早速ですが個人回、今回の主役はあの子です!
Venus of Pink〜 魔法使いとの放課後#1
47話 Venus of Pink〜 魔法使いとの放課後#1
ナツライブを終えて数日後の放課後。
μ'sナツライブ優勝の話は学校中を駆け巡り……
今やμ'sは完全に全校の注目の的だ。
クラスにいても絵里、希、矢澤はもちろん、何故か俺まで応援や質問攻めを受けていた。
……女子に絡まれるのは苦手だから困っている、という相談をサトシにしたら思いっきりビンタされた。そして奴は泣きながら叫ぶ。
『なんでユーマだけなんだチクショオォォォ!』
と。
……うん、アイツも頑張ってくれたのにな。
そして俺と絵里と希の3人は逃げるように生徒会室へと向かった。
「……はぁ、いつまで続くんだろーなコレ」
「もう2日目なのに……」
「まぁまぁ。ウチらの知名度も上がってきたってことやん?」
げんなりとした俺と絵里とは対照的に笑顔を見せた希。……合宿以降それが妙にドキドキとして仕方ない。
「……さて、切り替えなくっちゃね。もうすぐ文化祭も始まるし、準備を始めないと…」
そう、絵里の言う通り。
ここ音ノ木坂学院では文化祭が7月に行われる。
残り数週間となり、クラス、部活動共に文化祭へ向けて熱が高まり始めている。
無論俺たちアイドル研究部もその例外ではないのだが、ここ数日は文化祭に向けての書類の処理で忙しい。故に生徒会の仕事がひと段落着くまで俺たちは練習には参加できない。
……まぁ、今日は他のメンバーの都合もあって練習は休みなんだけど。
するとその時、ズボンのポケットが震える。
そこに入っているスマートフォンを取り出して確認すると──────
《公園で待ってる。忙しかったら連絡して》
言葉足らずなメッセージ。いかにもアイツらしい。
俺はそれを見て少しだけ微笑み─────
《わかった。すぐ行く》
とだけ返した。
「……すまん、俺今日帰るわ」
「えっ?どうしたのよいきなり」
俺の唐突な宣言に、絵里が不思議そうにこちらを見てきた。
「ちょっと呼ばれた。そいつに会いに行く」
「誰よ、そいつって」
「いや、隠すほどでもないけど……」
俺が“そいつ”の名前を口に出した途端────
絵里の表情が明らかに不機嫌になった。
「……へぇ〜、そっかそっか、“会長補佐”さんは“会長”の私を手伝わずにデートに行くんだ〜」
“会長補佐”、“会長”の部分をわざとらしいほど強調して絵里が不満げに言う。
「なっ……!いや、別にそんなんじゃな」
「……早く行ってあげなさいよっ。待たせてるんでしょっ」
「ど、どうしてそんなに不機嫌なんですか……?」
「うるさい!早く行きなさいよバーカ!」
「お前今全然賢くないけど大丈夫か!?……はぁ、俺の分は明日やるから置いといてくれ。それじゃ……」
このなんとも言えない空気から逃げ出すように、俺はそそくさと生徒会室を後にした。
▼▽▼
残された2人の反応はそれぞれだった。
絵里は頬杖をついて不貞腐れた顔で窓の外を眺めており、希はその横で苦笑いを浮かべて絵里を見ていた。
「……ふふっ」
「……何よ、希」
「いやいや。えりちも女の子やなーってね」
「なっ……!」
絵里は顔を赤らめて素早く希の方を向く。
「ゆーまっちが誰かに取られてしまうんやないかって心配なんやろ?」
「ち、違っ…!別に私はそんなんじゃ……
っていうか!希はいいの!?」
「へ、ウチ?」
「優真が……その…女子と2人で会うなんて…」
絵里の言葉に希はしばらく目をパチパチと開閉した後、ふふっと笑って答えた。
「……ウチらは別にゆーまっちの彼女やないし、制限する権利はないんやない?」
「……はぁ、貴女も素直じゃないわね」
絵里は気づいていた。
希は“制限する権利はない”とは言ったが────
────“嫌じゃない”とも言っていない。
即ち─────────
「……ふふっ♪」
希は絵里へと背を向けると……
先ほどまでの絵里と同じような表情をして、誰にも聞こえないような声量で小さく呟く。
「────優真くんのバカっ」
▼▽▼
“彼”にメールを送り、私は公園の門に寄りかかって物思いに耽っていた。学校で声をかけても良かったけど、 今日は周りに人が多くてとても誘えるような雰囲気じゃなかったし……何より絵里と希に申し訳なかったから。
……まぁこの努力は彼が生徒会に行っていたら無駄になるんだけど。
返信が来てから15分程経っただろうか。
私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「────矢澤」
その声に顔を上げると、待ち人の姿があった。
「ん…。いきなりごめんなさいね、朝日」
「いや、別にいいんだけど……公園だけじゃ何処のかわかんねぇよ。言ってくれたらもう少し早く着いたのに」
「あっ……わ、わざとよ!わざとっ!」
「そりゃひでぇよ、ったく……」
……わざわざ走って来てくれたのだろうか、私にバレないようにしているけど朝日の息は上がっていた。それを見て申し訳ない気持ちになる。
「はぁ……んで?
──────どうした?」
朝日が普段よりも少し真面目な口調で私に問いかける。突然呼び出したことで私に何かあったと勘違いさせてしまっているのだろうか。
私が今日呼び出した理由は───────
「──────私と付き合いなさい」
「………………へ?」
「今日1日、私に付き合いなさいって言ってるの」
「あ、あぁ、そういうことね……」
「……何?」
「……いや、なんでもない」
朝日が少し頬を赤らめて私から目をそらす。
一体どうしたのだろ…………あ。
“私と付き合いなさい”。
時と場合によってその言葉は──────
「ち、違う!そういう意味じゃないわよっ!!」
「わかっとるわ!わざわざ蒸し返すんじゃねぇ!」
私自身も顔を赤くして必死に否定すると、朝日に怒鳴られてしまった。
「ったく……んじゃ。
──────行こっか」
「えっ………………」
「何驚いてるんだよ。君が言ったんだろ?ほら、早く行こうぜ」
突然朝日の雰囲気が変わった。ピンと張っていた糸を緩めた時の様な……そんな感覚。
かつてμ'sのメンバーの何人かが言っていたことを思い出す。
『優真は学校にいるときと、プライベートの時のギャップがすごい』と。
正直半信半疑だったけど…認めざるをえない。
そのギャップに少しドキドキしてしまったことも。
「矢澤?」
「んえぇ!?」
「どうしたんだよ、いきなり黙り込んで」
「な、何もないわよっ!ほら、行くわよ!」
「あ、おい!待てよ!」
照れを隠すようにスタスタと歩き出した私を、朝日が駆け足で追いかけて来て私の隣に並んだ。
いけないいけない……今日の主導権は私が握るんだから。
……でも。
確かにワクワクしてる私もいたり。
▼
「んで?今日はどこに行くの?」
「ふふーん……あらかじめ決めてるわ!ここよ!」
歩きながら質問してきた朝日に私は自信満々でスマホの画面を見せた。
「これは……メイド喫茶…?」
「そう!ここに居るのよ…伝説のカリスマメイド、『ミナリンスキー』さんが!」
「ミナリン……スキー?」
「そうよ!彗星のようにアキバに現れた伝説のメイド、ミナリンスキーさん!
歌も上手で周囲からはアイドルと遜色ない評価を受けてるわ!」
「ふーん…で、矢澤はこの人に会いたいの?」
「うん!!それを今日は楽しみにしてるの!!
……あっ」
しまった……テンションが上がりすぎて子供のような反応を……!
朝日も珍しいものを見るように私を見ている。
次第に私の頬は赤くなり……
「…………忘れなさい」
「……矢澤って案外子供っぽ」
「忘れなさい!!」
「ハーイ……」
本気で怒鳴ると、朝日も流石に言葉を引っ込めた。
「……結構カワイイとこあるじゃん」
「なによ!?まだ何かあるわけ!?」
「何もないわ!褒めたんだよ!!」
「嘘つくんじゃないわよ!!」
「ついてないけど!?どれだけ頑固なの!?」
未だ何か言い訳を連ねる朝日に文句を叩きながら、私たちは2人で『ミナリンスキー』さんのいる店への道を歩いて行った。
▼
「ここみたいね」
スマホのサイトの地図に従ってたどり着いたのは、少し洒落た雰囲気を醸し出すおしゃれなお店。
一見するとメイド喫茶とはわからない、本当のカフェのようだ。
「……本当に行くの?」
「何?今更ビビってるの?」
「……いや、こういう店行ったことないからさ」
「……もしかして“男がこんな店に入るなんて”って思ったりしてる?」
「……少し、ね」
「もうそんなのは偏見の時代よ。女性だけでメイド喫茶に入ることもあるし、なんならカップルで入ることも少なくないのよ?」
「へ、そうなの?」
本当に意外だったようで、朝日は大きく目を見開いて私を見ている。それが少し面白くて思わず微笑む。
「ふふっ…そうよ。さっきも言ったけどメイド喫茶は今じゃデートスポットでも使われるところよ。だから私とアンタが一緒に入ったってなんの違和感…も……」
……ん?
この状況……どこからどう見ても。
───────カップルにしか見えないんじゃ。
それを意識した途端、急に胸の鼓動が早くなる。
な、何を考えてるのよ!!
別に、そんなつもりでコイツを誘ったわけじゃないし………って言うか!ここまで話してアイツは意識しないわけ!?
理不尽とはわかっていながらも怒りを抱えずにはいられなかったので、鋭く睨みつけるような視線で私は朝日を見る。
朝日は何を考えているのか、メイド喫茶のドアを眺めながらポリポリと頬を掻いていた。
──────なんとも思ってないのかしら。
自分だけ……バカみたい。
あたふたしていた心も一気に冷めて……
朝日に聞こえないように溜め息を小さくつくと、
改めて朝日に声をかける。
「さ、行くわよ」
「ん……おう」
歩き出した私に、朝日が黙って付いて来た。
そして私たちは店の中へと入っていった。
▼
『お帰りなさいませ!ご主人様、お嬢様♪』
店に入った途端、メイドさんたちの声が一斉に木霊した。若干面食らいながらもこちらに駆け寄ってくれたメイドさんの案内に従って窓際の4人掛けの席に2人で向かい合って座る。
「本日は本当にありがとうございます♪ご指名はございますか?」
「あっ、出来ればミナリンスキーさんをお願いしたいんですけど……」
「ごめんなさ〜い、今日はミナリンちゃんはお休みなんです〜」
「あ、そうなんだ……」
「明日だったら居るんでぇ、明日も来てくれたら嬉しいな、なんてね♪」
「あはは……」
残念、今日はハズレだったようだ。
私は朝日に問いかける。
「どうする?」
「どうするも何も、店に入って何も頼まないで帰るわけにはいかないよ。せっかくだからなんか食べて行こうぜ」
「……朝日がそう言ってくれるなら」
そして私たちはそれぞれ注文を頼んだ。
私がショートケーキと紅茶、朝日はガトーショコラとコーヒーだ。
メニューを待つ間、他愛もない話をしながら店内を見回す。そして不意に朝日が口を開いた……
「……なぁ、矢澤」
「ん?なに?」
「────メイド喫茶って……いいな」
───若干鼻の下を伸ばしながら笑みを浮かべて。
「……何よ、その顔」
「いや……ちょっと偏見あったわ」
そして私も店の中──主にメイドさん──に目を走らせる。
可愛らしい容姿、キラキラとした笑顔……そして…
服の上から主張する、女性としてのシンボル。
そして私は自分のソレに視線を落とし…落胆する。
同年代の友人たちと比べても明らかに小ぶりな私のソレ。……ただし絵里と希、あの2人は規格外。あれには羨ましいを通り越して畏敬の念さえ抱くわね。
……朝日もやっぱり、大きい方が好きなのかしら。
ふと疑問に思った私は、その場の空気に任せて朝日にぶつけてみた。
「……ねぇ、朝日」
「ん?どうしたの?」
「アンタも……大きい方が好きなの?」
「え、何が?」
「だから、その……む、胸よ……」
「…………え、気にしてるの?」
「う、うるさい!どうなのよ!?」
顔を赤くしながら反駁して朝日に答えを催促する。
すると朝日はしばらく考え込む様子を見せた後……優しく私に笑いかけた。
「─────矢澤」
「な、何よ……」
「────人間大事なのは……そこじゃねぇよ」
……露骨にフォロー入れられた…。
本人は笑顔で誤魔化せたつもりでいるが全くそんなことはない、私に全て筒抜けだ。
なおも笑顔を向けてくる朝日を私は白い目で見ていたけど、そこで注文したデザートが到着したのでこの空気は有耶無耶のまま退散した。
「んじゃ、いただきますっと……」
「…………美味しい…!」
「うん!美味いっ!」
少々値が張るなとは思っていたけど……この味なら納得だ。クリームは甘く、スポンジはふわふわ。そのスポンジの間に挟まれたイチゴは瑞々しく、甘い。イチゴのショートケーキは中までイチゴで埋め尽くされていた。
穂乃果が食べたら喜びそうね。あの子、イチゴが大好物だから。
……もっとも私にはお肉を美味しそうに食べている姿しか印象にないんだけど。
「本当に美味しいな、このケーキ」
「ええ。本当に非の打ち所がないわね、この店は」
「そうだな……なぁ、矢澤」
「ん?」
「そのケーキ…美味そう」
「……でしょ?」
朝日の言いたいことはわかった。
しかし私はそれに気づかないふりをして、いつものようにふふんと笑った。
朝日はうぅ……という普段からは全く想像つかないような弱々しい声を上げて私を見ている。
……正直少し可愛いと思った。
「……矢澤」
「ん?ど〜したの〜?」
「……一口くれ」
「ふふっ♪いいわよっ」
「最初から気づいてただろっ」
「さー、何のことかしら♪」
「っくしょー……」
「悪かったわよっ。はい、どーぞ」
未だに止むことないニヤニヤとした笑みを浮かべながら朝日に自分のケーキが乗った皿を差し出した。
「ありがとね。ならいただきまーす…」
そして朝日はフォークを刺す。
─────私の食べかけの部分をピンポイントに抉るように。
「……!」
そのまま彼はケーキのその部分を…口へと入れた。
「……うん!やっぱり美味い!ありがとな、矢澤」
「………………」
「矢澤?」
「んぇっ!?な、なにっ!?」
「い、いやお前の方こそ何だよ……」
「な、何もないわよっ!!」
─────間接キス、した……
……って何意識してるのよ私は!!小学生じゃないんだから!!
っていうかこいつはなんでよりにもよってそこを食べるのよ!
当の本人は美味しい美味しいと言いながら笑顔で私のケーキの味を堪能している。
……本当に私のことを少しも意識してないのね。
ほんと私だけ──────バカみたい
「……矢澤、どうかした?」
「……何もないわよ。どうせアンタはもう一口くれって言うんでしょ?」
「あっ、バレた?」
へへっ、と子供のように笑う朝日。
……でもそれでいい。
アンタがそんなに笑ってくれるなら、それだけで。
それが今日の目的なんだから。
「……どーぞ。その代わりアンタのケーキも寄越しなさいよね」
「まじか!ありがと!オッケーオッケー」
そして私たちはケーキを交換し、互いにその味を楽しんだ。……私の方は変に意識してしまって無駄に緊張してたけど。
ケーキも食べ終わり、その余韻を楽しむように飲み物を啜る。そして話はこれからどうするかということになった。
「どーする?矢澤がまだどこか行きたいところがあるなら付いて行くけど」
「ん、そーね……あまり遅くまではダメだけど、もう少し散歩しない?」
「……それでいいの?」
「えぇ。それでいいのっ」
「ん、わかった。ならそうしよっか」
これからのことも決まったところで、飲み物を飲み干して店を後にしようとした……その時。
私達の席の前に、1人の女性が立ち塞がった。
サングラスに帽子を被った、不思議な女性。
そして彼女はサングラスだけを外して、私達に素顔をさらす。
それは全く予想だにしない人物で──────
「─────初めまして、μ'sの矢澤にこサン……朝日優真サン?」
「…………嘘っ…」
見惚れてしまうような笑顔、完璧な容姿。そしてただ立っているだけなのに全身から溢れる気品。
アイドルを好きなものなら誰でも知っていて、憧れてやまない伝説のアイドル───“A-RISE”。
今目の前にいるのはそのセンターの─────
「──────綺羅、ツバサ……!」
私の反応に、綺羅ツバサも微笑む。
しかし私の横のアホは、それこそ予想だにしない反応を見せた。
「──────きみだれ?」
「「……えっ?」」
お前知らないのかよぉ!?
ってなわけで次回に続きます笑
今回もありがとうございました!
感想評価アドバイスお気に入り等お待ちしております!