ラブライブ! ─ 背中合わせの2人。─   作:またたね

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過去と嘘ーanother side

「これでよかったんだよね……」

 

 

 

 ウチ…いや、私、東條希は、2人と別れた後、家に戻り考えた。

 

 今日は本当にいろいろなことがあった。

 絢瀬絵里ちゃん…えりちとも友達になれたし、何より、ゆーまっち…優真くんと和解できた。

 私自身、本当にあの日のことは気がかりで、心の荷が少し軽くなった気がする。

 

 でも……

 

 

 私は、彼に幾つかの嘘を吐いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 まず、あの日、24日の夜。

 

 

 私は“()()()()()()()()()()()()”。

 

 

 時間通り────いや、それより10分前には、集合場所の公園にいた。

 しかし、彼は来なかった。

 待っても待っても、彼が来ることはなかった。

 私は待ち続けた。

 そして30分ほど経った後、やってきたのは私が待ち望んだ彼ではなく─────

 

 

「やっほー、希ちゃん」

「……ひかりちゃん」

 

 中西光梨ちゃん。私の一番の友達“だった”人。

 

 私は彼女からイジメを受けていた。

 理由は単純、彼女が好きな男子が、私のことを好きだった。

 そんな理由で、私は彼女から理不尽なイジメを受けていた。

 

「こんなところで何してるのー希ちゃん?」

「ちょっと…友達と待ち合わせを…」

「あ、もしかしてぇ、朝日クンのこと?

 

 

朝日クンならさっきすれ違ったよ。

 

 

友達の家のパーティーに行くってさ」

 

「えっ……」

 

 嘘だ。そんなはずがない。彼が私との約束を放置したままそんなことをするはずない。

 

「嘘でしょ…?」

「本当だよ〜、何?疑ってるわけ?」

「デタラメ言わないでっ…!」

「ふ〜ん、信じないんだぁ……ま、いっか、私には関係ないし〜

 

 

来ればいいね、朝日クン」

 

 最後、脳にこびり付いて離れないような笑顔と声でひかりちゃんはそう言って去っていった。

 

 

 彼は来てくれる。私との約束を破るような人じゃない。

 そう信じて私は待ち続けた。

 

 

 しかし、彼は来なかった。

 

 

 

 

「ぐすっ……どうして……優真くん……」

 

 

 夜中、あれから家に戻った私は泣いていた。

 彼、朝日優真は、私にとって“ヒーロー”だった。

 転勤続きで友達を作ることを諦めた私を、暗闇から引き出してくれた、ヒーロー。

 文字通り、私に“夜明け“を見せてくれた“朝日”。

 それが私にとっての彼だった。

 

 

 だから伝えたかった

 

 

 ちゃんとお別れを言いたかった

 

 

 あなたがどれだけ私に力をくれたか

 

 

 どれだけ私の支えになっていたか

 

 

 

 どれだけ──────あなたが好きだったか

 

 

 

 ちゃんと、伝えたかった

 

 

 でも、彼は来なかった

 

 

 あぁ、彼にとって私はその程度の存在だったのか

 

 

 そう思うしかなかった

 

 

 そう思えば思うほど、悲しくて、たまらなかった。

 

 

 

 

 それから私は、また“独り”になった。

 

 あの出来事があってから、信頼できる友達を作ることが怖くなった。

 人間不信、というやつだろうか。

 話すことができる友達はいても、ある程度の距離を保つ。自分のテリトリーには絶対に入れない。

 そんな人間付き合いを続けていた。

 それでいいと思っていた。あんな思いをするなら、ずっと“独り”でいよう、と。

 

 でも、そうしようとすればするほど、彼のことを思い出す。

 

『俺と友達になろーぜ!東條さん!』

 

 今でも忘れない、あの朝日のような笑顔。

 あんなことをされてなお、彼は私の心の支えだった。

 

 彼を嫌いにはなれなかった。

 

 むしろ、罪悪感の方が多かった。

 

 そしてある時、ふと思う。

 このままじゃダメだ、と。

 

 

 彼に誇れる自分になって、もう一度彼に会いに行く。

 

 

 自分を、“変えたい”。

 

 そう、思うようになった。

 だから、彼の家に近い、音ノ木坂を受けた。

 一人暮らしをしてでも、彼に会いたいと思った、謝りたいと思った。

 

 それから私は努力を重ねた。

 人当たりが良くなるように、転勤を重ねて耳に残るようになった関西弁をしゃべるようにし、ウケのいい占いを覚えた。

 結果を見ると、それらは成功だったと言える。

 再転校先の学校で実践したところ、友達が自然とできた。

 私は、“変わる”ために努力を重ねた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 そして四月。入学式を迎えた。

 

 こっちへ引っ越してきたのは三月末だったったけど、彼に会いに行くのは、勇気が出せなくてなかなかできなかった。

 明日行こう、明日行こうと言い聞かせつつも、断られたらどうしよう、引っ越してたらどうしよう…というマイナス思考が働いて、あと一歩が踏み出せなかった。

 

 入学式が終わり、これが終わったら、今日こそは会いに行こうと覚悟を決めて、階段を上っていた。

 

 

 その時

 

 

「のぞ…み…?」

 

 

 聞こえた。

 

 誰よりも愛しく、ずっと聞きたかった声が。

 

「優真くん…?」

 

 会えた。意図してた形とは違ったけど、彼にまた会えた。

 それだけで私は幸せだった。

 

「希…東條希、だよな?」

「うん。朝日優真くんだよね?」

「あぁ…」

 

 沈黙が流れる。

 

 どうしよう、久しぶりで緊張して何話したらいいかわかんないよ……

 

「じ、じゃあ、俺帰るから。また明日」

「えっ……あ、うん!」

 

 そうしているうちに彼は行ってしまった。

 私は何も言うことができなかった。

 駄目だなぁ…この日のために、せっかく自分を変えてきたのに。

 明日、明日こそは……!

 そう決意する私だったけど。

 

 昨日は結局友達に占いを披露しているうちに彼が帰宅してしまい、話すことができなかった。

 でも、まさかの彼が同じクラスだということがわかった。

 

 そして今日。私に、真の意味で初めての友達ができた。

 絢瀬絵里ちゃん。通称えりち。

 この学校で出来た私の一番最初の友達。

 あって間もない間柄だけど、長年人の顔色を伺い続けて養われた観察眼でわかった。

 この子も私と同じだ、と。

 “独り”だった自分を変えたいと思っているけど、生真面目すぎて素直になれない不器用な女の子。

 それが私が抱いた彼女の印象だった。

 そんな彼女の力になってあげたかった。

 

「あのっ……!」

「?なに…かしら?」

 

 一瞬ぶっきらぼうに返しかけて、しまったというように口調を優しくしながらえりちは答えた。

 私は、彼女に手を伸ばす。

 

 

「……ウチ、東條希!よろしく!」

 

 

 

 

 それから放課後。

 私はえりちと帰ることになった。

 今日も優真くんと話せなかったな…

 

 そんなことを考えながら、下駄箱を出た先で見つけたのは……

 

 

「おお、絢瀬…。っ…」

 

 

 えりちの呼びかけに反応したのは、優真くんだった。

 

「こんなところで何してるの?」

「あぁ、いや、ちょっとな……」

 

 会話を続ける二人。

 どうしよう…またとないチャンス。でも、心の準備が……

 

「ふぅん…あ、よかったら一緒に帰らない?希のことも紹介したいし…いいでしょ?希?」

 

 私は、覚悟を決めた。

 

「うん、ええよ。でもえりち、ちょっと先に行っててもらってもええ?少し、この人と話したいことがあるんよ」

 

 過去から、逃げない。

 彼にちゃんとあの日の思いを伝えるんだ。

 感謝と、謝罪と─────私の気持ちを。

 

「あら?もう知り合いなの?ええ、わかったわ。ゆっくりいいわよ。校門でまってるから」

「ありがとな、えりち」

 

 えりちは優真くんと私に笑顔を向けると、校門へと歩き出した。

 

 

 

 彼と会話を重ねるうちに、幾つかのことに気づいた。

 まず、優真くんの雰囲気。

 いつもの周りを照らすような笑顔や口調はもう、少しの面影もなかった。

 よくいえば落ち着いて大人びた──────

 悪く言えば、冷め切って達観してるような。

 

 私は考えた。

 

 私が、彼の笑顔を、彼の大好きな魅力を奪ったのか、と。

 

 そして決定的だったのは、彼の一言。

 

 

「どうしてあの日……来てくれなかったんだ。

24日の夜…

どうして何も言わずに行ったんだよ…!

希!」

 

 

 それは私に懇願するように、訴えるように。

 ──────責めるように放たれた言葉だった。

 

 ……来て、くれなかった……?

 それはこっちの言葉……

 でも、彼の様子を見ていると嘘をついているようには思えない。

 つまり、私も彼も待ち合わせに行った。

 そこまで考えて、私はある一つの考えに至った。

 

 

 もしかして……ひかりちゃんが……?

 

 そして、さらなる可能性───ほとんど確信に近い───へと辿り着く。

 

 私へのイジメが、なんらかの形で彼へと対象が変わったのだ、と。

 

 つまり、彼を変えたのは、私なのだと。

 

 

 

 

 

 どの面を下げて言えるだろう

 

 

 “ずっとあなたが好きでした”なんて

 

 

 彼を傷つけた原因の私が

 

 

 だから私は、彼に嘘をつくことにした

 

 

 彼をこれ以上傷つけないように

 

 

 

 

「ねぇ、優真くん……

 

少し、昔の話、しない?」

 

 

 それから私は嘘をついた。

 待ち合わせに行けなかった理由。根っからのでまかせだ。

 でも、彼への謝罪には、本当に気持ちを込めた。

 この気持ちに、嘘偽りはない。

 

 そして彼は、こう告げる。

 

 

 

 

「だからこれから改めてよろしくな─────

 

 

 

──────“東條”」

 

「……っ!」

 

 

 

 

 あぁ、やっぱり。

 もう私を、嫌いになったんだな。

 それでもまだ友達でいてくれるのは、彼なりの優しさ。

 そう思った。

 

 だったら私は──────

 

 彼の旧友、“希”としてではなく。

 彼の新たな友達、“東條”として彼を支え続ける。

 それが私なりの、彼への贖罪。

 

 

 ありがとう さよなら

 

 

 大好きだったよ──────優真くん

 

 

 

 

 

「うん、ほなよろしくな、“ゆーまっち”!」

 

 

 

 

「あれ……おかしいな…」

 

 気がつくと私は、家で一人泣いていた。

 

「なんでだろ…………」

 

 今日のことを考えれば考えるほど、涙は止まらなかった。

 

 ──────でも。

 

 私は決めたから。

 

 “希”との決別。彼の“東條”として彼を支え続ける。

 

 それが私の誓い。

 

 

 でも、今日だけは。

 

 

「…泣いても……いいよね…………?」

 

 

 

 私以外誰もいない家で、泣き声が響いていた。

 

 

 

 




少し長くなりすぎました。
希と、優真の間の認識の違い、そして希にとっての優真の存在の大きさ。伝えられたでしょうか。
自分の文章力には自信がないので、伝えきれてないとしたら、私の力不足です。
さて、ドが付くようなシリアス展開は、一応ここまで(のハズ)です!
次回からは新たなμ'sメンバーも登場します!

では今回もありがとうございました!次回もよろしくお願いします!

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