ラブライブ! ─ 背中合わせの2人。─   作:またたね

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過去と嘘

少し、昔の話、しない?」

 

 そう俺にいう希。

 

 

「…ああ。わかった」

「あのね、優真くん。

 

 

あの日のことは、ごめんなさい。

 

そして、なにも言わずに行ったことも。

 

 

あの日、24日の夜、私行けなかったんだ。

行こうとしたら親に止められちゃって。

明日の引っ越しの準備の手伝いを両親にさせられちゃって……

全部が終わって…10時ごろだったかな。

公園に行ったんだけど、やっぱりいなかった。

夜会う時に、全部言うつもりだったの。

感謝の気持ちと、サヨナラをね。

 

そして次の日、私はなにも言わないでこの街を出たの。

誰にも伝えてなかったから、お見送りも誰もいなかった。

 

私の心残りは、君にちゃんとサヨナラを伝えられなかったこと。

 

謝ったって許してもらえないかもしれないけど、もし会えたら、ちゃんと伝えたかった。

 

あの日のこと、本当にごめんなさい」

 

 

 

 そう言って頭を下げる希。

 

 俺は感覚的に思った──────────

 希は“嘘はついていないが、真実を言ってはいない”と。

 この後に及んで、まだ俺に何かを隠している、と。

 

 しかし、俺はそれを追求しようとは思わなかった。

 希の謝罪には心がこもっていたし、俺の心にはそれが届いた。

 ここから希の隠し事を追求しようという気持ちにはなれなかった。

 部分的だけでも、希の気持ちが知れた。

 俺はそれで満足だった。

 それに、希が隠している、ということは何か理由があるのだろう。

 

「大丈夫だよ希。顔を上げてくれ。希の気持ち、そしてあの日のことが聞けてよかった。

もうなんとも思ってないから、気にするな」

「優真くん…」

「もう、あの日のことはなかったことにしよう。今、その過去は清算終了ってことで」

 

 そう言って俺は笑顔を作る。

 

 本当は、全然納得なんていってない。

 でも、俺が“変わる”ためには、この過去を乗り越える必要がある。

 この過去を、“なかったことにする”。

 それが正しいことかどうかはわからない。

 

 それでも、俺は─────

 

 

 

 

「だから、これから改めてよろしくな────

 

 

 

 

 

 

 

──────────“東條”」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!」

 

 

 これが俺なりの、過去への決別。

 

 “希”との日々を思い出として残し、

 

 “東條”との日々を新しく歩む。

 

 俺は、そう決めた。

 

 

 “東條”はしばらく無言でうつむいていたが、覚悟を決めたような、よく見れば寂しそうな笑顔でこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、ほなよろしくな、“ゆーまっち”!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして俺と希は、決して正しくはないであろうやり方で、過去を清算した。

 

 それが後にどのような結果を及ぼすかを、この時の俺はまだ知らなかった。

 

 

「さ!えりちが待っとるよ!いこいこ!」

「あぁ、そうだな」

 

 でも今は…今だけは、こうやってまた希と話せるようになった安心感に浸っていたい。

 

 俺は笑顔で先に歩いていく“東條”の背中を追いかけながら、そんなことを思った。

 

 

 

 

「でも知らなかったわ。あなた達2人が知り合いだったなんて」

「いやいや、ウチな実は昔この町に住んでたん。せやから中学校が一緒やったんよ。言っても、半年だけやけど」

「へぇ、そうだったの?朝日くん?」

「ん、あぁ…そうだよ」

 

 あれから俺たちは3人で帰ることにしたのだが、絢瀬がもっと2人のことを知りたいと言い出したので、近所の喫茶店に3人でお茶をして帰ることになった。

 希───東條も絢瀬のことを知りたいと乗り気なようで、2人に誘われた俺が渋々付いてくるようになった形だ。

 

「朝日くんはずっとこの町に住んでるの?」

「いや、俺がこの町に来たのは小6の頃だよ。親が転勤族でな、ここに来るまではいろいろなところに行ったり来たりだ」

「へぇ〜そうやったんや〜」

 

 白々しいわ。お前知ってるだろ。

 内心でそうツッコミを入れる。

 

「東條は?いつこの町に帰ってきたんだ?」

「へっ、わt…ウチ?ウチは三月の終わり頃やね。入学式の一週間前にはもうこの町に居たよ」

 

 おい、ボロが出かけてるぞ。

 どうやら俺に話しかけると昔の癖で標準語が出そうになるみたいだ。

 

「へぇ〜そうなんだ〜」

 

 さっきのやり返しとばかりに若干ニヤニヤしながら東條を見る。

 東條も俺におちょくられてるのがわかったみたいで、軽く俺を睨み返す。

 

「助けてえりちー、ゆーまっちがウチを変な目で見てくるんよ〜」

「んなっ…!」

「あら……感心しないわね、朝日くん」

 

 絢瀬が軽蔑した目で俺を見てくる。

 馬鹿野郎、この真面目のテンプレートみたいなやつにそんなこと言ったらこうなるに決まってるだろうがっ!

 …………こいつ、仕返しか?仕返しなのか!?

 

 どうやら東條はだいぶ負けず嫌いらしい。

 当時は知らなかったことを知れて嬉しい一方、訪れたピンチに俺は追い詰められる。

 

「馬鹿っ、ちがうちがう!おい東條、お前これ狙ってやっただろう」

「え〜なんのことかわからんなぁ」

 

 こいつ……明らかにわざとだ…!

 

「朝日くん……」

「おい絢瀬落ち着け!畜生、のっ……東條っ!」

 

 名前を呼び間違えかけた俺を見て、してやったりの顔をする東條。

 

 

 その笑顔は、あの頃俺が惹かれた笑顔とは、少し違っていた。

 

 

 

 絢瀬の誤解を解いた後一時間くらいして、俺たちは解散した。

 

 俺はここ二日を本当に不思議だと思った。

 “希”との再会。絢瀬との出会い。

 “東條”との和解─────

 そして2人との友情。

 

 

 俺はそれを、とても心地よく思った。

 

 

 だからかもしれない。

 

 

 俺は今日の俺と希の話のすれ違いに、気付くことができなかった。

 

 

 あの時気付いていれば、あんなことにはならなかったのだろうか。

 

 

 そんなことは知らないこのころの俺は、

 明日からの生活を、少し楽しみにしながら家のドアを開けた──────

 

 

 





次回は希サイドで今日の優真との会話への裏話的なのを書きたいと思います!
今回もありがとうございました!

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