希”は…………?

 

あ……………れ……………………?

 

 

 

 

 

俺が恋したのは

 

 

 

 

 

希……?それとも…………“希”……?

 

 

 

考えたけど答えは出ない

そして俺の中の何かが───────溢れ出す

 

 

「……ふふふふっ」

 

「……優兄ィ?」

 

「ははははは……」

 

「どう、したの……?」

 

「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

 

「優兄ィ!?」

 

 

 

 

こんなおかしな話があるだろうか

 

“どちらを好きになったかがわからない”なんて

 

そんなの、“好きになった理由がわからない”と同義

 

俺はそんなものを“恋心”と呼ぼうとしていたと?

 

笑い話も大概にしろ

 

───────馬鹿だ“オレ”は

 

何をそんな甘いものに縋ろうとしていたんだ

 

オレは自分の“満たされない心”を愛という耽美なコトバで満たそうとしただけ

 

誰かの“愛”を求める資格なんざ

 

オレには無いだろう?

 

 

 

「あははは、っははははははははは!!!」

 

「優兄ィ、しっかりして!!」

 

ふらふらとよろけながら、オレは笑いが止まらない。

笑い声と共に涙がこぼれる。

どちらも止むことなく、俺の意思とは裏腹にただただオレの体から溢れ続けている。

その涙が示したものは愚かな自分自身への嘲笑なのか、それとも純粋なる悲しさから溢れ出たものなのか。

それは俺にすらわからない。わからないまま、オレは笑い泣きし続けた。

自分の心を、何かが覆っていくのを感じる。

そんな壊れたオレを止めてくれたのは──────

 

「優兄ィッ!!」

 

オレを抱きしめてくれた、凛の温もりだった。

 

「…………り、ん……」

 

「しっかりしてっ……!凛がここにいるから!!

ずっと一緒にいるから!!

 

だから“帰ってきて”!優兄ィ!!」

 

凛の温もりが、触れた肌からオレへと伝わる

 

「…………あ、ぁ……」

 

その温もりを渇望するように───────

“俺”は凛の体を抱きしめ返した。

 

「……あぁ…………」

 

声にならない声を発しながら、俺は涙が止まるまで優しい温もりを感じながら凛を抱きしめていた。

 

 

 

 

 

しばらく経って、俺の涙は止まった。

冷静さを取り戻し、己の体制の気まずさに気づく。

 

「……ごめん、もう落ち着いた、ありがとう」

 

「………………」

 

「凛…………?」

 

「嫌」

 

「え……?」

 

 

「ずっと一緒にいるって言った。だから離さない」

 

 

「凛……」

 

そして改めて……自分のシャツが湿っていることに気づく。それは汗じゃなくて……凛の涙。

 

……俺は何度凛を泣かせれば気が済むんだ

 

自分自身に苛立ちを感じながら、俺は凛の頭を撫でる。

 

「……ありがとう、凛。でもさすがに俺たちも戻らないと、サトシたちが心配するだろ?とりあえず右の道に入って……“海未達”を探してみよう。……そして歩きながらでいいから

 

─────俺の話、聞いてくれるか?」

 

最後の言葉に、凛が俺の胸から顔を上げた。

凛になら……俺が強く信頼している凛になら、話してもいいかなと思った。まず何より、誰かに自分の葛藤を聞いてもらいたいと思ったから。

 

すると凛はしばらく黙り込み……

 

俺に笑顔を向けて言った。

 

 

 

「──────うん、聞かせて?」

 

 

 

「……ありがとな、凛」

 

その笑顔は、俺に安心を与えてくれた。

 

「……じゃあ、右の方を進みながら行こう」

 

「わかったにゃ」

 

凛から懐中電灯を預かり、その光を頼りに俺たちは歩き出した。その時俺の手を凛が握ってきたけど、俺はそれを特に振り払うこともなく、優しく握り返す。

 

そして俺は凛に話した。

自分が抱えていた悩み─────────

ことりちゃんと希の間で揺れ動くこの気持ちを。

“希”の事に関しては敢えて詳しく言わなかった。

これは俺だけじゃなくて希の問題だと思うから。

そして凛はその全てを聞いて───────

立ち止まる。

 

「……凛」

 

「……ねぇ、優兄ィ」

 

その声は何故かいつもよりも儚さを宿していて

 

 

 

「……“好き”ってなんだと思う?」

 

 

 

「……俺が聞きてぇよ」

 

「へへへ、だよねっ。……凛はね、一つには決まらないと思うの」

 

「……一つに……決まらない……」

 

「うん。“好きのカタチ”って人それぞれにあると思うんだにゃ。

ここが好き、っていうのは人それぞれで……

好きって気付くキッカケも人それぞれ。

だから優兄ィが誰を好きなのか、どこを好きなのかはゆっくりと考えていけばいいと思う!」

 

「なるほど……」

 

「……あと優兄ィの話を聞いて思ってたのは……

 

優兄ィは“大切”と“特別”を一緒に考えちゃってない?

 

それを恋心って一括りにしちゃうのは……よくないと思うな。確かにその思いから始まる恋はあると思うんだけど……優兄ィの場合はそれを考えちゃダメだと思うな」

 

「特別と……大切……」

 

思い当たることが、十二分にある。

それと恋の境目が自分の中で定まってないからこんな錯覚を生んだのか?

だったら俺は。

 

過去にあったことを一旦全てゼロにしよう。

 

その上で、“今の”ことりちゃんと希を見る。

特に希に関しては、“希”の補正がかかり過ぎていてマトモな判断ができてないのかもしれない。

だから改めて、2人のいいところを探そう。

そしてそれが恋なのか……ゆっくりと考える。

 

「……ありがと、凛。やることが少し見えてきた」

 

「んーん、優兄ィの助けになったのなら良かったにゃ!……あとね、優兄ィ。これはみんなに共通することだと思うんだけど……」

 

「ん?なに?」

 

「“あぁ、恋だな”って思う瞬間。これは誰にでも共通して訪れると思うにゃ」

 

「……どんな?」

 

すると凛は今までより一際真面目な顔をして告げる

 

 

 

 

「─────“嫉妬を自覚した”時」

 

 

 

 

「嫉妬……?」

 

「……その人が他の誰かといるのが苦しい、自分だけのものにしたい……

 

自分だけを、見て欲しい

 

って思った時、それは紛れもなく恋心だにゃ。

優兄ィはそんな経験、ある?」

 

「……まだ、ない。凛は……?」

 

「……あるよ?」

 

「え、あるのか!?」

 

凛の衝撃のカミングアウトに、俺は大きく目を見開く。しかし───────

 

「─────って言ったらどうする?」

 

「……………………」

 

焦った俺を見てニヤニヤと笑う凛。

……してやられたことをこの時理解した。

 

「……からかうんじゃねぇよっ」

 

「痛っ!」

 

凛の頭に軽くチョップをかます。

 

「……ありがとう凛。スッキリした。ゆっくり考えてみるよ、自分の気持ち」

 

「……うん!優兄ィの役に立ててよかったにゃ!

さ、早く帰ろ!みんなが待ってるよ!」

 

「あ、おい待てよ、凛!」

 

凛は俺を置いて走り出した。

俺も急いでそのあとを追う。

 

 

 

 

 

 

この時はなにも考えていなかった

 

俺はただ信頼できる友人の凛に相談しただけのつもりだったから

 

俺の行動が凛にとってどう映るかなんて考えてなくて

 

なにも気付かなかった

 

──────走り出した凛が涙を流していたことも

 

俺の相談が凛の心を大きく傷つけていたことも

 

だから俺は

 

“この時の”俺を─────────

 

 

 

 

 

絶対に許さない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出れたかな?」

 

それから俺たち2人は右の道を進み続け、開けたところへと出た。

するとそこは先ほどサトシたちといた祠へと繋がっていた。

 

「……ってことは」

 

「右と左じゃ道の長さが違っただけで、どっちもつく場所は同じだったのかにゃ?」

 

「だな。つまりあの2人も……」

 

「あ!出てきた!おーいユーマー!!」

 

サトシの呼ぶ声の方を向かうと、そこには例の2人の姿もあった。皆心配してくれていたのだろう、その表情は安堵の笑顔で包まれている。

 

「2人とも、無事でよかった」

 

「いえ……心配をかけてしまい申し訳有りません」

 

「ごめんね優真くん……私が海未ちゃんを止めなかったから……」

 

「2人は何も悪く無いさ。こうして無事に帰ってこれたんだから、ね?」

 

「優真先輩……」

 

「それよりユーマ、お前の方が心配だったぜ!何考えてんだよ!あんな暗い道を懐中電灯も持たずに走って行きやがって!」

 

「そうよ!凛もいきなり走って行っちゃうし……心配したんだから!」

 

「わ、悪かったよサトシ……絢瀬……」

 

怒りを露わにしながら詰め寄られて、何も言えなかった。その怒りには俺に対する本気の心配も感じられたからなおさら。

 

「……結局一本道って、“どっちに行っても大丈夫”ってコトだったのかなぁ…?」

 

「多分そうじゃないかしら。紛らわしい言い方するわよね、ホント」

 

「まぁこうしてまた集合できたし、別荘に戻ろうか」

 

「うん、そうしよう!なんだかすごく疲れちゃったよ!」

 

「……穂乃果は1番乗りではしゃいでたからでしょ」

 

「う”っ……それを言われると何も……」

 

真姫のツッコミで周りが笑いに包まれる。

そして俺たちは帰り道をみんなで並んで帰った。

 

 

 

 

 

 

所変わって別荘。

昨日同様女子組が先に風呂に入ることになったので、俺とサトシは今現在広間で待機中だ。

昨日は言い争いをしたけど、今日はまったくそんなことはなくて………というより、“そんな余裕がない”。

 

「くそ……浮かばねぇ…………」

 

そう、“詞”。

今日の昼に合宿終了までにもう一曲書き上げると言った以上、隙があれば俺は詞を考えているのだが……

 

「ユーマ、根を詰めすぎてもいいことはないぜ?

少し気楽にしたらどうだ?……っても力が入る気持ちは俺にもわかるけどな」

 

「……ありがと、サトシ。でも俺はあいつらの期待に応えなきゃならない。それに自分で切った啖呵だ。落とし前は俺がつけるよ」

 

「……そうか。俺にできることがあったらなんでも言ってくれよ!力になってみせるぜ!」

 

「はは、頼もしいよ。……んじゃ、一個質問いいか?」

 

「ん?どうした?」

 

「……どんな曲を作るのが相応しいと思う?」

 

「……それを俺に聞くのか?」

 

「参考程度にだよ。何かアイデアが浮かぶかもしれないから」

 

うーん、とサトシは頭を捻る。

必死に考えてくれているようだ。そしてしばらく経つとサトシはゆっくり口を開いた。

 

「……逆に聞くけど、ユーマはいつもどんなことを考えて詞を書いてるんだ?」

 

「……俺?」

 

「質問を質問で返して悪い。でも、聞かせてくれないか?」

 

「いつも、か……大体海未と話し合ってテーマを決めて、それにあった詞を考えてる…かな」

 

「そうか……。だからかもしれないな」

 

「え?」

 

 

 

「────μ'sの歌には“メッセージ性”を感じる」

 

 

 

 

「メッセージ、性……?」

 

「詞の一つ一つに、“意思”が宿ってる。

“START:DASH‼︎”を初めて聞いてから……それからの曲にもずっと。

だからそれでいいんじゃないか?」

 

「はぁ……?言葉足りなさすぎだろっ」

 

サトシの言葉足らずな説明に、若干ムッとしながら返事をする。

するとサトシはいつもみたいにニカッと笑った。

 

「────今回は、“優真のメッセージ”を書くってのはどうだ?」

 

「俺の……メッセージ…」

 

「これ以上言ったら優真の作った詞じゃなくなっちまう。あとは自分で考えてみるほうがいいぜ?……じゃ、俺地下で残りの編曲してくるぜ!」

 

「あ、おいサトシ!」

 

そう言って本当に地下へと向かおうとするサトシを呼び止めたが、サトシはそのまま行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

あれからメンバーが風呂から戻ってきて1人で風呂に入り、いざ寝るということになって布団の中に入っても不思議と睡魔は訪れなかった。

体は疲れているはずなのに、意識がそれを拒む。

 

俺の、メッセージか……

具体的なイメージが湧かない。

果たしてこれを詞に変えたところで、それは発表できるようなものになるのか…?

考えの渦にハマった思考は答えを出すことを許さず、同じ問いを脳内でリフレインし続ける。

 

(………………ダメだ)

 

このままでは埒があかないと思い、俺はひっそりと布団から抜け出して地下のスタジオへと向かった。

 

 

 

 

スタジオへと移動した俺はそこに置いてあった海未のフレーズノートに目を通す。

 

「相変わらずいい詞を書くよなぁ……」

 

海未の詞は力強くて、初めて見た時から光り輝く何かを持っていた。サトシはそこに意思を感じたのだろうか。

だとしたら俺の詞は……どうなんだろうか。

そこまで考えた時、スタジオの扉が開く。

 

「───────お邪魔するわよ」

 

「真姫、サトシ……何しに……」

 

「ユーマが動いた音で目が覚めちまってな。スタジオに行くお前のことを考えてたら居ても立っても居られなくなっちまったぜ」

 

「─────曲、作りましょう。そのためにここに来たんだから」

 

「真姫……でも……」

 

「……これは私がやりたいこと。私が勝手にやってることなの。優真さんが気にすることじゃないわ」

 

俺の口調を真似してみたのだろうか、真姫が俺に微笑みを向ける。その微笑みを見ると不思議と肩の力が軽くなった。

 

「……それとヒントになるかはわからないけど……私が優真さんと海未の詞を見て思うことは“メッセージ”よ」

 

「……真姫もか」

 

「────私の仕事は、あなたたちが考えた“詞”を音に乗せてファンの人たちに届けること。

……詞を読んでるとわかるわ。

海未が書いてくれたものと、優真さんが書いてくれたものの違い。

海未は“ファンの人々へ”訴えかけるような力強い言葉で。

優真さんのは……優真さんの性格を表した、“私たちへ”訴えかける優しい言葉。

この2つが絶妙に合わさって生まれたのが今までのμ'sの曲で、私はそんな2人の詞が大好き。

 

でも今回は違う。

優真さんが1人で詞を作るなら……

 

私は、優真さんの“(コトバ)”が聞きたい」

 

「……俺の…」

 

「優真さんの私たちへの思い……そしてそれをファンの皆とも共有できるような、そんな曲が見てみたい……!」

 

 

 

俺のメッセージ。

 

 

 

「──────そっか」

 

俺がみんなに届けたい思いを───────

“μ'sの歌”へと変えて。

 

「──────これだ」

 

 

 

みんなと過ごした思い出

 

みんなとこれから作る思い出

 

そして俺のμ'sへの願い、伝えたいこと

 

この全てを(コトバ)に変えて

 

μ's全員と観客が楽しめるような曲を────

 

 

 

 

 

 

μ'sの光り輝く─────“終わらない奇跡”を信じて

 

 

 

 

「──────浮かんだ……!」

 

真姫とサトシが俺に笑顔を見せた。

その笑顔に俺も笑顔で答え、俺は怒涛の勢いでペンを走らせた。

それからの俺たちは色々と早かった。

1番だけでも意地で詞を書き終えるとそれを真姫に見せ、それを見ながらサトシと真姫の2人がかりで作曲を行う。

そこで合わない部分を俺がさらに改善して2人に示し────────

この終わりの見えない作業を永遠と続けた。

 

 

 

 

▼▽▼

 

 

 

 

「んっ……」

 

μ'sメンバーの中で起床が早いのは、海未だった。

彼女は周りを見渡して、何人かの姿がないことに気づく。そして、廊下の電気が点灯していることにも。

海未は布団から抜け出すと、吸い寄せられるようにそちらへと向かい……開けられていた地下スタジオ行きの階段のドアへと辿り着く。

そして階段を下りスタジオ入り口の前には……

 

「──────希」

 

希の姿があった。海未よりも早く起床して、海未と同じようにここへと辿り着いたのだ。

 

「シーッ」

 

希が口に指を立て、静かにするよう海未へと促す。

そしてそれとは違う方の手でスタジオの中を指差した。海未はそれに従い中を覗き─────

 

「───────これは……!」

 

テーブルに突っ伏して寝ている真姫

 

大の字になって寝ている悟志

 

その悟志の腹を枕に寝ている優真

 

3人と、テーブルの上に纏められた一枚の紙、そしてミュージックプレイヤーを見た。

 

「まさか、3人は……」

 

「……本当、無茶するんやから…」

 

海未と希は、苦笑を浮かべて3人を眺めていた。そして希はテーブルの上の“ソレら”を指差す。

 

「……聞いてみよっか」

 

「……はいっ」

 

ゆっくりとスタジオの中へと入り、イヤホンを互いに片方ずつ指し、【新曲】という題名の曲を再生する。そこから流れてきた曲は……

 

 

「───────凄い」

 

 

圧巻の一言だった。

そして何より印象的なのが、詞。

優真が、自分たちに向けて書いたものだと一瞬でわかった。

 

「…………この曲を……一晩で……?」

 

「…………本当に力尽きるように眠ったんやろうね」

 

希が改めて3人に笑顔を向ける。

 

「んっ……」

 

優真が半目を開けて意識を取り戻した。

 

「あ、れ、俺……寝て、た?」

 

「ごめんね、起こしちゃった?」

 

「ん……海未…希……」

 

優真の言葉に、希はハッと驚いた顔をする。

……いま彼は気づいていない。寝ぼけて海未の前で希を名前呼びしたことを。

しかし海未は以前にもそれを聞いたことがあったので、特に触れることもなくそれを聞き流した。

 

「うっ……ユーマ…重たいぜ……」

 

「ん……悟志うるさぃ……」

 

真姫とサトシも眠りから目覚める。

それに海未が言葉をかけた。

 

「─────お疲れ様です」

 

すると3人は目を合わせて笑い──────

 

 

 

「「「いぇーいっ」」」

 

 

 

声を合わせてピースサインで返した。

希と海未はそれを見てにこりと笑い─────

 

同じくピースサインを返した。

 

 

 

 

 

 

 




今回、優真に起こった異変……その正体が明かされる時も近いです。
さて、前回と今回の肝試し回、本来ならば1話になる予定でした。
すると合計文字数は20000字にリーチをかける……ということで2つに分けることになりました汗
まだまだ修行不足です、精進していきます!

全く関係のない話を。MHXが発売されましたね!
自分は“瞬音”という名前でプレイしておりますので見かけたら「ことりちゃん!」と声をかけてください、発狂します。
あ、ちなみに瞬音と書いて“またたね”と読みますので他のゲームでこの名前を見かけても私です笑

それはおいといて。

そして新たに評価を入れてくださったレオンハートさんありがとうございます!自分の書きたい部分を評価してくださっていたのでとても嬉しかったです。これからも応援よろしくお願いします!

合宿編も残すところあと数話でございます。
次はいよいよ……?
長くなりましたが、今回もありがとうございました!
感想評価アドバイスお気に入り等お待ちしております!

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